Today&Tomorrow(5)

 メロディ発売日は目覚まし時計が要らないしづです。
 今朝も4時に眼が覚めました。でも、そわそわして何も手に着かない。早起きの意味ないんですけど、何か有意義なことをしようと思って起きたわけじゃないからいいや。←ダメ人間の思考法。

 一昨日から過去作読んでくださってる方、たくさん拍手いただいてありがとうございます(*^^*)
 公開中のお話にもいっぱい。どうもありがとう(〃▽〃) 妄想がんばります。
 え。物騒なものはいらない? ううーん。


 つづきです。
 発売日までに終わらせたかったんですけど、やっぱり終わらなかったです。(ダメ人間……)



Today&Tomorrow(5)





危険ポイントその6 貸切風呂



『男子浴場の準備が整いましたので、どうぞお越しください』
 お客さまにはご迷惑をお掛けして誠に申し訳ございませんでした、と続くアナウンスに、青木は眼を覚ました。鼻先に当たる髪の感触に眼を開けば、薪が青木の腕の中で裸のまま眠っていた。薪は普段は眠りが浅いけれど、情事の後はよく眠る。ホテルのアナウンスくらいでは起きないだろう。

「薪さん。大浴場、入れるみたいですよ」
 本当はもう少し寝せておいてやりたいのだが、放っておいたら「どうして起こさなかった、温泉に入れる時間が短くなった」と後で文句を言われる。でも薪は低血圧だから昼寝の途中で起こすとイライラして青木に当たり散らす。どちらにせよ青木は怒られるのだが、だったら早く起こした方が得だと思う。寝ぼけて怒る薪の可愛い姿が拝めるからだ。
 華奢な肩を揺さぶると、薪は、ううんと呻いて青木の胸に顔を埋めた。眠り足りないらしい。もう30分したら起こそうと心に決めて、青木は薪の身体を抱き直す。二人分の体温で温まった身体が、自然にぴったりと重なった。

「貸切風呂。3時半から取ってある」
 半分寝言のようなフニャフニャした声で、薪が呟いた。最初に青木が貸し切りを提案したとき、そこは露天じゃないから嫌だと言われた。青木がそのことを蒸し返すと、薪はため息交じりに、
「今日はもう大浴場には入れないだろ」
 言われて初めて気付いた、薪の胸元のキスマーク。今日は薪が積極的だったから、青木の胸にもけっこうな数が残っている。これでは人前に出られない。

 薪は青木の肩に載せた頭の位置を微調整し、不明瞭な呟きとも呻きともつかぬ声を漏らした。時間まであと30分以上ある。その間こうやって、布団の中でうだうだするつもりなのだろう。薪の低血圧は筋金入りで、起き抜けは真っ直ぐ歩けないくらいなのだ。
 生まれたままの姿で、満ち足りた気持ちで、愛する人と触れ合える時間の貴重なこと。やさしく背中を撫で、腰や太腿の肉の柔らかさを楽しんで、激しい欲望に己を支配されることなく穏やかに脚を絡め合う。素肌の感触がすごく気持ちよくて、いつまでもこうしていたいと青木は願う。
 部屋の中は相も変わらず、潮騒の音で満たされている。ブラインドを下ろした居室は薄暗く、波の音以外は何も聞こえない。二人きりで海の底にいるみたい。青木がそう言うと、薪はようよう身を起こし、見下すように青木を見た。
「海の中にいたら波の音は聞こえないだろ」
 それはそうかもしれませんけど、そこはムードというかロマンというか。薪にロマンチックを期待しても無駄だと分かっているが、青木は夢見ることを止められない。だって薪はこんなにきれいなんだもの。
 重い頭を引きずるようにして起き上がった薪は怠そうにしているけれど、アンニュイな雰囲気が彼の美貌によく似合っている。情事の後だからか、デカダンスを感じさせる。白い胸に散らした赤い花びらの艶美は、浴衣で隠してしまうのが惜しいほど。これで中身がオヤジだなんて、完全に詐欺だ。

 予約時間の5分前、フロントから電話があった。貸切風呂まで案内するから受付に来て欲しいとのことで、いつものように青木が一人で行って説明を受け、それから薪を部屋まで迎えに行った。一人で風呂を使いたがる客は珍しくないが、男二人で貸切風呂に入る客は好奇の眼で見られる。面倒だけれど仕方ない。これは旅先のトラブルを避けるための知恵だ。

