蛇姫綺譚(7)

 薪さんの年齢が公式発表されましたね。
 2066年で39か40、なんですね。男爵の方が1こ年上ですね。←なんじゃそりゃ。

 あのねっ、
 警察のキャリアって、(現行制度だと)入庁前に6ヵ月程度の警大研修があるんですよ。で、青木さんが第九に来たのは2060年の1月、てことはその時には23才になってるはず。薪さんは青木さんより12歳年上だから、2060年で35歳。その設定で書いてしまったもので、うちの薪さんは2066年には41歳に……。
 書き直し無理なんで、もうこのまま。ごめんなさい。




蛇姫綺譚(7)





 目覚めた時には完全に迷っていた。

 薪が気絶している間に青木は再び車を走らせ、しかしその道程は全くもって間違っていたらしい。起き抜けの朦朧とした薪の眼に映ったのは、どこまでも重なる樹木の連なりであった。
「何処をどう走ったらこんな場所に着くんだ」
「地図の通りに来たはずなんですけど。おかしいなあ」
「おかしいのはおまえの頭だ!」
 普段の低血圧を今だけは返上し、薪は叫んだ。
 日は暮れかけている。一刻も早く、この森から脱出する必要があった。森の中で夜になったら大変だ。日本の森にだってクマと言う立派な猛獣がいるのだ。

「太陽の位置からしてあっちが西か。地図によると町は東だ。このまま進め」
「オレもできたらそうしたいんですけど」
 前に進むことはできなかった。樹木が密集して道を塞いでいたのだ。では回り道をと後ろを見れば、そこにも生い茂った樹木の集団が。
「いったいどうやってここまで来たんだ!?」
「それがいつの間にか……すみません」
 なんて器用なやつだ。道もない所に車を迷い込ませるなんて、方向音痴もここまでくれば超能力だ。

 薪は車から下りて人里を目指すことにした。青木の話では森に入って間もないそうだから、それほど距離はないはずだ。歩いて抜けられるだろう。お腹も空く頃だし、できれば民家が見つかると良いのだが。一食ぐらい抜いても自分は平気だが、大食漢の青木は可哀想だ。

「行くぞ」
「はい。薪さん、お身体は大丈夫ですか」
「ああ。もうなんともない」
 頭痛と吐き気は治まっていた。だるさも取れた。単なる寝不足だったのかもしれない。でも昨夜は割と軽かったのに――思い出しかけて薪は自分にストップをかけた。青木はまだ20代。今日の遠出のために昨夜こそ一度で解放されたが、一晩に3回も4回も泣かされる夜の方が多いくらいだ。疲れが溜まっていたのだ、きっと。

 森の中を歩くうちに日は急速に傾いて、周囲はどんどん暗くなっていった。
 程なく辺りは木漏れ日の風景から薄闇に変わり、同時に、鳥のさえずる声までが明るく可愛らしい小鳥のものからカラスの不気味なそれに取って代わった。カラスに悪気はないのだろうが、暗い森の中で聞くとどうにも気味が悪い。

 その鳴き声に導かれたわけでもなかろうが、二人は行く手にとんでもないものを見つけてしまった。
「ま、薪さん。これ」
 青木が声を震わせる。それは白いワンピースを着た白骨死体だった。樹の幹を背もたれに、座った形で骨になっている。頭蓋骨には未だ、黒髪が豊かに残っていた。
「事故でしょうか」
「……自殺じゃないかな」
 死体の前に屈み、少し考えて薪は言った。骨だけでは死因も分からないが、少なくとも骨折はない。森の中を彷徨ううちに力尽きたと仮定するには、人里が近すぎる。覚悟の自殺と考えた方がしっくりくる。
「サンダルに素足。こんな軽装で森を歩かないだろ」
「殺して、森に死体を隠したのかも」
「発見を遅らせたいなら埋めればいい。……あった」
 薪は骸骨の、投げ出された右手を覆うように伸びた下生えを掻き分け、それを見つけた。透明の小さな薬瓶。中は空だが、鑑識に回せば何らかの毒物が発見されるだろう。薪はそれをハンカチに包み、上着のポケットにしまった。

