モンスター(14)

 本日、2個目の記事です。
 (13)を先に読んでください。あ、いや、読まなくても通じますね。薪さん、ちょっと可哀相なんで、痛いの苦手な方は飛ばしてOKです。(じゃあ何故書く←だって萌えるんだもん←ゲス野郎)





モンスター(14)





 荒木が最初に二人を連れて行ったのは、都内に数えきれないほどある有名なファミリーレストランの一つだった。
「薪さんが、女と会うのにファミレス?」
 薪のイメージに合わないと、岡部と青木は揃って首を傾げたが、荒木はここで間違いないと断言した。
「この席に座ってたんです」
 そう言って案内したのは窓際の席で、基本、密会に通りから丸見えの席を選ぶなんてこれもまた不自然だと青木は思ったが、それは薪の不貞を信じたくない青木の思い込みに過ぎなかったかもしれない。
 店のロゴが印刷された全面ガラス張りの窓からは、歩道を闊歩する人々の顔がよく見えた。少し奥に焦点をずらせば信号待ちをしている車の群れ、横断歩道を渡るビジネスマンたち、その先にはK大学の門から吐き出される学生たちの姿が見える。

「先月の10日頃、店にこの人が来ませんでしたか。つばの大きな帽子を被ったご婦人と一緒だったと思うんですけど」
 薪の写真を片手に店員に聞き込みをしたが、薪と女を憶えている者はいなかった。駅に近いだけあって、この店は客が多い。聞き込みをしている間にも、向かいの大学で講義を終えたらしい学生たちが2回程、団体で入って来た。この調子では1日の集客数は300人を超えるだろう。1月も前の客の顔を憶えていないのも無理はなかった。

「青木、どうだ。薪さんとこの店、なんか関係ありそうか」
「いいえ。薪さん、ファミレス嫌いですから」
 1度だけ、外回りの帰りに青木の腹の虫が騒ぎ出して、手近なファミレスに寄ったことがある。その時の薪の講評は、うるさいし、料理は不味いし、とクソミソだった。それ以来、一度も利用したことがない。

 そこでの聞き込みは諦めて、次の場所へ行くことにした。
 次に荒木が案内したカフェは、ビルの地下にある暗い雰囲気の店だった。やたらとギターを担いだ若者が目に着くと思ったら、ライブカフェなのだそうだ。ここもまた、ティータイムに静寂を好む薪らしくない。
 外から見えない地下の店は密会向きなのだろうが、やはり薪の好みではない。薪は青木が選ぶ店に文句を言ったことはないが、照明の暗い店には眉を寄せるし、外の風景が見えない店はつまらなそうな顔をする。薪が好むのは明るく清潔な店で、窓が大きく開放感がある。外に雄大な自然が広がっていたりするとベストだが、それは東京では難しい。

 そう言った意味では最後に訪れた喫茶店も、良い選択とは思えなかった。
 店は手狭で、10人分しか席がない。落ち着いた会話には不向きなスツール椅子しか置いてないし、雑居ビルの中にあるから外はロクに見えない。コーヒーは正直言って不味かった。
 ただこの店には一つだけ、青木の注意を引いたものがあった。コルクボード一杯にピンで留められた写真だ。この店の開店当初からの習慣で、常連客がここで写真を撮り、このボードに残していくのだそうだ。
 もちろん、密会に使った店で写真を残していくはずはない。そこに映っているのは若者たち、それも学生ばかりだった。さっきのファミレスもそうだったが、この喫茶店は若い客が多いようだ。近くに学校があったから、きっとそこから流れてくるのだろう。
 時代も服装もまちまちの、それらの写真の中には少しだけ薪に似た子もいたりして、青木は、薪も大学時代はこんな店に学友たちと立ち寄ったのだろうか、などとノスタルジックなことを考えた。

「店はこれで最後か?」
「そうです」
 最後の喫茶店の、焙煎のし過ぎで焦げ臭いコーヒーを飲み終えて岡部は、ふうむと鼻から息を吐いた。
 荒木に導かれて薪と謎の女性の密会場所を回ったが、手応えはまるでなかった。それどころか違和感だらけだった。自分の好みとはかけ離れた店で、つばの大きな帽子を被ったサングラスの女と、薪は何をしていたのだろう?

 どの店でも目撃情報は得られなかったし、店の周辺でもそれは同じだった。捜査は空振りに終わり、3人は肩を落として第九に帰って来た。
 第九では4人の職員たちが、書類に埋もれて死にかけていた。みな、画面の見過ぎで眼がしょぼしょぼしている。小池なぞ、目が線ではなく点線になっている。
 どうでしたか、と訊かれて黙って首を振る。同じ質問を返す気にはなれなかった。聞かずとも、彼らの生気のない顔を見れば答えは明らかだった。
 同様に、捜索隊の成果も芳しくなかった。
 捜査一課では捜索範囲を消失点から半径10キロに広げたが、目ぼしい情報は得られなかった。
 薪は銀座のパーキングから、煙のように消えてしまった。あれだけ人目を引く人が、一目見たら忘れられない容姿を持つ人が、誰の眼にも触れず誰の記憶にも残らず。それこそモンスターに骨まで食われてしまったかのように。
 それらの情報は、岡部の後輩の竹内から得たものだ。竹内も今は警察庁勤めだが、捜査一課には彼が育てた後輩たちがいる。彼らに逐一報告を入れさせ、それを自分の先輩である岡部に流してくれるのだ。現場からの生の声は、官房室に上がる一課長の報告書より正確だ。見栄やプライドが絡まず、事実に尾ひれも付かない。

「おれは中園さんのところに顔を出してから帰る。おまえらも、もう帰れ。続きはまた明日だ」
 薪のことは心配だが、部下の身体も大事だ。休息を取らせなければ仕事の能率も下がる。
 特に荒木は精神的にも限界のようだ。新人で職場に慣れていない上、薪の失踪の責任を強く感じている。昨夜も眠れなかったのだろう、真っ赤な眼をして青白い顔をして、立っているのがやっとと言う有様だ。

「荒木、おまえは悪くない。荒木が責任を感じることは何もないよ」
 誰かがそれを言ってやらなければいけないと青木は感じて、そしてそれを言うのは指導員の自分の役目だと思った。
 よほど追い詰められていたのだろう、荒木は今にも泣き出しそうに顔を歪めた。罪の意識がそうさせるのか、眼の縁に涙まで滲ませて、
「青木さん……おれ……」
「青木の言う通りだ。今日は何も考えず、酒でも飲んで寝ちまえ」
 岡部にやさしく肩を叩かれて、荒木はようやく頬を緩めた。その日初めての、そして最後の笑みだった。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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