手紙3(1)

 こんにちは。

 お盆も終わりまして、鈴木さんもお帰りになったので、いつものわたしならフォルダーに収納して来年の夏まで寝かせてしまうのですけど。
 ちょっと今年は個人的に思うところがあって……今できることは今やっておいた方がいいのかなって。
(だったらコメントの返事をもっと早く返すべきですよね、ごめんなさい~~~!!!)

 メロディの新連載を待つ間の、わずかばかりの、でも耐え難く長い時間の慰みになりましたら幸いです。





手紙3(1)





 休日が揃うと、いつも3人一緒だった。


 長い指をピンと立て、鈴木は雪子に質問を投げかけた。
「制限時間は30分。さて、何人来るでしょう」
 雪子は少し考えて「2人」と答える。彼女にとってはこれが妥当なラインだ。
「甘いな、雪子」
 鈴木は立てた人差し指をそのままに、左右に2,3度振ってから指を差す。短く切られた彼の爪の先には、駅の時計塔の下に立っている親友の姿。夏らしく、ネイビーのボーダー柄のタンクトップにモスグリーンの半袖パーカー、定番のクロップドパンツ。パーカーの袖から伸びた腕と、パンツの裾から覗くふくらはぎが、眩しいくらい白い。
「今日の薪なら5人は固い」
「5人? いくら薪くんでもそれは無理でしょ」
 大袈裟ね、と言いたげな雪子と余裕綽々の鈴木。二人がいるのはS駅前の街路樹の陰である。ここの植木は手入れが悪く枝葉が密集しているため、身を隠すにはもってこいなのだ。

 今日はS駅で待ち合わせて、3人で海に行くことになっていた。ところが、恋人同士のテレパシーか、鈴木と雪子は打合せもなしに同じ電車の同じ車両に乗り合わせた。並んで改札を出てみると、そこには一人で待っている親友の姿。こちらには気付いていない。第九の室長と言う役職柄、普段はキリリと眉を吊り上げてスーツと言う名の鎧に身を包んでいる友人の、ラフなスタイルと学生の頃の彼を思わせるオフタイムの表情に、二人ともムラムラと悪戯心が湧いてきて、隠れて様子を見てやれ、と相成った。そこに賭け事の要素が含まれたのは、この二人の性である。

「さあて、何奢ってもらおう……うっそ。もう来た」
 最初に雪子を呻かせたのは、ツンツン頭の2人組だった。裾の伸びたTシャツに穴だらけのジーンズと言う、砕けた服装からして若さを感じさせる。そこは待ち合わせのメッカみたいな場所で、薪の周りにはたくさんの人待ち顔がおり、中には不特定多数の誰かを待っている女子のグループもあったはずだが、その男たちは脇目も振らず薪に近寄った。
「はい、まずはお二人さん」
「待ってよ。複数で来てもカウントは1回でしょ。それに、ナンパだって決め付けてるけど、道を訊かれてるだけかもよ?」
「『ひとり? いい店知ってるんだけど、一緒に行かない?』」
 鈴木が男の口を読むと、雪子は顔をしかめた。第九職員に必須技能の読唇術だが、雪子には使えない。判定は鈴木の良心に委ねるしかないのだ。基より賭けが成立しない気がするが、そこはお遊びと言うことで。
 薪が左右に首を振ると、男たちは素直に去って行った。まだ時間が早いせいか、ナンパもしつこくない。彼らにしても、さっさと次の獲物を見つけた方が得なのだ。
「なんて言って断ったの」
「『人を待ってますので』」
「あら。意外と穏健」
「薪、一般市民にはやさしいから」
 はは、と小さく笑って鈴木は、彼を見つめる瞳を一層細くする。
「その100分の1でもいいからオレたち部下に分けて欲し、――お。早くも二人目」

「今度は女の子の2人組ね。どっちも可愛いじゃない」
「『道、教えてもらえませんか』て、ベタだな」
 薪のくちびるが動くと、話しかけた女の子は一歩下がった。断られたらしい。
「今度はなんて?」
「まっすぐ歩いて200m先に交番あるって。お、もう一人が食い下がった。『一緒に行ってもらえませんか』」
「女の子の方が根性あるわね」
「そうだな。でも薪の方が上。地図描いて渡してる」
 彼女たちが薪にもらった地図を持ってその場を去ると、薪は時刻を確認するためか、携帯電話を取出した。長い睫毛が伏せられ、細い指先が画面の上をタップする。すると隣の、いかにもこれからデートという気合の入った服装とアクセサリで身を固めた女子が、おずおずと薪に話しかけた。
 鈴木は彼女を3人目と主張したが、5分も経たないうちに彼氏が現れ、彼女を連れて行ってしまったためカウントは無効になった。雪子は胸を撫で下ろした。雪子が賭けたのは2人だったから、彼女が勝負の分かれ目だったのだ。
 しかし、雪子の安堵は長くは続かなかった。彼女の反対側にいた男性が薪に話しかけたのだ。しかも、
「『君を待たせるようなダメ男、待つのなんか止めて、オレと付き合わない?』」
 疑いを挟む余地もない3人目だった。
 薪が自分の性別を告げると、男はバツが悪そうにその場から移動して、時計の反対側に回った。この場を去ろうとしないのは、自分も誰かと待ち合わせ中だったのか。鈴木は、同じクラスの女子に告白して振られた時の気まずさを思い出した。

