カエルの王子さま(6)

 お盆休みも終わりました、と思ったら入札が6件(・◇・) 
 休み明けの積算、きついー。アタマ回んないよー。
 第九メンズがこんなこと言ったら、ものすごい雷が落ちるに違いない。仕事しよ。

 お話の方は、今日からカエル再開でございます。
 こっちもいい加減ヤバい状況ですけど、お盆SSに比べたらへっちゃらだよねw




カエルの王子さま(6)






 その夜一晩中、中園はテーブルに置いた電話を眺めて過ごした。自宅に帰ってから掛かってきた電話は4件。そのすべてが同じ男からのものだった。
 地元警察から発見の電話があったらすぐに連絡するから、と再三言い聞かせたにも関わらずしつこく掛けてくるから、「君からの電話を受けている最中に所轄から連絡が入って、こちらの対応が遅れたらどうするんだ」と脅してやったら静かになった。その代わり、30分おきにメールが来るようになった。

 ふと壁掛け時計を見やれば、深夜の3時半。夜半過ぎから降り始めた雨の音だけが、静まり返った家の中にひっそりと響いている。
「寝なさいよ、青木くん」
 明日も仕事なんだから、と、それは中園も同じことだったが。
 自分と青木だけではない。今夜はまんじりともせず夜明けを迎えるものが何人もいるはずだ。おそらく、中園の上司も。

 崖から落ちた薪が重傷を負って動けない、上着につけた救難信号のスイッチさえ押せない状態であろうことはほぼ確定的だった。県内の病院を虱潰しに当たった県警が彼を見つけられなかったなら、彼はまだあの森の中にいるのだ。この雨に体力を奪われて、人知れず命の灯を消そうとしているかもしれない。それだけでも十分過ぎるほどの脅威なのに、さらにもう一つ、中園の白髪を増やす仮説が浮かび上がった。
 薪が自分の身と引き換えに助けた、件の女性だ。
 彼女は精神的にも肉体的にも、健常者の領域を遥かに超えていた。何かにひどく怯えており、話を聞くどころか、安定剤なしには傷の手当さえできない状態だった。彼女の身体には、ありとあらゆる種類の傷が数えきれないほどに刻まれていた。打撲痕に切り傷、火傷、鞭の跡まで。明らかに他者の手によるものであった。
 おそらく彼女は何者かに長期間監禁され、日常的に暴行を受け、ついには精神に異常をきたしてしまったのだろうと言うのが医師の所見であった。

 知らなかったこととはいえ、そんな女性を車のトランクに閉じ込めた。青木が彼女にしたことは、何が何でも隠さなくてはいけない状況になってきた。
 いや、重要なのはそこではなく。薪がその犯人の魔手に落ちたかもしれないという可能性だ。

 明らかにサディズムの傾向を持った相手だ。すぐには殺されないだろうが、何をされるか分からない。死んだ方がマシだと言う目に遭わされるかもしれない。実際に、彼女は精神に異常をきたしてしまったのだ。
 一刻も早く犯人を見つけ出す必要がある。だが、捜査資料は白紙だ。被害者の供述が得られない以上、森の近辺に住居を構えているであろうことくらいしか指標を立てられない。加えて、薪がその犯人に捕まったと言う確証は何処にもない。でも。
「薪くんだからなあ」

 薪は運が悪い。目を瞑って右と左どちらかの道を選べば、必ず行き止まりかひどい時には崖。そういう男なのだ。しかし、中園個人の予感だけでは、県警を動かして森を一斉捜索させるなんて大がかりな戦術は取れない。万が一、薪がひょっこり出てきたりしたら官房室の失点になる。自分のミスは小野田の足を引っ張る。軽はずみな真似はできない。
 官房長だ首席参事官だと権力が服を着て歩いているように思われているが、様々な制約があって、思うように動けないのが現実だ。警察機構に於いて肩書は大事だが、その分不自由を強いられるのも事実だ。

