Today&Tomorrow(6)

 読みました♪
 報告するの、遅くなってしまってごめんなさい。心配してくださった方、ありがとうございます。凹んでません、元気です。仕事がめっちゃ忙しかっただけ。発売日には手に入れたものの、読めたのは30日だった(^^;
 簡単な感想は追記に。

 10月26日から昨日にかけて、過去作読んでくださった方、拍手をたくさんありがとうございました。
 仕事で神経削られるとSS書く気力がなくなっちゃうんですけど(^^;)、とても励まされました。書きかけのSS、来年まで寝かさないで続き書きます。よーし、今回は薪さんが泣く話だぞーw ←仇で返した。

 
 ところで、
 公開中のお話、二人がイチャイチャしっぱなしなものだから身体中痒くて仕方ないです。体質に合わないらしい。




Today&Tomorrow(6)





危険ポイントその7 夕陽



「薪さん、見てください。貝がこんなに採れましたよ」
「……どうやって持って帰るんだ、それ」
「あ」
 両手いっぱいの名も知らない貝を、薪に言われてやり場に困る。仕方なく青木は、貝を海に戻した。
「ほんっとーにバカだな」
 だからしみじみ言うの止めてくださいってば。

 貸切風呂を堪能した後、二人は部屋で洋服に着替えた。プラン終了の時刻になったのでフロントに鍵を返し、帰りのバスを待つ間、海岸の散歩と洒落こんだ。ホテルのプライベートビーチだからか人は少なかった。波打ち際で波と追いかけっこをしている家族連れが二組と、浅瀬に点在する岩の上に立っている青木たちだけだ。
 身軽な薪は岩から岩へと飛び移り、波しぶきが掛かるギリギリのところまで進んだ。後を追いかけたが濡れた岩は滑りやすく、青木は何度も海に落ちそうになった。その度に薪に笑われて、ホントにこの人は意地が悪い。

「バスの時間、何時だっけ」
「6時です」
「それが最終?」
「いえ。1時間に1本、東京行の最終は8時です」
 じゃあさ、と2つ先の岩で薪が笑う。傾きかけた太陽が照らす海はガラスの破片を散りばめたごとくに慎ましやかな輝きを抱いて、薪の後ろできらきらと光る。思わず見蕩れる、その笑顔の向こうにバーミリオンの空。
「……な?」
「え?」
 しまった。また聞いてなかった。今日何回目だ、この失敗。

 薪は軽やかに岩を渡って、青木の隣の岩までやって来た。青木を叱るために近付いてきたのだと怯えたが、そうじゃなかった。
「1本遅らせて、夕陽を見てから帰ろう」
「あ、いえ。ここでは夕陽は」
 朝日は見られるけれど夕陽は見られない。
 ホームページの地図を見ればそれは分かることで、その程度のことに気付かない人ではない。青木が口を噤んで待つと、果たして薪はバミューダパンツの尻ポケットから一枚の紙切れを取り出した。
「朝、バスで一緒になった子がいただろ。さっきロビーでもらったんだ」
「いつの間に」
「おまえがフロントで支払いしてたとき」
 まったく油断も隙もない。
 薪をナンパしようとした若者からの情報であることには些少の引っ掛かりを覚えたが、そのチラシにはいかにも薪が喜びそうな内容が書かれていた。題して「夕陽ツアー」。ホテル側の企画で、この時間帯には使う当てのない最寄り駅とのシャトルバスを用い、夕陽の絶景ポイントまで連れて行ってくれる。途中、地域の隠れた名所案内も、と付記されている。地元のホテルならではのオプショナルツアーだ。

「ガイド役の笹本さんて、ホテルの支配人さんですよね。さっきボーイもやってたのに」
「一人三役か。大したものだ」
 薪も感心していたが、青木も見習いたいと思った。第九で一番下っ端の青木の仕事は多岐に渡るが、自分のバランス感覚の悪さは自覚している。ついつい目の前の事を優先し、それに掛かりきりになってしまう己が未熟の代償を、室長である薪に押し付ける形になっている。反省しなくては、と青木は心に決め、それに気付かせてくれた笹本氏に感謝した。
「そうか。第九のシフトにも兼任という概念を」
 笹本さん、余計なことしないでっ。

