Today&Tomorrow(7)

 最終章です。
 お付き合いくださってありがとうございました(^^




Today&Tomorrow(7)




危険ポイントその8 家路


 帰りのバスの中、薪は殆ど眠っていた。
 この人は子供と一緒で、遊びに出ると大体こうだ。ペース配分ができないのか自分の体力を過信しているのか、帰りはほぼ100%の確率で爆睡している。
 東京駅にバスが着いて、そこからは電車を利用するのが普通だが、薪がこの状態では仕方ない。タクシーを使うことにした。一人で乗せたら間違いなく乗り過ごすし、それ以前に薪の無防備な寝顔なんて他人には見せられない。誘拐される、絶対。

 タクシー乗り場に並んで順番を待つ間にも、薪の膝は何度も崩れそうになる。「眠っちゃダメですよ」と声を掛けるが、耳に届いているのかどうかも怪しい。
 何とかタクシーに乗せたものの、薪は完全にグロッキーだ。「お客さん、どちらまで」の言葉を待たずに後部座席に横たわり、運転手に白い目で見られた。
「お客さん。行き先は?」
「……うち」
 ダメだ、こりゃ。
「吉祥寺までお願いします」
 見かねて一緒に乗り込んだ。クラゲみたいにふにゃふにゃする薪の身体を起こし、背もたれに預けて座らせる。シートベルトをして、でもそこまでだった。腰の部分だけを固定するシートベルトに姿勢の保持は望めず、薪はコテンと青木の胸に倒れてきた。
 寝やすい位置を探して、薪の頭が無意識に動く。本当に電車に乗せなくてよかった。もしも青木が女の子だったら完全に痴漢行為だ。

 眠ってしまった友人をタクシーで送る男を装って、青木は溜め息交じりに窓の外を見た。自分の胸で無邪気に眠る恋人を、本音では抱きしめてしまいたい。だけどそれはできない。どんなに愛し合ってもつきまとう切なさ。彼は秘密の恋人。

 薪のマンションの前でタクシーを降りて、青木は管理人室に向かった。住人が眠りこけていては瞳孔センサーは使えない。管理人に鍵を開けてもらうしかないのだ。
「やあ、青木さん。いつもご苦労さまだねえ」
「毎度すみません」
 いやいや、これも仕事だから、と管理人は鍵の束を持って青木の前に立つ。他人の手を煩わせておきながら、薪は青木の背中で熟睡している。いい気なものだ。
 部屋に入り、薪をベッドに寝せる。服を脱がせ、パジャマに着せ替えて、布団を掛けてやる。目覚まし時計を4つともセットして、ついでに風呂のタイマーも付けておく。朝、目が覚めたら風呂に入りたいだろう。
 リビングと台所の火の元を確認して、やり忘れたことはないかと辺りを見回す。冷蔵庫とストッカーはきれいに整理されていたが、照明器具の上に埃が積もっていた。今度来た時に掃除をしてやろう。

 最後にもう一度、薪の寝顔を見るために寝室に入った。
 こうして、薪と同じ家に帰ってきてそのまま隣で眠れたら、どんなにか幸せだろう。彼と別れたくない気持ちが、ついそんなことを考えさせる。
 人の欲には限りがなくて。
 何年か前は彼に触れることもできなかった。それが今では彼の恋人として彼に愛されている。
 過ぎるほどに幸せなのに。もっともっとと考えてしまう、欲張ってしまう。ずっとずっと一緒にいたい、片時も離れたくないと。
 ――これ以上望んだら、本気でバチが当たる。

 おやすみなさい、と青木は声に出さずに言って、寝室を後にした。管理人に挨拶をし、マンションを出てから薪の部屋を仰ぎ見る。明かりは消えているけれど、あそこに薪がいる。そう思うだけでまた彼の顔が見たくなる。出たばかりの部屋に戻りたくなる。
『薪さんと一緒に暮らしたいです』
 言えない言葉を、今日も青木は飲み込む。それがどんなに薪を困らせるか、分かっているから。
 代わりに、青木は大きく伸びをした。
「あー、今日は楽しかったー」
 デートの最後にしんみりするのは、青木のスタイルではない。誕生日のプレゼント代わりにと薪がくれた夢のような時間を大切に胸にしまって、そうしたら切ない気持ちなんかどこかへ吹っ飛んでしまう。
 鼻歌交じりに長い脚を動かして、青木は家路を辿り始めた。



*****


危険ポイントその9 明日


 今日の二人はこんな風に別れても、明日の二人は違うかもしれない。
 その明日は、すぐそこ。


―了―



(2014.6)


 今日の青木さんはヘタレでも、明日の青木さんは違うかもしれない。
 期待してます。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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非公開コメント

はー…ご結婚(同居)前のお話だったんですねぇ…別れ際、せっつなー。
青木くん、薪さん一人にしたらってエライ心配してるけどたぶんぐにゃぐにゃになってんの君がいるからだよぉ。

しづさん、あったかいお話ありがとうございました。まさかの原作の方が更にドS展開←うっ。
元々そうか、だからしづさんが薪さんを幸せにするために書いてらっしゃるんですよね。

原作薪さんに、青木の胸で眠る日は訪れるんでしょうか…(遠い目で鼻血)
最後の言葉、じーんときました。また2ヶ月よく腐りたいと思います。

No title

ああっしづさん!
波瀾万丈な二人も良いですが、この穏やかな二人もステキです。自然が織り成す色彩と潮の香り、心地よい波の音、普段なら少し強く感じる風を全身で受けながらこの美しい瞬間を共有する喜び…。3人で!。(°∀°)。スイマセンが私の妄想では一緒に観ちゃいましたっ。邪魔してませんよ。だってしづさんの表現する薪さんと夕陽が素晴らし過ぎて…。そして、穏やか過ぎてコワイ。最後の下りコワイ。やっぱりアメの後はムチなんですね?お手柔らかにお願いしますm(__)m

