モンスター(4)

 こんにちは。
 めっきり寒くなりましたね。現場の風が冷たいです。

 映画化の影響なのか、新しい秘密ファンの方、増えてるみたいですね。或いは、映画化がきっかけで再燃された方とか。
 うちにも何人か来ていただいてるみたいで、ここ1ヶ月くらい、拍手の数が半端ないです。1ヶ月で4000超えとか、ありがとうございます。そろそろ次のお礼SSのネタ、仕込んでおかないと、あ、でも、今やってる道路工事が来年の5月までだから……来年の夏でもいい?(^^;

 こういうの書きたいなあって言うのはあるんですけど、みなさん、「プライド革命」という神曲をご存知ですか?
「銀魂」のOPになってたんですけど、これがすごくいい歌なんですよ。鈴木さん亡き後、必死に第九を守る薪さんにぴったりなの。
 一部、歌詞を抜粋しますと、
「弱くたって 立ち向かうんだ 理由なら きみ(鈴木さん)にもらった」←自動変換機能ON
「声にならない 叫び声が 胸の中 震えてるんだ」
「今は 一人じゃない 胸が熱いよ 勇気(ちから)なら きみ(青木さん)にもらった」←自動…
「守り抜くために 闘うよ」
 てな具合で、これで1本書きたいな~、て。

 はい、ご想像通り、色気のない話になりそうです(笑)




モンスター(4)





 湯船に浸かって腕を上に伸ばし、薪は大きな欠伸をした。肩を回して凝りをほぐす。肩凝りは薪の、何年も前からの深刻な悩みだ。

 言えば青木が岡部直伝のマッサージをしてくれる。しかし彼は試験勉強の最中だ。邪魔してはいけないと、ここ1ヶ月ばかりは接触を控えている。と言うのも青木のマッサージは途中からいつも別のことになってしまって、なのに結果的には肩凝りが軽くなるから薪は不思議でたまらないのだが、問題はそのあと二人して寝入ってしまうことだ。ただでさえ仕事と勉強の両立は大変なのに、そんなことに体力を使わせては青木が可哀想だ。
 それでも、週末くらいは彼と触れ合う機会を持とうと薪は考えている。試験勉強でストレスが溜まっているみたいだし、どこかに連れ出せば気分転換にもなるだろう。

 それにしても、と薪は笑いを洩らす。
「青木のやつ、拗ねちゃって。かわいかったな」
 甘い表情からも分かるように、薪は先刻の諍いを針の先ほども気にしていない。小さなすれ違いが起きただけ。あのくらいで壊れるような脆い関係じゃない。
 一生一緒にいようと、心に決めて暮らし始めたのだ。これくらいのことでいちいち騒ぎ立てていたら先が思いやられる――。

 ふ、と薪は嬉しそうに微笑んだ。
 好きな人と過ごす未来を思い浮かべることができる、なんて幸せなことだろう。青木と会ったばかりの頃は想像もつかなかった。自分にこんなにも平穏な日々が訪れるなんて。
 鈴木のことは忘れていない。彼に会いたい気持ちもある。でも、死にたいなんて今は欠片も思わない。
 青木と生きていきたい。命が続く限り、ずっとずっと、彼と一緒に。
 だからこそ。
 薪は今日、荒木の家に行ったのだ。



*****




「すいません。ボロい部屋で」
 近所のスーパーと青果市場隣接の直売所で買ってきた食材を冷蔵庫に収納しながら、荒木は照れ臭そうに笑った。確かに今薪が住んでいるマンションに比べたら貧相な住居だが、どっこい、実は薪は貧乏には慣れている。
「いや。僕の学生の頃のアパートより、かなり上等だ」
「え、うそ。室長って昔ビンボーだったんですか?」
「ああ。小さい頃に両親亡くしてな。親戚に育ててもらったんだ」
 苦労したんですね、と相槌を打ちながらも荒木の手は忙しく動いて、エコバック二つ分の食糧は5分足らずであるべきところに収まった。これが青木なら倍は時間が掛かる。話をするときには必ず相手の顔を見るから手が止まってしまい、冷凍物が融ける、と薪に怒られるのだ。

 ドアを開ければそれで全てが見通せてしまう荒木の住まいを見て、薪は感心したように言った。
「一人暮らしの割にはきれいにしてるな」
 部屋はダイニングを入れて二つしかないから青木のアパートよりも狭い。それでも部屋の中は青木の家より片付いていた。余計なものがないのだ。
「すっきりして気持ちがいい」
「物が買えないだけっすよ。金、なくて」
 荒木は自嘲したが薪には居心地がよかった。薪の部屋も、ずっとこんな風だったからだ。

