Someday(3)

Someday(3)





 薪のマンションで、青木は5分おきに時計を見ていた。
 昼過ぎには帰ると言っていた恋人を待って、何十回も同じ動作を繰り返している。薪は行先を告げなかったけれど、目的は服装で分かった。いけないと思いつつも、彼が出かけた後に彼の机を探った。
 見つけたのは一通の葉書。消印は横浜だった。

 薪を待つ10分が、1時間にも思えた。青木の体感時間ではゆうに三日が過ぎたと思われる頃、薪が帰ってきた。予定時刻を1時間しか超過していないなんて、信じられない。
「おまえの電話貸せ」
 お帰りなさい、と声を掛ける暇もなく、玄関先で靴も脱がないうちから命じられた。早くしろ、と怒鳴られてリビングに逆戻りする。携帯電話はサイドボードの充電器の上だ。
 差し出すと、引っ手繰るように奪い取られた。断りもなく電源を入れ、勝手にアドレスを引き出し。薪と自分の間でプライバシーとかどうでもいいけど、あ、もしかしたら自分が留守の間の浮気を疑って、だったらちょっとうれしい、気に掛けてもらえたってことだもの、なんて青木が頭の中のお花畑を走り回っている間に薪の指先が選んだのは、意外な人物であった。
「お母さん。薪です、ご無沙汰してます」
 電話の相手は青木の母親だった。薪は部下全員の緊急連絡先を記憶している。青木の場合は福岡の実家で、おそらく掛けても繋がらなかったのだろう。一人暮らしの母は、昼間は雑用で出かけていることが多い。それで青木の携帯電話から母親の携帯電話を呼び出したのだ。

 すうっと息を吸い込んで、薪ははっきりと言った。
「僕は、あなたの息子を愛しています」

 たぶん、電話の向こうの母も。
 青木と同じように絶句したのだと思う。でなければ、何をいきなり、と我が耳を疑ったか。目を丸くする青木の前で、薪はその言葉を繰り返した。
「この世で一番愛しています」
 それに対して母がどう応えたのか、青木は知らない。あの母親のことだからコロコロと笑って、「知っていますよ」とでも答えたのかもしれない。薪はふっと笑い、「はい。失礼します」と電話を切った。
 それから青木の方へ向き直る。取り上げた携帯電話を持ち主に返しながら、ジロリと青木を睨みつけた。

「僕の電話を立ち聞きとは。いい度胸だな?」
「すみません。今日の薪さんは突き抜け過ぎててツッコミ切れません」
 ぶふっ、と薪は吹き出した。だって、青木があんまり真面目に困ってみせるから。
 薪はくるりと背中を向け、すると青木が上着を脱がせてくれる。彼がそれをハンガーに掛けている間にネクタイを解き、こちらを向いた青木にポイと投げた。受け止めようと差し出された青木の手を掴み、それを為させない。ネクタイの放物線を眼で追う青木の無防備なくちびるに、薪は素早くキスをした。黒いネクタイが床に落ちる。

「突っ込みも間に合いませんけど、こっちも間に合いません」
 青木に、吸い返す暇なんか与えなかった。自分勝手に食い散らかしてやったのだ。
「でもなんか」
「なんだよ」と低い声で返したら、急に抱き締められた。彼の体型に馴染んだ身体が、その曲線に沿って自然にしなる。
「すごく素敵です」
 親子して、似たようなことを言う。青木の返事を聞いた薪は、そう思った。


*****


 青木に抱かれながら、薪は思う。
 愛する人の親に、もしかしたら自分以上の愛情を彼に注いできた人に、彼を愛していると告げることのできる幸せ。それをまた相手に祝福してもらえることのなんて幸運。

 ――いつか。

 いつか、来るだろうか。彼女にも、本当のことを言える日が。
 僕はあなたの息子を愛していましたと、正直に告白できるときが。
 彼の命を奪っておきながら、その彼を心から愛していましたと。告げて蔑まれようとも責められようとも、彼を愛したことを後悔するつもりはないと。あのひとの眼を見て言い切れる日が。
 いつか。



*****

 この話、書いたのが今年の6月初めだったんですけど、
 薪さんの上着を青木さんが脱がせるシーン。
 本誌とモロ被りで嬉しかったです(〃▽〃)

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

良かった(泣)

しづさん(号泣)
良かった~良かった~
薪さんに帰る場所があって良かった~( ;∀;)
前回、小野田さんと娘とごはん行って帰りに吐いてた薪さんの時ぐらい辛かったです…うえっうえっ

帰る場所と、薪さんが自分で辛いことを消化できるようになってて、それもすごく嬉しいです!!
消化のしかたも素敵です!!ぶっ飛んでてもう女王様です!!
毎夜12時待ってて良かった…
ありがとうございました。

ジャケットかぶり、すごいですね!!愛ゆえですかね!!

