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青木警視の殺人(18)

 昨日はお休みだったのに、更新しないでしまいました。なんかぐーたらしちゃって(^^;

 続きです。



青木警視の殺人(18)





 深夜の電話は薪にも掛かってきた。小野田が青木からの電話を受け取る一時間ほど前のことである。

「青木?」
 手厚く匿われているはずの部下の声に薪は、普段の低血圧を潔く返上し、ベッドの上に飛び起きた。青木は坂崎によって外部との接触を断たれているはず。その彼がこうして電話をしてくるのはおかしい。嫌な予感は、果たして的中した。
『薪さん。宇野さんが怪我を』
「宇野が?」
 宇野は頭痛で休暇を取っていると聞いたが、多分ズル休みだと噂されていた。北川に好意を抱いていた宇野は、彼女が亡くなったショックで仕事が手に付かなくなったのだろうと、それが仲間たちの予想だった。第九の職員たちも、10日程ではあったが毎日顔を合わせていた女性が突然命を奪われたことに衝撃を受けていた。それでも、宇野ほど傷ついた者はいなかったはずだ。

『ああ、ひどい……こんな、どうして。宇野さん、宇野さん、しっかりしてください』
「落ち着け。しっかりしなきゃいけないのはおまえだ」
 首を傾けて肩と耳の間に電話を挟み、青木を励ましながら、薪は急いで身支度を整えた。
「状況を説明しろ。宇野の怪我はどうなんだ」
『頭を殴られたみたいです。血がたくさん出てます。止血はしてますが、止まりません』
「救急車は呼んだのか」
『はい。あ、でもどうしよう。オレが付き添うわけにはいかないし』
 青木は本部内手配されている。警察病院にも人相書きが出回っているだろう。この時間帯なら警察関係者は夜勤警邏しかいないから通報される可能性は低いが、警察病院は捜査本部のお膝元。長居は危険だ。
「僕が行く。病院で交代しよう」

 部屋を出て廊下を走り、階段を駆け下りる。マンションの駐車場は地下だ。
 車のエンジンを掛けて携帯電話のハンズフリーをセットする。警察病院は中野区にある。薪が住んでいる吉祥寺からだと車で40分、この時間帯なら30分で着く。
「おまえはどうしてそこにいるんだ?」
『宇野さんからホテルのパソコンにメールが来たんです。チャットで話をしたんですけど、宇野さん、事件の証拠を掴んだって言ってました。その話の途中でいきなりチャットが切れて、データフォルダが送られてきて……不安になったから宇野さんの家に来てみたら、宇野さんが倒れてて、部屋が滅茶苦茶になってました』
 ちらっとナビの画面を見ると、宇野の名前が表示されていた。青木は宇野の携帯を使って薪に連絡をしてきたのだ。
「よく坂崎さんが外出を許してくれたな」
『あー、えっと、すみません。小野田さんの声で坂崎さんの携帯に電話を。UNOボックスに音声合成ソフトが入ってたから』
 詐欺師紛いの真似をしたと聞いて薪は驚く。青木はいつの間にそんな小賢しい男になったのだろう。
 薪が絶句している間に救急車が到着したらしい。周りが騒がしくなり、青木は「また連絡します」と言って電話を切った。

 警察病院の敷地に入った時、青木から再度電話が入った。病院に到着した旨を伝えると、宇野の手当てが無事に済んだこと、見た目よりも怪我は軽く命に別状はないこと、それから宇野の部屋番号を教えられて最後に「宇野さんをお願いします」と言われた。
「一人でホテルに戻れるか? 坂崎さんを呼ぼうか?」
『あ、いえ。オレ、ちょっと行きたいところが』
「なに言ってんだ。おまえは隠れてなきゃダメだ」
 病院敷地内携帯電話禁止という張り紙が眼に入り、薪は足を止めた。ここから先へは電話を切らないと進めない。
「僕が坂崎さんに電話を」
『用事が済んだら自分で電話します。薪さん、宇野さんの傍に付いていてあげてください』
 ぷつりと電話が切れる。折り返したが無視された。青木は素直で大人しい、でも強情な男だ。その発想は突拍子もなく、薪ですら予測のつかないことをしでかしてくれる。
「仕方ないな……岡部、こんな時間にすまん」
 薪は、電話で岡部を呼び出した。宇野が怪我をして病院に搬送されたこと、青木が宇野の携帯電話を持っていること、居場所を特定して保護して欲しい旨を伝え、自分はこれから宇野に付き添うことを話した。
 青木を岡部に託し、薪は宇野の病室へと急いだ。命に別状はないと聞いても、やはり心配だった。

