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青木警視の殺人(19)

 昨日は、たくさんの拍手をありがとうございました~。
 どうもありがとうございます、うれしいです(^^)
 最初の記事からだから、ご新規さんかな? それとも再読の方かしら。
 励ましてくださってありがとうございます。がんばります♪



青木警視の殺人(19)







 宇野が看護師を脅して病院の機密情報満載のパソコンを奪い取り、キィを夢中で叩いていた頃。薪は青木が隠れていたホテルにいた。
 宇野が襲われた時、彼は青木とチャットをしていた。IPアドレスを辿れば、宇野がどこのパソコンと話をしていたのか解る。敵側が此処を襲撃する可能性は十分にある。
 上手いことに、青木はホテルを留守にしている。岡部にも保護を頼んであるし、青木には危険はないはずだ。
 応援を呼ぼうとは考えなかった。ゼロ課との直接対決に、巻き込みたいと思えるような部下は薪には一人もいなかった。だれも危険な目に遭わせたくない。誰ひとりとしてこれ以上、傷ついて欲しくない。
 小野田にだけは電話をしておいた。自分がゼロ課とやりあえば、小野田と長官の間に溝ができるだろう。小野田には、またも恩を仇で返すことになる。それでも。

「夜分に恐れ入ります。捜査にご協力を」
 フロントで身分証を提示し、カードキーを借り受けた。
「僕の前に、このキーを借りに来た人はいませんか?」
 薪の質問に、フロントマンはいないと答えた。自前の工作員で電子ロックを外す気なのだろう。自分たちの痕跡を残すことを嫌うゼロ課らしいやり方だ。

 目的の部屋へ行き、キーを差し込んでドアを開ける。具合の悪いことに自動照明だ。外から見張られていたら、今帰宅しましたと大声で叫んでいるようなものだ。
 いつでもドアから逃げられるように手をドアノブに掛けたまま、薪はさっと室内を見回した。動体視力に優れた亜麻色の瞳は羽虫の動きすら捉える事ができたが、その眼をもってしても侵入者の存在は確認できなかった。
 どうやら取り越し苦労だったらしい。ほっと息をついてリビングを通り過ぎる。ここには坂崎がいたはず、彼の前でチャットはできないはずだから、パソコンは寝室にあるのだろう。そう見当をつけて寝室の扉を開いた。

 中は真っ暗で、パソコンの明かりだけが点いていた。それを視認した瞬間、薪はホルダーから拳銃を取り出し、腕を伸ばした。暗闇に向かって威嚇する。
「そこにいる者、出てこい」
 青木がホテルを出たのは2時間も前だ。パソコンの電源を切り忘れたとしても、オートオフ機能が働いていないのは不自然だ。直前まで誰かが、このパソコンを操作していたのだ。
 明るいリビングを通ってきた薪の目に、寝室の人影は見ることができない。明るさに眼が慣れてしまっていたせいだ。中にいる人物を見つけ出そうと、薪は意識を集中した。自然と背後の警戒は薄くなる。そこを衝かれた。
「薪警視長。銃を捨ててください」
 ゴツン、とこめかみに当てられた金属の冷たさ。撃鉄を起こす音で銃だと分かる。敵が単独行動を取らないことは分かっていたのに、油断した。
 両手を上げて手のひらを開いた。薪の右手から拳銃が落ちる。ベッドの陰から姿を現したもう一人の男が、それを余裕で拾い上げた。
「捜査本部の」
 そこにいたのは管理官の緑川警視長だった。わざわざ第九まで薪たちを牽制しにきた、あの嫌味男だ。薪に銃を突きつけているのは声と身長から判断して、緑川に着いてきた田上巡査部長だろう。

「余計なことはしないでくださいと、あれほどお願いしたのに。あなたほどの重要人物を葬るのは、こちらとしても大変な作業なのですよ。察して欲しいものだ」
「僕の部下に手を出したおまえらが悪い」
「ハッキングなどという卑劣な手段でうちの情報を盗みに来たのはそちらの方でしょう。我々はそれに対する報復をしたまでだ」
 答えたのは田上だった。
 やはりそうか。緑川は次長派の人間、田上はゼロ課の人間だ。

