青木警視の殺人(12)

 こんにちは。
 今年は、現場がお休みの日は更新しようと決めました。(今日は雨で休工になりました)

 一昨年は精神的に疲弊してて、休みの日はぐったりしちゃってましたけど、今年の下請さんは任せて安心だし。だってね、工事始まって2ヶ月経つのに、苦情ゼロなんですよ。
 一昨年の現場は1ヶ月で4回くらい苦情来たからね。初日から8時までかかって、課長に大目玉食らったからね。毎日毎日、開放期限の5時を超えちゃうんじゃないかとヒヤヒヤしっぱなしで。ホント疲れた。
 今年は道路規制していない日でさえ、5時前にはピタッと終わるし。写真の取り忘れはないし、頼んだ書類はきっちり上げてくるし。
 今年の下請さんは本当に当たりです♪




青木警視の殺人(12)




 そんなわけで、青木はいま指定されたホテルの部屋の前に立っている。青木がチャイムを押すと、中では廊下の様子を伺っていたのだろう。すぐにドアが開いて薪が出迎えてくれた。
「青木、よく無事で」
 言い掛けた薪の言葉が止まる。開いた口唇をそのままに、ドアを閉めることも忘れて青木を見上げた。久しぶりにこの眼で見る薪のキョト顔は青木の記憶の何倍も可愛くて、思わず抱き締めて胸に仕舞いたくなる。手を伸ばしかけた青木の耳に、爆発するような男の笑い声が聞こえた。
「ぶはははは! なんだい青木くん、そのカッコ! てか、顔!!」
 部屋にいたのは薪一人ではなかった。そこには薪の直属の上司である中園と、官房室の長が顔を並べていた。
 我に返った薪が、慌てて青木を中に引っ張り込む。廊下に誰もいないことを確認してからドアを閉め、鍵とチェーンロックを掛けた。

 入口の姿見に自分を映してみて、青木は初めて自分が彩華と同じ化粧をされていたことを知った。目の上は真っ青、唇は真っ赤に分厚く、頬はまあるくピンク色。この顔で街中を歩いてきたとは、サングラスが無かったら別の容疑で警察に捕まっていたかもしれない。
「服のセンスといい化粧の仕方といい、青木くん、きみ、芸人になったらどうだい」
「中園。笑いすぎだよ」
 笑い転げる中園を窘めつつ、小野田は口元を押さえて青木の頓狂な姿を見ていたが、どうにかポーカーフェイスを保って、
「さすがは薪くん。機転が利くねえ」
「いえ。僕は変装してこいとは言いましたけど、女装してこいなんて一言も――ふっ」
 鼻で笑った後、さすが彩華さんだな、と小さく呟いた薪の声を青木は聞き逃さない。雪子に頼まれたと彩華は言ったが、雪子に指示をしたのは薪だろう。この逼迫した状況で、よくあの人物を思い出せたものだ。

「とりあえず化粧を落とせ。それからシャワーと着替え。おまえ、香水臭い」
 小野田は軽蔑の眼差しで青木を見やり、中園は笑いこけ、薪は苦笑いする。青木は好んでこの姿になったのではないことを説明しようとしたが、「いいからその顔を何とかしてこい」と薪に言われ、急いでシャワーを使った。着替えは薪が用意しておいてくれた。潜伏することを考慮してか黒いジャージの上下だった。上官の前に出るにはラフすぎる服装だが、ピンクのワンピースよりはマシだろう。
 ソファに陣取った3人のところへ戻り、青木は敬礼した。座るように指示をされたが、席は小野田の隣しか空いていなかった。まさか官房長と同じソファに座るわけにもいかず、青木は文机の前から椅子を持ってきてそれに腰を下ろした。

