蛇姫綺譚(17)

 雨が降って現場がお休みになりまして。
 昨日は怠け癖のせいで溜めてしまっていたコメントのお返事を書きました。(それでもまだ全部返し切ってないんですけど(^^;)
 いつも励ましてくださってありがとうございます。現場が始まってしまうとどうしてもこちらが手隙になってしまうのですが、どうか長い目で、これからもよろしくお願いします。

 拍手もたくさんありがとうございました。おかげさまで6万超えました。
 お礼SSは予告通り「モンスター」で、あ、S話はダメ?


 先々月からの続きもの、これでおしまいです。
 お付き合いくださって、ありがとうございました。




蛇姫綺譚(17)





「つまり……どういうことですか」

 ベッドの中で、青木はパジャマ姿の薪に尋ねた。薪の方に寝がえりを打つと、その重みでマットのスプリングが小さな音を立てる。
 ベッドでの質問にしては色気のなさ過ぎる青木の疑問に、薪は「うん」と気のない返事を返し、両手を組み合わせて自分の頭と枕の間に差し込んだ。
「あれは夢だ。僕たち二人して夢を見てたんだ。水曜日の夜からずっと」
 オードヴィの予約が取り消された水曜日、二人で見たはずの宮原さつきのMRIはハードディスクから消えていた。ログも残っていなかった。捜査一課の刑事たちはもちろん、第九の誰もその事件を憶えていなかった。
「水曜の夜からって、今日は金曜日ですよ?」
 夢オチなんて苦しすぎる。風呂敷広げ過ぎて収拾付かなくなった小説家みたいだ。

「木曜日はオレたち二人とも無断欠勤になってるし。岡部さんが気を利かせて、薪さんが頭痛、オレが腹痛ってことにしておいてくれたから助かりましたけど」
 N県から帰った二人を待っていたのは、第九の仲間たちの心配顔だった。2人の関係を知っている岡部だけは渋い顔をしていたが、てか岡部さん、それ誤解です。堅物の薪さんが「今日2人で会社休んじゃう?」みたいな美味しいこと許してくれるわけないじゃないですか。

「やっぱり白蛇の祟りだったんじゃ」
「非科学的なことを、と言いたいところだが。キツネの妖術があるくらいだし」
 3ヶ月前、T県の森の中でキツネに化かされた。その前には妖怪の棲む森で散々な目に遭った。どうも森とは相性が悪いらしい。
「なんか、今年に入ってから連発じゃないですか。今年はこういう年なんですかね」
「雪子さんが竹内と結婚したくらいだからな。何が起きても不思議はないが」
 薪は雪子が大好きなくせに天然で失礼だと思う。

「あくまで僕の主観と推論だけど」
 天井を見据えたまま、薪はそう前置きして、先日の不可思議な体験を整理した。
 蛇姫伝説は現代のものではなく、過去の出来事ではなかったか。だから舗装道路もなく、携帯電話も使えず、地図も役に立たなかった。

「タイムスリップってことですか」
「夢の話だからな」
「なるほど」
 夢と言うことにしておかないと、現実主義者の薪は話ができないのだろう。青木は相槌を打ち、話の続きを促した。

 白蛇の死がタイムスリップのトリガーだった、と薪は語った。
 それからすぐナビが使えなくなり、電話もインターネットも繋がらなくなった。薪が記憶していた現代の地図は役に立たなくなり、交番にはその時代に勤務していた老巡査が現れた。田崎巡査が口にした「蛇神村」の地名は正しかったことになる。
「薪さんが蛇姫に魅入られたのは、MRIで始祖の蛇神を見つけたからですか」
「……たぶんな」
「伝説通り、4匹の蛇の死にも立ち会っちゃいましたしね」

