青木がヘタレなのはどう考えても薪が悪い(1)

「極甘あおまきさん大放出したいけどないものは出せないその2」でございます。
 実はこちら、その1の別バージョンです。(「その1ってなんだっけ」と思われた方はそのままに、「ああ、あれね」と思われた方は早く忘れてくださいー!)
 うちのあおまきさんには、こっちの方が合ってると思う。

 題名は「私がモテないのはどう考えてもおまえらが悪い」略して「わたもて」のパクリです。あのアニメ、めっちゃツボりました(>m<)



青木がヘタレなのはどう考えても薪が悪い(1) 





 ヘタレの代表みたいに言われますけど、オレだって好きでヘタレなわけじゃないです。でも、薪さんの前だとどうしてもそうなっちゃって。
 別に保身に走ってるわけじゃないんですよ。そりゃ薪さんはおっかないけど、それ以上にオレは薪さんが好きですから。嫌われるのが怖いからって言うのともちょっと違う、いえ、もちろん嫌われたくはないですけど、それでヘタレ男になってるわけじゃないです。

 我慢ばかりしてると暴発する? いや、決してそんなことは。
 我儘を言うのは薪さんばかり、ええ、それは当たってますけど、我慢することも多いですけど、でもやっぱりちょっと違うんです。
 ええと、どう言えばいいのかな。オレ、あんまり説明うまくなくて……。

 え、分かりやすい事例ですか?
 そうですねえ。理解してもらえるかどうか微妙ですけど、先週の日曜日、こんなことがありました。



*****



「キ●ガイか、おまえは」
 斬新な切り返しだと青木は思った。恋人に欲情してキ●ガイ呼ばわりとは。
 これまでに何人かの女性と付き合ったが、その中の誰にもこんな言い方で拒否されたことはなかった。性別の差と言うよりも人間性の差だと思う。

「僕が何しにおまえの家に来たか、僕の話を聞いてたか?」
 だくだくと首に流れる汗をタオルで拭い、薪は、裸の胸を隠すように片足を引き寄せた。防御のつもりだったのかもしれないが、完全に逆効果だ。膝を抱えたらハーフパンツの隙間から腿の裏側が覗いて、その白さにクラクラした。暑さのせいじゃなく。
「薪さんのお宅のエアコンが壊れて、明日にならないと修理ができないって話ですよね。それでオレの家に涼を取りに来られたと。ちゃんと聞いてましたよ」
「そうだ。8月の太陽に全身焼かれるような思いをしながら、僕はここに涼みに来たんだ。なのに」
 セリフを溜めて息を吸い込む薪の仕草に、青木はすばやく心の準備を整える。次は怒号がくる。ぜったい。
「なんでこんなに暑いんだよ、おまえんち!!」
 予想通りの怒鳴り声に「すみません」と平謝する。自分に咎のないことで頭を下げるなど、痛くも痒くもない。これくらいでいちいち腹を立てていたら、この人の恋人なんかやってられない。

 エアコンが止まっているのは青木のせいではない。酔っぱらい運転の車が近所の電柱に突っ込んだからだ。悪いのは昼間から深酒した挙句に電柱を折る勢いで自爆した何処かのアホウだ。
 そんな事情だったから青木は言ったのだ。電柱の緊急工事が終わるまでの間、何処か涼しい場所に避難しましょうと。事実青木は出かける用意をしていた、それを留めたのは薪だ。炎天下を歩いてきて、もう一歩も動けない。電気が復旧するまで此処で待つからおまえは勝手に何処へでも行けと言われた。いつになるか分かりませんよ、と言ったのに、彼は頑固に居座った。暑いのは自業自得なのだ。

 玄関先でそんなやり取りをする間に、薪はシャツを脱いでしまった。裸の上半身が汗で光っていた。スニーカーを脱いで上り込むと同時にソックスを脱ぎ捨てた。普段は見えない踝が妙に色っぽかった。
「ああ、床が冷たくて気持ちいい」
 ハーフパンツだけの姿になって、薪は床に突っ伏した。殺人現場の死体よろしく、ピクリとも動かない。
 フローリングの茶色とハーフパンツのオリーブ色が、彼の白い背中と白い脚を浮き立たせていた。投げ出された手足が壊れた人形みたいだった。
「青木、水くれ」
 匍匐前進の要領でずるずると床を這い進んだものだから、ハーフパンツがずり下がって超ローライズになった。見せパンが必要なレベルだ。もうちょっとで割れ目が見えそう、そんな状態で彼は床に肘を付いて裸の上半身を起こした。
「青木、みず、うわっ?!」
 思わず後ろから覆いかぶさったら薪に噛みつかれた。比喩ではなく、前に回した腕を実際に。その上、腹に蹴りを入れられて床に転がった。
「このくそ暑いのに何をトチ狂ってんだ!」
 薪は顔を歪めて起き上がり、そして先刻のセリフを言い放ったのだ。

