モンスター(19)

 今日はバレンタインデーですね!
 大切な人に感謝を込めてチョコを贈る、一年の中でも愛に溢れた1日だと思います。

 そんな中、ドS小説更新してすみません。
 わたしも早く終わらせたいの~(^^;




モンスター(19)






 第九室長失踪事件の追跡捜査に於いて現場指揮を執っていたのは、捜査1課で竹内の後を継いで第4班のリーダーを務めている大友警視であった。
 現在、3名の仲間と共に彼が乗っているのは、都内に何千と走っているありふれたバン。その中には大型の無線機と8つのモニター、そのうちの一つは救難信号の受信機とリンクさせてある。これで追尾車の中にいながら救難信号の位置が追える仕組みだ。
 そのモニターに目をやりつつ、大友は携帯電話に耳を傾けていた。

『まだ見つからないのか。何ちんたらやってんだ、バカやろー!』
「怒鳴らなくても聞こえますよ、先輩」
 鳴り響く罵声の木霊に顔を歪め、努めて冷静に言い返す。竹内に怒鳴られるのは4ヶ月ぶりだが、今は懐かしがっている場合ではない。
「もう少し待ってくださいよ。あと5キロの地点まで迫ってますから」
『5キロか。それなら5分だな』
「無茶言わないでくださいよ。相手も車で移動してるんですよ」
『知ったことか。5分以内に室長を救出できなかったらおまえ、どうなるか分かってるだろうな?』
「なにする気ですか」
『おれが捜査一課に復帰してやる』
「……戻りたいんすね」

 竹内はそのキャリアと見掛けに依らず、バリバリの現場人間だ。そのせいで、昔は第九を目の敵にしていた。
 それがどういった心境の変化からか、ある時から突然、第九と協力体制を取るようになった。そのおかげで第4班の検挙率は数倍に跳ね上がった。押しも押されぬ捜一のエースとなった彼にはしかし、彼の望まぬ運命が待っていた。つまり、出世だ。
 京大卒のキャリアで捜査一課検挙率ナンバー1の彼を、上層部がいつまでも現場に置いてくれるはずがない。6月に起きた母子殺しを解決に導いたのを機に、警察庁警備部へと配置替えになった。
 捜一は厳然たる実力主義、その中でエースの力は強大だ。今もその立場にあれば、課長に一言申し出るだけで、この捜索の指揮を執ることもできただろう。それができなかった悔しさを、竹内は後輩にぶつけてきているのだ。

「竹内さん。いい加減、落ち着いたらどうなんですか。子供、2人目生まれるんでしょ。奥さんだって、危険な現場から内勤に異動して、どれだけホッとしてることか」
『先生はそんな器の小さい人じゃない』
「口ではそう言っても、てか、なんで未だに先生呼びなんすか」
「大友さん!」
 他人の家庭に嘴を突っ込んだ大友のお節介を、咎めるように部下の声が車の中に響く。
「車両の特定ができました」

 電話を繋いだまま、大友は声を上げた部下が指差すモニターに顔を近付ける。自車の前に数珠つなぎになった車の、このどれかに薪はいる。
「どれだ」
「6台前のトラックです」
「あれか」
 それは大型のコンテナ車だった。
 犯人に気付かれる可能性があるため、ヘリを飛ばすことができない。パトカーで囲い込むのも危険だ。よって、追跡は数台の覆面パトカーで行われていた。相手が大型車を使用していたことは幸いであった。そのおかげで、かなり離れた位置から目的の車を視認することができたのだ。

「こちら1号車、対象の車を発見。直ちに検問の警察官に通達されたし。車のタイプは大型のコンテナ車。後面に『Y青果市場』の表記あり。現在位置はS市M町3丁目G信号付近。繰り返す、対象の車は」
『コンテナ車?』
 繋ぎっぱなしの電話から、竹内の不思議そうな声が聞こえた。気付いて大友が電話を取り上げる。
「はい、ここから見えますよ。コンテナにY青果市場って書いてあって」
『なんで人ひとり運ぶのにコンテナ車なんだ?』
「警察の目を晦ますための偽装じゃないんですか」
『却って目立つだろ。第一、業務用車両なんか使ったらアシが』
 竹内は、不意に黙り込んだ。何か思いついたらしい。
 恐ろしいことに、嫌な予感しかしなかった。今すぐ電話を切れと、大友の本能が言っている。その予感は過たず、現実のものとなった。

