Today&Tomorrow(2)

 平和な青薪さんの続きです。
 この先の展開をみんなに疑われてる気がしますけど、本当に今回は平和なお話なんですよ。
 ……信じてえええッ!!! ←大文字にしないと信じてもらえないSS書きのクズ。





Today&Tomorrow(2)




危険ポイントその2 高速バス

「どちらから?」
「東京です」
「ぼくもです。奇遇ですね」
「はあ」
「このバス、東京駅から出てますから。奇遇でも何でもないですよね」
 薪の曖昧な返事に被せるように、青木はシビアに言い放った。前の席から身を乗り出して、あわよくば薪の隣の席に移動しようと言う魂胆がミエミエの若い男性は、気まずそうに自分の席に座り直した。出発までの隙間時間に、ほんのちょっと飲み物を買いに行っただけなのに。まったく油断も隙もない。

 買ってきた枝豆とビールのセットを黙って渡すと、薪はそれをカップホルダーに落とし、枝豆の袋を開けた。2,3粒口に放り込み、ビールに手を伸ばす。コンビニの全力疾走に続き、バスの発着所を探して東京駅構内を歩き回って、青木もいい加減喉が渇いていた。薪に倣ってビールのプルタブを開け、ぐっと呷ってふうとため息を吐く。横を見ると珍しいことに、薪がニコニコしている。ずっと飲みたかったビールが飲めて満足らしい。

『ご乗車ありがとうございます。このバスはS温泉Iホテル行、直通バスでございます』
 出発時刻になると、バスの中にアナウンスが流れた。乗車率は6割といったところだ。
 行先が温泉だからか、中年の夫婦やカップルが多かった。前の席の若者は数人の男友達と来ていて、多分ナンパ目的。その証拠に彼らは、先に声を掛けた薪に連れがいると分かって席を移動し、後部座席にいた女の子のグループとお喋りをしていた。その様子を横目で見ている青木に、薪がこそっと囁いた。

「青木。あんな言い方したら相手が可哀想だろ」
 すみません、薪さんの口からそんな言葉を聞くともうすぐこの世は終わるんだなって気がするのはオレだけですか。
「旅は道連れって言うじゃないか。初対面の相手との会話を楽しむのも一興だぞ。明るくて感じのいい若者だったし」
 なんでそんなに市民の方にはやさしいんですか。その100分の1でもオレに分けてくれませんか。
 もう警察辞めちゃおうかな、そしたら薪さんにやさしくしてもらえるかもしれない。そんな考えが頭を過った時点で青木の脳は煮立っている。だって無理もない、ビールに温泉でウキウキの薪は、眩暈がするくらい可愛いのだ。どうしてだか、今日はやけにめかしこんでるし。
 今朝、会った時から思っていた。こないだ買ったばかりのワイン色のミリタリーシャツとか英国製のバミューダパンツとか、職場近くのスポーツ店に行くにしては気合が入り過ぎている。休日の少ない彼は、買ったはいいが着る機会の無い服が多いと嘆いていたから、そのせいかもしれないが。

 やがてバスは都心を抜け、目的の温泉地へと進路を向ける。徐々に高層ビルが減り、民家と緑が増えてくる。しばらく続いた松林が切れると、そこに海が見えた。
「青木。海だ」
 声を弾ませた薪は小さな頭を窓に近付けて、飲みかけのビールをホルダーに戻した。騒いでいた割に大した量は飲んでいない。本来薪は日本酒党で、ビールはあまり好きではなかったはずだ。休日の気紛れ小僧が顔を出したのだろうが、予備に買った一本は青木が飲むことになりそうだ。
「窓際の席と替わってやろうか」
「いえ。ここでいいです」
「遠慮するなって」
「結構です。オレは通路側の席が好きなんです」
「……変わった奴だな」
 青木は別に、気を使ったわけではない。これだけの身長差があれば十分に外の風景は見えるし、海を見る振りをして自然に薪を見ることができる。熱い眼で見つめても、周りの人間に不自然に思われない。いいこと尽くめだ。

