Are you happy?(2)

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 管理人はMisaさんとおっしゃいまして、主な記事は薪さん愛がたっぷりと詰まった楽しいレビューです。
 Misaさんのレビューは、捉え方が素直でやさしいので、読んでいてほっこりさせられます。あんな凄惨な事件なのに、Misaさんのレビューを読んでいると何もかも丸く収まるような気がしてくるの、不思議。
  スピンオフからの新しいブログさんなので、チェックがお済みでない方はぜひどうぞ(^^




 

Are you happy?(2)






 部下を全員定時で上がらせ、室長会の定例懇親会を岡部に押しつけて、薪は六時にマンションに帰ってきた。玄関のロックを解除し、背後を固めるSPたちに中に入るよう指示をする。
「それはキッチンの床下収納庫、そっちはシンクの上の棚。日付順に並べておいてくれ」
 帰りに買い物するから途中で下ろしてくれ、と頼んだら、家まで送ると彼らが言い張るから頭にきて、米や味噌など重量級の品物を大量に買い込んでやった。とても一人で運べる量ではなかったから彼らが家まで運んでくれたわけだが、もしかしてパワハラだったかもしれない。
 片付けは彼らに任せて、寝室に向かう。たかが風邪とは言え青木は病気知らず。普通の何倍も辛いに違いない。
 ましてや、独りで寝ていると心細くなるもの。早く顔を見せて安心させてやりたかった。

「あれっ」
 青木は寝室にはいなかった。不可思議なことに、ベッドがきちんとメイクされている。
 医者に行ったのだろうか。こんな時間に? それともトイレ?
 どちらもおかしい。病人が僅かな時間ベッドを離れるのに、いちいちメイクなんかしないだろう。

「おかえりなさい。早かったんですね。こほっ」
 マスクの下でくぐもった咳を繰り返しながら青木が出てきたのは、なぜかクローゼットルーム。どうしてそんなところに、と尋ねようとした薪の声に、片付けを命じておいたSPの質問が重なった。
「薪室長。塩はどこへ」
「お酢と一緒に床下。洗剤はシンクの下。洗濯用と間違うなよ」
「薪さん、お客さまにそんなこと。オレがやります」
「客じゃない。SPだ」
「余計マズイじゃないですか。警視総監に叱られますよ」
 SPは警視庁警備部の職員だから、大雑把に言えば警視総監の部下だ。警視庁に戻った彼らから、薪が、警護以外の仕事をSPに押し付けたことが伝わる可能性がないとは言い切れないが、そんなことはどうでもよかった。

「いいからおまえは大人しく寝てろ。てか、なんでクローゼットに布団?」
「薪さんに伝染ったら大変ですから」
 遠慮深い青木らしいけれど、クローゼットみたいに埃っぽい場所にいたら治るものも治らないだろう。
 でも、こいつはそういうところが可愛いんだ。病気なんて滅多にないことだし、今夜はちょっとやさしくしてやろうか――、
「病人をクローゼットに」
「噂通りの冷血漢だな」
 ――オボエテロよ、青木。
 年に数回しか発揮されない薪の希少なやさしさを粉砕したとも知らず、SPたちの内緒話は続く。
「あのクールさが魅力なんだよな」
「さすが女王さま。たまらないなあ」
 SPの隠語はよく分からない。
「ヒールで踏まれたい」
「『豚野郎』とか罵られたい」
 分かりたくない。
 ともあれ、これで警視庁警備部にも自分の悪評が流布されるのだろうと薪は少々憂鬱な気分になったが、現実には薪の家に入った二人が英雄になったことと、一部のマニア熱に拍車が掛かったことは知らない方が幸せかもしれない。

「ずいぶん買い込みましたねえ。別に、今日じゃなくてもよかったんじゃないですか」
 SPたちが引き上げた後、収納庫に入りきれず、キッチンの床に並べられた米や調味料の山を見て、青木は苦笑いした。
「SPを家政婦扱いなんて、薪さんたら、ごほごほっ」
「だから寝てろって。おかゆ、作ってやるから」
「いいですよ。薪さんはお仕事でお疲れなんですから。レトルトで充分です」
「いいから。それと、クローゼットは収納庫で寝る所じゃない。寝室で寝ろ」
 薪に睨まれて、はあい、と彼は亀のように首を竦めた。自分の睨みが健在であることに満足を覚えると同時に、叱られた子供みたいな彼がかわいいと思った。
 そのとき薪は、青木にプレゼントされたアルファベット柄のエプロンを付けて、右手には小さな土鍋、左手には長ネギ。叱責を怖がるどころか長ネギの代わりに刻まれたいくらいの愛らしさだと青木は思っていた。その事実に彼が気付かなかったのは、それを口に出さないだけの賢明さを青木が持ち合わせていたからに過ぎない。