 オーディオコンポだの観葉植物だの絵画だの、そう言った余計な物を置く気がしなかった。あれば生活が潤うのかもしれないが、欠かせないものではない。だったら必要がないと考えていた。掃除の邪魔になるし、部屋の広さは限られているのだからスペースの無駄遣いだとも思った。
 青木と暮らし始めてから、薪の部屋には雑多なものが増えた。
 ガラスや金属でできたアートオブジェにサンスベリアの鉢植え。ソファの上には色違いのクッションが二つ、床には夏用のラグと雑誌やリモコンを突っ込んでおくマガジンラック。ベタベタのシャガールを飾ろうとしていたからそれだけはやめさせて、無難な風景画にしてもらった。
 この部屋もきっと、荒木に生活を共にする人ができれば相手の色に変わって行くのだろう。そんなことを考えながら、薪は買ってきたものの中から早めに使った方がいいと思われる食材を選んで、簡単な夕食を作った。ごはんにみそ汁、サンマの塩焼きにほうれん草のお浸し。煮物は初心者は敬遠しがちだけれど、煮汁の配合を覚えてしまえばバリエーションが豊富で重宝する。今夜は里芋にした。

 書斎机兼食卓のローテーブルに夕食の膳が並ぶと、荒木はぱちぱちと手を叩き、バースディケーキを前にした子供のようにはしゃいで、
「すげー。室長、魔法使いみたいっす!」
 大げさなリアクションに、つい笑ってしまった。
「そんなに難しい料理は作っていない。茹でただけ、塩を振って焼いただけ。簡単だろ」
「そこまではなんとか。でも、煮物はおれのキャパ振り切ってます」
「だし汁に味醂と醤油を1:1。微調整は必要だけど基本はそれで行けるから。何度も作るうちに上手くなる」
「そうなんすか、てかウマ! これ、超ウマいっす!」
 直球過ぎる感想に苦笑する。手料理を絶賛されるのは青木で慣れているが、青木は薪に対してこんなに馴れ馴れしい口の利き方はしたことがない。
 青木が新人で入って来た時も荒木と同じくらいの年だったと思うが、青木は育った環境のせいか目上の者に対する態度がしっかりしていて、こういう砕けた言葉は薪に対しては使わなかった。第九の中でも礼儀にうるさい山本などは荒木の喋り方に眉を顰めているようだが、薪はそれほど嫌ではない。知り合いに、生意気な口を利く少女がいるせいかもしれない。

 荒木は、食事の最中も賑やかな男だった。
 薪も青木も食べ物が口の中に入っているときは喋らないから、食事中に会話が途切れることがしばしばある。たが荒木はそれがない。口を動かしながら何かしら喋っている。話をしながら友人からだろうか、スマホでラインにも答えている。器用な男だ。
 などと感心している場合ではない。荒木のペースに乗せられて、本来の目的が果たせなくなりそうだ。荒木が汁椀に口を付け、会話が途切れたほんの僅かな隙を狙って、薪は本題に入った。
「荒木。仕事には慣れたか」
「はい。おかげさまで」
「対人問題は? 大丈夫か」
「最高っす。先輩はみんないい人ばっかで、あ、山本さんとはちょっとだけソリが合わないっつーかアレですけど、でもケンカとかはないっす」
 山本は慇懃無礼を絵に描いたような男だ。ら抜き言葉が基本で砕け過ぎる傾向のある荒木とは噛み合わないだろう。もっとも、山本と話が弾むのは誰にでも合わせられる青木くらいのものだが。

「一番仲いいのはやっぱ青木さんっすね。すげーよく面倒見てくれるし、教え方も丁寧で。自分の仕事後回しにして教えてくれるもんだから、こないだなんか小池さんに『余裕だな』なんてイヤミ言われちゃって。気の毒になっちゃいました」
 青木、安心しろ。僕が百倍にして返しといてやる。
「偉ぶらないけど仕事できるし、頼りになる兄貴って感じで――なんでそこで笑うんすか」
「いや。……荒木は、兄弟は?」
「一人っ子です」
「ご両親は」
「元気っすよ、親父もおふくろも。や、親父は人間ドックで肝機能高いって医者に注意されたって」
 大きめのサトイモをぱくりと口に入れ、リスのように頬を膨らませる。小動物を思わせる動作が荒木のチャームポイントだと誰かが言っていたが、確かに。

