Today&Tomorrow(1)

 本日はお日柄もよく。みなさま、お運びありがとうございます。
 お礼、その2でございます。よしなにお願いいたします。
 





Today&Tomorrow(1) ~彼を守る9つの方法~




 2065年の秋、薪剛警視長(40)の正式なボディガードに任命された青木一行警視(29)は、この重要な任務を完遂すべく日夜研鑽を重ねて現在に至る。以下は、警視の実体験に基づき、注意すべきポイントとその対処法を要約記述したものである。


危険ポイントその1 街の中


「すみません。この近くにドラックストアってありますか」
「ええ。その信号渡って2軒目のコンビニの手前の路地を入って、100mくらい歩くと右手にありますよ」
「この辺、詳しくないんで。連れて行ってもらえませんか」
「いいですよ」
 そんな会話を交わして1分後、50m先の路地に連れ込まれる。急いで駆け付けるが、青木が現場に到着する前に、男が路地から蹴り出されてきた。

 相手が集団でもない限り心配は要らない。薪はとても強いのだ。一対一なら大抵の相手には負けない。しかし、青木の神経には限界がある。街に出る度にこの調子では心臓が持たない。逃げていく男を睨みながらの説教も、厳しくなろうと言うものだ。
「ダメですよ。知らない人に着いて行っちゃ」
「着いてきたのはあっちだぞ?」
 薪は基本が分かっていない。
「道案内は警官の仕事だろ。だから僕は」
 道案内にかこつけたナンパを見抜けなかった、間抜けな自分を正当化しようと薪は必死だ。でもその理由は本当のこと。
 薪は本当は交番勤務をしたかったのだ、といつだったか酒の席で話していた。詳細には触れなかったが、子供の頃、交番のお巡りさんに憧れていたのだそうだ。それが今では、警察官房室付次席参事官。階級は巡査の遥か上の警視長だ。そろそろ科警研の所長に就任する話も出ている。現所長の田城は再来年定年だから、その後任に収まるのだろう。直接の上司から更に上の上司になるわけで、青木はますます薪に頭が上がらなくなる、というか、今まで薪に上から物を言ったことなんか一度もない。それもそのはず、青木は薪の奴隷なのだ。

 ――まあ、奴隷って言っても恋の奴隷だけど。

 青木は薪の秘密の恋人だ。頭が上がらないのは一緒だが、彼への奉仕は愛と幸福で満たされている。
 青木はそう考えているが、青木以外の人間の眼には只の奴隷にしか見えない。彼の幸福はその事実に気付かないことと、『青木以外の人間』というカテゴリーに薪も含まれていることを知らない点に掛かっている。不憫だ。

「それより、ビール買ってきたか」
「はい。良く冷えてますよ」
 差し出した缶ビールを受け取り、その場でプルトップを引く。と、白い泡がぶわわっと飲み口から溢れて、歩道のアスファルトを白く汚した。コンビニからたった50mとはいえ、全力疾走したのだ。当然、ビールはしっかりシェイクされていた。
「この役立たず!」
 道路でプルトップを引くほど飲みたかったビールを地面に飲ませてしまった、薪の怒ること怒ること。通り掛かったお婆さんがビクッと身を竦ませたのを見て、青木は慌てて薪を歩道の真ん中から建物の角の目立たないところに引き込んだ。

「すみません」と素直に謝る青木に、薪はずいっと泡だらけになった缶ビールを突き出し、
「こっちの量が減ったの、おまえの分だからな。そっちの寄越せ」
「ごめんなさい。ビールは薪さんの分しか買いませんでした」
「なんで」
 かっきりとスケジュール管理されたウイークディを過ごしている反動か、休日の薪は気紛れだ。急に「海に行きたい」とか言い出すかもしれない。そしたら青木が車を運転するのだ。アルコールは飲まない方が賢明だ。
 青木がそれを説明すると、薪はムッと眉をひそめ、缶ビールに口を着けた。缶の中に呟くように、
「二人で飲むのが楽しいんじゃないか」
「なにか言いました?」
「これ、ものすごくマズイ。傾けても泡しか出てこない」
 斜め下から睨み上げてくる薪は、どうやら本格的に怒っている。ここでご機嫌を取らないと、今日のデートはキャンセルされてしまうかもしれない。焦った青木はコンビニに戻ろうとした。
「もう一本買ってきます」
「もういい。飲む気が失せた」
 素っ気なく言ってスタスタ歩く。薪の背中を追い掛けて、青木はおずおずと彼に話しかけた。