 粥は米から炊くと、四十分くらい掛かる。シンプルな割に待ち時間の長い料理だ。冷ご飯に水を加えて作れば早いけれど、それでは米の甘みが出ない。出汁で炊く雑炊なら味はごまかせるが、風邪で弱った胃腸にはよくない。
 米と規定量の水を強火に掛けて、煮立ったら弱火にする。鍋の上下を木べらで返して、後は蓋をずらして待つだけだ。
 粥が出来る間、病人がちゃんと休んでいるかどうか見回りに行くことにした。薪もそうだけれど、症状が軽い時はついベッドの中で本を眺めたりしてしまうものだ。それだと脳が休まらないから回復が遅くなる。もしそんなことをしていたら盛大に叱ってやろうと期待しながらドアを開けると、青木は仰向けになって目を閉じていた。枕の下に雑誌を隠した様子もない。こいつ、風邪のときは優等生だ。

 額に手を当てると、いくらか熱かった。夜になると熱は上がる傾向が高いから、これからまた発熱するのかもしれない。
「薪さんの手、冷たくて気持ちいいです」
「料理中だからな。あと三十分くらいで出来るから、ここへ持ってきてやる」
「ありがとうございます」
 額に載せた薪の手の甲に、青木の大きな手が重なる。熱のせいか、とても温かった。
「風邪っていいですねえ。薪さんにやさしくしてもらえるの、幸せです」
「なに言ってんだ。僕はいつもやさしいだろ」
「え。あ、はい。……はあ」
「なんだ、最後のため息は」
 いつもなら蹴りがいくところだけど、今日は特別だ。元気になったらまとめて返すけどな。

「退屈だろうけど、雑誌やテレビは禁止だぞ。その方が早く治る」
「平気です。枕に薪さんの匂いが着いてるから」
 微笑ましいと思った。子供が病気で心細い時に母親のエプロンを預けると安心してよく眠れるのと同じで、恋人の香りが心を休めるのだろう。
「アロマセラピーみたいなもんか」
「や、この匂いを嗅いでると妄想広がっちゃって。退屈なんかしてる暇ないです」
 そんなことを考えてるから熱上がるんだよ、バカ。

 照れ笑いする青木の額をぱちんと叩いて、薪は台所へ戻った。料理の仕上げに掛かる。
 付け合わせの梅干しは刻んでシラスと和える。水分はたっぷり摂った方がいいから、他にスープを作る。薄味のみそ汁に、みじん切りにした長ネギをこれでもかと言うほど浮かべる。食後のデザートはビタミンCを豊富に含むイチゴ。
 質素だけど、風邪は身体を休めるのが一番だ。消化にエネルギーを要する肉や魚は避けた方がよいのだと、昔雪子に教わった。
 出来上がった夕食を寝室に持っていくと、青木は嬉しそうに起き上った。ぶんぶんと飛び回る尻尾が見える。
「風邪を引いても食欲が衰えないとは。見上げた食い意地だ」
 薪が呆れるくらい青木の食は進み、一人炊きの土鍋はあっという間に空になった。物足りなそうな顔をしているので、追加のリンゴを剥いてやったらそれも食べた。一瞬、仮病じゃないのかと疑いを持ったが、首に触ってみたらやはり熱かった。

「大人しく寝てろよ」
 妄想も禁止だぞ、と釘を刺して、食事の後片付けを済ませた。それから一人で風呂に入る。青木に邪魔されない貴重なバスタイム、ゆっくりと羽根を伸ばしたかったのに。青木の首の熱さが気になって、ちっとも楽しめなかった。誰かと一緒に暮らすのって、やっぱり面倒だ。
 一人なら心配なんかしない。青木が病気をしたら気にはなるだろうけど、一緒にいられなければ出来ることは限られている。そういう状況なら多分、たかが風邪だと割り切ってしまえる。
 でも、こうして一緒に暮らしていたら。
 あれもしてあげたい、これもしてあげたいって。頼まれてもいない仕事は増える一方で。バスタイムは薪の一番の楽しみになのに、それすらおざなりになっていく。
 彼の傍にいてやりたいと思ってしまう気持ちの、なんて強いことだろう。「たかが風邪」なのに、我ながら過保護すぎる。

 自嘲しながら寝室を覗くと、果たして彼の病状は悪化していた。さっきより顔色が悪くなっている。
「どこか痛むか」
「脚の関節が、ちょっとだけ」
「悪寒は」
「少しあります」
 帰りが早かったから時刻は未だ八時前で、風呂を済ませても寝るには早すぎたけれど、病人に付き合ってやることにした。

「ダメですよ、薪さん」
 パジャマ姿で隣に入ろうとした薪を、青木が押し留める。
「人間の体温で温めるのが一番効くんだぞ」
「でも、伝染ったら大変ですから」
「風邪は空気感染だ。もう手遅れだ」
 論破して、いつもの場所に納まった。長い腕を取り、自分の腕と絡ませる。ついでに脚も絡ませてやると、薄いパジャマを通して彼の熱が感じ取れた。彼の身体は乾いた砂漠みたいだった。

