青木がヘタレなのはどう考えても薪が悪い(2)

 こんにちは。

 前章に番号振るの忘れちゃいました(^^;)
 この話、2章あるの。(こんな下らない話に2章も必要なのかとか言わないで、ぐすん)
 訂正しましたんで、よろしくです。




青木がヘタレなのはどう考えても薪が悪い(2)





 濡れた髪を拭きながら現れた薪に勧められ、青木は入れ替わりに風呂へ入った。身体を覆っていた汗の膜をシャワーで洗い流すと、一時の清涼感に包まれる。気化熱が体温を奪う僅かな時間。十分と持たないだろうが、電柱の復旧工事が終わるまでの辛抱だ。暑くなったらこれを繰り返せばいい。

「またそんな格好して」
 リビングに戻ると、薪がまたもや現場遺体になっている。しかも今度は裸で、うつ伏せになった尻の上に短いタオルが掛かっているだけ。これで誘ってないとか言われて納得するのは、以下略。
 でもさっきみたいに襲い掛かったらまた蹴り飛ばされる。自制して、青木は彼から眼を逸らした。そんな青木のいじましい努力など何処吹く風、薪は自分が暑さから逃れることに邁進していた。すなわち現実逃避だ。

「ああ、この心地よさ……やっぱり僕には君しかいないよ。シャワーとは遊びだよ、分かってるだろ」
 誰に向かって何の言い訳してんですか。
「もう君以外は眼に入らない」
 それだけ床に密着してれば床しか見えませんよね。
「結婚しよう」
 できるもんならやってみてください。神父呼んであげますから床に結婚指輪埋め込んでやってくださ、――っ!

「危ないですよ、薪さん」
 目の前に飛んできた空き缶を咄嗟に受け止め、青木は抗議した。怒ると手当たり次第に物を投げるのは薪の悪い癖だが、青木は黙って薪のドリームを聞いていただけだ。怒られるようなことはしていない。
「嘆かわしい。なんて情けない男だ」
 人に優しいと評されることが多い青木は、同時にこの手の悪口には慣れている。優しすぎて頼りないとか男として情けないとか、彼女に振られるときの決まり文句がこれだった。だけど、薪の恋人になってからは改善したつもりだ。身体も鍛えたし、精神的にも随分タフになったと自負している。後者は薪と仕事に強制的に鍛えられた感が大きいが。

「オレの何処が情けないんですか」
「恋人が目の前で浮気してるのに、指を咥えて見てるのは腑抜け野郎だ」
「浮気?」
「僕がいま、次々と浮気して見せただろうが。裸で絡み合って」
 無機物に妬くほど落ちぶれちゃいません。
 言い返そうとして青木は気付く。薪が青木に投げつけてきた空缶は500ミリのプレミアムモルツ。さっき、風呂に入る前に飲んでたのはエビスの350缶。そして身を起こした彼の横に転がっているのは黒ラベルの500ミリが2つ。
 冷蔵庫のビール、全部飲んじゃったよ、この人。

 青木がシャワーを浴びていたのはせいぜい10分くらい。ビールのアルコール度数はそれほど高くないが、こんな短時間で多量に飲めば酔っぱらうに決まっている。加えてこの暑さだ。体温の上昇は酔いを助長する、つまり。
「結婚まで申し込んだのに、ノーリアクションとはどういうことだ」
「すみません。さっきシャワー嬢とは話を付けてきたんで、今度は本命の床子さんと話し合いを」
 酔っぱらいオヤジの絡み酒ってことで、もう話を合わせるしか青木に道はない。シャワーで得た清涼感は何処へやら、暑さと脱力感が倍になって戻ってきた。
「そうか、シャワーは納得したか。しかし夏の時季に彼女と断絶するのは辛いな」
「いや。それが相手の方は未練タラタラで」
「そうだろそうだろ。あれだけいい思いさせてやったんだから、彼女がそう簡単に僕を諦めるはずがない。いやあ、モテる男はツライなー」
「ですねー。大変ですねー」
 青木は同情するように頷き、薪に追従した。普段もそうだが、酔っぱらった彼には絶対に逆らってはいけない。絡み酒がDVに進化するからだ。