なみたろうさんへ

なみたろうさん。


そおなんですよ~。結婚前(?)だったんですよ。だから薪さんが異様にやさしいの。


>まさかの原作の方が更にドS展開

まさかでも何でもなかったと言う(笑)
薪さんの恋があれほど苦しくなかったら、こんな与太話書いてませんて。
ハマったのが4巻の終わりだったのでね。
薪さんが暗闇の中でもがき苦しんで、やっとこさ見つけた光が青木さんだったのに、また同じ女に盗られるって、しかも彼女に対しては自分が加害者だから何も言えないとか、ホントもう、ここまでのS設定見たことないよっ、てな勢いで。
でも5巻になったら薪さん、雪子さんに対して案外強気で、あれっ? てなりましたけど。もっと腫れ物に触るように接してるのかと思ってた。


>原作薪さんに、青木の胸で眠る日は訪れるんでしょうか…(遠い目で鼻血)

まだ想像つきませんねえ(^_^;
でも、きっとそのうち。

「生ぬるい覚悟で近寄るな」ですからね。覚悟決めたら早いかもしれませんよ。うちなんか追い越されるかも。
うち、一緒に暮らし始めるまでに8年掛かってますからね。「家族になりましょう」=「一緒に暮らしましょう」て言葉はうちより早いですからね。(知り合って4年でプロポーズ、今5年目ですよね?)


2ヶ月、長いですねえ。
だから、なみたろうさんには頑張ってもらわないと。
美しいイラスト、いつも心待ちにしております(〃▽〃)

Misaさんへ

Misaさん


どもども。
うちにしては珍しく、穏やかな二人でございました。
わたしだってね、書こうと思えば書けるのよ! 身体中痒くなっちゃうけど(笑)


夕陽の中の薪さん、ご堪能いただけましたか?
よかったです~。
わたしの文章なんかカスですけど、Misaさんの想像力が豊かなんですね(^^) 

最後のくだり?
このお話は怖くないですよ。
「今日の二人は別れても」、「明日の二人は別れない(一緒に住んでる)」かもしれない、って意味なんで。

怖いのは次のお話ですね。
青木さんを応援しようと思って書いたら、青木さんが薪さん似の女性と不倫して殺して逃げる話になったんでね。(なぜ?)
お楽しみにっ。

明日の青木に期待する、に一票。

 今回のお話し、とても平和で心健やかに楽しめました。もう、脳からアルファ波が出まくりですよ。ありがとうございました。原作でも早くこんな二人を堪能したいなあ。
 あっ、でも私のなかでは青薪ハッピーエンドは確定事項です。<---言い切った。だってだって、ずっと不思議だったんです。メロディー8月号からの新連載、思いっきり本編の続きなのに、何故にスピンオフ? そこで思わず勝手に妄想してしまった。
清水先生はきっと、青薪成就を描くおつもりで、でも「秘密」本編でさすがにBL展開はまずいだろうし、(賞も取った作品だしね。) 本編最終回は至極真っ当な終わり方で完結したけど、その後のエピローグで少し色をつけて下さって、恋愛なのか親愛なのか、成就したのかそうでないのか、読む人によってどのようにも解釈できる絶妙なラストシーンはお見事でした。公式には一応ここで終わりということで。
 そしてその後もしつこく青薪さんを追い続ける読者のために、満を持して今回のスピンオフで薔薇色の世界へまっしぐらとか....。
 何度もふるいにかけられて、最後に残るものが真実のエッセンスなんですよ、やっぱり。こんな予想は甘いですか?

Aさまへ

Aさま。

>薪さんと一緒にプライベートを過ごせるというだけで原作の青木にとっては夢のようなことなのですね。

そうなんですね。
第九編が終わった時には明日にでも一緒に暮らせるのかと思ってたんですけど、意外と遠かったですね(^^;


>青木が悶々としてミスっちゃうのも分かりますよ^^;

ね~。親近感、持っちゃいましたよ♪
青木さんてもともと、若いのにデキた人って言うか、すごく偉かったでしょう? 仕事も、初めこそトイレでぶっ倒れたりしてたけど、その後は新人とは思えない活躍ぶりでしたよね。
その青木さんが仕事中に薪さんのこと考えてぼー。
この光景を夢見て、何度二次で書き散らかしたか! むっちゃ萌え!!!
怒られてるんだから喜んじゃダメなんですけどね、こういう青木さんが見たいってずっと思ってたから、つい(^^;

すばるさんへ

すばるさん。

>スピンオフの理由

すごい! それいい!!
真面目な話、そう考えれば辻褄合いますね!

>思いっきり本編の続きなのに、何故にスピンオフ?

そうそう、そこが既に違和感でした。
薪さんに会えるなら何でもいいわー、と考えるのを止めてしまいましたが、

>今回のスピンオフで薔薇色の世界へまっしぐらとか

そうなんですね、きっと!!
いやもう、それ以外の理由、考えられなくなってきた! 次のメロディが待ちきれない気分!

こちらこそ、アルファ派でまくりですよ! ヘンな汗も!
どうもありがとうございました!!


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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毎日たくさんの拍手をありがとうございます。励まされてます。
おかげさまで、しづは元気で仕事してます。(10/28)
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