Today&Tomorrow(4)

 今日はお義父さんの7回忌法要で、久々に長男の嫁らしいことをしております、しづです。
 メロディ発売も近いですし。励みにしてがんばります。
 



Today&Tomorrow(4)



危険ポイントその4 客室


「ここからも海が見えるんだな」
 部屋に入った薪は、さっそく窓に張り付いた。海岸縁に建てられたホテルは、全室オーシャンビューを売りにしている。潮で傷みが早いせいかホテルの外観はあまり豪奢な印象ではなかったが、中に入ってしまえば内装は綺麗だし、自慢するだけあって眺望は最高だ。
「下の砂浜はホテルのプライベートビーチだそうで。利用客は、岩ノリや貝を自由に獲っていいそうですよ」
 ふうん、と薪は漁には大した興味も示さなかったが、夕暮れの散歩には同意してくれた。このホテルは東を向いて建っているから海岸線に陽が沈む光景は見えないが、夕焼けで赤く染まった空の色を映した海も、きっと薪の心を和ませてくれる。

 二人が通された部屋は薪が好む純和室で、十畳の二間続き。二人で使うのがもったいないくらい広い部屋だ。一間に一台、大型のテレビが置いてある。それぞれにビデオデッキがセットされているのを見て、青木はロビーにDVDの貸し出しコーナーがあったのを思い出した。温泉街と言えば必ず近くに観光客向けの盛り場があるものだが、ここは田舎の漁師町で夜は早い。客は、海の見えない夜間はもっぱらこれで時間を潰すのだろう。
 お昼寝プランなので、奥の部屋には二組の布団が用意されている。海の幸のフルコースでお腹も一杯だし、男湯が使用可能になる3時までの間、お昼寝タイムと行くことにした。
 布団の上に、腹ばいになって手足を伸ばす。隣を見ると、薪がうつ伏せになって枕を抱えていた。盛り上がった腰のラインが妙に色っぽい。浴衣は濃紺の布地に白でホテルのロゴが入っている一般的なものだが、黒っぽい着物は肌の白さを強調する。だから余計に色気を感じてしまう。まくれ上がった浴衣の袖から覗く白い腕から、青木は慌てて眼を逸らした。
 薪は、髪の色も瞳の色も日本人離れした明るい色なのに、和装がとてもよく似合う。浴衣も甚平も、紋付き袴も堂々と着こなす。それは薪が主張するように、彼が日本男児だからなのだろうか。まあ、振り袖も似合ってしまうとなると日本男児からは遠ざかるような気もするが。

「波の音がする」
「今日は、風がありましたからね」
「不思議だ。けっこう大きい音なのに、ぜんぜん耳触りじゃない」
「自然の音ですからね」
 ザーザーと繰り返す音の響きはラジオの雑音に似て、でもまったく違う。モーツァルトの楽曲みたいに華やかじゃないけれど、その単調さが眠気を誘う。段々に手足が重くなって、海の底にいるみたい。
「おまえの声と似てる」
 え、と青木は枕から顔を上げた。薪は先刻と同様、枕に顔を埋めたまま、モゴモゴと、
「説教ばかりでうざったいのに。聞いてると気持ちいい」

 ふいに、そんなことを言われたら。
 大好物のビーフジャーキーを見せられた犬のように、青木は布団の上に身を起こす。うつ伏せたまま、早くもまどろみに入っているらしい薪に声を掛けた。
「そっちへ行ってもいいですか」
「来るなって言っても来るんだろ」
「薪さんが一人でお休みになりたいなら諦めます」
 いささかシュンとして、それは薪に素気なくされたからではなく。仕事で疲れている薪にリフレッシュして欲しいと思って此処に連れてきた、だから彼を疲れさせることはする気はなかった、はずなのに。薄い浴衣一枚で寝具に寝そべっている彼を見ているとやっぱり欲しくなってしまう、自分の意志の弱さにがっかりしたのだ。

 すごすごと自分の布団に戻ろうとした青木の耳に、薪の声が聞こえた。枕に口をつけた不明瞭な発音ではなく、いつもの澄んだアルト。
「風呂が使えるまで2時間以上ある。昼寝には長すぎる時間だ」
「ですよね! 昼寝が過ぎると夜眠れなくなりますし」
 サカサカと四本脚で薪の布団に擦り寄る、変わり身の早さは天下一品。相手が薪でなければもう少しは自分の主義主張を通せるのだが、いかんせん、青木は薪の前では完全なるイエスマンだ。例えそれが明らかな間違いだったとしても、薪の言うことには逆らえない。