「女の子を落とすのなんか簡単だぞ。物陰に引き込んで押し倒しちゃえばいいんだ」
 それは犯罪ですよね。ていうか、しょっちゅう被害に遭われてますよね、ご自分が。
「8割の女の子は男性の強引な行動を待ってるんだ。短いスカート穿いて見せパン穿いて、誘ってませんなんて言い訳が通ると思ってる方がおかしい」
 その理屈は同じ男として分からないでもないですが、彼女たちも今の薪さんにだけは言われたくないと思います。
「ここへ来る途中も電車の中で隣り合わせた女子がものすごく短いスカート穿いててさ。あれじゃあ痴漢してくれって言ってるようなもんだと思ってたら案の定」
「被害に遭われたんですか? 可哀想に」
「痴漢が間違えて僕を触って来たんだ。傍迷惑にもほどがある」
 ……それ多分まちがいじゃないです。

 薪の被害届に、青木は彼が自分の部屋を訪れた時の様子を思い出す。部屋着のまま出てきてしまったのだろう彼のズボンは太腿の中程までしかなくて、シャツは汗で肌に張り付いてピンク色の乳首が透けて見えてた。痴漢にしてみれば「どうぞご自由におさわりください」ってプラカード持って立ってるように見えたのだろう。薪の誘惑は無自覚な分タチが悪い。自分が他人からどう見えているか、分かっていないのだ。
「どこまで触らせたんですか」
「僕が許したみたいに言うなよ。ケツ撫でられただけだって」
「下着の上から?」
 えっ、と薪は言葉に詰まった。詰まるということはつまりそういうことだ。

「だから裾の広がった短いズボンは穿かないでくださいって言ってるじゃないですか。隙間から手入れられちゃうから」
「40過ぎのオヤジのケツ触って何が楽しいんだろうな。狂ってるとしか思えない」
「オレは楽しいですけど」
「キ●ガイ」
 振り出しに戻った。

「触られる方はたまったもんじゃない。気持ち悪いったら」
「オレが触っても嫌ですか?」
「夏は暑いからな。そうだ、夏の間だけプラトニックな関係になるとか。いいアイディアだと思わないか」
 よくないです、全然。
「汗かくし、疲れるし」
 汗ひとつかかないセックスほど虚しいものはないと思います。
「次の日、仕事キツイし」
 それは冬でも同じですよね。
「盆と正月に限定しようと思ったけど、夏は第九の繁忙期だし。正月オンリーの方が現実的だよな」
 オレに死ねって言ってます?

「不服そうな顔だな?」
 薪はニヤッと笑って、青木にビールを放って寄越した。床に転がっていたからてっきり空だと思ったが、それは青木の早とちりだった。
 ビールはとても冷たくて美味しかった。部屋が暑いからか、ビアガーデンのビールのようにキンキンに冷えているように感じられた。不思議に思って聞くと、青木が風呂に入っている間に薪がビールを冷凍庫に移しておいてくれたらしい。こういうところ、薪は本当に気が利くと思う。

 人ひとり分空けて薪の横に腰を下ろす。床に胡坐で冷たいビールを味わった。窓からは生ぬるい夏の風と、セミの鳴き声が流れ込んでくる。真っ青な空と真っ白な入道雲、その明るさと、部屋の中で自堕落に肌を露出している恋人のギャップがすさまじかった。
「おまえだってその気にならないだろ。この暑さじゃ」
 食欲も性欲も減退する、とそれは薪の本音なのだろうが、それを青木にまで強制してほしくない。ゆるゆると床に寝そべった彼の、汗で光る艶めかしい肌とか細いウエストから盛り上がったヒップの曲線美とか色気むんむんの腰骨とか、免疫のない男だったら五分で犯罪者になれそうな視覚刺激を放っておいて、その言い草はないと思う。ましてや。
「飲んだら怠くなった。膝貸せ」
 胡坐の膝に頭を載せて仰向けになるとか、止めてほしいんですけど。

 両手両足を投げ出して、安心しきった顔をして。青木がその安寧を妨げるとは微塵も思っていない様子に、情けないやら切ないやら。絶対に主人の手を噛まない犬くらいに思われているのだ。心の底から舐め切っている。