「白いワンピースは白装束、ですか」
「おそらくな」
 服装から推察するに、若い女性だったのだろう。可哀想だが、今は何もできなかった。ここから出たら地元警察に連絡をして、ねんごろに弔うよう頼むしかない。
 せめてもの哀悼に、黙祷を捧げた。それから二人は元の道に戻ったが、日は完全に暮れてしまった。

 すぐに出られると思ったのに、誤算だった。ほんの少しとは言っても車の速さは徒歩の10倍だ。あるいは車の中にいた方が安全だったか、と後ろを振り返って薪は焦った。車が見当たらないのだ。
「青木。おまえの背丈でも見えないか」
「すみません。オレ、暗い所はよく見えなくて」
 そうだった、青木は鳥目なのだ。それでなくとも黒塗りの公用車は暗がりでは見つけづらい。昼間ならともかく、日が落ちてからでは無理だ。
「まずいな」
 日が沈んでしまったら、方角もよく分からなくなってしまった。こんなところで猛獣に出くわせたりしたら。熊が出るほど深い森ではなかろうが、野生の猪でも充分に脅威だ。テレビで見たことがあるが、物凄い速さで突進してきて体当たりで金網を破るのだ。あの勢いで激突されたら人間の脚くらい簡単に折れる。

 薪が心配する側から、後ろの茂みでガサリと音がした。
 青木と二人、反射的に身を竦める。茂みを震わす音は次第に大きくなり、こちらへと近付いてきた。無意識に手を取り合う。
「薪さん、逃げてください。さすがにクマに勝てる自信はありません」
「クマの足の速さは時速40キロだぞ。逃げ切れるもんか」
 やがて硬直する二人の前に、それは姿を現した。

「「うわあっ!」」
 見事にハモった二人の悲鳴が森に木魂し、驚いた鳥たちが一斉に羽ばたく。舞い散る鳥の黒い羽と木の葉の向こうに立っていたのは、真っ白い髪を長く垂らし、ぎょろりと目を光らせた恐ろしい顔つきの年老いた女。曲がった腰に杖をついた、その姿はまるで。
「だれが山姥じゃ!」
「「言ってません」」
 力いっぱい思いましたけど。

「し、失礼しました。地元の方ですか?」
 バクバクする心臓をなだめすかし、薪は老婆に尋ねた。老婆は曖昧に頷き、薪の足元辺りを胡乱そうな眼で見つめた。老婆の視線を辿ってみると、青木が腰を抜かして地面にへたり込んでいた。なんて度胸のない男だ。
「おぬしら。迷いんさったか」
 はい、と薪が頷くと老婆はくしゃりと顔を歪め、どうやらそれは笑いの表情であるらしい。クツクツという控え目な笑い声が彼女のたるんだ顎の下から聞こえてきた。
「この森は迷いの森じゃ。案内無しには抜けられんから、死にたがりも大勢押し寄せる。そういう連中は放っておくが、おぬしらは違うようじゃの」
 ついと踵を返し、老婆は薪たちの前に立った。袴のようにゆったりとしたズボンに割烹着姿。妙に迫力のある老婆だが、出で立ちから察するに農婦のようだ。
「付いてきんさい」

 後を追おうとして、青木に手を掴まれた。まだヘタってるのか、置いていくぞと薪が脅せば青木はぶるぶると首を振り、
「行っちゃダメです」
 なにを戯けたことを。ここで彼女に助けてもらわなければ、野宿確定ではないか。
「なに言いだすんだ。今の状況、分かってんのか」
「だってあの人、人間じゃないですよ」
「おまえ、失礼だぞ。確かに彼女のビジュアルは人間離れしてるけど」
「人間離れしてるのは薪さんも一緒ですけど、そういう意味じゃないです。あの人は――、待ってくださいよ、薪さん」
 ビビリ男の戯言なぞ放っておくに限る。薪はさっさと老婆の後に着いて歩き、すると予想通り、青木も後ろを着いてきた。