 とにもかくにも、二人は海岸の散歩を終え、夕陽ツアーの集合場所であるホテルの玄関前に向かった。そこには既に、約20名の参加希望者が集まっていた。席は早い者勝ちで、みんな次々とバスに乗り込んでいる。青木たちも列に並ぼうとすると、チラシの提示を求められた。どうやらこのチラシはチケットとしての役割も果たしていたらしい。となると、これを薪にくれた若者は参加できなくなってしまう。涼しい顔でバスに乗り込もうとする薪にそのことを訊くと、薪は事もなげに青木の問いに答えた。
「貰ったって言っただろ。自分たちは行かないからって」
 なるほど。あの年代の若者なら、夕陽を見るよりも仲間と騒いでいた方が楽しいのかもしれない。
 青木の短絡思考が可笑しかったのか、薪はぷっと吹き出すように笑って、
「朝はあんなに怒ってたくせに。おまえは本当にお人好しだな」
 言ってタラップを昇る、パンツの裾から伸びたふくらはぎがしなやかに彼の身体を運んで行く。青木は慌てて後を追う。ボケっとしていたら朝の二の舞だ。

「本日は夕陽ツアーにご参加いただき、誠にありがとうございます。定刻となりましたので、発車させていただきます」
 時間になると笹本氏がやって来て、簡単な挨拶をした。バスが出発すると彼は簡単な自己紹介をし、たっぷりと肉の付いた腹をさすって、
「当ホテルの支配人の目印はこのお腹です。このお腹を見たらお気軽に声を掛けてください」と自虐ネタを披露した。
 青木はあまり笑ってはいけないとは思ったが、彼の人の善い笑顔に釣られてついクスッと笑ってしまった。他の客もそうだったのだろう、笹本氏は一番前の席に座っていた若い女性に微笑みかけて、
「いいんですよ、お嬢さん。笑うところですから。あ、隣のお父さんは笑わないでくださいね。笑えるような体型を目指して、わたくしと一緒に頑張りましょう」
 今度こそバスは笑いに包まれた。ピエロに選ばれてしまったお父さんには申し訳ないが、おかげでバスの雰囲気が和やかになった。笹本氏は名ガイドらしい。

「さて、後にしましたのは当ホテル、『I観光ホテル』でございます。潮による侵食が進んで外見はちょっとアレですけど、施設をご利用いただいたお客さまにはお解りのことと存じます。見掛けは残念、中身はアットホーム。家は住む人を表す、ホテルは支配人を表すとは誠に名言で」
 バスは東京からの途を戻る形で走り、やがて地元民しか知らない横道に入った。その間、笹本氏は名ガイド振りを発揮し、乗客を大いに沸かせた。
「イギリスでは『ドーバーの白い崖』と言うのが有名ですが、あちらの屏風が浦は東洋のドーバーと呼ばれております。下方の白い地層、時代は白亜紀のものでございます。ロケ地としても有名で、先日も女優のUさんが撮影を」
「両側はキャベツ畑でございます。温暖な気候を活かして冬でもキャベツが栽培され、年間4回もの収穫が可能で」
 へえ、とか、ほう、などと言う声と共に乗客が頷きを返す中、薪はずっと外を見ていた。彼の瞳に映っているのは、暮れかけた海辺の風景と切り立った崖。反対側は山になっていて、夏の生命力に満ちた木々が生い茂っている。冷房で閉められた窓を通って中に入り込んできそうな、匂い立つような緑。

 薀蓄を聞くよりも自分の眼で、五感で。薪はいつもこうだ。その知識量はスーパーコンピューター級、だけど彼はいつだってそれを軽んじる。辞書を引けば簡単に得られる情報に、大した意味はないと考える。
 大切なのは、自分がそれをどう感じるか。捜査中にもよく言われる。感性を研ぎ澄ませ、五感を使って捜査をしろ。精神の奥深さが問われることで、それが薪の驚異的な推理力と神憑った的中率に繋がっている。
 薪のその姿勢を青木は心から尊敬している。だから青木は言ったのだ。目的地の入り江に到着してバスから降り、赤く染まった水平線近くにわだかまる雲が残念だと、青木たちを追い越して行ったカップルが何度も繰り返すのをやり過ごしてから、
「雲が多いことで有名な海岸ですけど。だからこそ玄妙な趣がありますよね」
 その瞬間を待つ5分ほどの時間。丘の上や船着場の突端など、各々が自由に自分たちのベストスポットを定める中、薪はバスの側にぼんやりと立っていた。折り重なる雲と、それらを照らす夕陽の神秘的な美しさに魂を抜かれたように。
「どれ一つとして同じ形の雲はなく、よって夕陽の掛かり具合も反射も微妙に違う。人間も同じです。同じものを見て同じように感動しても、その形は微妙に違って、完璧に重なり合うことはない。その違いを推し量ることしかできない。だから犯罪捜査は難し、すみません、熱はないんで安心してください」
 真面目な顔で額に手を当てるとか、レトロなジョークで青木の長舌を遮った。薪が冷やかすような表情をしたので、青木はやや恥ずかしくなって横を向く。

