モンスター(8)

 こんにちは。
 花屋の社長が物置を動かしてくれなくて現場が止まってしまいそうなしづです。燃やしたろか。

 こないだお正月が来たと思ったら、小正月も過ぎまして。いやー、早いねー。
 わたしがちんたらやってる間に、6万5千拍手ありがとうございました!(もう6万7千だね) 
 いつも気遣っていただいて、励ましていただいて、ありがとうございます。元気もらってます。
 お礼SSは春になったら書きます、書こうと思います、書けるといいなあ。(←ダメ人間3段活用)

 間が空いちゃってごめんなさい、お話の続きです。どうぞ~。



 

モンスター(8)





 途中で昼飯を食って帰ろう、と岡部が言い出し、二人は街道沿いの蕎麦屋に寄った。岡部は天ざる蕎麦とカツ丼、青木はシンプルにざる蕎麦を頼んだ。この頃めっきり食が落ちて、油っこいものを食べる気がしなくなった。

「そんなに心配しなくても、薪さんは大丈夫だ」
「でも。郵便物の件もあるし」
「ああいうのを送ってくる奴はな、相手の反応が見たいんだ。相手が怖がっていることを想像して楽しむんだよ。その時間の長さは人によるが、今日の今日で犯行に及ぶことはまずない」
 食が進まない様子の青木の器に、岡部が自分の天ぷらを乗せてくれる。滝沢も言っていた、「それほど切羽詰まった話ではない」のだ。
 薪とは今夜にでも話をするつもりでいたが、それではぐらかされてしまったとしても、金曜日になれば滝沢から直接その話を聞くことができる。『モンスター』と称する人物のことは気になるが、今までにもこんな脅しは数えきれないほどあった。それでも大事に至ったことは一度もないし、今は青木がボディガードについている。「おまえさえしっかりしていれば薪さんは安全だ」と岡部にハッパを掛けられ、やっとのことで青木は伸びかけた蕎麦を手繰り終えた。

 予定表に書いた帰着時刻を30分ほどオーバーして2人が研究室に戻ると、執務室にはどことなくのんびりとした空気が流れていた。
「室長は外出か」
 予定表を確認するまでもない。職員たちがモニターの前で雑談をしているのを見れば、一目瞭然だ。
 青木は自分と岡部の名前の欄に書かれた「外回り 3時戻り」の予定を消すのと同時に、荒木が外出していることを確かめた。薪の運転手を務めているのだろう。今朝のこともあるからあまり出歩いて欲しくないのだが、薪はあの程度のことは歯牙にもかけない。その分、荒木が注意してくれることを祈るばかりだ。

「あ、いけない」
 自分の机に戻り、青木は思わず声を上げる。そこには午前中に仕上げた書類がA4封筒に入ったまま放置されていた。
「しまった。これ、室長に午後一でって言われたんだっけ」
 昼休みに岡部に相談を持ちかけ、その足で滝沢に会いに行ったものだから、すっかり忘れていた。
「ラッキーだったな、青木。薪さんが出掛けてて」
「時間に遅れたことは黙っててやるから、コーヒー淹れてくれよ」
「青木さん。私のはアメリカンでお願いします」
 はいはいと苦笑いしながら、青木は給湯室へ向かった。
 青木が自分の城として磨いてきた第九の給湯室だが、最近、ここはすっかり荒木の縄張りになってしまった。青木ほど几帳面でない荒木の管理は少し杜撰で、コーヒーの在庫も尽きかけていたし、掃除も行き届いていなかった。それを苦く思う自分に気付き、青木は赤面する。これじゃまるで嫁のアラ探しをする姑みたいだ。
 時間もあることだし、荒木がいないうちに水回りの掃除をしておいてやろう。コーヒーとペーパーフィルターの補充も。

「ああ~、この香り」
「やっぱり青木のコーヒーは美味いな」
 小池と曽我が満足のため息と共に素直な称賛の言葉を漏らし、今井と岡部が小気味よく親指を立てる。久々の第九のバリスタの活躍に、職員たちの顔が一斉に輝いた。
「青木さん、いつ警察をクビになっても安心ですねえ」
 山本の褒め方は少しズレている。
 みんなの褒め言葉が嬉しくて、青木は自然と笑顔になった。最近の青木は、荒木にすっかり自分のポジションを奪われてしまったような気がしていたが、それは自分の思い込みで、みんなはちゃんと青木の存在を認めてくれていたのだ。