 飾り気のない病院のベッドで、宇野は眠っていた。
 頭に包帯を巻かれ、さらにネットのようなものを被せられていた。そっと布団をめくると、腕や足にも絆創膏や湿布薬が貼られていた。
 いつも家の中でパソコンを弄っている宇野の手足は白くて、細い割には柔らかくて。頭はいいけど腕っぷしは強くない。所轄にいた時も、それでお荷物扱いされていた。薪が見つけて第九にスカウトして、それからどれだけこの男に助けられてきたか。IT関係のことなら無敵の宇野は、MRIシステムと言う高度な技術を基盤にした第九の要で、薪の自慢だった。

 絶対に、許せないと思った。
 大事な部下を傷つけられたこと、青木に濡れ衣を着せられたこと。実行犯も黒幕も、その罪を暴いて償わせる。それが刑事の仕事だ。派閥の勢力調整なんか知ったことか。

「薪さん、どうしたんですか。そんな怖い顔して」
 名を呼ばれて我に返った。いつの間にか、宇野が眼を覚ましていた。
「おまえこそ。なんだ、その情けない姿は」
「すいません、しくじりました。最後のトラップ外すのに手間取っちゃって」
「まったく。危ない橋を渡りやがって」
 宇野が何処のシステムに潜入したのか、この報復を見れば察しがつく。おそらく北川舞の本当の所属部署――公安部だ。
「北川舞のためか」
 殺人犯の濡れ衣を着せられた青木を救うため、でも宇野の心の底にあったのは。
「初めてだったんです、あんな気持ちになったの。だから」

 事件の裏側を探るべく、宇野は北川舞の正体を調べた。被害者を知ればその交友関係も浮き上がる。だが、人事部に彼女のデータはなかった。それどころか、警察庁の職員名簿にすら載っていなかった。念のため他の部署も調べたが、どこにも彼女の名前を見つけることはできなかった。見つけられなかったことで、宇野は逆に彼女の正体に気付いた。
 職員名簿に載らない警察官。その所属部署は一つしかない。
 北川舞は公安部の職員、それも特殊班――ゼロ課の人間だ。特殊班は職務内容に違法性が強い仕事が含まれるため、名簿に名前を載せないのだ。今回の監査も、すべて公安部の仕込みだったに違いない。公安部の仕事絡みで北川舞は殺されたのだ。もちろん青木は関係ない。
 そのことを宇野は探り当てた。青木を犯人に仕立て上げるべく、捜査本部がゼロ課の人間で構成されたこと、さまざまな証拠を捏造、或いは隠匿したこと。罪はないが警察にとって不都合な人間を闇に葬るための手順に従って、彼らは素早く偽の事件調書を作り上げた。結果、ベッドで拾った青木の毛髪は彼女の傷口の血に絡み、ドアノブから採取した指紋は彼女が持っていたバックから発見されることになった。
 勿論これは極秘事項。公安部側にしてみれば、決して他部署の職員に知られてはならないものだ。そこで彼らは宇野に制裁を与えたのだ。