 そんな、普通なら腹立たしさを覚える恋人の態度に。
 青木が感じるのは純粋な喜び。だってこれは、自分だけの特権だから。

 薪の誘惑は無意識で、言うなればそれは誰の身にも等しく降りかかる雨みたいなもの。そこに彼の意志はない。でも、いま自分の膝の上にいる彼は、その無防備は、彼自身の選択によるものだ。室長の仮面もない、警視長の気負いもない、素のままの薪剛。
 他の誰にも見せない、剥き出しのあなた。

「薪さん。オレのこと好きですか」
 青木の問いに、薪は眼を閉じたまま答えた。
「くだらん質問だ」
「そうですか?」
「ああ。下らな過ぎて欠伸が出る」
 欠伸をしながら薪が寝返りを打った。腰のタオルがずれて、視覚刺激が120%アップする。マジ勘弁してください我慢できなくなっちゃ、てかすでに反応しちゃってるんですけど頭でぐりぐりしないでくれますか、痛いです。

「ははっ。ホント変態だな、おまえ」
 薪は笑って、本当にそのまま眠ってしまった。
 汗で頬に張り付いた薪の髪を耳に掛け、保険の勧誘員からもらった団扇で風を送ってやった。薪はすやすやと気持ちよさ気な寝息を立て、それはつまり青木にとって最高の幸せ。

 心休まる時の少ないあなたの、貴重な貴重なひと時を。オレにくださってありがとうございます。



*****



 てな感じなんですけど分かっていただけましたか。
 え。ヘタレ男以外の何者でもない? この状態でなだれ込まないなんてBL失格?
 いやだって、薪さんに負担掛けたくないし。暑いところでエッチして熱中症になっちゃったら大変だし。
 そういうこと考えないのがBL? へえ。そうなんですか。
 すみません、オレにはちょっと無理みたいです。激情の嵐とか言われましても、ごめんなさい、オレは薪さんの寝顔の方がいいです。あの人の寝顔を見てるときが、オレは一番幸せなんです。

 そんなんじゃ薪さんに愛想尽かされる? そんなことないですよ。薪さんはちゃんとオレのこと愛してくれて……る……はず……すみません、下手に慰めないでもらえます? 余計に落ち込みますから。
 直接聞いてみろって、ええー、嫌ですよ。どうせ冷たい目で「おまえからヘタレを取ったら何も残らん」とかキツイこと言われるに決まってるんですから。

 は? もしかしたら「ヘタレごと愛してる」って言ってくれるかもしれない?
 またまた、そんな巧い話に乗せられませんよ。薪さんがオレのことを好きだって言ってくれるのは二人して生死の境を彷徨ったときだけです。ええ、実際に何回か死にかけましたけど、それが何か?

 聞いてみるだけなら命の危険はないし、もしも好きだって言ってもらえたら儲けものだろうって?
 ……分かりました。そこまでおっしゃるなら薪さんに聞いてみます。あまり気は進みませんが。
 薪さーん。ちょっといいですか。実はかくかくしかじかで。

「ヘタレで腑抜けで僕の言う事を何でも聞く青木が好きだ」

 ちょっと、聞きましたか今の!
 薪さんがオレのこと好きだって。それもヘタレなオレが好きだって、オレ、一生ヘタレとして生きていきますっ。
 はい? ヘタレ男が好きな人間なんかいるわけない? どう聞いても都合のいい男にされてるだけだって?
 いいえ、そんなことはありません。あなたが何を言おうと、オレは薪さんの言葉だけを信じてますから!

 あ、薪さん、なにか? お風呂の掃除ですか? はい、任せてください。それが終わったら家中の照明器具と天井と、その後窓拭きですね。はい、きちんとやっておきます。では官房室の慰安旅行、いってらっしゃい。どうかお気を付けて。

 ? なんですか、その可哀想な人を見る目は。
 さあ、もう帰ってください。オレは忙しいんです。薪さんがお帰りになるまでに、しっかりお掃除しておかなきゃ。



*****


 結論。
 青木がヘタレなのはどう考えても薪が悪い。


(おしまい)



(2014.7)



*****


 ……極甘?(笑)

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Cさまへ

Cさま。

>青木とっても幸せそうだなあ~~いいなあ

ぶふっ。
それはヤバイですよ(>m<)

青木さんの本当の不幸は、自分の不幸に気付いてないところだと思います。ので、Cさんは大丈夫ですよw

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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