「青木を殺人犯に仕立てようとしたくせに」
「あれは、そちらの緑川管理官の命令で仕方なく。長官不在の折は次長がその指揮を執る。ゼロ課の規則ですから、我々としても逆らえなかったんです」
「よく言うよ。おまえらにしても、青木が犯人である方が都合がよかったんだろ。訓練を積んだゼロ課の人間が一般人に殺されるのは不自然だからな。僕のSP代わりの青木が犯人なら、長官も不思議に思わない」
 捜査本部の管理官が次長派の職員だと知って、中園は北川の殺人そのものを次長派の謀略と疑ったが、薪の考えは違っていた。ゼロ課を動かせる、次長派にそんな力が残っていたならもっと早くに何か仕掛けてきたはず。そもそも殺人はリスクが大きすぎる。北川を殺したのは次長派ではない。
「彼女を殺したのは同じゼロ課の人間だ。おまえらはそれを長官に隠したかった。だから次長の言うことに従ったんだ」

 薪が事件の真相を言い当てると、田上の顔色が変わった。
「図星か。そんな正直者で、よくゼロ課の仕事が務まるな」
 せせら笑うと、銃口でこめかみの上部を殴られた。軽い殴打でも鉄の塊だ。皮が破れて血が流れた。
「やわな肌をしているな。本当に男なのか」
 カッとなって振り向きざまに相手の襟を掴むも、薪の銃を拾った緑川が薪の背中に銃を押し当てる。薪は悔しそうにくちびるを噛んで、田上から手を離した。

「第九は腰抜けぞろいだな。さっきの男も、呆れるくらい弱かったぞ」
「あいにくだが、第九は頭脳労働だ。僕の部下におまえらみたいな筋肉バカは必要ない」
「岡部警視が聞いたら悲しむんじゃないのか」
「いや。ああ見えて岡部は意外と神経細くって。慎重派だし心配性だし、お母さんだし」
「お母さん?」
「夜はちゃんと寝なさいとか、夏の外出にはサングラスを掛けなさいとか」
「見かけによらんな」
「本当だぞ。外出先までサングラス持って追いかけてくるくらいだ。――なあ、岡部」
 ひょいと上がった細い顎が示す先、まさかと思って振り返る。そこに田上は信じられないものを見た。

「岡、ぐっ!」
 突進してくる岡部の体当たりよりも、薪の拳の方が速かった。田上の鳩尾に見事に決まった正拳突きの強さと正確さは、彼の細い腕から繰り出されたとは信じ難い威力で、その痛みに田上は思わず身体を二つに折り曲げた。緩んだ右手を狙って薪の手刀が振り下ろされる。が、さすがに田上はゼロ課の人間だ。さっと身をかわし、空振りになった薪の腕を捕えて下方に引き倒す。体勢を崩して床に膝をついた薪の背中に肘を打ち下ろす寸前、岡部の強烈な蹴りが田上の背中を捕えた。床に丸まった薪の身体に蹴躓づく。
 床に転がった田上の身体を二人掛かりで押さえたその時、寝室から鋭い声が響いた。

「そこまでだ!」
 田上の後ろ首を上から押さえつけながら横目で見れば、緑川が銃を構えていた。銃口はぴたりと薪の頭に向けられている。
「おまえの銃は私が持っているんだぞ! 大人しく手を上げろ!」
 緑川の脅しに怯む様子も見せず、二人は田上の確保を続行した。銃を持った右手を、岡部の頑強な手が捻り上げる。ぎりぎりと手首を締め上げると、ぽろりと銃が床に落ちた。銃を相手に拾われたらお終いだ――焦った緑川が声を張り上げる。
「私が撃てないとでも思っているのか、バカにしやがって。地獄で後悔しろ!」
 恐怖に駆られた緑川が引き金を引いた。その指に伝わったのは、カチリと言う軽い音。

「……え?」
 銃口から飛び出したのは弾丸ではなく、小さな火であった。つまり、これはライターだ。
「それはモデルガンだ。よく出来てるだろ」
 俄かには信じ難い。つい先刻薪は、この銃を構えてここに乗り込んできたのだ。モデルガンであそこまで強気に出るか、普通。
 緑川が滑稽なピエロを演じている間に、田上は岡部によって完全にその動きを封じられていた。圧倒的な力の差であった。
「無法地帯のゼロ課じゃあるまいし。この時間に拳銃なんか持ち出せるか、バーカ」
 警察では、捜査員に拳銃の携帯を許していない。銃は厳重に保管され、凶悪事件が起きた時など特別な場合にのみ所持することを許される。それにはきちんとした手続きが必要だ。必要になったからと言って、さっと持ってこれるものではない。