 向かいの席にいた曽我が、青木の笑みに釣られたかのように、その恵比須顔を満開にほころばせて青木に笑いかける。
「おまえのそういう顔、久しぶりに見た」
「え。そうですか?」
「先輩の威厳も大事だけどさ、笑ってた方がいいよ。その方が青木らしいよ」
 面子に拘って意識的に笑顔を消していたわけではないが、曽我のせっかくのミスリードに乗ることにした。小池の前では否定していたけれど、曽我だってきっと気付いていた、青木の中に生まれていた醜い嫉妬心に。それに言及することなく、そのままのおまえを皆は好いている、だから肩の力を抜けと励ましてくれている。

「わかりました。もう背伸びはやめます」
「ああ、それがいいですねえ、青木さん。あなたはそれ以上、背を高く見せる必要はありませんよ」
 山本特有のズレた相槌に皆が笑った。だけど青木には、いや多分みんなにもわかっていた。山本は青木と同様、曽我のミスリードに便乗したのだ。そして彼なりのスタイルで、青木を元気づけてくれた。
「そんなことしてみろ。薪さんからの風当たりがますます強くなるぞ」
「青木が薪さんより身長低かったら、もっとやさしくしてもらえるのにな」
「違いない。薪さんが山本と荒木に甘いのって、それが理由だろ」
 失礼な、と冗談の効かない山本が不満顔をする。その小さな背中を小突きながら、小池と曽我が笑い合う。山本も第九に来て3年、すっかり構われキャラになっている。

「それは冗談にしてもさ、青木の気持ちも分かるよ。おれもそういう経験あるから」
「みんなそうだよ。分かってないの、薪さんくらいのもんじゃないのか」
「あの人って、本当にそういうの鈍いよな」
「てかさ、知らないんじゃないか? 先輩になることのプレッシャーなんて」
「優秀すぎる故の欠落ということですか」
 山本が導き出した結論に、頷きつつも小池は首を傾げる。
「それもあるけど、あのひとお姫さまタイプだろ。先輩後輩関係なしに、みんなに世話焼かれてさ」
「いくつになっても危なっかしいし」
「仕事に夢中になるとぶっ倒れるまで休まないし」
「なんのかんの言って、一番手が掛かるよな」

「そんなことないですよ。薪さんは人の気持ちには敏感で、下っ端のオレにも気を使ってくださるし」
 最終的に薪に非難が集まって、青木は慌てて静観者の立場を翻す。薪と特別な関係になってからはあまりあからさまに彼を弁護しないように気を付けていたのだが、自分がきっかけとなって彼の悪口に繋がったのでは庇わないわけにもいかない。
 宇野とフランスに行くことを決めたときだって、薪はそのことを青木に話すためにホテルデートのプランを用意してくれた。あの時は二人の気持ちが噛み合わなくてケンカになってしまったが、あとでそうと知って、青木はとてもうれしかった。
 薪の気遣いは不器用で分かり難いけど暖かい。放ったらかしにされているように感じるときでも、青木のことはいつも見守ってくれていて――。

 そこで青木はやっと気付いた。どうしてこんなに自分が焦っていたのか。
 薪の視線が感じられなかったのだ。
 いつもは逆だ。会話はせずとも薪の視線は感じる。例えその瞳に青木が映っていなくても、彼の気持ちが自分に向いているのが分かる。それがまったく感じられなくなった。
 ――荒木が第九に来てから。

「青木。ちょっと来い」
 深刻な顔で考え込んでしまっていたのだろう、岡部に別室に呼び出された。気持ちがすぐに顔に出る、この癖も直さなければと青木は自省したが、岡部は青木に注意をするために彼を呼んだわけではなかった。第九の中で第4捜査室以外に内側から鍵の掛かる場所、つまり室長室に青木を誘い、内鍵を閉めてなお用心深く、岡部は声を潜めた。
「やっぱりおかしい」と岡部は言った。
「薪さん、おまえの変化に全然気づいてなかった。おまえが拗ねてるって、おれに言われて初めて知ったって顔してた」
「でしょうね」
 薪が荒木の家を訪れた夜、青木と軽い諍いを起こした。あのときも、薪はまったく青木の気持ちに気付いていなかった。でも薪が鈍いのはいつものことで、だから青木はまたかと思っただけだったが。

「確かにあの人はそっちのことは鈍い。でもな青木、薪さんはおまえの一番の理解者であろうと、いつも努力してる。その薪さんが、おれたち皆が気付いてたおまえの変化に気付かないなんてことがあると思うか?」
 岡部の疑問は、青木の恐ろしい疑惑を裏付ける。
 薪が青木を見ていない、だから青木の変化に気付けない。つまりそれは。