 ハツの話から、ボンネットで死んでいた3匹の蛇は蛇姫のお供であることが分かった。自分たちは律儀にも、自分たちの車で彼らを殺し、彼らの死骸を蛇姫と同じ墓に埋葬した。つまり殉死の手助けをしたことになる。
 蛇姫の生まれ変わりの儀式に貢献したことで、余所者であるはずの薪が次の蛇姫に決まった。若い女性はもはや、蛇神村には存在しなかったからだ。蛇神にまで女性だと思われていたことは薪は認めなかったが、多分そういうことだ。
 蛇たちを埋葬した後、青木は、白蛇が薪の口から体内に入って行くのを見た。薪には白昼夢だと蹴られたが、あれは幻ではなかったのだ。
 その後薪は、蛇姫の巫女たるハツにその身を狙われることになる。最初は蛇殺しの罪人として、蛇姫の魂が薪の中にあることが判明してからは次の蛇姫として。蛇姫に村の男たちの子を産ませ、村を存続の危機から救うこと、それが巫女の役目だからだ。
 ハツの神通力によって2人は森に迷い込まされ、彼女の屋敷に誘導された。薬を盛られ、発情した薪が男たちと交わって子を生せば、それでハツの計画は完遂される。事実、薪の身体にはその変化が起きていた。ハツの計画が頓挫したのはたったひとつの誤算、薪の下半身が異様に残念だったと言うことで――、
「やかましい!」
 すねを蹴られて青木は呻く。心の中で思ったのに、これぞ神通力。

「蛇神村のことはだいたい解りました。でも、それと宮原さつきの事件が消えてしまったこととは」
「森の中の白骨死体は宮原さつきの母親だ」
「え」
 あれが宮原さつきの母親?
「まさか」
「ワンピースのタグが同じだった」
 そんなところまで見ていたのか。言われてみれば顔立ちが似ていたような……そうだ、彼女は子供を「さっちゃん」と呼んでいた。

「あの森にオレたちが居合わせたことで彼女は自殺を思い留まり、結果、宮原さつきはまったく違う人生を歩むことになったと。――でも、母親が自殺したのは蛇神村が無くなった後ですよ? そうじゃないと宮原さつきの年齢が合いません」
「うん、そうなんだ。だからあの森は、場所によって時間軸がバラバラだったんじゃないかと思うんだけど……その辺は僕もよく分からない。ただ、白骨死体の傍で拾った薬瓶が翌朝になったら消えてしまったのは事実だ」
「逃げる途中で瓶を落として」
「それは考えにくい。瓶を包んでおいたハンカチはポケットに残って」
 言葉を切って、薪は小さな欠伸を洩らした。手枕を解いて薄い掛布団を引き上げる。

「いずれにせよ夢の話だ。もう寝るぞ。今日は疲れた」
 薪はくるりと寝がえりを打つと、青木に背を向けて押し黙った。枕元のリモコンで部屋の明かりを消して青木は、ほの白く光る天井のクロスに、巫女の衣装を着けて蛇姫の化粧を施した薪を思い浮かべた。





*****




 隣から寝息が聞こえてくると、薪は静かに身体を回転させ、闇の中で青木の寝顔を見つめた。
 健やかに、規則正しく繰り返される呼吸に安心をおぼえる。何があっても熟睡できる青木の若さと図太さを羨ましく思いつつ、我知らず緩む口元に失笑しつつ、薪はそっと彼の肩に自分の額を押し付けた。

 ――青木に話さなかったことがある。蛇姫が自分を選んだ本当の理由だ。
 自分は、子供好きの青木に子供を持たせてやれない。そのことがひどく気になっていた。だからかもしれない。
 青木の子供を産みたいなどと考えた覚えはない。それでも心のどこかにきっと、そんな生活を夢見る自分がいたのだと思う。それが、女の機能を失ってなお子を持ちたいと願う女の姿に重なったのだ。だから蛇神は自分に宿ったのではないか。