 バスローブの紐や電気ポットのコードなどで手足を縛られ、芋虫のように床に転がされた田上の頭に足を乗せ、薪は楽しそうに笑った。こんな性格の悪い男、見たことない。
 心を読んだわけでもあるまいが、薪が緑川をぎろりと睨む。その気迫の禍々しさ。緑川の身体が勝手に震え始める。
「岡部。捕まえろ」
「はい」
 バキボキと必要以上に指を鳴らして近付くあたり、岡部も緑川の暴言には相当キていたらしい。
「わ、私は警視長だぞ! 警視の君が私に逆らえるのか!」
「同じ警視長の命令ですから」

「僕の後ろには官房長も付いてるぞ。なんたって、お気に入りだからな」
 以前、緑川に当てこすられた不愉快な噂を逆手にとって、薪はうそぶいた。パソコンデスクにもなっているサイドボードの引き出しを開け、何かを探しながら、
「おまえの腕の一本や二本折ったところで、僕がベッドの中で官房長にお願いすれば、無かったことになるんだよ」
「薪さん。楽しいのは分かりますが、そういう発言はご自分の首を絞めますよ」
「こいつが言い触らすかもしれないって? 大丈夫だ。この場でこいつの舌を切り落とすから」
 シャキン、と軽やかな音を立てて開かれたのは、どこにでもある事務ハサミ。

「な、やっ、やめ、あだだだっ!」
 岡部の太い指が緑川の細い顎を挟み上げ、無理やりに口を開かせた。口中に縮こまる舌を、薪の細い指が強引に引っ張りだす。根元に近い部分にハの字に広げた刃をあてがい、薪は無邪気な声で尋ねた。
「なあ、岡部。人間の舌って、切ったらどれくらい血が出るのかな」
「さあ。おれも切ったことありませんから」
「僕も初めてだ。ワクワクするなっ」
 子供のように眼を輝かせるとか、こわい、ものすごく怖い。こういうのがシリアルキラーになるんだ、絶対にそうだ。

 かくん、と緑川の膝が崩れた。岡部が手を離すと、糸が切れた操り人形みたいにおかしな動きで床に倒れた。
「気絶しちゃいましたよ」
「なんだ。冗談の通じないやつだな」
 冗談で通るか、あんなもの!
 こいつらの容赦の無さはゼロ課の上をいく。戒められた手足を不自由に曲げながら、田上はぐったりと床の上に横たわった。

「ところで岡部。よくここが分かったな」
「宇野から連絡をもらいました。薪さんが青木が隠れてたホテルにいるはずだからって」
「青木の隠れ場所は、おまえも宇野も知らないはずだが」
「病院でパソコン借りて、チャットのログを辿ったらしいですよ」
 あの怪我で、と薪が眉を潜める。宇野の無茶は上司譲りだと思ったが、賢明な岡部はそれを口には出さなかった。
「ここのパソコンに映像を伝送したから押収してくれって言われましたけど、ああ」
 パソコンを見て岡部は呻いた。一足遅く、それは破壊されていた。データが保存されているはずの本体が、ぐしゃぐしゃに潰されている。緑川たちは元々これが目的で来たのだ。部屋に入って一番に仕事を済ませ、青木を待ち伏せしていたのだろう。

「宇野のパソコンも壊されちまったし。これで証拠は無しか」
「いや、大丈夫だ」
 落胆する岡部とは対照的に、薪は余裕の表情だった。パソコンに詳しくない岡部には分からないが、ボディをここまで破壊されたパソコンからデータを引き出す方法があるのだろうか。

「青木は?」
「それがですね。青木のやつ、携帯の電源を切ってるみたいで」
 居場所が分からないようにと思ったんですかね、と岡部が理由を推測すると、薪は困惑に首を振って、
「青木が持っているのは宇野の携帯だ。あいつもそこまでバカじゃない。切る必要なんか」
 言い掛けて考え込んだ。右手を口元にやる、いつもの癖。
「もしかして」
 呟いて、薪は踵を返した。
「岡部、後を頼む。僕は青木のところへ行く」
 わざとらしく田上の肩を踏ん付けて、一直線に駆けて行く、薪の背中に岡部の声が掛かる。
「青木の居場所、分かるんですか?」
「相手の居場所を当てるのは、青木の専売特許じゃない」
 足を止めて肩越しに言い返した薪の声は、自信に満ちていた。

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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