『大友。今すぐその車、止めろ』
「え。なに言ってんすか、竹内さん」
『早く。サイレン鳴らして緊急停止させろ』
「そんなことしたら犯人が逆上しますよ。人質の命が」
『いいから。止まらなかったらタイヤ撃ち抜いてでも止めろ』
「おれに警察クビになれって言ってます?」
『大丈夫だ。骨は拾ってやる』
「勘弁してくださいよ、もう」
 口では猛烈に反発しながら、大友はパトランプを用意する。窓から手を伸ばして車の天板に取り付け、高らかにサイレンを鳴らした。
「Y青果市場のトラック、止まりなさい!」
 竹内の、現場で鍛え上げた勘と捜査一課のエースを張ったその頭脳の冴えを、大友はずっと間近で見てきた。言葉にしたことはないが、心の底から尊敬している。自分のような未熟者が班長になれたのも彼のおかげだ。彼に導かれて、自分はここまで来ることができたのだ。大友にとって、彼の命令は絶対だった。

「左に寄って。速やかに止まりなさい」
 大友の誘導に従って、トラックが徐々にスピードを落とす。左ウィンカーが点滅したのを確認して、大友はトラックの前に回り込んで車を停めるよう運転手に命じた。
 矢先。
『何やってんだ、大友ォ!!』
 無線機の内蔵スピーカーが割れんばかりの勢いで、鬼より怖い捜査一課長のカミナリが落ちた。他の車両の連中から連絡が行ったらしい。
「やば。西田、課長のライン、切っといて」
 無線を担当していた部下がスイッチを落とすと、課長の声はあえなく切れた。強面で有名な課長の、こめかみの血管が膨れ上がるのが目に見えるようだ。
「いいんですか、大友さん。課長、カンカンですよ」
「いいわけねえだろ。くそー、クビになったら竹内さんちにパラサイトしてやる」

 吐き捨てるように言って、大友は車から降りた。停車したトラックの運転席に近付くと、窓が開いて農協の帽子を被った初老の男が顔を出した。何故自分が止められたのか、まったく心当たりがない表情だった。
 積荷を見せるよう命じると、男は素直にコンテナの後ろ扉を開け、中に大友たちを招き入れた。中は空っぽで、聞けば市場に野菜を卸して帰る途中とのことだった。
 コンテナの隅に、赤く点滅するものが落ちていた。ボタン電池のような形状の、それは紛れもなく大友たちを呼び寄せた発信機であった。
 それを確認するや否や、大友はスマートフォンに向かって叫んだ。
「竹内さん、やられました。この車は囮です」
『やっぱりか。おかしいと思ってたんだ。3日も経ってからSOSなんて』
 あのしたたかな室長がそんなマヌケなことをするはずがない、と竹内は悔しそうに呟いた。歯ぎしりの音が聞こえてくる。

「竹内さん。薪室長はどこに」
『……わからん』
 大友の視界の隅では鳴り響くサイレンに囲まれて、運転手の男が途方に暮れた顔をしていた。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

>やっぱり、囮だったんですね。

そうです。Aさん、大当たり☆


>犯人は最後には薪さんを殺したいのでしょうからその為に移動したのかしら。
>あのまま拷問でも死んだでしょうけど。

うん、そう。
なぜ移動したのか、どうしてそのまま殺さなかったのか、犯人なりの理由があるんです。
細かいところに気付いていただいて、ありがとうございます。


>薪さんが後ろに異物を入れられたことは

やらなきゃよかったかなって後で思った(笑)
でも、貝沼の凶行をそのままトレースするなら、性的暴行も含まれるだろうなって。貝沼は「あんたを抱きたくて」と、薪さんに性衝動を覚えたことを告白してましたから、犠牲になった少年たちは薪さんの代替品として彼の慰み者になったのではないかと。

もちろん、これは犯人と薪さんの永遠の秘密になります。
岡部さんや青木さんが知ったら、犯人、殺されちゃう(^^;
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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