 この際、蛇神の真意などどうでもよい。
 そんな莫迦げた考えを抱くほどに、彼と別れたくないと自分は思っている。問題はそこだ。

 来年は青木と別れなきゃいけない、そう意識し始めた今年になって立て続けに奇妙な世界に誘い込まれたのは、そんな現実から逃れたいと願う、自分の弱さが魔を呼んだからなのか。
 あと1年。本当に、僕は青木と別れられるのだろうか。
『約束の期限までには必ず彼と別れます』
 去年の夏、薪は小野田にそう言った。そんな期限を切っているような人間が、例え僅かな間とは言え彼の側にいてもいいのだろうか。彼に愛される資格があるのだろうか。

 答えの出ない問いは、夜ごと薪を苦しめる。
 彼との時間が重なるほどに、愛される喜びを知るほどに,、深く、重く。

 薪は手を伸ばし、身体の脇に薪の手を待つように置かれていた青木の手のひらに自分の手を重ねた。力の抜けた青木の手指の間に自分の細い指を滑り込ませ、軽く握る。深い眠りの中で、青木が満足気な吐息を洩らした。

 永遠には無理だけど、せめて一緒にいられる間は。
 この世で一番の幸せを彼にあげられるように努力しますから、僕にもう少しだけ時間をください。

 誰にともなく祈りながら、薪は眠りに就いた。




―了―



(2015.8)



 この話、上手に着地できなくてすみませんでした。
 自分でも納得できなかったんですけど、ぶっちゃけ在庫が無くて(^^;
 次の話はもう少しまとまってると思うので、見捨てずにお付き合いいただけるとうれしいです。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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お疲れさまでした~( ;∀;)

妖艶な伝承のお話と思いきやギャクに見せかけて、結局薪さんいじらしくて哀しくて愛しくて死にます。←日本語崩壊。

お忙しいのに完結と昨日はお返事までありがとうございました、お疲れさまです!

俺が欲しいのはあなただけです。
青木の言葉を信じてあげて欲しいけど、考えてみたら自分だって。オスの本能として子孫は残したいでしょう?私でいいの?と必ず思ってしまう、大して変わらん(笑)いやリアルだなあ~
2015年では同姓パートナーが認められつつありますよ。しづさんのこのお話のように、過去が変われば薪さん達の生きる時代も変わったりして。てか神様(清水先生)が同姓婚もアリ、ぐらいにかきかえてくれないか?舞ちゃんの父兄参観に行ったら同姓カップルが普通にいて青木ショック、ぐらいのことがないかな?

最近原作でびっくりすることが多いですが、「薪さんの幸せ」とゆう面でもこちらに近付いてくれませんかね。

ところでノリがRの時と気持ち悪い時、私もあります!(爆)私の共感では更年期説が強まっただけかも。すいません。
でもしづさんの発言から「薪さん初めてのド…」妄想が始まりました。あー。

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なみたろうさんへ

なみたろうさん。

コメントありがとうございますー。


>妖艶な伝承のお話と思いきや

肩透かしですみません(^^;
なんか今回、まとまらなかったの。まあいつもそうなんですけど、今回は特に。


>考えてみたら自分だって。

リアルに身に積まされますね(^^;
薪さんはどうなんでしょうねえ。
原作薪さんはジェネシスの頃、子孫を残す気はないと明言してましたが、今も変わってないのかな。



>舞ちゃんの父兄参観に行ったら同姓カップルが普通にいて青木ショック、ぐらいのことがないかな?

ねえ!
ありえますよね、これから40年も先の話ですもの!!


>ところでノリがRの時と気持ち悪い時、私もあります!(爆)

えっ! なみたろうさんでもあるの!? (失礼なようなそうでないような)
そうかあ、あるんだ~。だったらわたしがそうなるのは当たり前ですね。わたしの方が年上だし。
途中になってるRはいくつかあるのですけど、周期的な物みたいなので、のんびり次の波を待つことにします。

ありがとうございました。



Sさまへ

Sさま。

コメントありがとうございます。

そちらも雨でしたか。
ええ、雨の日は気持ちがゆっくりしますよね。現場に出るようになってから、雨降り好きになりました(笑)