「だって薪さんが」
「ああ? おまえまで僕が誘ったとか言い出す気じゃないだろうな。言ったら絶交だぞ」
「誰かに言われたんですか?」
 言葉尻を捉えて聞き返したら固まった。「薪さん?」と重ねて訊いたら眼を逸らした。
 あやしい。

 しばらく無言のプレッシャーを掛けて自白を促したが、薪は頑なに口を結んだまま。そっぽを向いて青木の方を見ようともしない。
 薪に口を割らせようと思ったら隙を突くしかない。青木は追及を諦めたふりをして台所へ行き、冷蔵庫から麦茶を取り出した。電気は止まっているが、密閉性のおかげで未だ冷たさを保っている。冷凍庫の氷も残っていた。両方をグラスに放り込んで差し出すと、薪は一気にそれを呷った。胸に冷たさが下りていくのにホッと息を吐く、その瞬間の緩みを狙って青木は切り込んだ。
「フランスの男は積極的みたいですね」
「っ、あれほど口止めしたのに宇野のやつ……!」
 宇野さんは何も言いませんでしたけどね、と青木は心の中で宇野の弁護をする。
 普段から青木があれだけ眼を光らせているのに、一体どこで男に言い寄られたのだろうと考えるに、薪が仕事で青木から離れていた一時期の事だと思い至った。去年の冬、宇野とフランスに行った時だ。
 青木がフランス男に辿り着いた経緯を薪に説明してやらないと、後で宇野が酷い目に遭うことは目に見えていた。心の中で手を合わせつつも青木は口を噤み、薪の言葉が聞こえなかった振りをした。だって宇野さん、薪さんと一緒にフランスなんて羨まし過ぎ。

 身の危険を感じたのか、薪は立ち上がって麦茶のお代わりを取りに台所へ向かった。すかさず後を追う。追及の手を緩めるつもりはもちろんない。
 他人の家の冷蔵庫を開けて見つけた缶ビールを勝手に飲んでいる薪に、青木は低い声で尋ねた。
「何されたんですか」
「べつに」
「何もなかったなら口止めの必要ないですよね。そうでしょう?」
 今度はリビングに逃げていく薪をしつこく追いかける。トイレの中にまで入って来かねない青木の猛追に、薪はしぶしぶ白状した。
「トイレの場所は何処かって聞かれて説明しても理解してもらえなくて連れて行ってくれって言われて案内したらトイレの個室に連れ込まれて」
「どうして何度も繰り返すんです」
 青木は頭を抱えた。日本でも似たような手口に引っかかって物陰に引きずり込まれてるのに、どうして危険予知できないかな。

 青木は薪の学習能力の低さを嘆いたが、返ってきた答えは青木の脱力感を更に強めるものだった。
「別の人間が同じ手を使ってくるとは思わなかったんだ」
 二回も同じ手に引っかかったの、バカじゃないの、この人。
「フランスはあまり慣れてなくて。ああいうお国柄だって知らなかったんだ」
 それはフランスに対する侮辱だと思います。
 フランスの国民性ではなくあなたの警戒心の問題でしょう、と青木がやや強い口調で薪の自覚を促すと、薪はムッと眉を潜めて、
「これがロスなら警戒したさ。なんたって、事件解決の功労者を裸に剥いてみんなしてキスマークを付けるのが伝統って国だからな」
 どこのゲイ国家の風習ですかそれは。

 青木は冷たい麦茶と一緒に言葉を飲み込む。薪とこの手の話をしていると、5秒に1回くらいの割合でツッコミを入れたくなる。あまりの頻度に気が引けて、おかげで口から出かかった言葉を飲み込むのが癖みたいになってしまった。
「功労者の肌にキスすることで幸運の女神にあやかるんだって」
 だからどうしてそういう小学生でも騙されないような嘘にコロッと引っかかるんです。
「それってセクハラじゃ」
「女性にはしないさ。男だけ」
 薪さんの場合性別は関係ないんですよ、いい加減自覚してくださいよ。
「じゃあ一つ訊きますけど。薪さん以外の方も手柄を立てたら服を脱がされたんですか?」
「もちろん。僕は参加しなかったけど、みんなやってるってジョージ(ロス市警研修時代の友人)が言ってた」
 騙されてる、絶対に騙されてるよ。

「昼間の酒は効くな」
 薪は空になった缶を床に置き、はあ、とため息を吐いた。立場が逆だと思った。ため息を吐きたいのは青木の方だし、飲んで憂さを晴らしたいのもこっちだ。
「済んでしまったことは仕方ありませんけど。薪さん、今はオレの恋人なんですからね。他の人にキスさせたりしないでくださいね」
「安心しろ。今はヨーゼフにさえ触られたくない気分だ」
 暑い、と再び薪は床に身を寄せ、ごろりと仰向けになった。引き合いに青木ではなく犬の名前を出されるのは複雑だが、まあヨーゼフは特別な犬だし。人間じゃないのだから嫉妬心も起こらない。ましてや次に動物園に行ったら餌に下剤混ぜてやろうなんて、考えない考えない。
「ああー、この床本当に気持ちいい。結婚したい」
 ……燃やしたい。