「同じ公安でも、南雲たちの部署とゼロ課は別物だからな」
 以前、宇野は公安部のシステムをハッキングしたことがある。そのときも侵入には気付かれてしまったのだが、薪が南雲課長に嫌味を言われるくらいで済んだ。宇野は今回も同様に考えていたが、それが間違いの元であった。
 俗に、ゼロ課と呼ばれる特殊班は警察庁長官の直属部隊だ。一課から四課まである公安部の指揮決定権は官房長の小野田が握っているが、ゼロ課の指揮権は長官が持っている。ゼロ課職員は、長官の意向に副って動き、その身を任務に奉じる。噂によれば、仕事で大きなミスを犯した者や身内が犯罪を起こした者など、命令に逆らえない立場の者を選んでメンバーに加えているとか。
 決して表舞台に立つことはない。が、警察の威信が守られるために誰かの口が永遠に閉ざされる、そのようなことが起こるときには必ず彼らがそこにいる。
 警察機構の闇部隊のひとつ。それがゼロ課である。

「これだから筋肉バカは困るんですよね。あいつら手加減手ものを、痛てて」
「宇野。この仇は僕が」
「危ないことはしないでください。また岡部さんに叱られますよ」
 宇野に心配を掛けたくなくて、薪は「分かった」と素直に頷く。無論、腹の底では大人しく引き下がる気など毛頭なかった。
 薪の言葉を聞いて安心したのか、宇野は妙にサバサバした口調で、
「あー、くそ。あいつら、おれのパソコンめちゃめちゃに壊しやがって。あいつらのアタマ、10個集めたってセーラーシスターズの一人にも敵わないくせに」
「セーラーシスターズ?」
「パソコンの名前です。ルーナ、マーキュリー、ジュピター、マーズ、ヴィーナス。5台合わせてセーラーシスターズです」
「宇野……僕がぜったいに仇を取ってやるからなっ!」
「や、打ちどころが悪くて退行現象起こしたとかそういうんじゃないですから」
 二次元と三次元の中間地点で生きている宇野に生身の恋を教えた北川舞の功績は大きい、と薪は微笑ましく思ったが、宇野の恋心の大半が薪にそっくりな彼女の顔にあったことを彼は知らない。

「薪さん。北川さんを殺した犯人の画、青木のホテルのパソコンに送っておきました」
「そんなもの、どうやって」
「メモリーに上書きされた映像なんて、復元するのは簡単です」
 デジタル映像なら復元できる。ITの申し子、宇野の手にかかれば朝飯前だ。
「おまえ、いつの間にあの店に行ったんだ?」
「コンピューターさえ使われてれば、おれは世界の何処へでも行けます。ま、今回はサッチョウ(警察庁)でしたけど」
 捜査本部のパソコンで書き換えが行われたのなら、偽造前のデータを読み込んだパソコンがどこかにあるはず。宇野は十八番のハッキングでそのパソコンを探り当て、消去された映像を取り出したのだ。こんな無茶をすると分かっていれば、宇野には事件の情報を入れるなと岡部に口止めしておくのだった。
「カメラにばっちり映ってましたよ。捜査本部の誰かが消したんです」
 監視カメラには何も写っていなかったが、それは捜査本部の捏造であった。メモリーカードを徴収し、データを改竄してから店に返した。後から出向いた薪たちが何も発見できなかったわけだ。

「他人に見られないように、フォルダに鍵を掛けておきました。おれの携帯のストラップが解除キーになってますんで、解除したらデータを捜一に送ってください」
「分かった、すぐに僕が」
 立ち上がりかけて気付いた。宇野の携帯電話は青木が持っている。
「何処に行ったんだか、あのバカ」
「え。青木、ホテルで缶詰めじゃなかったんですか」
「それが勝手に抜け出して、うん? 僕、青木の名前出したか?」
「いいえ。でも薪さんがバカって言ったら青木のことでしょ」
 部下の間で「バカ=青木」の公式が成り立っていることを知って、薪は少しだけ申し訳ない気持ちになったが、即座にその殊勝さを打ち消した。だって本当にバカなんだもん、あいつ。

「携帯の電源さえ入っていればGPSで探せる。岡部に連絡して探すように頼んでおいた」
「おれを助けてくれたの、青木だったんだ。直前まで青木とチャットしてたから、青木が薪さんに連絡してくれたんだとばかり」
「そうか、チャット……」
 薪は無意識に立ち上がった。
「じゃあ、僕は帰るから。大人しく寝てろよ」
「動きたくても、これじゃ動けませんよ」
 苦笑する宇野に微笑みを返し、薪は病室を出て行った。