うれしい

しづさま
とてもうれしくて涙出そうで、というかほとんど出ていたというか。
私いつもしづさまの作品を何度も読み返してしまっているので、どん底の薪さんも、男爵さまも、恥ずかしがりな薪さんも、すべての薪さんが好きです。
でも今回は強くなったというか、階段を一つあがったというか、うるうるしてしまいました。
すごくかっこいいし、男らしいなあとも思いました。惚れ直した・・・
青木くんのお母さん、なんて答えたのかなあ、あれこれ想像して楽しんでみます。
いつもありがとうございますm(__)m

なみたろうさんへ

なみたろうさん。

そんなに泣かんでも(^^;
こういうときに帰れる場所があって、待っててくれる人がいるの、いいですよね。

ごはん行って帰って吐いてたときは、辛かったですね(じゅる) 薪さん、ボロボロでしたね(じゅるる)
タイムリミットの後は落ち着いちゃって、正直物足りないです。またああいうの書きたい……あ、ダメ?


13回忌と言うと、かなり先の話なのでね。一緒に暮らし始めて4年くらい経ってますかね。
その頃にはきっと、これくらい強くなってるんじゃないかな~、なってるといいな~。

夜の12時、待っててくださったんですか?
あ、本当だ。このコメントの時間……いや、ほんのシャレのつもりだったんですけど(薪さんが滝沢さんから銃を受け取るシーンでちょうど零時の時計が描かれてたから)、
傍迷惑なことしてすみませんでしたっ。しかも本人予約投稿ですみません! 夜、弱いんです。朝も弱いけど(^^;


>ジャケットかぶり、すごいですね!!愛ゆえですかね!!

そうなんですよ!
あのシーン、見た時に既視感があったの。で、どこの二次だっけ、と考えたら、こないだ自分で書いた話だったわ、って(笑)
新連載、青薪さんだとは露程も思ってませんでしたからね。嬉しかったです♪

トトロさまへ

トトロさん。

「とてもうれしくて」といただきました。
ありがとうございました。

実はこの話、ちょっと微妙だなあって思ってて。
こうして歩み寄ることが本当に正しいことなのかどうか、わたしにも分からないんです。
単純に、鈴木さんの両親が薪さんを許してくれたら嬉しい。でもそれはすごく難しい。
歩み寄る努力をしなければ心を交わすこともできないけれど、現実に傷つけ合うことしかできないなら、無理して近付いて傷を広げ合うことに何の意味があるんだろうとも思う。それが鈴木さんの事件後、薪さんと雪子さんが近付けなかった理由じゃないのかな。

だから、公開するの、大丈夫かなって思った。
そんな微妙な作品に「うれしい」というコメントもらえるの、とてもありがたいです。


>すべての薪さんが好きです。

うちの薪さん、あり得ない方向にズレまくってますけど(笑)、好きになっていただけて嬉しいです。


>すごくかっこいいし、男らしいなあとも思いました。惚れ直した・・・

そう、今回はちょっと強くなった薪さんを書いてみました。惚れ直してくださって光栄です。
この時の薪さん、46ですからね。今までより大人っぽくなってると思います。


>青木くんのお母さん、なんて答えたのかなあ、あれこれ想像して楽しんでみます。

文章に表れていない部分を想像していただけるの、文字書きの本懐です(^^
わたしなりに考えた言葉はありますが、これはもう読者さまのものですので。想像の翼を広げていただきたいと思います。


こちらこそ、いつもありがとうございます。
何度も読み返しとか、光栄ですけどアラがーっ(^^;) 
当ブログは読み直しに堪える仕様になっておりません。どうか読み捨ててくださいねっ!

Aさまへ

Aさま。

>青木と恋人同士になっていなかったら

出席はしたと思いますよ。
うちの薪さんは、傷つけられればそれが贖罪につながるような錯覚を覚える人なので、喜んで出向いたと思います。
でも、家に帰ったあと、こんな風には考えられなかったでしょうね。青木さんの功績ですね。


>ここまで突き抜けることができたら本当に理想的ですね。

原作も、これくらいになっちゃえばいいのに! と思う反面、それは秘密じゃないわ、と強く思います。
もちろん、青薪さんにはくっついて欲しいですよ。今更別の誰かとどうこうなんて、絶対に嫌。でも、あからさまにカップルになってしまったら、あの世界が壊れてしまう気もするんですよね。それも困る。
原作がああだから、そこにジレンマを感じて、二次創作が生まれるわけだし。

エピローグは最高の終わり方だと思っていただけに、再開は嬉しいけれど不安もいっぱい、という心境に……青木さんが手紙の話なんか振るから(^^;
秘密に悩まされる日々はまだまだ続きそうです。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
次のお話の予定
『ヒカリアレ』
書いてます。
60Pを超えました(笑)
7/18 推敲やってます。
あと20ページ。
7/20 推敲の結果、70Pになりました。←バカじゃないの。
2回目の推敲に入りました。
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: