青木警視の殺人(8)

 心を入れ替えて頑張ります2日目。
 




青木警視の殺人(8)







「青木が殺人犯だあ?」
 早朝の室長室で、岡部は頓狂な声を上げた。そこに含まれる驚きは2割程度、残りの8割は呆れ声であった。
「日曜の朝っぱらから人を呼び出しておいて。何の冗談だ」
 応接ソファの向かいで岡部の非難がましい視線をぶつけられているのは、捜一時代の後輩の竹内誠。この春に昇進し、現在は警視正だ。昇進と同時に警察庁の警備部に転属した彼が現場に出られなくなって2ヶ月、ストレスがとうとう脳に回って幻想に囚われるようになったらしい。
「冗談じゃありません。ついでに言っておきますけど、幻想でもありません」
 岡部の失礼な想像を言い当てて釘を刺す。竹内といい薪といい、エリートというのはこちらの考えを読むから困る。

「おれだって信じたくないですよ。だからこいつを持ってきたんです」
「まっ、薪さ……! いや、北川さんか」
「ええ。被害者は彼女です」
 真剣な面持ちで竹内が取り出したのは、数枚の写真であった。
 北川の遺体は、薄汚れた路地裏に仰向けに転がっていた。美しい女性が息を引き取るには、そこは切な過ぎる場所だった。

「青木が犯人にされたのは、こいつのせいなんです」
 2枚目からは、青木と北川の密会の写真だった。レストランやカフェが多かったが、中には情交中の写真もある。裸で抱き合う男女の上半身を斜め上方から捕えたもので、下半身はシーツに隠れているが、顔が同じだけに、薪と青木の濡れ場のようだ。朝から見るもんじゃない。
「監査官の意向で、青木はこういった店で聴取を受けていたんだ。この写真はそのとき撮られたんだろう。でも、最後のこれは合成じゃないのか。鑑識の判断は?」
「それが、今回の捜査本部は刑事局の特別編成なんです。捜一を捜査に加えないばかりか、鑑識まで自分たちが選定して連れてくるという徹底ぶりです。この写真も彼らの目を盗んで、知り合いにコピーしてもらったんですよ」
 同じ警察庁の仕切りならと、竹内は捜査本部のドアを叩いた。しかし、竹内が青木と親交があることを彼らは知っており、関係者に情報は渡せないと断られてしまった。仕方なくお茶汲みの女子職員をたぶらかし、もとい説得して、写真のコピーを手に入れたというわけだ。

「戒厳令が敷かれてるだろうに。その知り合いもよく協力してくれたな」
「どうやったのかは聞かないでくださいね。先生にバレたらもう1件、殺人事件が起きちゃいますから」
 声を潜めて竹内が懇願するのを受け流し、岡部は写真を見直した。被害者の、ブラウスの胸の真ん中に、赤黒い血が熟したバラのように咲いている。他に外傷は見られない。血が邪魔をして刺殺か銃殺はかは不明だが、いずれにせよ一撃だ。苦悶にのたうちまわった跡がない。
 もう1種類の写真は、間違いなく青木と彼女だ。仲睦まじく食事をする様子や、裸で抱き合う様が写されている。これが薪の目に入ったらえらいことになるが、しかし。
「偽造に決まってる。青木がこんなことするかよ」
 女と浮気なんて、薪にバレたら殺人事件がさらに1件増えるぞ、と岡部は心の中で呟いた。悪い冗談だ。

「おれもそう思いたいんですが。この写真、おれには合成の証拠を見つけられなかったんです。そこで宇野さんに鑑定をお願いできないかと」
 写真が偽造であるとの鑑定結果を宇野の名前で捜査本部に提出し、青木の容疑を晴らす。それが竹内の目論見であった。宇野のIT技術は署内でも有名で、サイバー犯罪対策課の部長が直々にスカウトに来るほどだ。特別捜査本部と言えど、その彼の鑑定を無視はできまい。……だが。
「いや、宇野にはこれはちょっと」
 刺激が強すぎるんじゃないか、と岡部は難色を示した。
「そんな、宇野さんだって子供じゃないんですから。MRIを見てればこんなシーン、いくらでも出てくるでしょう」
 竹内は知らないが、宇野は北川に一目惚れ状態だった。監査官と監査対象者の同僚という形ではあったが、毎日顔を合わせるうち、宇野が彼女に夢中になっていくのが見て取れた。その彼女が殺されたと聞けば、平常心を保つことはまず不可能だろう。そんな状態で彼女と自分の後輩が男女の関係にあったことを証明する写真を見たら、幾重にも重なったショックでパニックになるのではないか。
 他人の恋愛事情を暴露するわけにもいかず、岡部は苦手な言い訳に心を砕く。
「竹内、おまえはMRIを誤解してるよ。事件に関連した画だけで十分な証拠が上がれば日常生活までは検証しない。こういう写真は一課の連中の方がよっぽど慣れてるよ」
「それは失礼しました。でも、これには青木の殺人容疑が」