「何らしくないこと言ってんだ」
「海は人を詩人にするんですよ」
 あなたと一緒です。本当はそう言いたかった。
 いよいよ鮮やかさを増す夕陽を浴びて、薪の亜麻色の髪が金色に輝く。白い頬は朱色に透けて、その輪郭を危うくする。いっそ夕陽に溶けてしまいそう。
 口にしたら海に突き落とされるから言わないけれど、青木は常に薪の讃美者で、彼を称える詩は胸のうちで何千と作られている。

「捜査官にとって鋭敏さは大切だ。見過ごしは命取りになる。心の鋭敏さを保つためにも体験による感動は有効だ。だけど今はもっと」
 言いかけた、薪のくちびるが止まった。
 水平線から肉眼距離で約3メートル上空の雲に楕円形の夕陽が隠れ、辺りは急に薄暗くなった。しかしその1分後、雲の下方から再び太陽が顔を出し、帯状の雲に上下を挟まれる形で最後の光芒を強烈に放ち出した。
 上空で海を翡翠色に輝かせていた時とはまるで違う、眼を刺すような朱色。鉛色の雲とのコントラストはあざとささえ感じさせる。太陽は今や液状化し、下方に待ち構える雲の器に女の吐息のように落ちてくる。痛ましいほどの蠱惑。

「すごいな。雲から夕陽が生まれてくる」
「こんなの見たことないです」
 前方で歓声を上げる者、カメラのシャッターを切る者、携帯電話に映像を保存する者。それぞれがそれぞれのやり方で、この美しい光景を留めおこうとする。そんな中で。
 青木は薪の手を握った。薪がさっき何を言い掛けたのか、分かった気がしたから。

 ――だけど今は。
 もっと大事なことがある。その感動を誰と共有するかだ。

 薪は少しためらって、でもすぐに握り返してくれた。解答に丸をもらった、と解釈しておくことにした。
 たった2分ほどの光景だった。雲から生まれ落ちた太陽が再び雲に飲み込まれ、やがて海に沈んでいった。
 辺りが暗くなり、乗客たちがバスに戻ってくる。青木はそっと手を離した。



*****

 かーゆーいー(笑)


 この下、メロディ12月号の一言感想です。



 手紙の件、雲行きが怪しくなってきましたが、今回は凹みませんでした。先月、シミュレーションしてあったのでね、余裕で想定内(^^)v

 予想を遥かに超えて、
 薪さん、カッコよかった!(しかし、秘密のSPは揃いも揃って(笑))
 青木さん、かわいかった!

 青木さんがヘタレ過ぎると言う声があちこちで聞かれますが、わたしの場合はそれ、突っ込めないんで。うちの青木さん、公私混同どころか行動基準そのものが薪さんなんで。むしろ親近感ありあり。
 気持ち分かるよ、青木さん。
 わたしだって仕事の最中、薪さんのこと考えてぼうっとしちゃうことあるもん。つまり、わたしと同じくらい薪さんのことが好きってことだよね。うふふ。

 薪さんも似たようなもんだよね?
「生ぬるい覚悟で僕の側に近よるな」て言われましても、説得力無いっすよ、所長。
 食事会出席者200人の安全を懸念する場面で「青木」と個人名が出るようでは、語るに落ちるってもんですよ。『パンデミック・パニック』の男爵状態じゃないですか。
 だいたい、あそこに行ったのだって青木さんが心配になっちゃったんじゃないの? あそこ、シンポジウムの会場でしょ。薪さんに与えられた任務は、「日本のMRI捜査の概要の説明のために視察に同行すること」でしょ。会場視察、入ってないじゃん。同行するのは第8管区の視察時だけでいいんじゃん。薪さんの性格からして大統領に顔売ろうなんてありえないからね。私情で行動してるよね。

