カエルの王子さま(5)

 こんにちは。少々暑さでへばっておりました、しづです。
 コメントのお返事、滞っててすみません。テンション上がらなくて~。実はね、
 よいお天気が続いていたので、梅干しの土用干しをしたんですよ。あの暑さの中、梅干し引っくり返してて、まんまと熱射病になりました☆ 
 苦労の甲斐あって、今年の梅干しはとってもフルーティにできたんですよ~。市販のものよりは大分酸っぱいですけど、甘い梅干しが苦手なオットには大好評でございました。よかったよかった(^^



カエルの王子さま(5)





 来客のために用意した寝巻きを脱衣籠の上に置き、省吾は浴室のガラス戸に向かって声を掛けた。
「ここに着替え置いておくからね。お湯加減、どう?」
「ありがとうございます。ちょうどいいです」
 中から彼の声が聞こえる。透き通ったアルト。男にしてはやや高めだが、ケチの付けようがない美声だ。きっと歌も上手いのだろう。

「すみません、何から何まで。迎えに来てくれる人間の一人や二人、いるとは思うんですけど、どうしても思い出せなくて。桂木さんにご迷惑を」
 恐縮する彼に「省吾でいいよ」とフランクに話し掛ける。できるだけやさしい声で、省吾は言った。
「気にすることはない。今はショックで記憶が飛んでるだけだ。すぐに思い出すさ」
「思い出そうと頑張っているんですけど。頭の中に霧がかかったみたいで」
「無理に考えない方がいい。どうせ今夜はここに泊まるしかないよ。迎えが来るとしても、日が落ちてからでは道に迷うのがオチだ。ここは森の中だからね。一晩ゆっくり眠りなさい。明日の朝には記憶が戻るよ、きっと」
 ガラス越しに二人は言葉を交わした。彼は決して口数の多い方ではなかったが、省吾は彼の遠慮がちな態度に新鮮な感動を覚えていた。今どきの若者にしては礼儀をわきまえている。美人なのに遠慮深い子なんて、今まで一人もいなかった。

「そろそろ出ます。ごめんなさい、手を貸してもらえますか」
 入るよ、と断ってから、省吾は浴室の中に入った。彼の身体には多数の打撲痕があり、中でも右足首の捻挫はひどかった。左足の倍ほどにも腫れていたことから骨折を危惧したが、つま先を自分の意志で動かせることから折れてはいないと判断した。が、一人で歩ける状態ではない。松葉杖か車椅子があると良かったのだが、そんなものを常備している民家は少ない。
 自分がひどく汚れていることに気付いた彼は、風呂を貸して欲しいと言った。打ち身に風呂はよくないと注意したが、泥まみれのままでいるわけにもいかない。さいわい、右足の捻挫以外は軽傷のようだったので、無理をしないで省吾の手を借りるという条件付きで風呂の用意をしてやった。
 ベッドから浴室に移動するのも、洋服を脱ぐのも、省吾が手伝った。脱がせてみて、省吾は心底驚いた。衣服の下、土に汚されていない彼の肌は、これまでに見たどの女性よりも白かった。

 美しいと思った。女の身体よりも、ずっと。
 その上、妙な色香がある。くびれたウエストから腰のラインなんて、まるで――。

「すみません、桂木さん。服が濡れちゃいますね」
「省吾だよ」
「……省吾さん」
 彼は、困ったように微笑んだ。なんて愛らしい笑みだろう。こんな風に微笑む人間を、子供以外で見たことがない。
「気にしなくていいよ」
 そう返すのがやっとだった。心臓が激しく打って、彼に聞こえてしまうのではないかと不安になった。
 浴槽から上がったばかりの、濡れて火照った身体を抱き留めながら、すっかりきれいになった髪から立ち上るフローラルな香りを吸い込む。草やら葉っぱやらが付いていた時には分からなかったが、艶の良い亜麻色の髪だ。長く伸ばしたらさぞや美しかろう。
 こんな美しい人の身体に、肌に、この自分が触れている。この醜い自分が。今までの女たちとは違って、彼にはまだ何も与えていない。それなのに自然にこうして、言葉を交わして笑顔を見ることができる。同じ性別が有利に働くこともあるのだと知った。

「きみ、出身は東北かもしれないね。肌が白くてきめ細やかだ」
「そうでしょうか」
「眼と髪の色からすると、外国人の血が混じっているのかもしれないね。フランス人のお父さんと、秋田美人のお母さんとか」
「そうかもしれませんね」
「職業はきっと、タレントとかモデルとか、そういう華やかな世界にいたんじゃないかな」
「いや。もっと男らしい職業だったと思うんですけど」
 何故だかそこだけはきっぱりと否定する彼の肩を掴み、脱衣籠の前に立たせる。生まれたままの美しい姿。
「普通の男だなんて思えないな。こんなに綺麗なのに。……なんで怒るの、褒めたのに」
「すみません。なんか不愉快な気分になって」

