モンスター(10)

 今日は親友の誕生日なのですよ。
 薪さんと同じ、みずがめ座のAB。羨ましいやつ。
 わたしの誕生日は12月4日で、青木さんと同じ射手座です。血液型はB型なので(今やっぱりって思った?)、青薪さんと同じではありませんが、近いなあって思うことが学生の頃から2,3ありました。
 選択科目が一緒。
 ギャグが被る。
 申し合わせたわけじゃないのに、同じ文房具を買っている。
 大した意味はないけれど、青薪さんにもそういう偶然があるんだろうな、って思うと萌えます(〃▽〃)
 




モンスター(10)






 岡部はその足で官房室へ向かった。中園と小野田に薪の失踪を報告するためだ。

 来訪者を予期した中園に命じられていたのだろう、受付に顔を出した岡部を、秘書は取次の電話をせずに首席参事官室へ通した。居室で中園は渋い顔をして、何処かに電話をしている最中だった。手振りで「座って」と示されたソファに腰を下ろし、岡部は亀のように竦めた首を回して部屋の中を眺めた。
 いかにも官給品の設えの第九とは違う、スタイリッシュな調度品でまとめられた居室。キャビネット1つとっても、岡部が普段使っている面白味のないスチール製の物とは段違いだ。ソファも当然のように革張り。スプリングも弱っていない。座り心地はよかったが、居心地は非常に悪かった。
 第九に籍を置いていた頃からしょっちゅう小野田のところへ顔を出していた薪と違って、岡部はあまり官房室に馴染みがない。ここにいる者はエリートばかり、全員がキャリアで岡部より上階級だ。それだけでも肩が凝る。

「では、捜査本部の設置と現場の指揮は一課にお任せします。いえ、そんなつもりは毛頭。そもそも、こないだのことは貸しだなどとは思っておりません」
 ではよろしくお願いします、と結んで電話を切った後、「あのタヌキおやじ」と吐き捨てる。中園の電話の相手は、どうやら警視総監らしい。
「青木くんが捕まえた犯人を引き渡して、せっかく作った貸しがパーだ」
 独り言のように愚痴るが、岡部にも大凡の察しは付く。夏の事件で、青木は自ら自分の冤罪を晴らし、犯人を捜査一課に付き出した。警察庁内部のいざこざが絡む事件だったから本当のことを公にするわけにもいかず、表面上は捜一の手柄になった。それは警視総監への貸しになっていたわけだが、今回薪の捜索を頼んだことで、その貸しがチャラになったのだ。
「ま、次長派にトドメを刺しただけで良しとするしかないね」
 中園はさっと気持ちを切り替え、自分の机から岡部の向かいのソファに移動した。

「さて岡部くん。詳しい報告を頼むよ」
 促されて岡部は、薪に送られてきていた数十通に及ぶ脅迫状のことを話した。加えて今朝は猫の首が送られてきたこと、日本橋にある中央警察署の帰り道、新人を銀座のパーキングに待たせたまま薪が失踪したこと。誰にも内緒で薪が滝沢と面会をしていたことを話すと、中園は苦虫を潰したような顔になった。
「僕の方からも調べてみるけど。滝沢くんは脅迫状とは関係ないと思うよ」
 そう言いながらも中園があからさまに舌打ちするのは、薪の無鉄砲さに腹を立てているからだ。拘置所は決して安全な場所ではない。犯罪者こそ檻の中だが、囚人の身内や関係者が常時面会に来ているのだ。その中には当然、血の気の多い連中もいる。そんな場所をSPも伴わずに訪れるとは何事か。

「脅迫状に猫の首か……薪くんのことだ。モンスターと名乗る人物との直接対決に赴き、相手の罠に掛かって拉致された、なんてことじゃないのかい」
 その可能性は充分にある。と言うか岡部も内心、そんなところだろうと推測している。
「いつかこんなことが起きるんじゃないかと思ってたよ。あの子は自分の危険に鈍感すぎる」
 小野田や自分がいくら言い聞かせてもダメなのだ、と中園は頭を抱えた。
 薪は我儘だが、周りの人間に気を使う。心配を掛けたくない、厄介事に巻き込みたくない。そんな気遣いから、不安を顔に出さない。その守りを固めるのは鉄壁のポーカーフェイス。決着を着ける時は単独行動。水臭いを通り越していっそ面倒臭い。

「小野田が海外でよかったよ。でなきゃ今ごろ大騒ぎだ」
「迷惑を掛けてすみません。おれも青木も、薪さんには一人にならないようにとお願いしてるんですけど」
 ピリリリと岡部の胸で携帯電話が鳴った。出ていいよ、と中園が顎をしゃくる。画面を確認すると、竹内からだった。
『室長がいなくなったって本当ですか』
「ずいぶん早耳だな」
『青木から電話があったんです。おれと、先生のところにも』
「まだ分からんが。官房室からのホットラインにも応答しないとなると、拉致された可能性は高い」
『そうですか……一応、先生には心当たりをリストアップしてもらってます。その他になにか、おれにできることはありませんか』
 心から薪の身を案じている。電話越しにそれが伝わってくるような、親身な声だった。竹内はいい男だ。それに引き換え、青木のやつは。
「捜索のルートは多いに越したことはない。先生のリスト先を当たってみてくれ」
『分かりました。何か掴めたら連絡します』
 竹内の電話が切れた後、中園の前だと言うことも忘れて、岡部は思わず愚痴った。
「青木のバカ。竹内はともかく、雪子先生は産休中だぞ。身体に障ったらどうするんだ」
「まあ、薪くんの一大事とあってはね。青木くんの気持ちも分かるよ」
 中園は比較的、青木には寛大だ。青木はそこそこ頭がよくて腕も立って、粘り強く丁寧な仕事をする。バランスの良い捜査官は重宝されるものだ。