 風呂は大浴場より2階高い、3階にあった。
 脱衣所には鏡と洗面台、ロッカーに籐椅子、トイレ等、一揃いの設備が整っている。冷房は低めの22度。小型の冷蔵庫もあって、中にはミネラルウォーターと日本茶が入っていた。
「なんだ。酒はないのか」
 入浴時の飲酒は危険だ。ホテル側がそれを促すような真似をするはずが無い。
「持って来て正解だな」
 自慢気に薪が袂から出したのは、部屋の冷蔵庫に入っていた日本酒だ。こういう客がいるから入浴事故が後を絶たないのだ。
「薪さん。風呂での飲酒は」
「固いこと言うな。ほら、おまえの分」
 と、缶ビールを取り出す。青木を共犯にする気らしい。
「危ないですって。お湯に浸かってアルコールを摂取すると、急激に酔いが回って」
「僕って酔っ払うとエッチな気分になるんだよな」
 そういうことなら話は別です。
「お茶のコップとお盆が置いてありますよ。これ、使いましょう」
 悲しいくらいにあっさりと陥落した青木を、薪が嘲笑う。たぶん青木は一生この調子で、薪には逆らえないのだろう。他人から見たら随分情けないことで、おそらくは憐憫の眼で見られまくり。でも本人たちはその状況を楽しんでいる。他人には分からない、舞台裏の予定調和。

 貸切風呂は贅沢な間取りで、詰めれば8人くらいは入れそうな広さがあった。前面は一枚ガラス、側面には通風窓があり、室内に風が通るようになっている。浴槽の右上には竹を斜めに切った湯管が置かれ、そこから新しい湯が注がれていた。微量の湯が、絶えず浴槽の縁から零れ落ちている。ホームページの写真の通りだった。
 シャワーを使ってから二人で同時に湯船に浸かると、大量の湯が押し出された。ザーッと言う派手な水音にテンションが上がる。もったいない気もするけれど、これが掛け流しの醍醐味だ。
「はー。極楽だー」
 オヤジくさい感想は聞かなかった振りをして、青木は顔を上げた。
 一面ガラス張りの窓からは、コバルトブルーの海が見える。見る角度によって色が違う、そこが海の魅力だ。風呂は薪の好きな檜風呂。白檀の香りを吸い込むと、身体の隅々まで浄化されたような気分になる。そこに潮の匂いが混じって躍動感が生まれ――。
「日本酒サイコー」
 ダメだ、アルコール臭に掻き消された。

 青木は苦笑して横を見た。湯に浸かって冷酒ぐいぐいとか、色気のイの字もない。ベッドの中の妖艶な彼とはまるで違う。無邪気で明るくて、コップを持ち上げる二の腕の内側のキスマークが無かったら、あれは別人だったのかと思ってしまう。
 でも薪は本当に幸せそうで。見ているこっちまで嬉しくなってくる。
 彼にはこちらの方が楽しいのだろうと青木は思う。部屋に籠って二人きりの秘め事に時を費やすより、こうして明るい場所で、誰に気を使うこともなく、後ろ指を指されることもない、つまりは友だち同士の関係。むかし薪はずっと、青木と特別な関係を結ぶことを拒んでいた。「友だちのままじゃダメなのか」と何度も聞かれた。彼が望んだその関係に満足できなかったのは青木の方なのだ。
 自分の我欲を通したことで薪に捨てさせた幾つかの貴重なものを思い、青木は憂鬱な気分になった。今さら詮無きことではあるが、この罪悪感は消えない。たぶん一生消えない。

「わぷっ」
 いきなり顔面にお湯を掛けられて、青木は顔をしかめた。この人は急に何をするのかと見れば、薪の澄ました顔。
「ぼーっとしてるからだ」
 ぼうっとしてたら顔に水を掛けるんですか。いつの時代の取調室ですか。
 何を考えてた、と訊かれて答えに迷った。言葉にしてはいけない気がした。青木が考え付くようなことに薪が気付かないとは思えないけれど。言葉にすることで、今までは漠然としていた不利益が具体化する。それが怖い。だからと言って空っとぼけられるほど、青木は面の皮が厚くない。結局、青木が口にしたのは巨大な恐れのほんの一部だった。

「オレが女ならよかったのかなって、――薪さん、汚いです」
 だらーっと薪の口から零れた日本酒がお湯に落ちる。掛け流しでよかった。
「おまえが気持ち悪いこと言うからだろ」
「でもほら。今日だってオレが女なら、薪さんと一緒に此処に来れたじゃないですか」
 口を手で拭いながら足で青木のふくらはぎを蹴る薪に、身近な例を挙げて説明する。一事が万事で、薪ならそこから多くを悟ってしまうに違いない。
 自分からは言えないから察して欲しい。青木のそんな卑怯な気持ちまで。そう思ったから青木は言ったのだ。
「もしもオレが女なら、薪さん今ごろ警視監になってたかも。結婚だって子供だって」
 同性の恋人にこの手の話はタブーだと、青木だって解っている。けれども、薪に卑怯者と蔑まれるくらいなら。自爆した方がマシだ。