 省吾の心からの称賛を不機嫌な顔つきで辞退して、彼はパジャマに手を伸ばした。脱衣籠の中に、汚れて丸められた自分の衣服があるのを見て、
「ワイシャツにスラックスに無地のネクタイ。タレントやモデルなら、もっとそれらしい服装をしていると思いますけど」と省吾の意見を否定した。
 なるほど。観察力はあるし頭もよさそうだ。となると、あの身分証は残念ながら本物だ。
「上着はどこでしょう?」
「なぜ?」
 急に尋ねられて、つい質問で返してしまった。彼は、自分が上着を着ていたことを覚えている、その上着を省吾が隠したことに気付いた。その予想が省吾を焦らせた。
「上着の中に、財布や身分証が入っていたかもしれないと思いまして」
「上着はなかった」
 省吾は強く言い切った。
「崖から落ちた時、木の枝にでも引っ掛けてしまったんだろう。でなけりゃ猿が毛布代わりに持って行ってしまったか」
 咄嗟に考えた言い訳が、するする出てくる。幾人もの恋人たちと仮初めの日々を送るうち、省吾が身に付けたスキルだ。
「そうですか。残念です」

 肩を落として、彼はパジャマに袖を通した。白いレースの付いたパジャマは、彼の透き通るような美貌によく似合った。
「……これって女物ですよね」
「我慢してくれよ。僕のじゃ大き過ぎるだろ」
「いいえ、構いませんけど。誰のなのかなって思って。省吾さんの彼女ですか?」
「うん、そう。別れちゃったけどね」
 え、と可愛らしい声を上げた後、彼は省吾に向かって済まなそうに頭を下げた。「立ち入ったことを聞いてすみませんでした」と素直に謝る態度に、省吾はますます彼に惹かれていく自分を感じた。人間、素直が一番だ。ツンデレだかヤンデレだか知らないが、いま流行りの女の子は複雑で面倒臭い。

「いいよ。彼女とは潮時だったんだ。そのおかげで君に会えたようなもんだし」
「え?」
「実はね、彼女が黙っていなくなったから探しに出たんだよ。この森は迷いやすいから心配でね。そうしたら君を見つけた」
「いいんですか。彼女を探さなくて」
「書置きがあった。男と一緒だとさ。君を家に連れ帰ってから、サンルームで見つけたんだ」
「一緒に暮らしていたのに書置きだなんて。ひどい話ですね」
「仕方ないよ。僕はこのご面相だからね」
「そんな」
 彼は省吾の言葉を鵜呑みにし、気の毒そうな顔つきになった。同情心が篤くて人を信じやすい性格。実に好ましい。施術を施すにも最適の人格だ。懸念があるとすればただ一つ。彼の上着の中に入っていた身分証だ。
 あの身分証が、省吾の決断を鈍らせていた。気持ちの上ではゴーサインは既に出ている。自分のような醜い人間は、美しいものにはとことん弱いのだ。とはいえ、彼の記憶が戻ったら。もし彼の仲間が彼を助けに来たら。彼の職業は省吾にとって、あまりにも危険だった。

 進むべきか戻るべきか、迷う省吾の背中を押したのは、他でもない彼だった。
「そんなの、ロクな女じゃないですよ。切れて良かったんじゃないですか」
「言うね」
「男の魅力はここです」
 そう言って彼は自分の薄い胸を叩き、ウッと顔をしかめた。背中の打ち身に響いたのだろう。
「省吾さんは親切で、初めて会ったばかりの僕にとてもよくしてくれる。僕は記憶を失って、何処の誰とも分からないのに。素敵な人だと思います」
 微笑まれて、省吾は泣きそうになった。
 本当に、この世には天使のような人間がいるのだ。人を疑うことを知らない、邪心のない美しい人。外見だけでなく、心の芯まできれいなひと。

 美しい人の美しい顔が、ふと曇った。躊躇いがちに訊いてくる、やさしさで潤った瞳。
「あの。僕、何かいけないこと言いましたか」
 堪えたと思っていたのは錯覚だった。省吾はとっくに涙を流していた。
 泣き笑いの顔で省吾は言った。
「そんなことを人に言われたのは、生まれて初めてだったから」




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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しづさんの書く薪さんて…なんて美しいんだろ。はー。なんて美しいんだろ。かわいくてエロい。その色香が青木に愛されてるからにじみ出てると思うと、はー。

はっ。すいません。ちょっとあっち側行ってました。
お加減いかがですか?
梅干し食べたいです。

バカ丸出しコメントすいません…

なみたろうさんへ

なみたろうさん。

ありがとうございます♪
「その色香が青木に愛されてるからにじみ出てると思うと」
わたしも一緒に溜息つきました。はー。


梅干し、おいしく漬いたですよ(^^)
市販の甘い梅干しが好きな方には凶悪な酸っぱさですが☆
わたしはこっちの方が好きです~。


>バカ丸出しコメントすいません…

いやいや、以前のわたしの「はあはあはあ」に比べたらww
あのときはすみませんでした~(^^;

Sさまへ

Sさま。

ご心配かけてすみません~(^^;
毎年やってることなんですけどね、今年は堪えましたねえ。
ホント、十代のときとは違うわww

……Sさん、お母さんみたい。てか、うちの岡部さんみたい(笑・笑)
今書いてる話、真夏の話なんですけど、岡部さんが出かける薪さんにハンカチとか塩飴とか持たせるシーンがありましてww うちの岡部さんはつくづく薪さんのオカンだと思います。


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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