 岡部がテーブルに投げ出した写真を、爪を短く切った神経質そうな手が取り上げた。薪が出勤してきたのかと焦ったが、違った。それは今、話題に上っていた第九の優秀なIT技師だった。
 MRIシステムの母親代わりの宇野は、システム調整のため捜査のない日曜日に出勤してくることが多い。この日もその目的で出てきたのだろう、ノーネクタイにノーワックスの髪の毛で、システムチェックに使うタブレットを抱えていた。
「俺の名前が聞こえたので」
 第九は税金で建てられた施設。室長室のドアは薄い。ドアに張り付いて聞き耳を立てれば、中の会話は丸聞こえだ。内々の話だと竹内が言うから室長室に籠ったのだが、あまり意味がなかったようだ。

 宇野はそれを持ってさっさと自分の机に戻り、スキャンシステムを作動させて画像の読み取りを始めた。程なく彼のモニターに問題の画像が映し出される。その後ろで竹内が厳しい顔つきで腕を組み、岡部がはらはらと汗を流しながら部下の様子を見ていた。
「う、宇野。大丈夫か」
「大丈夫ですよ。子供じゃないんですから」
「だっておまえその……無理すんなよ」
「無理って、なにをですか」
 言葉に詰まりながら気遣う岡部に対して、宇野はあくまでもクールに、そしてハッキリと言った。
「間違いありませんね。この写真は本物です」



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Cさまへ

Cさま。


ご無沙汰してます~。
秘密の実写映画化のニュース、ご存知ですよね。Cさま、どうお考えですか? 先輩のご意見、伺いたいです。


>青木が薬でももられない限り北川さん相手に立つとは思えないし。

ズバリ、そうでしょう(笑)
いや、まったく。うちのヘンタイには困ったもんですww

写真のことはあんまり心配しなくても大丈夫ですよ。一緒に住み始めてるのでね、正妻の余裕ってやつで。薪さん、理性的に対処してますから。
浮気に比べたら殺人の方が大問題なんですけどね。なんですかね、その辺、少しアレだったかなあと思ってます。
続きをお楽しみに(^^

Sさまへ

Sさま。

>これは、薪さんと青木の本物の情交写真!?

いえ~、北川は本人です。後に詳しく出てきますが、ちゃんと女性の体で写ってますので。


>面白いことになってきましたね!

ちょっと、Sさん。
Sっ気、出てきたんじゃないですか?(笑)


>まあ、最後は悪いようにならないと信じてますから!!

はい♪ お任せください♪
と言いますか、事件が大きい割に、途中もあんまり悪いことにならないんですよね、この話。もっと薪さん泣かせたかったな~、と不完全燃焼気味だったので、こないだ別の話を書きました。短いけど、あっちの方がわたしの好みです。


>去年の夏、しづさんに言われたこと、「(絵について、他ジャンルで学んだことを)秘密に還元して」

おおお! 楽しみです!
なるほど~。Sさんがよく記事をあげてらっしゃるジャンルは、二次創作が多いんですね。秘密はやっぱり少ないですものね。映画化がきっかけで、もっと創作者が増えると楽しいでしょうね。
他の方の作品から学ぶ姿勢、素晴らしいと思います。わたしも見習いたいです。
わたしも、小説を読んで表現の仕方を研究したり、昔はやってたんですけどねえ。仕事が忙しいと自分のブログ回すの精一杯、それすら滞る状態で。時間は作るものと言いますが、作った時間は寝てたいです(^^;
今の現場が終わったら、そういう勉強の時間も持ちたいです。

Sさんの「色気のある作品」楽しみにしておりますね(^^
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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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