Yesterday(1)

 10万ヒットありがとうございました~~!!!(いつの話)(去年の12月デス(^^;)
 こちら、お礼のSSでございます。

 内容なんですけど、今回はセット物で。
 本日から公開します雑文2作、プラスお盆にフライング公開しました「Someday」、3つ合わせて1セットになっております。3作品のストーリーはバラバラなので連作ではないのですが、一括りと言うか一山幾らと言うかオマケするから買って行ってよ奥さん的なニュアンスで……本日も広いお心でお願いしますっ。

 あ、それと、この話、個人的に、8月のオフ会でお会いしたみちさんに。
 あの時お話した岡部さんと薪さんのSSなので、読んでいただけると嬉しいです。





Yesterday(1)




 捜査協力依頼のあった所轄で捜査会議に出席した帰り道のこと。昼が近かったので、その辺で昼食を摂ろうと言う話になった。
 食事の話が出た瞬間、小池と曽我がスーツの袖口に隠すようにして親指を立てたのを岡部は見逃さなかった。メンバーは室長の薪、副室長代理の岡部、小池、曽我、宇野の5人。この面子なら薪のおごりだ。和牛ステーキの昇り旗に目を輝かせる曽我の首根っこを掴み、岡部は、リーズナブルな値段でボリュームたっぷりのランチを提供する定食専門店へ彼を引きずり込んだ。他人の懐を当てにして豪華な昼食をせしめようなんてちゃっかり者は曽我の他にはいないから、彼さえ押さえておけば薪の財布は安泰だ。
 いくら副室長が室長の女房役だからと言って、普通は、室長の預金残高まで心配することはない。薪の場合は特別だ。
 仕事なら誰よりも目端が利くのに、それ以外のことにはてんで無頓着な室長は、給料前で懐が寂しい部下たちにいいように利用されてしまう時がある。「僕も新人の頃は先輩たちにタダ酒飲ませてもらったから」と岡部たちが顔も知らない先達への恩義を忘れない彼は、部下から飲み会に誘われるとホイホイ金を出す。それが分かっていて室長に話を振る彼らを見ていると、室長はおまえらのATMじゃない、と言いたくなる。

 店は、正午前で客の入りはまだ三割と言ったところだった。岡部たちは6人掛けのテーブル席を占領し、それぞれに注文を済ませた。
 食事が運ばれてくるのを待つ間、小池と曽我はいつものように雑談に花を咲かせ、宇野は、手持無沙汰にメガネ店のチラシを見ていた。定食屋の隣はメガネ店で、店員が路上でチラシを配っていた。この中で眼鏡を掛けているのは宇野ひとりだから、彼だけがチラシをもらったらしい。
 やがて食事が運ばれてくると、宇野はそれを店のクズ籠に捨てた。チラシの99%は捨てられる運命にある。資源の無駄遣いだ、と岡部はいつも思う。

 豚の生姜焼きに大盛りのごはんを美味そうに頬張る曽我たちの横で、気乗りしなさそうに焼き魚の身をほぐしている薪を見て、この人は何が楽しくて生きているのだろう、と岡部はまた副室長の職務を超えたことを考える。
 この人の部下になって半年。ファーストコンタクトは最悪だったが、その感情はとうに拭い去られている。止まらないお節介がその証拠だ。
 薪は、食べることにも遊ぶことにも興味がない。友人もいなければ趣味もない。休日も殆ど第九に出てきている。唯一の息抜きと言えば、金曜の夜、岡部と二人で飲むことくらいか。それも家飲みとあっては派手さのハの字もない。外見からは想像もつかない地味なライフスタイルである。
 去年の夏、あんな事件があったばかりで、今は第九も薪も大変なときだ。そう思って半年間様子を見てきたが、薪のワーカホリック振りは一向に改善される気配がない。自傷行為も止まっていないようだし、と岡部は、汁椀を持ち上げた薪の腕に残る爪跡を、彼のワイシャツの腕ボタンの間から確認して眉をひそめた。

「あー、食った食った」
「旨かったー」
「「室長、ごちそうさまです」」
「ん? ああ」
 奢ると言わないうちから部下に礼を言われて、薪は曖昧に頷いた。捜査中の事件のことでも考えていたのか、止まりがちだった箸のせいでまだ半分も減っていないランチプレートを両手に持つと、誰よりも早く返却口へと向かって行く。
「図々しいぞ、おまえら。室長、奢ってくれるなんて一言も言ってないだろが」
「や、だってもうお金払ってくれちゃってるし」
 薪は仕事のこと以外は過ぎるほどに寛大なのだが、これじゃ野放し状態だ。だから連中が図に乗るのだ。岡部は急いで薪に追いつき、支払いにストップを掛けた。
「薪さん、今日は割り勘で行きましょう。あいつらクセになりますから」
「別にいいだろ。食事代くらい」
「室長だからって毎度毎度、一人で勘定持つことないんですよ」
「うん。でも今は、特に欲しいものもないから」