 つまり、二人とも似たようなことしてて、それを隠すのが上手いか下手かだけの違いじゃないのかと、ごほごほ。
 まあ要するになんだ。
 青薪の法則で、ハッピーエンド確定だな、と思った次第です。


「タジクVS青木さん」の、青木さん渾身のヘタレっぷりは、
 青木さんはこの時、一般的な日本人代表としてこの場に立っているので、これでいいのよ。ヘタレてなんぼの場面だから。逆に薪さんや岡部さんにこの役は務まるまい。
 てか、ちょっと心配なんだけど。タジク、最後にガリーナの名前出してたし。
 まさか無事だろうな、青木さん。ユリヤと一緒に軟禁されてんじゃないだろうな。(あ、わたしはユリヤはタジクが保護していると思ってます) それはさすがにヘタレを振り切ってるからやめてね。タジク頭いいから、事を起こす前に騒ぎになるような下手は打たないと思うけど。


 ……一言じゃない(笑)


 

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

Cさまへ

Cさま。

記事を上げてすぐにコメントいただいて、
気に掛けてくださってたんですね。ありがとうございます。(;▽;)


>青木へたれキャラ確定な流れ?

あれっ。
わたし、青木さんのこと庇ったつもりだったのに。結局はヘタレ確定させてましたね(^^;
うん、やるときはやる男だと思いますよ! 
タジクとの勝負は薪さんが着けると思うので、青木さんには別の方面で頑張ってもらって、って、おやあ? そうなると、彼は何処で何を頑張ればいいのかしら? 

「福岡帰って仕事しろ」by薪さん

Aさまへ

Aさま。


>薪さんと青木が見た夕陽が目に見えるようで

ありがとうございます。
実はこれ、わたしの実体験です。
「夕日ツアー」と言うのも、お義母さんのお供でよく行くホテルの企画なんです。参加したときの夕陽がこんなだったので、それをそのまま書いてみました。


>青木は人前で言うのを憚るような手紙を書いた自分を変だと思ってないし。(実はそれで薪さんから引いちゃわないか心配だった)

その辺はさすがに検証済みだったと言うことでしょうか。
薪さんと離れて、手紙を書くまでに2年経ってましたからね。時間はたっぷりあったでしょうね。
どっちかって言うと1年前に書いた手紙の返事をまだもらってないって言う方がヘン、ごぉっほ、ごほ!


>放っておいても計画に支障ないと油断させるため

おおっ、青木さんのヘタレっぷりは作戦だったわけですか!
Aさん、やさしいなっ。


>考えようによってはしづさんのSSに近い二人でしたね^^

え。薪さんが男爵で青木さんがヘタレってことですか?
それは微妙ですけど(ていうかそんな青薪さん、イヤ☆)、
二人の幸せな未来が確定していると言う点に限れば最高ですね。
本当に、続きが楽しみです。

Tさまへ

Tさま。

超楽しみとのお言葉、とても嬉しいです(〃▽〃)
こちらこそ、いつも励ましてくださってありがとうございます。


>今回のしづさんの青薪さん、なんか薪さんが穏やかです。

ふふふ。気付かれましたか。
実はですね、次の最終章で分かるのですけど、この話は『タイムリミット』の前の年なんです。翌年の4月には別れなきゃいけないって思ってたので、青木の誕生日を祝えるのはこれが最後、せめて最高に楽しい思い出を、とこの時の薪さんは考えていたわけです。だから穏やかで、エッチも積極的なんですよ。
ただ、この話は雑文だし、三部作としても「楽しい現在」という位置付だったので、薪さんの切ない気持ちは敢えてピックアップしなかったのですけど。
うちの薪さんが穏やかな時は、必ず裏があると思ってやってください☆


夕焼けの場面、目に浮かべてくださってありがとうございます。
Aさんへのお返事にも書きましたが、これはわたしの実体験です。感動が伝わって嬉しいです(^^


ところで、
メロディのことは悔しかったですね。タッチの差だったんでしょうね。もう手に入りましたか?
もしもまだでしたら、うちのブログ、追記とコメント欄はネタばれ満載なので、気を付けて読んでくださいね。

早く入荷しますように!
お祈りしています。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: