モンスター(20)

 今週は防衛省の会計検査がありまして。その資料作りでちょっと忙しかったです。
 検査を受けるのは役所の監督員さんなんですけど、色んな資料を作るのは業者の仕事、でも、
 設計図作ってください、て依頼には驚きました。
 設計図って役所が作って業者に渡すもんでしょ。それって役所(正確にはコンサル)の仕事だよね?
 無茶振りっすよ~、監督さん。いつもお世話になってるからやりますけどね。






モンスター(20)





「えっ! おとり?!」
 青木は耳を疑った。スマホから聞こえてくるのは竹内の声だ。竹内はこんな状況で冗談を言う男ではない。

『ああ。トラックには室長のバッジだけが置かれていた。運転手の話によると、8時頃にS市場に荷を下ろしただけで、あとはノンストップだそうだ。犯人がコンテナにバッジを投げ込むならそこしかない。今、大友たちをS市場に向かわせて目撃情報を洗わせてる』
 断片的な会話から事情を察した岡部が、細い眉を険しく歪めて悲壮に呟く。
「まずいぞ。犯人は発信機で捜査陣を引き寄せて、その間に薪さんを殺す気なんだ」
 青木の顔がサッと色を失い、緊張に瞳が瞠られた。今この瞬間にも薪の命が失われるのではないかと思うと、気が気ではない。

『おまえらの方はどうだ?』
「中園さんに頼んで警務部長の許可をもらって、個人情報センターの端末を起動させたところです」
 はあ? とキツネにつままれたような声が返ってくる。無理もないと青木は思った。青木もなにがなんだか分からないまま、岡部にここまで連れてこられたのだ。
 個人情報保護のため、警察官の個人データは特定の端末でしか閲覧できないようになっている。その端末の操作には人事部職員の指紋認証が必要で、他部の職員が情報を得ることはできない。
 しかし、内部監査などで人事部職員を介入させたくない場合、警務部長の許可を得た上でこの場所の情報端末を使用することができる。この端末は人事部のデータバンクと繋がっており、人事部職員と同様のデータを引き出すことができる。
 ――のだが。

『おまえら、何やってんの?』
 本当に、何をしているのだろう。
 発信機が囮だったと聞かされた今では、別口捜査を選んだ岡部の判断は間違いではなかったことになるが、さりとて、警察の人事データに薪の監禁場所の手掛かりがあるとは思えない。

「岡部さん。なにも今、こんなこと調べなくても」
 岡部に急かされてキィを叩くが、青木の心中は穏やかではない。気持ちばかりが急いて、目的も定まらないままに走り出そうとする自分を押さえるのがやっとだ。
「いいから早くしろ。おれはどうもこのコンピューターってやつが苦手なんだ」
「第九の副室長にあるまじき発言だと思いますけど」
「宇野がいれば、もっと早くに調べさせたんだが。そうすればこんな所まで来なくても」
「もっとまずくないですか、それ。――出ました。あれっ?」
 目的の人物の人事データを引き出して、青木は意外そうな声を出す。本人から聞いた家族構成とデータが相違していたからだ。

「やっぱりな。中学の時に親が離婚して父親に引き取られ、その後父親が再婚して相手の女性の籍に入ったんだ。旧姓は森田か」
「ああ、これは血縁の欄だから。親が離婚する前の家族なんですね」
 警察官の血縁者は徹底的に調べられる。そこに暴力団関係者はもちろん、重罪を犯した者、宗教関係者も名を連ねることは許されない。警察の情報がそれらの団体に流れることを防ぐためだ。戸籍上の繋がりではなく予想される交流を重視したものだから、当然、旧姓の家族の氏名も明記されている。

「現在は実の父親と、その再婚相手との3人家族ですが、前の家族は4人。母親はK市民病院に入院中。兄がいましたが、こちらも2058年に亡くなっています。名前は森田和也……岡部さん、この人の死因……!」
『実兄 和也』と書かれた文字の右側、備考欄に記された忘れようにも忘れられない事件の名称を見て、青木の舌が凍りつく。
 ああ、と岡部が頷いた。
「モンスターの正体はこいつだ」