 薪が病院を去って、20分後。東京都警察病院のナースステーションではちょっとした騒ぎが起こった。入院患者の一人がパソコンを使わせて欲しいと頼んできたのだ。
「何を無茶なことを。あなた、今夜入院したばかりでしょう」
 この患者は救急搬送されてきた。骨折は肋骨が4箇所、打ち身と捻挫が2桁。明らかに暴行による怪我で、だから常に警官が巡回しているこの病院に来たのだろう。勤続7年になる看護師の眼から見ても重傷で、特に今夜は痛み止めが効かないレベルの苦痛であろうと察せられたから、夜中に痛くて眠れないというナースコールを覚悟していた。それが壁を伝って歩いてくるとは。それだけでも驚いたのに、パソコンを貸してくれとは何事か。

「早く病室に戻りましょう。お仕事が気になるのは分かりますけど、まずは身体を治してから」
「そんな暇ありませんよ! これでも遅いくらいなんだ!」
 乱暴に怒鳴られて、彼女は怯んだ。深夜の病院で大声なんてとんでもない、といつもなら我儘な患者には反射的に出てくる叱責が、なぜか喉に張り付いた。彼の気迫に押されたのだ。
「バカはおれだ。なんですぐ気が付かなかったんだろう、あの人の性格分かってたのに……いいからパソコン貸してくださいよ! それと電話も、早く!!」



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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宇野さんご無事で……

宇野さん、ご無事でよかった!
次回大活躍の予感です。

そしてやっぱりセーラーマーキュリーが好きなんですね
それはやっぱり彼女がショートカットでIQが高いからですか……

そして青木くんも薪さんもどこいっちゃったんですかー!

次回も楽しみにしております!

にゃんたろーさま

にゃんたろーさま。

ブログ、開設されたんですね! おめでとうございます。
感想がたくさん書いてある~。わたしは感想文が苦手で書けないので、こんな風に自分が思ったことを生の言葉で伝えられるの、いいなあって思います。
仕事が落ち着いたらゆっくり読ませていただきますね(^^


はい~、宇野さん、生きてます。
今回、宇野さんは陰の主役です。青木さんより活躍してるかも?


> そしてやっぱりセーラーマーキュリーが好きなんですね
> それはやっぱり彼女がショートカットでIQが高いからですか……

当たりです!(笑)


> そして青木くんも薪さんもどこいっちゃったんですかー!

職場です。
二人で現場を抜け出して秘密のデートとか、そういうの書いてみたいんですけど、うちの薪さんは仕事が一番だからなあ。色気なくてゴメンナサイ。

ありがとうございます

ブログ、私は小説も漫画も描けないので、感想くらいしか書けず……(T_T)

感想のみを書き散らかしてます……
が、やっぱり絵がないと我ながらあまりに辛いので、絵を描き足してます!
(ふだん漫画は描かないので、キビシイのですが)

秘密ワールドから程遠いレビューと絵ですが、お時間のあるときにでも遊びに来ていただければ嬉しいです。

19で薪さん大活躍でかっこよかったです(^0^)

続きも楽しみにしております!


にゃんたろーさま

にゃんたろーさま

>感想くらいしか書けず……(T_T)

いやー、それが苦手な人間もいるんですって。←わたしです。
ぶっちゃけ、感想書くよりSS書く方が楽です。
それに、

>絵を描き足してます!

拝見しました!
すごい! 尊敬しますよ!
実はわたしも挑戦したことあるんですけど、とても見られたもんじゃありませんでした(^^;


>秘密ワールドから程遠いレビューと絵ですが、

そんなことないですよ~。ちゃんと原作に沿った内容ですよ~。
内容が程遠いのはうちです、ごめんなさい。
またそのうち、お邪魔します。時間があるときにコメント入れますので、その時はよろしくです。


>19で薪さん大活躍でかっこよかったです(^0^)

ありがとうございます。
大活躍と言うか意地悪全開と言うか(笑) 
うちの薪さんは、誰かに意地悪してる時が一番イキイキしてます。性格悪るっww
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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