蛇姫綺譚(14)

 明日は発売日ですね!
 事件の展開がとても楽しみです。どういう風にあのシーンに結びつくのかなあ。わくわくするなあ。



 続きです。
 うーん、やっぱりオワラナカッター。



蛇姫綺譚(14)






「それはないだろ!!」
「蛇姫の力は唯一無二のもの。二人いては争いの元じゃ」
 派閥争いを防ぐため、前リーダーを殺すのは古代史だけでなく動物の世界でも普通になされることだ。理屈は分かるが、はいそうですかと頷くわけにはいかない。
「待て! 青木は関係ないだろう!」
「その男の精力は惜しいが、おぬしも一応は蛇姫の魂を持つ者。供の一人もおらぬでは、果敢なさが過ぎようと言うもの」
「僕は一人で平気、むががっ」
 1メートルほど開いた板の間をひょいと飛び越えて薪の隣に立った青木が、いきなり薪を抱き締める。驚く間もなく口を手で塞がれた。
「なにす、んうっ」
 薪には青木の意図はさっぱり解らなかったが、ハツには伝わったようだった。蛇姫の神通力、というかその場で分かっていなかったのはあるいは薪だけだったかもしれない。

 ハツは、手に入れた若さと美貌を薪に見せつけるように、悠然と笑った。
「二人一緒に逝けるのじゃ。感謝せえよ」
 青木の腕の中で、薪はぎりぎりと歯噛みする。そうする間にも床はどんどん少なくなって、助かるには今この場で鳥にでもなるしかないところまで追いつめられてしまった。
「くっそ、化けて出てやるからな! オボエテロ!!」
「どこが科学的なんですか」
 呪いの言葉を吐いても床は止まらない。次の瞬間、抱き合ったまま下に落ちた。

 思わず目を瞑る。
 青木のように蛇を見ただけで悲鳴を上げるほどではないが、これだけ大量の蛇の中に入るのだ。いかに豪胆な薪とて身体が竦む。

 意外にも落ちた衝撃は柔らかく、大量の蛇がクッション材になったものと思われた。が、周りはヘビだらけだ。突っ込んだはずみに何匹か服の中に入ってるし、気の弱い人間なら気絶していてもおかしくない。
「青木っ、大丈夫か!?」
「☆□▽※~~!!!」
 だめだ、こりゃ。
 それだけパニクっていても青木は薪を放さない。強く抱かれ、ひしゃげられて苦しい呼吸の下で薪は必死に活路を模索した。色彩豊かな蛇たち、だが見たところ、毒蛇はいないようだ。普通の蛇に少々噛まれたくらいなら人は死なない。蛇たちを刺激しないよう注意して逃げ道を探せば助かるかもしれない。

「うん?」
 蛇の中に突っ込んでしまった足をそうっと出して、薪は不思議に思った。靴を履いていないのに、噛まれた跡がないのだ。
 蛇と言うのは獰猛なイメージがあるが、実は臆病な生き物だ。大きな音を立てながら近付けば逃げて行ってしまうし、いきなりテリトリーに踏み込んだりしなければ襲ってきたりはしない。今回の場合、蛇たちにしてみれば突然人が降ってきたのだから手当たり次第に噛みまくってもおかしくないのだが、彼らにその気配はなかった。
 落ち着いて蛇たちの動きを見れば、彼らはその長ひょろい身体を必死にくねらせて、薪たちの下に入り込もうとしている。ある可能性に思い至り、薪は青木に命じた。
「青木。手を放せ」
「おひゃは! まっ、ひゃん、ぼ、いいいい! ひ、ひんでもあ、あああ~っっ、ます!(訳 オレは薪さんのボディーガードです。死んでもあなたを守ります)」
「無理して喋らなくていい。力抜け」
 強張った青木の腕からようよう脱け出すと、薪は蛇たちの上に仰向けに横たわった。
「薪さん」
「いいから。おまえもやってみろ」
 彼らが作り出すうねりに身を任せれば、自分の身体が一方向へと運ばれていくのが分かる。背筋を伸ばし、大人しくしていれば蛇の海に埋もれることはない。背泳ぎの要領だ。

「蛇のベルトコンベアーですね」
「尻の下がちょっと気持ち悪いけどな」
 慣れてくれば起き上がることもできる。二人は蛇の絨毯の上に胡坐して、暗い通路を進んだ。何処へ連れて行かれるのかまだ安心はできないが、ひとまず命の危険はなさそうだ。

「この方向ってもしかして」
「分かるのか」
 方角に心当たりがあるらしい青木に説明を促したが、それを青木が口にする前に出口が見えてきた。薄暗いランタンの下、扉代わりの粗末なベニヤ板が無残に割られている。どうやら青木が閉じ込められていたと言う庭の納屋のようだ。
 二人を納屋に下ろすと、蛇たちはぞろぞろと通路に戻っていった。虹色の動く絨毯が少しずつ闇の中に帰って行く様子は、幻想的で美しく、荘厳ですらあった。

「さて、行きましょうか。よく掴まっててくださいね」
 裸足の薪を抱え、青木は自分が破った戸口から外に出た。屋外に出て、外が暗いことにひどく驚く。まだ夜が明けてなかったのか。
「困りましたね。長居はできないし」
 薪が生きていることが分かったら、争いの目を摘むと言う名目で、また村人たちに命を狙われる。仕方なく青木は森の中を進んだ。車まで行ければトランクに薪のスニーカーが積んである。例え車を動かすことができなくとも、歩いて森を抜けることができるようになる。
「青木。そこ右だ」
「えっ? まさか薪さん、車の場所を覚えて……いや、もう驚きません」
 最初、それを二人は気のせいだと思った。自分たちが進む道の草木が、二人を避けてくれるように感じたのだ。事実、二人が通り過ぎた後、草木は元の位置に自然に戻った。後方で起きている現象に気付かず、薪と青木は難なく車まで辿り着いた。

「あれっ?」
 自分たちの車を発見して、二人は驚きの声を上げた。不思議なことに、車を取り囲んでいたはずの樹木が消えていたのだ。
 村人たちの言葉を信じるならばこれも蛇姫の神通力と言うことになるが、何らかの理由で術が解けたのか。解けたと言うよりは解いた、要するに。
「蛇姫失格ってことか」
 薪は心の中でガックリと肩を落とす。もちろんやりたくはなかった、しかし、ハツが言ったような理由でお役御免になったのだとしたらものすごく情けない話だ。男として切なすぎる。90過ぎの老婆に下半身で負けるなんて。

 無言で不貞寝してしまった薪を横目で見やり、青木は何も言わずに車をスタートさせた。今までの経験から下手な慰めには鉄拳が飛んでくることを知っていた彼は、しばらくそのままで車を走らせた。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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