*****




 救難信号に釣られた捜査陣が、見当外れのトラックを追っていた頃。
 薪は、一つの墓標の前に膝を折っていた。
 深く頭を垂れ、脱水に震える両手を合わせて。殴打に腫らした頬と血の滲んだ唇でその美貌はわずかに損なわれていたものの、伏せた睫毛の美しさはこんな状況にあっても鮮烈に、見る者の心を惑わせる。

 傍らには、第九の新人の姿があった。
 薪と並んで、一緒に手を合わせている。先に合掌を解いた彼は、「そろそろいいですか」と控えめに声を掛けた。薪の祈りを破ることを恐れたような、小さな声だった。
 応じて薪は瞼を開き、こくりと頷いて見せた。弱々しく微笑んでみせる。それは彼の、渾身の力を込めた精一杯の笑みだった。

 荒木は薪に肩を貸し、彼を墓前に立たせた。薪がしんどそうに息を吐く。
 それを見て荒木は、ジャケットのポケットからある物を取り出した。それをそっと薪の細い首に宛がう。
 冷たい感触に、薪の首筋が慄く。
 荒木の右手に握られたもの、それは銀色に煌めくジャックナイフだった。



*****




 ――滝沢の話には続きがあった。

「一緒に暮らしてても意味がない」
 そう言われてしばらく沈黙した後、薪は訊いた。
「なぜ今なんだ?」
 この世に自分を息子の仇と見なす人間がいる。それを薪本人に知らせ、古傷を抉るのが目的なら、もっと早くに言うべきだ。例えば3年前、再会を果たした夜にでも。そうすれば、その日から薪に安らかな夜はなくなるはずだった。

「懺悔のつもりか。10年近くも前の情報漏洩などとっくに時効」
「その女にはもう一人、息子がいてな。兄が貝沼に殺された時、その子供はまだ中学生だった」
 思わず薪は席を立った。
 アクリルボードの向こうで、滝沢の声がフクロウの羽音のように囁いた。

『2番目の息子は第九にいる』


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

>荒木君は犯人側だとしてもモンスター本人というより協力者にすぎないと思ったのですが

裏切ってすみません。
がっつり犯人でしたw

あ、でも、本物のモンスターじゃないんですよ。
モンスターは他にいる、て言うか、犯罪者ではないのですけど、この話の中の「本当のモンスター」はとても意外な人物です。


>荒木自身も拷問中は復讐というより貝沼が乗り移ってたんじゃないかしら・・

乗り移っていたとしたら、お母さんでしょうね。そのための変装ですからね。
ただ、彼の中にも葛藤はあって、それが彼の憔悴しきった様子に表れていたわけです。もちろん罪は罪ですけど、彼ばっかりが悪いわけじゃないような、いや、やっぱりやった人が一番悪いんだな、うん。

Hさまへ

Hさま。

いつもコメントありがとうございます。
HNの件、承知いたしました(^^)
でも、お返事要らないのは承知しません(笑)

連絡もらってよかったです~。秘密ファンに同名の方がいらっしゃるので、その方かと思いました。でもその方からはコメントいただいことなかったので、あれ? って思ってたんです。


>薪さ~ん、きっと岡部さんと青木さんが助けてくれる

もうちょっと、もうちょっとですから!
読む方も大概しんどいですよね。ゴメンネ(^^;


>しづさんの薪さんへの大きな愛が救いの手を差し伸べるはずだから・・・。

もちろん! 愛してますから!
て、
この状況に追い込んだのは誰じゃ。


身体のことも気遣っていただいて、ありがとうございます。
Hさんも、お身体大事にしてくださいね。乾燥は気管支の敵ですから、うざったくてもマスクしてね。
春はもうすぐですよi-236

Pさまへ

Pさま。

ハラハラドキドキ、してくださってありがとうございます(^^)
こちら、法十の売りですから~。どうか楽しんでくださいね。


>早く薪さんを助けてあげてください…!