 話を聞いて薪は眉ひとつ動かさず、くい、とコップの酒を呷った。
「バカらしい。考えても仕方ないことは考えないって、昔おまえが言ったんだぞ」
「オレ、そんな無責任なこと言いましたっけ」
「おまえ、本当に頭悪いな」
 マジマジと人の顔見てそういうこと言うの止めてもらえませんか。泣きたくなっちゃいます。
「だから忘れるんだよ。大事なこと」
 空になったコップに手酌で冷酒を注ぎ、前方のコバルトブルーに眼を据えたまま、薪は言った。
「思い出してみろ。おまえと会う前の僕は、何も持ってなかった」
 みんなおまえが僕にくれたんだ。

 薪がそういう気持ちでいてくれたのは知っていたけれど、それは違う。昔も今も、彼の人生は価値あるもので満たされている。あいつはもうお終いだと他人の謗りを受けていた時期でさえ、彼の周りに愛はあった。薪が手を伸ばそうとしなかっただけだ。
 岡部や第九の部下たち、雪子に小野田。彼らは正しかった。薪に、何ひとつ余計なものを背負わせることなく彼を再生させた。それに比べて青木がしたことは。

「オレのはシタゴコロありましたから」
 冗談に紛らせながらも心が痛みを訴える。本当のことなのに、どうにも悪い酒だ。
「岡部さんや雪子先生のやり方が正しかったんです。オレも、そうすべきだったのかも」
 最後の言葉はコップの中に濁した。ビールの泡と一緒に消えて欲しいと願いながら。

「おまえ、一番大事なこと忘れてないか」
 さっきも言われた。青木はバカだから大事なことを忘れてしまうと。その通りかもしれない。薪に笑ってほしいから彼の恋人になりたいなんて、よくよく考えたらおかしな理屈だ。同性を恋人にすることのリスクを考慮したら、笑顔どころの話じゃ……。

「僕がおまえを好きになったんだぞ?」
「え」
 あんまり思いがけない言葉だったから。青木の時間は一瞬で凍りついた。眼を丸くして薪を見つめる。と、薪はチッと激しく舌打ちして、
「なんだ、その反応は。知らなかったとか言ってみろ、沈めるぞ」
「あ、いえその」
 ものすごく怖い眼で睨まれて、舌が上顎に張り付いた。苦労して引きはがす。ビールの苦みが口中に広がった。
「うれしいです。すごく」
 本当に嬉しかったのに、何故だか上手に笑えなくて。強張った笑顔しか作れなかったのだと思う、薪の額に青筋が立ったから。

 薪は青木からビールを取り上げ、自分の冷酒と一緒に盆に載せた。それを浴槽の縁の置くと、青木の正面にずいと顔を寄せた。首に両腕を回し、青木の膝に座る。密着すると嫌でも薪の尻の感触が伝わってきて、多分それも計算のうち。
「海に温泉に僕のヌードだぞ。もっと楽しそうな顔しろ」
「薪さんの顔以外見えませんけど」
「おまえ、僕の睫毛とくちびるでヌケるんだろ。顔だけ見えりゃ充分じゃないか」
 薪の憎まれ口にハイと答えると、「素直でよろしい」とお褒めの言葉をいただいた。今度は自然に笑えて、そうしたら薪がキスをしてくれた。
 塩辛くてアルコール臭い。でも最高に幸せなキスだった。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

読みました。
「何を考えていた」、出てましたね。状況は真逆に近いですけど(^^;

>多分、原作の薪さんも分かってますよね。

青木さんが何を考えていたのか、見抜いてるんでしょうね。だから「近寄るな」なんでしょうね。
自分への想いが青木さんのマイナスになるくらいなら断ち切っちまえよ、って思ってるんだろうな~。薪さんらしいな~。

Cさまへ

Cさま。

ご心配かけてしまってすみません~!
大丈夫です、凹んでません。
仕事が忙しくなっちゃって。感想上げる時間が取れなかっただけなんです。


>これはほら次号での青木の巻き返しの前振りですよ!

きっとそうだと思いますよ(^^
しかし、タジクを追い詰めるのはあくまで薪さんでしょうね。青木さんはヒロインてことで。(え)

Sさまへ

Sさま。

情報ありがとうございました。
拝見しまして、
笑い崩れました☆☆☆

平井さん、顔、濃いもんねえw
テルマエからオファーが掛かりそうw


あ、メロディ感想読みましたよ!
今回、Sさんの感想が一番近いです。わたしも全然凹まなかった。むしろ確定フラグだと思いました。次回の青木さんが見ものですね。わくわく。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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