 ――こんなとき。薪を助けられるのは、何物にも縛られずに行動できる人間なのだろう。

 ふと、薪を人質にして第九に立てこもった男を思い出す。
 まったく、青木は薪が絡むと無茶をする。普段の温厚な彼からは想像もつかない無茶ぶりだ。愛ゆえだか何だか知らないが、そのたびに尻拭いをさせられるこっちは堪ったものじゃない。

 そんな風に、つらつらと愚にもつかぬことを考えながら夜明かしをした翌朝、中園は出勤直後に第九を訪れた。朝になって急に激しさを増した雨に、ズボンの裾を濡らしながらの訪問であった。
 室長不在の第九は騒然としていた。薪が行方不明になったことは昨日のうちに伝わっていたはずなのに、こうも尾を引くものだろうかと訝しがっていると、中園の姿を見つけたメタボ体系の第九職員が泡を食ってこちらにやってきた。
「おおおおおおはようございます、中園参事官! ご機嫌うるわしゅう!」
 明らかに様子がおかしい。徹夜明けのテンションにしても突き抜けすぎだ。

「今朝は何のご用で?」
「青木くんに会いに来たんだよ」
「なんでピンポイント!?」
 どういう意味? と尋ねたが、曽我は両手で口を押さえてしまった。ぶんぶんと首を振る。窮地を察した小池が、助け船を出しに駆けつけて来た。
「おはようございます、中園さん。青木に何かご用ですか」
「以前岡部くんと一緒に飲んだ時さ、青木くんは薪くんが第九に居ない日は使い物にならない、て零してたんだ。面白そうだから見に来たんだよ」
 中園が得意の憎まれ口を叩くと、糸目とメタボのコンビは顔を見合わせ、
「なら岡部さんの自爆ってことで」
「仕方ないよな」
 頷き合って道を開けた、その先には机の陰にしゃがみ込んで電話をしている岡部の姿。人目を忍んでいるつもりかもしれないけど岡部くん、声も身体も大きすぎだから。

「青木、いいから帰ってこい。おまえが勝手な行動を取ると薪さんに迷惑が掛かるんだよ。いや、確かに今はその薪さんがいない状態だけど。この雨で救助隊も足止めを食ってるそうじゃないか。そんなところに素人のおまえが行ったところで……そりゃ俺だって薪さんのことは心配だよ。でもおまえにみたいに職務を放り投げて探しに行くなんて真似は」
「青木くんかい」
 中園が声を掛けると、岡部はびっくりして飛び上がった。どうしてここが分かったのかと言うように辺りを見回す。自分の大きさに自覚のない男だ。
「や、あの」
「ちょっと貸して」
 戸惑う岡部から強引に携帯電話を奪い取る。耳に当てて、冷静に尋ねた。
「青木くん。なにしてるの」
 全員が固唾を飲んで中園の行動を見守っている。みな一様に目を腫らし、不安な表情をしている。多分、昨夜安眠できた者はこの中には一人もいない。

『すみません、中園さん。これはオレが勝手にやってることですから。どうか室長や副室長の責任問題にはしないでください』
「君はどうしてそんなに無鉄砲なの」
『捜索の仕方は昨日見てましたから。百メートルのロープも3体用意しましたし』
「そういう意味じゃないよ。なんで薪くんのことになると見境なく突っ走っちゃうのか訊いてるの」
『どうしてって』
 中園自身、答えが返ってくるとは思わなかった問いに、青木は易々と答えた。
『薪さんが怪我をしてたら助ける。いなくなったら探しに行く。当然のことです』
 それは部下の思考じゃないと中園は思った。今どき奴隷だってこんなに主人に尽くさない。ここまで主人に忠誠を誓える生物と言えば。

「犬か、君は」
 ハーッと思い切り、昨夜の寝不足による倦怠感を硬直している岡部に向かって吐き出すと、いくらか心が軽くなった気がした。
 精一杯の軽蔑を込めて、中園は冷酷に言い放つ。
「薪くんのイヌならイヌのプライドに掛けて。ご主人さまを探しだせ」



 

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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