 薪の隣に寝る、というか覆いかぶさると言うか、とりあえず身体を寄せると、湯上りの肌からはいい匂いがする。さらさらした髪を耳に掛けて、小さな耳たぶを口に含んだ。潮の味。
「薪さん。下着」
 浴衣の上から撫でてみて分かった。薪は下着を着けていなかった。道理で色っぽいはずだ。
「どうせ脱がされると思ったから」
 その気でいてくれたってことですか?
「おまえがこの状況で何もしてこないとは思えない」
 はい、すみません。おっしゃる通りです。
「対象と関係を持つのはSPのご法度だぞ」
「意地悪言わないでくださいよ」
 薪の言う通り、それは確かに掟破りだが、青木の場合はボディガードになる前から薪の恋人だったわけだし。当てはまらないと思ったけれど強く反論することもできなくて。お腹が空いた犬のような顔をした青木を見て、薪がクスッと笑う。
「うん、分かった。今日は意地悪はやめる」
 いきなり素直にならないでもらえますか、気持ち悪いです。
「どうしたんですか?」
「バスの中で言ったこと、おまえ、本当に聞いてなかったんだな」
 薪の笑顔に骨抜きになって話を聞いていなかった。聞き直したが、薪は答えてくれなかった。異動の打診かと思ったけれど違った。本当は何だったのだろう。

「来週の火曜、おまえの誕生日だろ」
 そうですけど、それがなにか。
「毎回、何も要らないって言われるから。今年は物じゃなくて、思い出作りにしようかなって」
 薪は毎年気遣ってくれるが、青木は本当に何も欲しくないのだ。もう何年も前から青木が欲しいのは薪だけで、その薪がこうして自分の恋人でいてくれる。以前のように、抱き締めても投げ飛ばされたりしない。ちゃんと青木を受け入れてくれる。青木に笑い掛けてくれる。毎日プレゼントをもらっているようなものだ。
「そんなの当たり前だろ。恋人なんだから」
 薪は当然みたいに言うけれど、その当たり前のことが実はけっこう難しい。年が重なるにつれて慣れ合いになる、手抜きが増えていく。薪の場合は最初から我儘方題だったから、変わる必要性が無かったのかもしれないが。

 薪はゆるゆると身を起こし、浴衣の裾を乱して布団の上に座った。下着を付けていないと分かったせいで、奥の暗がりが気になって仕方ない。白い太腿に眼を奪われている青木に薪は膝でにじり寄り、大胆にも腰の上に跨った。青木の身体の中心に手を載せて意地悪そうに笑う。
「毎年、誕生日が来るたびにココが疼いて堪らなくなるくらい。過激な思い出作ってやろうか」
「はいっ!」
「脅し甲斐のないやつだな。少しは怯えてみせろよ」
 Sっ気の強い薪には、怖がる相手を苛めたい欲望があるのかもしれない。でも青木は薪にされることならなんでも嬉しい。多分、鞭で打たれても抵抗しない。薪がそうしたいなら、自分もその快楽を得られるように努力しようと思う。
 どんな形でもいい。薪と愛し合えるなら。

 薪のやさしい手が青木の前髪を後ろに向かって撫でた。露出した額にくちづけを落とす。目蓋、鼻先と下ってきて、青木の唇を捕えた。
 やや強引に入ってきた薪の舌が、青木の口中を侵略する。舌が触れ合うと、痺れるような甘さが全身に広がる。薪はキスが上手い。
 細い背中を抱いていた手をずらし、浴衣の合わせから手を入れると、乳首が硬くなっていた。コリコリと転がせば、薪の背中がびくりと波打つ。んっ、とくぐもった声を青木の口の中に残し、薪はくちびるを離して息を吐いた。
 浴衣の裾をまくり、中を探る。少し汗ばんでしっとりした太腿と、やわらかい尻と、それから――。

「あ、ちょっと待ってください。襖、閉めてきますから」
「この部屋には僕たちだけだぞ?」
「そうなんですけど、一応」
 不思議がる薪の前で青木は部屋を隔てる襖に近付き、静かにそれを閉めた。



*****



危険ポイントその5 密室

 当人たちの強い希望により、公開を控えさせていただきます。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Sさまへ

Sさま。

>許せん!フスマをぶち破ってやるウ!!!

あーはっはっは!!(≧▽≦)
さすがSさん、ツッコミ鋭いです。
今回は襖、閉められちゃったんですみません。またの機会にね☆
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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