「そうだ、おふくろで思い出した。すいません、ちょっとおふくろに電話してもいいですか。連絡寄越せって言われてたの忘れてて」
 薪が返事をする前に、荒木のスマホは既に母親の番号を発信している。こういうところが秩序を重んじる山本のカンに障るのだろう。
「もしもし、ママ? おれ、翔平。うん、安心してよ、ちゃんと食べてるよ。今日なんか薪室長に料理教えてもらって、そう、おれが作ったんだよ。へへっ、ウソウソ、ホントは室長が作ってくれたんだ」
 母親に甘える素直な子供の笑顔で、荒木は電話に向かって笑い声を上げた。いい親子関係だ。

「室長。おふくろが室長に挨拶したいって」
 ハイと電話を差し出されて驚くが、父兄の対応は室長の重要な責務だ。大事な子供を預かっている、その責任を重々承知していると相手に伝わるよう、誠実に向き合わねばならない。
「室長の薪です」
『まあ、室長さんですか? 翔平がいつもお世話になってます』
 定番の挨拶を交わし、あなたの息子は元気で職務に励んでいる、職場での評判もいいし自分も将来に期待している、と話し、機密性も高いし精神的負担の大きい仕事だから、ご家族の理解と心のケアをよろしくお願いします、と結んだ。
 それから荒木に電話を返すと、荒木は左の肩と耳で器用にスマートフォンを挟み、
「じゃあママ、またね。あ、父さんに飲み過ぎるなって言っておいて」

 電話を切った後は自然に、荒木の家族の話になった。母親がガーデニングに凝っていてマンションのベランダがジャングルのようになっていること、父親の趣味は釣りで、休みの日は朝早くから海釣りに出かけることなど、どこにでもありそうな普通の家庭の日常を面白可笑しく薪に話して聞かせた。
 話し上手な荒木といると、時間は瞬く間に過ぎた。気が付いたら平日の門限を大幅に超えていて、慌てて帰り支度を整えた。思ったよりもずっと遅い時間になってしまった。タクシーを使うことも考えたが、荒木の住む荻窪から吉祥寺まではたったの2駅だし、青木が専属運転手に付くようになってからは数えるほどしか電車に乗っていないことを思い出して、そうしたらこの機会を逃すのが惜しくなった。
 駅まで送ると申し出た荒木に、明日の仕事に備えて早く休めと室長の威厳を持って命令し、薪は家の外に出た。心の中では、きっと青木がヤキモキしているだろうと底意地の悪いことを考えつつ、せめてアパートの門まで、と着いてきた荒木に「また明日な」と別れの挨拶をする。
「室長、今日はありがとうございました。夕メシ、すっげ美味かったっす。また暇なとき、他の料理も教えてください」
「ああ。またな」

 秋の夜、どこかで鈴虫が鳴いている。
 曲がり角でふと後ろを見ると、荒木はまだ門前に立ったまま、薪を見送っていた。それに気付いた薪が軽く手を振ったが、月もない夜のことで薪の仕草が見えなかったのか、荒木のシルエットは微動だにしなかった。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Sさまへ

Sさま、こんにちは。

寒くなりましたね。
お風邪など、召されてませんか? お身体、労わってあげてくださいね。


>荒木さんに嫉妬する青木君を見てたら

視覚的に見えてる気がする、なんて、うれしいお言葉。
リアルに感じてくださってるんですね。嬉しいなあ(〃▽〃)

須崎の話、読み返してくださったんですね。ありがとうございます。
懐かし~。
でもあの頃は青木さんは薪さんと恋人同士じゃなかったし、ヤキモチも仕方ないけど、今回は一緒に暮らしてるのにねえ。うちの青木さん、成長しないねえ。



>そしたら色々思い出して、ここ2、3日前からまた頭から読み始めています。一体何度目?ちょっとキモチ悪い?

本当に、Sさんには何度も読み返していただいて。
以前、4回目か5回目だって伺った覚えがありますので、それ以上と言うことで、ええもう、完全にわたしより読み込んでますね(^^;) 感謝、感謝です。



>でもね、今回お風呂の中で青木君と暮らしてる幸せをしみじみ感じてる薪さんをみてたら、ああ、ジンクスの頃は鈴木さんに迎えにこいって毎日泣いてたのに、薪さんてばこんなに幸せになっちゃっておばちゃんは嬉しいよ(。>д<)、と思わず言いたくなっちゃったのです。

7年も薪さんを書いてきて、それにお付き合いいただいて、その軌跡を通して作品を見てもらえること、筆者冥利に尽きます。うれしいです。
そしてSさん、相変わらず鋭い。
これ、わざとです。薪さんが現在幸せである、と言うことが今回の事件の発動条件なんです。お楽しみに♪ (Sさんの感涙、打ち砕いてすみませんっ)


>しづさん、目次見るともう膨大な作品数ですね!