 思わず叫びだそうとする声帯を、必死に押さえつける。青木は瘧に罹った人のように身体を震わせながら、抑え過ぎて掠れがちになった声音で聞き返した。
「薪さんが本気でオレから荒木に乗り替えるつもりだって言いたいんですか」
「そうじゃねえよ、バカ。あるわけねえだろ、そんなこと」
 岡部はきっぱりと言い切り、青木の頭を軽く小突いた。オールバックの前髪が乱れて額に落ちかかり、眼鏡が斜めになる。岡部の軽くは常人の力いっぱいと同じくらいだ。

「ただ、こういうあの人は昔見たことがあるんだ」
 薪との付き合いは、青木よりも岡部の方が長い。何より、岡部は鈴木を亡くした直後の薪を見ているのだ。青木の知らない薪の姿を。
「過去の亡霊が何とかって、滝沢が言ってたな」
 青木もそれは気になっていた。刑務官の前だから曖昧な表現に留めたのか、滝沢独特の勿体をつけた言い回しなのか、その辺りは不明だが、薪が過去に関わった事件が絡んでいることは間違いない。
 そして、『亡霊』と言う言葉から連想される事件と言えば。

「岡部さん。まさか」
「ああ、青木。この件はもしかすると」
 不吉な予想を偲ばせる表情で青木と岡部が顔を見合わせた時、隣のモニタールームに騒ぎが起こった。がやがやと声高に話す声が聞こえ、すぐさま室長室のドアが叩かれる。ノックと言うにはあまりにも暴力的な勢いで、更にそれは滅多なことでは慌てない今井の喚き声と組み合わさって、嫌が応にも二人の不安に火を点けた。
「なにごとだ」
 内鍵を捻ってドアを開けた岡部に、白皙の顔を歪めた今井が空恐ろしい現実を突き付ける。

「薪さんが行方不明に」



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

ありがとうございます。
Aさまはじめ、みなさんのおかげです(^^)

お礼SSは、題名だけ決まってて中身からっぽと言う、もういかにも失敗しそうな状況なんですけど(笑)、仕事が一段落したら取り組みたいと思います。
それまでは雑文でも書いて、勘が鈍らないようにしないと(^^;


>畑に道路が通ることになって

そうですよねえ。思い入れのある土地だと、辛いですよねえ。
その辺の交渉は役所の仕事なので、わたしの方はノータッチなんですが、
話が決まってお金も受け取って、なのに約束の期限までに動かさないと言う……お金もらっておいてそれはないんじゃない? とちらっと思ってしまったのですが、心情も含めて、色々都合がおありなんでしょうね。


>薪さんが自分の場所を取られたと感じたのは雪子が鈴木さんの恋人になった時くらいじゃないかな。

あー、どうなんでしょう。
うちのは嫉妬メラメラでしたけど(笑)、原作の薪さんは初めからそういうの、諦めてそう。
潔いくらいに引いちゃって、でも鈴木さんがこれまで通り薪さんの傍に寄ってきて、結局雪子さんが置いてきぼりだったような。雪子さん、男見る目ない(笑)


>岡部さんがやはり早くに父親を亡くしててビックリでした。

当たったの、ここだけですよ。
他はかすりもしなかったです☆

Cさまへ

Cさま。

いつも励ましのコメント、ありがとうございます(^^)
仕事で煮詰まってしまった時、ブログはいい気分転換になりますし、
待っていてくださる方がいると思えば、より一層楽しくなります。どうもありがとうございます♪


>薪さんという苗字は、珍しい苗字で10人しかいないそうです。

え、日本に、たった10人ですか?
わたしも今まで聞いたことがありませんでしたが、そんなに珍しかったんですね。

でも、苗字占いでは大吉なんですね。なんかうれしいですね(〃▽〃)


>もうコミックスの中の人じゃなくなってきてます。

わかりますー。
現実の人以上に、考えちゃいますよね。幸せになって欲しいって。
わたしもそうですよ。オットより大事だもん。←え。


>しづ薪さんも 行方不明になってしまって心配でたまりません。
>でもしづ薪さんだからモンスターのラストはハッピーエンドだと信じています。。

えっ。
や、あの、えっと、
題材が題材だったので、あんまり明るいラストにはできなくて、
あ、でも、エピローグ代わりの雑文で一応フォローはしたつもりなんですけど……どうだろう(^^;



ところで、
こないだ教えていただいたメルアドにメールを送ったんですが、何故か返ってきてしまいまして。
メールフォームを設置しましたので、もしよかったら、そちらから送ってみてください。
よろしくお願いします。


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
メロディ6月号、読みました。
一言感想 「どひゃー……」
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