「青木、状況を説明するからよく聞け。いま、おまえには殺人容疑が掛かっている。被害者は北川舞さんだ」
 薪の衝撃的な言葉に、青木はしっかりと頷く。そこまでは捜査員たちの会話から察しがついていた。だが、何故自分に容疑が掛かったのかは謎であった。そんな青木に、薪はひとつの解答を示した。
「捜査本部の見立てはこうだ。おまえが自分の監査官である北川さんと男女の関係を結び、そこで起きた何らかのトラブルで彼女を殺害するに至った、と」
 恐ろしい誤解だった。青木は夢中で薪の手を握り、自分の無実を訴えた。
「薪さん、信じてください。オレ、浮気なんかしてません!」
「「「弁明、そっち?!」」」
 3人同時に突っ込まれた。青木には一番大事なことだった、だから最初に言ったのに。
「呑気だな、おまえは。殺人容疑だぞ」
「それは調べれば分かることです。でも、彼女が死んでしまったら浮気は証拠不十分で」
「なるほど。死人に口なしとは上手いことやるね、青木くん」
「やってません!!」
 中園に茶化されて、青木は思わず立ち上がった。そういうことは冗談でも言わないで欲しい。

「そうは言ってもねえ。こういうものが出回ってるんだよ」
 中園に見せられた写真は、青木にとって実に不愉快な代物だった。裸で睦み合う男女――青木に覚えはないが、それは青木と北川だった。当人に記憶が無いのだから偽造写真に決まっている。紙面に顔を近付けて修正の痕を探すが、肉眼では見つけられなかった。
 しかし、これで刑事たちの疑いの根拠が分かった。これを捜査本部に送り付けた人間が真犯人だろう。
「よくできてますね」
「あれ。意外と落ち着いてるね」
「身に覚えがありませんから」
 青木は以前、やむを得ない事情でラブホテルに小型カメラを仕掛けたことがあるが、その時の写真に比べるとこの写真は出来過ぎだ。アングルの変化が多すぎる。偽造の証拠だ。

「その写真は合成じゃない。本物だ」
 意外なことに、青木の見解を薪は否定した。青木でも気付くような矛盾に薪が気付かないのはおかしいと思ったが、彼の断定には理由があった。
「岡部から連絡があった。竹内が持ち込んで、宇野が鑑定したそうだ」
「そんな馬鹿な」
 信じられない思いで青木は写真を見つめた。この写真が本物なら、自分は記憶喪失か夢遊病者か。
「宇野さんの鑑定の素晴らしさは知ってますけど。オレには本当に覚えがないんです」
「分かってる」
 写真を本物だと言ったり青木の言い分を信じてみたり。薪の言葉は矛盾しているように聞こえるが、彼の導き出した答えを知ればそれが正解だと分かる。つまり。
「これはおまえじゃない」
 写真が偽物なんじゃない。写っている青木一行が偽者なのだ。

「おまえそっくりに顔を変えた誰かだ。このアングルを見ろ。顔はしっかり写っているのに、全身を写したものは一枚もない。顔は変えられても身長は伸ばせないから、アングルでごまかすしかなかったんだ」
 言われて見直せば、顔はよく撮れているけれど身体のどこかしらはシーツに覆われていて、ベッドや調度品との比較による身長の算出ができないようになっていた。偶然とは思いがたい。鑑識の手法をよく知る何者かが、この写真を撮ったのだ。

「その説明は前も聞いたけど。本当に青木くんじゃないの?」
 小野田の質問に薪の眉が微かに吊り上がる。表面に出さないようにしているけれど、薪はものすごくイラついている。薪の微細なシグナルを読む術に長けた青木にはそれがよく分かって、でもどうしようもなかった。上官同士の会話には入れないし、この場では薪の部下でいるしかない。恋人の顔で彼を癒すなんて真似はできなかった。
「混ぜっ返すなよ、小野田。おまえだって、青木くんが犯人だなんて思ってないだろ」
「それは調べてみないと分からない。ちなみにきみ、金曜日の夜、何処で何してた?」
「自宅で一人で寝てました」
「はい、アリバイ無しと」
「待ってください、小野田さん。その日は青木から電話がありました。基地局を調べれば裏は取れます」
 土日が休みになったのだから一日だけでも会えないものかと、期待を掛けて薪に電話をしたのだった。結果は惨敗だったが、「この電話は盗聴されてるから迂闊なことを話すな」と本気で心配している薪はとても可愛かった。