 青木は薪を真似て彼の横に寝転んだ。薪の片方の眉がピクリと上がる。不機嫌の予兆だ。
「なんだ」
「いえ。薪さんがあんまり気持ちよさそうに床と絡むので」
「もう少し離れろ。体温が伝わってきて気持ち悪い」
 ……泣かない……泣かないもん。
「オレたち、恋人同士じゃないですか」
「夏の間は解消。また寒くなったらな」
 暑いうちは駄目だけど寒くなったらくっついてもいいなんて、青木を携帯カイロ代わりにしているとしか思えない発言だが、それに対する青木の反応は普通の人間とは少し違う。彼は限りなく前向きに、例えば、冷たい死体になったら夏でも薪に抱き締めてもらえるのだろうかと真面目に検討してみる。精神的にこれくらいイッちゃってないと薪の恋人は務まらない。

 基本的に、薪は狡い。
 その上、信じがたいほど意地が悪い。誘うだけ誘って許してくれないとか、しょっちゅうだ。青木が自分の意のままに動くのが面白くて仕方ないのだろうが、ちょっと気の短い男だったら絶対に力づくで犯られてると思う。青木は昔、我を忘れて薪に怪我をさせてしまったことがあるから厳しく自分を律しているが、もしもあの経験がなかったらケダモノプレイに走ってたかもしれない。それくらい薪の誘惑は強烈なのだ。今も。
 仰向けになっている彼の裸の胸がゆっくりと上下する、それと一緒に小さなピンク色の突起が動いて青木の視線を持っていく。滑らかに凹んだ腹、ずり下がったハーフパンツのせいで平らな下腹と腰骨と脚の付け根の線が見えてる。
 この状態で誘ってないとか言われて「はいそうですか」と頷く男は小学生までだと思う。持論の正しさに自信はあるが、触ったら怒られる。薪は潔癖症のきらいがあって、普段でも風呂に入る前は青木に身体を触らせない。青木は薪の匂いが好きだから、それをシャワーで流されてしまうのは本意ではないのだが、などと考えているうちに停電でも水は出ると気付いた。

「そうだ。薪さん、シャワー浴びませんか? 電気止まってるからお湯は出ませんけど、冷たいシャワーなら」
 薪は腹筋だけでひょいと起き上がり、青木の言葉が終わらないうちに浴室へ飛び込んで行った。一歩も動けないとか言ってたくせに、現金な人だ。
「あー、きもちいいー。床は止めだ、シャワーと結婚するー」
 ……世界中砂漠になっちゃえばいいのに。


*****

 がんばれ、青木さん。

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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青木さん…( ;∀;)

こうしてケダモノになるんですねぇ青木さん。
薪さん凶悪(笑)ツンデレのツン率99.9%

ズレっぷり甚だしい二人だから、こうやって同じ出来事をそれぞれの主観でたどるの、すっごいおもしろいですね!どちらの場合でも二人とも可愛くて愛しいです!
あ、ちなみにその1はありがたくスクリーンショットで保存させていただきました。私のスマホはエロい薪さんでいっぱいです。これ紛失とかしたら、キスマークだらけで病院担ぎ込まれた薪さん並に恥で死ねます。

今日も朝からごちそうさまでした。元気の源、いただいたので頑張ります(*´∀`)

なみたろうさんへ

なみたろうさん。

>こうしてケダモノになるんですねぇ青木さん。

ご納得いただけましたか(笑)
99.9%のツンと0.1%のデレで構成されておりますうちの薪さんですが、仏の顔もなんとかという諺の意味を身をもって知る日がくると、あ、すでに何度も体験してますね。懲りない人だなあ。



>ズレっぷり甚だしい二人だから、こうやって同じ出来事をそれぞれの主観でたどるの、すっごいおもしろいですね!

はい~。
前回のは薪さん視点で、今回のは青木さん視点なんです。
書いてたら別の話になっちゃいましたけど☆


>ちなみにその1は

ぎゃー!!!
消して、いますぐ消してください! スマホが腐る!!


>私のスマホは

あ、手遅れですね。←すっごい失礼。


>これ紛失とかしたら

あははは!(>▽<)
いや、他人事じゃないわ、わたしの場合。
SSのデータを保存してあるUSBを誰かに拾われたら、いや、その前に印刷したSSを綴じてあるファイル(公開前の校正作業に使う)若しくはプロットノートを他人に読まれたら人生終わると思います。恐ろしや恐ろしや。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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