「どうだ」
「あったかいです。すごく」
 薪の腕の中で青木は言った。
「裸だと、もっと温かいと思うんですけど」
「風邪引いてるのに?」
「でも、このパターンて普通は」
「普通? おまえの地元では、子供が風邪引いたときにお母さんは裸で添い寝するのか」
「……わかりました」
 裸なんて病気にいいわけがない。健康体だって裸で寝てたら風邪を引くのに。頷いておきながら、しかし青木はブツブツ言うのを止めなかった。
「つまんないなあ。他のところではみんな」
「よそはよそ、うちはうち!」
「……すみません」
 首の後ろに爪を立ててやったら、青木は謝罪して沈黙した。やっと大人しくなった、と薪は心の中で安堵する。病人は黙って寝てるのが一番だ。

 彼を安静にさせたことに薪は満足するけれど、青木の心中は複雑だ。正直な話、薪が傍にいると落ち着かない。わくわくとうれしくなって、はしゃいでしまうのだ。
 青木だって人間だから、咳や悪寒程度の風邪は引く。そんな時は早めに休めば、翌朝にはスッキリと起きられたのだ。
 でも、薪と一緒に暮らしはじめたら。もったいなくて早寝ができない。
 だってそこに薪がいる。顔が見られる、声が聴ける。手を伸ばせば触れ合えるのに、寝てる暇なんかあるわけがない。そんな理由で、別々に暮らしていた時よりも、青木の睡眠時間は確実に減っている。それは自覚していた。
「疲れが溜まったんだろう」と薪に言われて反省した。
 薪と一緒に暮らせることになって、舞い上がっていたせいだ。これからは気を付けないと、彼に迷惑を掛けてしまう。今日だって、薪にしてみたら早退けに近い時間に帰ってきたのだ。きっと仕事を残してきたに違いない。それなのにこうして青木に付き合ってくれて、腕枕までしてくれる。怒られてばかりだけど、すごくやさしくされてる。申し訳なくも幸せだった。

「薪さん。そろそろ体勢変えないと、また腕が」
 痺れますよ、と言い掛けて青木は口を噤んだ。上から、妙に規則的な呼吸が聞こえてくる。顔を上げると薪はすでに眠っていた。
 時計を見れば、まだ八時半。この時間に熟睡することは子供でも難しい。
 本当に疲れているのは薪の方で、だから横になるとすぐに眠ってしまうのだ。決して年のせいではなく。
 亜麻色の頭をそっと浮かせて、自分の肩に載せた。薪は2、3回、いやいやをするように小さな頭を振ったが、やがて落ち着きどころを見つけたらしく、「ふうん」と満足げな声を洩らした。
 ……かわいいっ。
 寝息を深くする彼の頭を撫でながら、やっぱり眠るのはもったいない、と思う青木だった。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Nさまへ

Nさま。


>よそってどこだろう

青薪さんは本来甘いものだと思いますが。
うちのは堅物なんで。ダメっすね(^^;


>体験してないことを書いたり描いたりできない、できてもリアリティーない

うんうん、同意です!
実体験を脚色して書いていることは多いです。で、そういう部分て意外と人様に通じるもので、身に迫りましたとコメントいただくことも多いです。前作の夕陽ツアーなんて、まんま実体験ですし。
とは言え、やっぱりお話なので。捏造してる部分の方が遥かに多くて、嘘っぽかったり白々しかったりしてしまうことが殆どだと思います。ので、せめてなるべくキャラクターは自分に近い人間にしてます。うちの話で、お金持ちと美形が少ないのはそのためです。あと、性格良い人も少ないよね。(笑)



>超料理上手な薪さん。
>青木くんは、きっと少しご主人様に似てるんじゃないか

いやー、わたし、料理は苦手ですよ。雪子さんとか雛子さんとか、リアリティあるでしょ(笑)
ただ、亡くなったお義父さんが昔料理人の修業をしてたとかで、出汁の取り方とか魚のさばき方とか、教えてもらったんです。料理も上手だった。それを参考にしてます。

そして青木さんは……言われてみれば!Σ(゚口゚;
おバカなところと車オタクなところ、ストーカー気質はオットですね。
わたし、男の人ってオットくらいしか知らないので(恋愛に関してですが。仕事柄、周りは野郎ばっか)、自然にそうなっちゃったのかしら。なんか急に恥ずかしくなっちゃいました~~(〃_〃)


Sさまへ

Sさま。

>自分のそばに薪さんがいるのなら一秒でもムダにしたくはないよね。

ねー!
薪さんが隣にいたら、眠るのもったいないって思っちゃいますよね!



>まあそれはそれとして

マイナスって、ちょ、ひど(笑)
いいじゃん、かわいくて(*^^*)

タジクですか? 青木さんよりも頼もしいのは認めますが、あの人、怖いからやだ。
切れ者同士になっちゃうから、薪さんとは相性悪いと思いますよ。
薪さんにはやっぱり青木さん♪


>ところで薪さんが大統領をかばった時のポーズは

さすがSさん、わたしと眼の付け所が一緒!!(←褒め言葉になってない?)
「べらふへはっ!」て、あはははは!(>▽<) 気持ちは分かる、気持ちは! すごい伝わってくる!!
羨ましいぞ、大統領☆

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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