「悪いけどね、薪くん。被疑者と昵懇な人間の証言は使えないよ」
 身に覚えのないこととは言え青木がこんな騒ぎを起こして、小野田はおかんむりらしい。その様子に薪はすうっと眼を細めて、テーブルに置いてあった写真の一枚を指差した。
「アリバイはともかく、この写真は青木じゃありません。証拠があります。この、手の形」
 女の細い背中を強く抱く、男の手。青木の手はもっと大きい、そう反論するのかと思いきや、薪は自分の5本の指を猫のように丸めて、
「青木はセックスのとき、こんな風に指を曲げる癖があるんです。興奮すればするほど」
 と、とんでもないことをのたまった。
 小野田が思わずソファに仰け反り、中園が面白そうに眼をくるめかせる。薪の逆襲は小野田にはそれなりのダメージを与えたようだったが、中園には完全に楽しまれていた。

「そうなの、青木くん」
「いや、そんな覚えは……自分ではよく分からないだけかな。あ、でも、シーツを握っちゃうのはどっちかって言うと薪さんの方だと、ぐほぉっ!!」
 腹にめり込んだ革靴に押され、青木が椅子ごと引っくり返る。床に転がった青木を蹴り続ける薪は、赤い顔をして汗をだらだらかいていた。背伸びして嘘を吐くからだ。
「自分で振っておいて。メンドクサイ子だねえ」
「薪くん、殺さない程度にね。死体の処理とか面倒だから。――あ、もしもし、捜査本部? 逃亡中の青木警視がここに」
「だからおまえのはシャレにならないって!」
 慌てて携帯電話を小野田の手から奪い取る。通話中になっていた電話を壊さんばかりの勢いで、中園は電話を切った。
「頼むから3人掛かりでボケないでくれ! 僕のツッコミが間に合わない!」
 岡部くんがいれば僕もそっちに回るのに、と中園の本音は小さく呟かれ、当然それは誰の耳にも届かなかった。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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しづさま~。
お忙しいのに!ありがとうございますありがとうございます!読めて嬉しい( ;∀;)

今回、青木は薪さんを間違えるはずないって思ってましたけど、
薪さんが!!青木を間違えないっ(*≧∀≦*)
しかも体つき?筋肉のつきかた?薪さんたらエッチ!!
もう目、つむっててもわかるくらいなんですね?ほくろの数まで覚えてるくらいなんですね?体の隅々まで知り尽くしてるんですね!?
そこまで言ってないのに勝手にハゲ散らかしました。
嬉しい…嬉しい…

しづさんが頑張って下さるので私も会社行きます!←オイ

なみたろうさんへ

なみたろうさん。
そちらのお返事はすぐに戴いたのに、自分の方が遅くなってすみません(^^;

今年の現場は、時間を拘束されるのは一緒なのですけど、精神的に楽なので、大丈夫なんです。下請けさんがしっかりしてるから。役所の評判もいいし♪ 
県道の掘削が始まったら苦情の嵐で神経削がれるんだろうけど、そうなるまではコンスタンスに更新できると思います。


>薪さんが!!青木を間違えないっ(*≧∀≦*)

当然ですよ!
薪さんだって、今や人妻(??)ですよ!


>もう目、つむっててもわかるくらいなんですね?

分かりますとも!
真っ暗やみの中で触れ合っても、前後不覚の酩酊状態でも、誰かと間違えたりしませんよ。身体が君の形を覚えてるってやつですよ!←ヘンな意味に聞こえるけど気のせいだから。

あ、でも鈴木さんとは間違えるかもしれない。そこはデフォだから。(笑)


会社、大変そうですね。
記事を拝読して、すごく神経使う職種なんだなあと思いました。過度のストレスは身体に現れるんですよね……どうかご自愛くださいね。でもって、凛々しい薪さんをまた描いてくださいね(^^)/
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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