 どことなく気落ちした風に、薪は窓の外を見た。一面に光る海が見えて、それはきっと薪の心を癒してくれると思った。薪は雄大な自然の風景が大好きなのだ。
「サーフィンやってる。楽しそうだな」
 潮干狩りの時季は過ぎ、海水浴には早い今時分、幅を利かせているのはサーファーだ。サーフボードを器用に操って、絶妙のバランス感覚で波に乗る。鈍くさい青木にはとても無理だが、薪ならやってのけるかもしれない。薪はとても運動神経がいいのだ。訊いてみると、果たして若い頃に経験があると言う。
「今度、教えてやろうか」
「遠慮します」
 テイクオフとワイプアウトを繰り返すサーファーたちに眼を据えながら薪が誘ってくれたサーフィンデートを、青木は辞退した。長身の青木には、バランス物は相性が悪い。スキーもスケートも苦手だ。平らな所でさえ転ぶのに、絶えず動く波の上だなんて。薪の前で恥をかくだけだ。
「そうか、残念。じゃ、一人で行こうかな」
「ぜひお願いします! 前からやってみたかったんです!」
 慌てて弟子入りを申し込むと、薪はくるっと振り返り、意地悪そうに笑った。

 その顔、オレ以外の誰にも見せないでくださいね。

 思わず口に出そうになった言葉を舌の根で押さえる。今はこうして自分が薪を隠しているからいいけれど、無防備にその笑顔を振りまかれたら。後部座席で女の子たちとポッキーゲームやってる男どもがポッキー咥えたまま突進してくる、自分ならそうする、だって立場とか常識とか考えられないもん、いま。

「青木。おまえさ」
 上目使いに自分を見上げてくる、彼の小さく整った顔立ちの愛らしさと言ったら。天使とか女神とか俗な言葉が浮かぶけど、そんなものじゃとても表しきれない。彼を喩え得る言葉はこの世にはない。
「来週、……だろ?」
 いつも思うけど、薪の肌はなんでこんなに白いんだろう。陶器みたいにつるんとして、それでいて透明感がある。女性のように乳液とかファンデーションとか、人工的なものを何一つ付けていない素肌の美しさ。だから思わず触りたくなってしまうのだ。微粒子の粒ひとつ彼との間を邪魔しないことの充足感。くちびるも睫毛も同じ、神さまにもらったそのままの造詣美。ここがバスの中でなかったら、とっくにくちづけてる。
「で、いろいろ考えたんだけど、これが一番喜ぶかなって。どうだ?」
 青木を誘惑するように動いていたくちびるの動きが止まり、その花弁が緩く結ばれる。しばらくして「青木?」と呼ばれた、自分の名前には疑問符が付いていた。

「なんだ。聞いてなかったのか」
 何か話をしていたのか。いや、今の今まで薪のくちびるの動きに目を奪われていたのだから、確実に喋っていたのだ。もう一度話をしてくれるように頼むと、機嫌を損ねたのか、薪はぷいと横を向いてしまった。
「二回話すような内容じゃない。聞かなかったならそれでいい。ていうか」
 窓枠に肘をつき、頬杖をして外を眺める。細い肩は怒ってないけれど、些少の落胆が感じ取れた。
「相談した僕が悪かった。本人に訊くことじゃないよな」

 重要なことだったのだろうか。それも青木に関することで。
 時期を考え合わせると、異動のことか。今は6月。7月は4月に続く人事改変の月だ。期初めに一度に済ませた方が効率的だと思うが、これには人事部の仕事量を分散する狙いもあって、て、人事部の都合はどうでもいい。問題は、青木に異動の話が来ているかもしれないということだ。
「オレは第九を離れたくありません。薪さんの傍に居たいです。一生薪さんと仕事がしたいです」
 嫌な予感に駆られて、青木は思わず口走る。不用意な発言だったが、薪がぽかんと口を開けたので、自分が見当外れのことを言ったのだと分かった。
 薪はものすごく怪訝な顔をした後、恐縮する青木に、
「おまえみたいな出来損ない、客に不良品を売るようなものだ。寝覚めが悪くて他の部署に渡せるか」
 と、キツイ一言をくれた。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。


>青木は運転していないと

てか、運転しててもがっつり後向いてましたよね。(^^;
次からはタクシー頼んだ方がいいよ、薪さん。それか自分で運転した方が安全。


>薪さんは鈴木さんが死んでから

そうでしょうねえ……(;;)
心が石みたいに固くなって、何も感じなかったんだと思う。
一種の防衛本能みたいなもので、鈍化しないと生きられなかった。辛いとか悲しいとか、それすらもなかったんじゃないかな。

時が過ぎて、泣けるようになって、やっと、
「自然を美しく感じたり四季の移り変わりを楽しむ気持ち」が出て来たんだと思います。
よかったね、薪さん。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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