「ありがとうございます、助かりました。お婆さんはこの森にお詳しいようですね」
「当り前さね。わしはこの森に90年も住んどるんじゃ」
「90年? お元気でいらっしゃる」
「独り者じゃからの。元気でないと生きていけぬわ」
 こんなところに老婆が一人で? この町の福祉体制はどうなってるんだ。
「ご不自由はありませんか」
「案内無しには森も歩けんおぬしらの方が、よっぽど不自由だと思うがの」
 これは一本取られた。いま面倒を見てもらっているのは自分たちの方で、その立場から彼女の生活スタイルに口出しするのは大きなお世話と言うものだ。
「おっしゃる通りです。余計なことを言いました」
「まあ無理もないわ。町のもんには想像もつかん不便な生活じゃからの」
「いえそんな。僕は割と昔から田舎暮らしには憧れてて」
 そんな風に薪と老婆は和やかに話しながら歩いていたが、青木は一向に固い表情を崩さなかった。警戒心いっぱいの声音で老婆に向かって、
「森の出口まで案内してもらえれば、そこまででけっこうですから」
 よっぽど老婆の登場の仕方が怖かったのか、青木にしては心無い言葉だった。救いの手を差し伸べてくれた相手に礼も言わないなんて。

「年寄りの眼と足じゃ。明日、明るくなってからでないと案内はできん」
 青木は一刻も早く森を抜けたかったのだろうが、老婆の言い分も尤もだ。彼女も家路に着く途中だったのだろうし、自分たちと別れてから森の中に帰らせるのは逆に心配だ。
「薪さん。やっぱり引き返しましょう」
「行きたきゃ一人で行け、バカ」
 青木はとても困った顔をしたが、暗闇の中、その表情は薪には見えなかった。結局、青木は薪の言葉に従った。

 老婆に導かれた二人は、森の奥へと入って行く。聞こえてくるのは葉擦れの音と、目覚めたばかりのフクロウの鳴き声。暗闇に沈む森の中、ぼんやり灯る提灯の明かり。それはなんとも風情のある日本の夏の夜だった。

 やがて3人は、寂れた古民家に到着する。そこが老婆の家らしい。
 老婆は一人暮らしとの話だったが、それにしては大きな家だ。所々に雑草の生えた重そうな藁ぶき屋根を、自然の形を残した丸太柱がしっかりと支えている。壁も扉も木造りで、コンクリートや鉄筋の類は使われていない。庭には小さな畑があり、自分が食べる分の野菜はここで作っているようだ。その隣には納屋がある。農作業に使う道具や肥料などが置いてあるのだろう。

 日はとうに暮れたのに家に灯りは点いておらず、しかし老婆は迷いなく家の扉を開けて中に入った。
「今夜は泊っていきなんし」



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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名無しさんへ

(5)と(7)に無記名で拍手コメントいただいた方へ


>世の中には色んな神さまがいるものだ。その多くは困窮した人々が作りだした自分たちに都合の良い夢物語。女性が少なく、子宝に恵まれ難かったこの村の、それが願望だったのだろう。ひょとして子宝に恵まれなかった?かな??

一人も生まれなかったわけではなく、子供ができにくかった、という設定なのですが、恵まれにくかった、ではおかしいですか?


>ついと踵を返し、老婆は薪たちの前に立った。袴のようにゆったりとしたズボンに割烹着姿。妙に迫力のある老婆だが、出で立ちから察するに農婦のようだ。「着いてきんさい」「着いてきんさい」は誤字?

あ、これは誤字ですね。失礼しました。
「付いてきんさい」ですね。訂正しておきます。


せっかく教えていただいたのに失礼なんですけど、
ひとつ、よろしいですか?

ブログトップの「はじめまして」に明記してある通り、わたしは単純に、薪さんを愛でたいだけなんですよ。
このブログも、薪さんスキーの方とお喋りするのが目的なんです。
なので、
無記名で、言い回しや誤字脱字だけを指摘してこられても、ちょっと対応しにくいです。
わたしにとっては二次創作は遊びなので、そこまで神経使って書いてない、と言うのもありますが……仕事じゃないし、ねえ(^^;


できれば次はHNと、あなたの薪さん愛を語ってください。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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