 岡部が携帯電話をしまうと同時に、今度は中園の電話が鳴った。
「げ。小野田だ」
 画面を見て、顔を歪める。本当に嫌そうだ。
『薪くんがいなくなったって!? どういうことだい、中園ッ!』
 相手は電話口で怒鳴っているのだろう。声が丸聞こえだ。
 岡部を共犯にするつもりか、中園は携帯のスピーカー機能をオンにした。大きく息を吸って呼吸を整え、妙にかしこまった口調で電話口に呼びかける。
「恐縮ですが官房長。その情報を、いったいどちらからお聞き及びに?」
『青木くんがぼくに電話をくれたんだよ。ボディガードの責を果たせず、申し訳ないって』
「あのバカ犬。吠えなくていい所で吠えやがって」
 気持ちが分かるとか言ってた気がするが、あれは気のせいだったか。

『すごく責任を感じてたみたいだったよ。可哀想に』
 よかったな青木、と岡部は心の中で呟く。
 これまで青木には何かと冷たかった小野田が、青木の心情に配慮をしている。自分だって電話に向かって叫ぶほど薪が心配なのに、落ち込む青木にやさしい言葉を。小野田も少しずつ、青木のことを認めて――。
「それでおまえ、青木くんになんて言ったの」
『死ねば、って言って電話切ってやった』
 ……強く生きろよ、青木。

「これだから親バカって言われるんだ」
『聞こえてるよ、中園』
「わたしは何も言っておりませんが。電波障害ですかな」
『そうかい。電話がつながらないんじゃ日本に帰るしかないな』
「ちょ、待て。国際会議だぞ。そんなことしたら」
『じゃあぼくが会議に集中できるように取り計らってくれ』
「連絡が遅くなって申し訳ありません。報告させていただきます」
 中園は口調を改め、岡部から聞いたこれまでの経緯を要領よく説明し、現在の対応状況を簡潔に話した。

「総監には話を通した。捜査本部は捜査一課に、現場指揮は一課が執る。失踪地点の銀座から円形に捜査範囲を広げ、所轄総動員でローラーを掛ける。5課には暴力団関係の情報を当たらせる。僕は僕の情報網を使って、薪くんを全力で探し出す」
 他に何か、と中園は上司に意見を求めた。中園の隙のない捜査計画に、小野田が電話の向こうで頷く。
「第九の皆には、容疑者の絞り込みのために過去の事件の洗い出しをしてもらう。薪くんに恨みを持っていそうな人間を炙り出すんだ。頼んだよ、岡部くん」
『ぼくからもよろしく頼むよ、岡部くん』
 はい、と応諾する岡部に、小野田は気遣わしげな口調で、
『今回はいつもの人騒がせとは違う気がするんだ。ぼくはね、こないだ薪くんをうんと叱ったんだよ。彼、その場では不満そうな顔してたけど、次の日茶巾ずし持って謝りに来て。ちゃんと反省したみたいだった。それからまだ2ヶ月しか経ってないのに、こんな騒ぎを起こすとは思えないんだ』
 茶巾ずしで懐柔されるとは、天下の官房長も意外と安い。
 中園と岡部は同時にそんな感慨を抱いたが、双方それを口には出さず。それぞれの捜索を速やかに進めるため、自分のテリトリーに戻って行った。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

はい、(11年後の)今日、1月28日は薪さんの誕生日です!
おめでたいですね!

しばらく描いてないから、なんて、そんなことおっしゃらず。プレゼントは気持ちですから♪
とか言いつつ、わたしも何かしたかったんですけど、
補助金の関係で、明日は防衛省が現場に来るの~。その準備に追われてて、何も用意できませんでした。残念。


>青木の誕生日の12月9日ってハイドさんの1月29日をずらしたんですかね笑

あ! なるほど!
うん、きっとそう、きっとそうですよ!
さすがAさん!


>元長官が小野田さんみたいな存在なんですかね。

そうだといいですねえ。
でもうちの小野田さんは、ただの親バカだからなあ(^^;


>原作の雪子さんもオメデタみたいだし(*^。^*)

ですよね! あれは絶対にそう!
どちらさんもおめでたいですね~!


>こちらの薪さんは何度も行方不明になってるんだから自重してくれ(;´Д`)

そうですよね。
でもまあ今回は、小野田さんの言うように、いつもの暴走とはちょっと違うんです。
おいおい明かされますので、もうしばらくお付き合いください。
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薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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