「これで昼メシは雪子のおごりだな」
「待ちなさいよ。克洋くんは5人に賭けたんでしょ。5人クリアしなかったら勝ちにならないわ」
「往生際が悪いな、雪子ちゃんは。このペースで行けば5人どころか、ほら、もう4人目だ」
 敗色濃厚。雪子は肩を落とし、財布の中身を頭の中で勘定した。薪は少食で贅沢も言わないから心配いらないが、鈴木は薪の3倍は食べる。今日はクレジットカードに頼るしかなさそうだ。
 4人目も男だった。ナンパにカウントされなかった人数も入れると、これでトータル人数は7人。うち3組、4人が男だ。
「男の方が多いってどういうことよ」
「女子に見えるんだろうな。薪、身体小さいし。ああいう服装の女の子、けっこういるし」
 雪子だって似たようなカッコだろ、と言われれば反論できない。鈴木の言う通り、周りもそうだ。赤やピンクを着ているから女だとは限らない。近年、服装にはどんどん男女差が無くなっている気がする。
「それにしたって。薪くんに失礼だわ」
 あの外見だ。薪は自分の性別を間違われることには慣れているのかもしれないが、雪子だったら頭に来ると思う。女性らしい服を選ぶかどうかはまた別の問題だ。
 憤る雪子に対し、鈴木は苦笑するだけだった。薪の性格を誰よりも知っている鈴木にしてみれば、そう言った連中に薪が心の中でどんな言葉を返しているかは分かりきったことで、それを思えばどちらが失礼なのかは微妙なところなのだ。

 4人目の男が去り、間を置かずに5人目が現れた。今度は灰色の地味なスーツを着込んだ、でもどこか蓮っ葉な雰囲気の男だった。
「はいはい、あたしの負け。約束通り奢らせていただきます。でも焼肉とか勘弁してよね。あたし、今月ピンチなんだから」
「一丸のチャーシューメンでいいよ。薪もあそこのラーメン好きだし――おっと」
 決着も付いたことだし、そろそろ出て行ってもいいだろう。そう考えて鈴木は数歩歩き、しかし再び身を隠した。
 意外なことが起きていた。薪の方から手を伸ばし、男の手を握ったのだ。鈴木はとっさに男の口を読む。
「『じゃあ、そこのホテルで』って、ホテル?! こんな時間から誘うか普通」
「ラブホって基本、24時間営業よね」
 問題、そこじゃない。
 今、鈴木と雪子が潜んでいるのは薪の後ろ。男の唇は読めるが、薪がそれに何と答えているのかは分からない。が、読めなくても薪の答えは分かった。男に肩を抱かれて、駅裏の方へ歩いて行ってしまったからだ。

「あ、メール。薪くんからだ。克洋くんの携帯も鳴ってるよ」
 隣で雪子が何か言った気がしたが、鈴木の耳には入らなかった。しばらく、自失していた気がする。
 我に返って慌てて追いかける。思ったよりも彼らの足が速かったのか、それとも鈴木が呆然としていた時間が長かったのか、二人はもう、駅裏通りの角を曲がるところだった。
 角を曲がったら20メートルも行かないところに1軒目のホテルがある。相手はスーツを着ていたし、これがビジネスホテルだったら仕事に関係することかもしれないと思うが、『らびりんす』というピンクの看板の色彩感覚から門に垂れ下がった暖簾みたいな目隠しのコンセプトから、ラブホテルの見本みたいなラブホテルだった。
 ブラインドカーテンみたいな暖簾もどきを、薪が潜ってしまったらお終いだと、鈴木は必死に走った。
 全力疾走なんて何年振りだろう。走るのはあまり好きじゃない。特にこんな夏の日は。でも薪が。

 入口の1メートル手前で、ようやく追いついた。
「ちょっと。その子、オレの」
 グレーのスーツの腕を捕まえて、強制的に立ち止まらせる。男はびっくりして鈴木を見た。次いで、薪の方を振り返る。
「なに。カレシ?」
「単なる友人です。行きましょう」
「な」
 薪の素っ気ない態度にも驚いたが、薪が先に立ってホテルの門を潜ったのにはもっと驚いた。思わず薪の手を掴む。
「待てよ、薪。こんな男とこんな所に入って何する気だ」
「鈴木、邪魔しないで。10分で終わるから」
「彼女もこう言ってることだし、オトモダチは大人しく待ってな。まあ、10分じゃ終わらないけどな」
 下卑た笑いを浮かべた、男の言い草にカッとした。衝動的に掴みかかると、逆に突き飛ばされて転んだ。
「痛て」
「だっせーやつだな。そんなんじゃ彼女に愛想尽かされて当然、おわっ?!」
 だん! と派手な音が響き、鈴木のすぐ横の地面に男の身体が叩きつけられた。見れば、相手の襟元を締め上げるようにして、男の上に跨った薪の勇姿。
「傷害の現行犯だ。――すみません、お願いします」
 薪が声を掛けると、建物の陰から出てきた警官がわらわらと寄ってきて、スーツ姿の男に手錠を掛けた。「ご協力ありがとうございました」と敬礼する警官に、「予定と違ってしまって申し訳ありません」と薪が頭を下げる。警官はそれには首を振り、再度礼を言って去って行った。