>正直夢落ちになるとは思ってなくて。

いえ、これ、夢落ちではないんですよ。
夢だと言い張っているのは薪さんだけで、それも心の中では現実だったと認めているのです。ほら、「第九の室長は科学で証明できることしか信じない」と啖呵切っちゃったし、ねえw


>タイムスリップして、だから最後に出てきた女の人が自殺したはずの人で、でも、ほんの少しだけ薪さんたちが時空のずれた現代に戻ったから、あの人は生きてたんだなと。
>んー、いや、タイムスリップする直前にすでに少しだけパラレルの世界に踏みいってから時空越えたって方がいいですね。
>あの森はそういう歪みのある場所でさ。

そう、その通り! Sさんのお考え通りです。
ちょっと分かり難かったかな~、と思っていたので、ちゃんと理解していただけて嬉しいです。



>楳図かずおの「漂流教室」ご存知ですか?

はいはい、コミックス持ってますよ。
すっっっごい、怖かったですよ(^^;
原作はね、主人公たちが小学生なんですよ。で、先生たち大人がものすごく怖いんです。子供は柔軟で環境に適応していくけれど、大人は現実を受け入れられなくて狂ってしまったり、独裁者になって行ったり……それも、普段は良い先生、やさしい人がそうなってしまうから、コワイコワイ。絵も怖いから、迫力満点で。
怪虫の話とペストの話は特に怖かった。この漫画は今でもわたしのホラーオブキングでございます。

ドラマもありましたね。
高校生くらいの設定でしたっけ?
内容は忘れてしまいましたが、原作通りには進んでなかったような。


>シエル・ファントムhyde伯爵

見ましたよぉ。
本当に、奇跡の40代ですよね(@@)
骨格からしてキセキ!

ハロパ、行けなくて残念でしたね。
生シエル、見たかったですよねえ。

しかし、
ご自分の娘さんと同い年のお友だちがいるって、すごいことですよね。話に付いていけるってことですもの。Sさん、お若い!
わたしなんか土木関係のことしか分からなくなっちゃったから、すっかり女友達から遠ざかってしまって……これで秘密コミュ追い出されたらぼっちです(^^;


>「キャンディ」

あ、未読でしたか?
あの頃は公開が2日間だったから、期間が短くて読めなかった人もけっこういらして、コメント欄で知ったからもう一度公開してください、て言われて公開したことも何回かありました。面倒掛けてすみませんです。

今回もやっと(笑)1週間の羞恥プレイが終わりまして、ホッとしております。
公開中はヘンな汗いっぱいかいちゃうのよ(^^;



>平井さんの疑惑

えっ?! そうなの!?
知らないー!
槙原さんは聞いたことありますけど、さぞご苦労が多かったことでしょうと同情しましたけど、それは知らなかったです。

そうですね。
行政からパートナーシップ証明が発行される時代ですからね。個性として捉えればいいと、わたしも思います。
仰る通り子孫は残せませんが、人を愛することと子孫を残すことはまた別問題、ですよね。少数派であることには変わりないですし、彼らに子供がなくとも人類は滅びません☆


次のお話は、
はい、久しぶりにドS話を書きましたw
単にSというだけじゃなく、この話は賛否両論あるだろうなあ、と覚悟しています。でも書いてて楽しかったの、てへ。



Aさまへ

Aさま。

いつのことやらなお返事で誠にすみません(^^;


>キツネとか妖怪とか

この年は多かったですね。そういう年回りだった、ということで。
うちの雪子さんが結婚したのも2066年だったんでね、そういう年回りってことでねw


>青木の偽物に抱かれたことも夢ということでチャラにしてもらいましょう(笑)

そうか、それで薪さん、夢に拘ったんですねww
うちの青木さん、嫉妬に狂うと怖いからねえ。


>次のお話は

ふふふふ。
甘いお話がお好みのAさまには、ていうか、大多数の方には申し訳ないのですが(^^;
わたしが一番乗れるタイプのお話でございます、お楽しみにっ。うけけっ。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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