いくらなんでも多過ぎですよね~。
なんでこんなに書いちゃったんだろー。やっぱり病気としか(笑)


>最近、友達に

いいお友だちですね!
わたしも、お友だちに同意でございます。
Sさん、文章、すごく上手いもん。

とにかく、何でもいいから書き出してみたらいいと思います。
わたしなんか、思いついたシーンから書いちゃいますよ。
書き出しなんか後で付け足せばいいし、テーマとかタイトルとか、書いてるうちに見えてくることもありますし。

重くても暗くても、いいと思いますよ。
そういった文学作品はたくさんあるでしょう?


>でも、しづさんはこんなにたくさん産み出せてすごいなあって

いや、だからそういう病気なんですって(笑)
冗談はともかく、わたし、Sさんみたいにリアルのことは一行も書けませんよ。
大好きな薪さんが出てくる空想話だから書けるんです。全然すごくないです。人さまのキャラを拝借してるわけですし、むしろ人としてどうなのってカンジで(^^;


>この季節特有のどんよりとした暗い曇りの日に、心だけが文字の向こうの世界に飛んでいった自分を客観的に見ている瞬間が大好きです。
>厚い暗い雲さえ、その背景になってくれます。

ほらあ。こんなに素敵な表現ができるじゃないですか~。
これって才能ですよね!
エッセイ作家さんみたいですよ(^^


>誰がモンスターに化けるのでしょうか。それとも、どんな想いがモンスターを産み出すのでしょうか。

きゃー、相変わらず鋭いわー!!
「想いがモンスターを産み出す」、今回のテーマは正にそれ! なんです。
Sさんにはみんな見通されてしまいそう(^^;


>もっとも、40超えてるのに20代に見える薪さんがそもそもモンスターですけどね(笑)

あははは!
そうだよね。まだ高校生とか言われてるもんねww


仕事へのお気遣い、ありがとうございます(^^
去年は現道で、車を通しながら工事をしていたので、一瞬たりとも気が抜けなかったし、完工までは日曜日も祭日もなかったんですけど、
今年の現場は新設なので、仕切られた敷地の中で工事関係者だけが動いている状態だから、それほどの緊張感は無くて、わたしも気持ちが楽です。日曜日、休めるし♪

下水の書類も終わったことだし、頑張って更新しますね。
ありがとうございました。

Cさまへ

Cさま。

>ワイドショーで「トップシークレット」のワンシーンみました。

おお~、ご覧になりましたか!
わたしもyoutubeで番宣を見ましたが、頭の中が???てなりました。よく分からなかったです。オリジナリティ強そうですねえ。

生田さんは素晴らしい俳優さんですので、演技は期待していいんじゃないでしょうか。
薪さんのイメージじゃない、と言うのは同意ですが、その辺は別物と捉えて割り切るしかないと思いますよ。
だって、Cさまのおっしゃる通り、

>やっぱり薪さんの美貌は薪さんごじしんだけのもの。

ですよね~。
個人的には、薪さんの美貌を三次元に求めるのは無理だと思います。モデルのhydeさんでさえ、わたしには薪さんに見えないもの。


そこいくとSSはね、文章だから。
読み手さんの想像力と言う強力な武器がありますのでね。
薪さんのように、絵にも描けない美しさを描くには、最高のツールかもしれません。


夢の中でSSを書いてたんですか?
あら、ぜひ思い出して。内容、教えてくださいな(^^

Sさまへ

Sさま。

>ひっひっひっ、青木が嫉妬で苦しんでいるのを見るのは楽しいのう~。

もう、Sさまったら。正直なんだからww
もちろん、書く方も楽しいですよ(笑)


>しづさんの年寄りいじめが

あははは! ごめん!
そんなつもりはないんですけど、結果的にごめん!!
てか、Sさん、まだ年寄りには早いでしょうに。わたしと同じくらいじゃなかったですか?


>それはそうと斗真くんのタートルは何ですか?
>首のキスマークを隠しているとか?

ワイシャツの襟からはみ出してるんですよね。
もしかして防護服? ほら、首も急所だから。脳以外の急所はガードしてるとか。
と思ったんですけど、
キスマークの方が面白いので、それで行きましょう。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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