「あーあ、別件逮捕になっちゃった。鈴木のせいだぞ。ヘンな所で声掛けるから」
「え? え?」
 訳が分からない。あの男が何をしたのか、薪がいつの間に警官たちと連携していたのか、見当も付かない。
 狐につままれた様子の鈴木を見て薪は苦笑し、地面に座ったままの友人に手を差し延べた。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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鈴薪の夏!!(°▽°)

ふおおお一番乗り頂きました!!
しづさんがお忙しいことは存じておりますがそれでもしつこく日参(それストーカー)していた賜物です!
もう祭りとかより、夏は鈴薪、てことでオールOkですな。←フライングした人

定番の薪さんナンパ風景、と思いきやまさかのこの時期からもう目隠しプレイ?鈴木さんの前で?と更に思いきやおとり捜査だったとは!
…すでにしづさんに落として上げられました。
でも薪さんなら男とそうゆう、てのが想像出来なくもない、鈴木さんガチで焦りましたよね。何かのきっかけになっちゃうんでしょうか?ワクワク。楽しみです。

私も連載開始前に青薪さんに祝言を……ふーふーふー。

嬉しいですっ。°(°`ω´ °)°。

私、時間差で鈴薪してる~ヽ(´Д`;)ノって焦ってたから、しづさんがこのタイミングでスズマいて下さって安心しました!勝手に!!
ちゃんと雪子さんがいるのもイイ!この3人てまさにこんな感じだったと思うんですよ~ 
そして、薪さんに振り回される鈴木氏(ふだんならハイスペック彼氏のはずなのに)も可愛くて… 人を想う気持ちって、ほんっっっと、人を可愛くして見る者をキュンキュンさせますね~(´∀`*)

なみたろうさんへ

なみたろうさん。

>鈴薪の夏

いいですね、これ!
日本の夏、鈴薪の夏、ですね!←蚊は落ちませんが腐女子は落ちます。

一番乗り、ありがとうございます。拍手早くてびっくりしました☆


>もう祭りとかより、夏は鈴薪、てことでオールOk

ですね!
この際、夏の間はずーっと鈴薪で、あ、ダメ?


>定番の薪さんナンパ風景、と思いきやまさかのこの時期からもう目隠しプレイ?

ないない(笑)
すみません、男爵には眼隠しプレイの設定はありません。エッチ苦手なんで(^^;


>でも薪さんなら男とそうゆう、てのが想像出来なくもない、鈴木さんガチで焦りましたよね。

心配しっぱなしでしょうね~。
ていうか、うちの鈴木さんて、物凄く勝手なんですよね。
自分が薪さんの想いに応えることはできないけど、他の男に取られるのもイヤ。
薪さんも薪さんで、ずーっと鈴木さんへの思いを引き摺ってて……おまえらそれどうなのよ、ってカンジです。


>私も連載開始前に青薪さんに祝言を……ふーふーふー。

若旦那、拝見しましたよ! 
幻想的な雰囲気で……素敵でした!
薪さん、白無垢似合いそうですよね♪ 早く結婚しちゃえばいいのにねえ。

ちえまるさんへ

ちえまるさん。

一緒にスズマキましょう! と思ったら、ちえまるさんの方はもう終わっちゃったんですね。
トロトロしててごめんなさい~。わたしの話なんか、ちえまるさんの半分もないのに。


>この3人てまさにこんな感じだったと思うんですよ~

どうだったんでしょうね?
相性最悪と雪子さんに思わせるくらいですから、昔から仲悪かったんじゃないのかなあ。それを間に入った鈴木さんが上手く取り持ってた感じで。
わたしはそれが辛いので仲良し設定にしちゃいましたけど、原作は……ねえ(^^;


>人を想う気持ちって、ほんっっっと、人を可愛くして見る者をキュンキュンさせますね~(´∀`*)

それを言うならちえまるさんとこのお二人ですよ!
すごい可愛かった~。
あーゆーの、BLって言うんだろうな、と思いながら読んでました。
うちのはなんかウジウジというかドロドロというか、うーん、爽やかさがない。絶望的に。
ちえまるさんとこのお二人みたく、青春を感じさせる鈴薪さんに憧れます。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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