「あの、薪さん。今日、どこか行きたいところってありますか」
「何処かって、日比谷スポーツ店だろ?」
 薪は不思議そうに瞬きをした。そのきょとんとした顔の可愛いこと。
 今日の外出の目的は、青木の剣道衣を受け取ること。青木は平均より20センチばかり背が高く、市販のサイズでは合わないから道着はいつも特注品だ。日比谷スポーツ店からは、先週末に入荷の連絡を受けていた。だけど、その受け取りは今日でなくてもいい。もともとが薪を外に連れ出すための方便のようなものだったのだ。

「それは明日の昼休みにでも行くとして。ここなんですけど」
 スマートフォンの画面に美しく広がる海原の写真を薪に見せると、薪はそれを受け取って、自分でホームページを読み始めた。歩く速度は緩めずに、器用に通行人を避けながら、人差し指を滑らすごとに頬を緩ませ、やがて青木を振り仰ぐ。
「海辺の温泉か」
 青木を見上げる薪の、穏やかに開かれた眉を見て、青木はほっと胸を撫で下ろす。怒りは治まったらしい。
「日帰り入浴なら行けますよ。ほら、このお昼寝セットなんてどうです?」
 11時からのコースで、温泉、昼食、部屋付き寝具付きで夕方の5時まで。日曜日限定だからこそのプランだ。これが休前日となると宿泊客が多いから、3時以降は部屋が塞がってしまう。翌日が月曜の今日なら、宿泊客は土曜の半分以下になる。部屋を開けておくのは勿体ない、とホテル側の考えは実に合理的だ。

「Ⅰホテルまでの所要時間は1時間ほどです。どうですか」
 一応訊いてみたけれど、答えは分かっていた。亜麻色の眼がきらきらしている。それはもう、写真の海に負けないくらい。
 温泉、海の幸、昼寝は薪を籠絡する三種の神器だ。ここに美味い日本酒でも加わったら、相手が見ず知らずの男だってホイホイ着いて――マズイ。
 温泉でご機嫌の薪は警戒心が薄れ、愛想がよくなる。相手が青木限定ならよいのだが、この人は公僕の精神とやらを持っていて、一般市民には元々愛想がいい上に彼らを自分が守るべき存在と考えている。だから先刻のようなナンパにも簡単に引っ掛かってしまう訳だが、それが温泉の効果で更に増すとなると……ホテルの掃除のおばちゃんにまで物陰に引き込まれそうだ。絶対に目を離せない。

 青木の心配をよそに小旅行の話はとんとん拍子に決まって、青木はスマートフォンでプランの予約を済ませ、通り沿いのレンタカーショップで車を手配しようとした。その足を、薪が止める。
「東京駅から直通バスが出てるって書いてあったぞ」
「いや、でも」
 直通バスは無料だけど乗り合いだ。薪と二人きりにはなれない。私用車なら行きも帰りも二人だけの空間で、薪のきれいな横顔を眺めるとか手を握るとか太腿を触るとか、もっと大事な所を触るとか途中で横道に入って車停めてシートを倒し……さすがにそれは温泉に着かなくなっちゃうから我慢するけど前半3つくらいはやってみたい。
「おまえ、脇見運転多いから。バスの方が安心できる」
 見抜かれたか。

 出発時刻を確認すると、後30分ほど。霞が関から東京駅までは地下鉄で二駅、所要時間は約5分。飲み物などを購入したとして、ちょうどいい時間だった。
「よし、東京駅でビールを買おう。それから枝豆と柿の種」
「はいはい」
 今日も薪さんのガードは固い、と青木がいささかげんなりと彼の後を追うのに、薪は、これでやっと二人で一緒にビールが飲めるとご満悦であった。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Sさまへ

Sさま。

>これは超スーパー珍しい平和な青薪さんですね?
>間違いないですよね?

はい~。今回は平和な青薪さんですよ~。
雑文だから薪さん泣かないし、事件も起きないです。わたし的はつまらな、ごほごほ。
二人の平和な休日をお楽しみくださいませ♪

しっかし、
超スーパー珍しい、て、3つも並んだよ!(>▽<) 
その上念押しまでされると言う。どんだけww


>次に清水センセイがどういう手を打ってくるのか

あら、Sさん、ビビってます?
わたしは最初こそ落ちたんですけど、考え直しました。何より、スピンオフで本編の結末は引っくり返らないだろうと思って。……甘いですか?


>薪さんを物理的に青木の愛の糸でぐるぐる巻きに

愛の糸と申されますとそれはスパイダーマン的な(ちがう)

次は期待していいと思うんだけどな~。
ほら、初回、青木さんの攻撃(?)だったでしょ? 2回目、薪さんのターンだったわけですよ。だから今度は青木さんの番なの。
愛の攻防戦。うっとり。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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メロディ6月号、読みました。
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