 その『今』とやらは永遠に続くんじゃないんですか。

 思わず口から出そうになった言葉を止めるために、岡部は心の中で3つ数を数えた。たったそれだけの間に、薪は支払いを済ませて外に出て行ってしまった。後ろから来た曽我たちにも抜かされ、一行の最後に店を出た岡部の視界に、早くも信号待ちをしている薪の、ぽつねんとした後ろ姿が映し出される。
 部下たちに囲まれているのに、強い孤独を感じさせる。世界にたった一人で生きているような印象すら受ける。

「岡部。信号が変わるぞ」
 薪に呼ばれて我に返った。思わず、立ち尽くしてしまっていた。
 他の連中は既に道の向こう側にいた。薪だけが横断歩道の真ん中で、岡部を待っているのだ。インジケーターの目盛は残り2つ。間もなく信号が点滅し始める。

 ふと。自分が此処から動かなかったら、薪はどうするだろうと考えた。
 信号が点滅しても赤になっても、焦らずその場に立ち続けるのではなかろうか。

 薪の、首元まできちんとボタンの掛けられたシャツの下には赤い蛇が住んでいる。夜ごと自身の爪で刻まれる蛇が。それを思うといっそのこと、ここに立っていれば楽になれるかもしれないと、今この瞬間も彼は自分の死に場所を探しているのではないのかと、不安でたまらなくなる。
 ふん、と岡部は地面を踏みしめた。地球を蹴り飛ばすつもりで足に力を入れた。革靴の底と歩道のインターロッキングが摩擦で火を噴きそうな猛ダッシュである。道の中央で薪の腕を捕まえると、そのままの勢いで横断歩道を渡りきった。

「危ないじゃないですか、道の真ン中で立ち止まったりして。曲がってくる車に迷惑でしょう」
「おまえの方がずっと危ないし、他人の迷惑だ。ほら」
 薪が顎で後ろを指し示す。岡部が走ってきた歩道には、何故かメガネのチラシがばら撒かれており、メガネ店の店員が総出でそれを拾い集めていた。薪の眼が岡部を責めるように細められる。岡部は慌てて自身の無実を訴えた。
「おれはぶつかってません」
「なるほど。ソニックブームだな」
 薪の喩えに吹き出す部下たちと、バツの悪そうな顔をする岡部を見比べて。薪は、ほんの少しだけ笑った。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

わたしも6巻の話、大好きです。
ちょうどあの頃って青木さんが雪子さんに恋をした頃だったから、余計に癒されたというか。
薪さん、もう岡部さんにしときなよって本気で思いましたよ。でも薪さんが青木さんじゃなきゃ嫌だって言うから(笑)


>今回のお話はまだそんな青木が入る前の話なのかしら?

ちょうど青木さんが入った頃ですね。「Yesterday」なので。
で、後半は現在に話が飛びます。
これ、3部編成になってて、この話が「Yesterday」、次の話が「Today&Tomorrow」で、最後が「Someday」なんですよ。
薪さんの過去・現在・未来の話なんです。

最初は辛い過去、次は楽しい現在と明るい未来、そして最後はいつか訪れるかもしれない和解の日。それで3セットなんです。
お楽しみいただけたら幸いです。


>所長になっても一緒に仕事してるのを見ると岡部さんは鈴木さんのような存在になれるかもしれないとか思います。

そうなったらいいなーとは思いますが、個人的にはちょっと。岡部さんでは力不足とかじゃなくて、わたしの鈴木さんに対するイメージの問題ですが。
わたしのイメージでは、鈴木さんは薪さんの保護者なんです。鈴木さんは薪さんが暴走しても、常に余裕かましてる。でもって、薪さんがやりそうな無茶はお見通しで、先回りして安全策を講じている。そういう人。
岡部さんは、薪さんの自発的行動を尊重する人。だからギリギリまで手は出さない。ヤバイと思ったら危険顧みずに突っ込むけど、それまでは過保護にしない。
同じように薪さんを大事に思ってるけど、立ち位置が違うんですね。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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