岡部さんが頑張ってます。
応援してあげてください♪


おお、初めての、

>と、思う反面、
>痛めつけられ弱る薪さんに萌えてしまった

ようこそ、ドSさん! お仲間!!(←めっちゃ失礼)

非公開コメ引用してゴメンナサイ。
うれしかったもんだから、つい(^^;

やー、最近、めっきりドSさん、少なくなってね~。淋しい思いしてたんですよ~。
昔はSさんとかOさんとかと、よく「痛い薪さん萌え」とか騒いでたんですけど。
今は原作がそれほど痛くなくなったんで、そういうファンも減ったんですかねえ。ちと残念。

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Bさまへ

Bさま。
コメントありがとうございます。
こちらでは初めましてですね。ご訪問いただいてありがとうございます。


や、Bさんのブログ、面白いですよ!
わたしもともと、ああいうアホな妄想(すみません)大っっっ好き、なんですよ。
拝読して思わず、「こいつヘン!」(ごめんなさい)「わたしと同じくらいヘン!」(本当にごめんなさい)と爆笑してしまいました。失礼なやつですみません。
もー、見つけた時はうれしくてね~。仕事にも日常の生活にも役に立たないことを延々考えてるの、なんて見事な薪さん廃人! (悪口じゃないんです、信じてください)
あんな素敵な絵が描けるのに、てか、あの美しい絵と妄想の内容が、合ってなくはないけどシリアスな絵柄とのギャップがすんごいって言うかw 本当にわたし好みのブログさんで、更新(妄想)を心待ちにしています。


あ、えーと、わたし、べつに大御所ってわけじゃ。
ただ古くからやってるってだけで、腐ってるし、エラくもなんともないので、わたしのコメントに価値なんかないです、てか、いっつも失礼なことばっかり言ってごめんなさい。出入り禁止にしないでください。


ものすごい感動しております!

もったいないお言葉を(@@) しかも太字でw
どうもありがとうございます。

薪さんがとんでもねぇ目にあっていますだ・・・(驚き過ぎて小作人になってしまいました)

あはははは!!!
こういうところが面白いんですよね、Bさんwww


ところでBさん、二次小説に免疫なかったんですか?
それは災難でしたねえ。こんなの読んじゃって。(しみじみ)
ご安心ください、もっとまともな二次創作はたくさんありますから!
原作薪さんのクールビューティを損なうことなく、シリアスで美しくて、でもって、薪さんと青木さんの愛がこれでもかってほど盛りだくさん! そういう正しい二次創作、いっぱいありますので。ぜひ、リンク先に飛んでお読みになってください。
うちのは邪道なんです、ごめんなさい。



>モンスターシリーズから読んでしまったので

なんと! 心配していたことが現実に!!
こないだね、常連さんと話してたんですよ。「ご新規さんがこの話から読んだら引くだろうねえ」って。

こんなに心臓に悪い話ばかりじゃないんですよ。最初のころは、とりあえず薪さんに命の心配はないし、あ、でも、
鈴木さんを殺めた心の傷にがっつり侵されていて、精神的に病んでるからそれなりに痛々しかったかな。
青木さんと恋人同士になってからは、長く続けちゃいけない関係だと悩みまくってやっぱり痛かったし、事件もバンバン起きるから薪さんも青木さんも何回死にかけたか分からなくなっ……すみません。うちに平和な話なんかありません。(←開き直った)

ハラハラドキドキ、基本はギャグでスパイスはドS、がうちの二次小説のカラーです。読まれる際には胃薬の準備をお願いします(笑)

Pさまへ

Pさま。

>わーい、ドS認定ありがとうございます!笑

いいんですか?(爆笑)

そうそう、Pさんのおっしゃる通り。
「矛盾してますがこれも薪さんの魅力と美しさのせい」なんですよ。
わたしもドS代表として(すみません、自薦です)、声を大にして言いたい!
そもそも原作があれほど痛々しくなければ、薪さんを取り巻く環境にもっと救いがあれば、世のドSはここまで薪さんにハマりませんよ。だからわたしたちが痛い薪さんに萌えちゃうのは自然のことなんです。
とはいえ、「薪さんにはいい迷惑」それもPさまのおっしゃる通りだと思います☆


>確かに今の原作は痛い要素は減りましたよね。以前の本編と比べると安心して読める気がします。

はい~。こうなることを望んでいたはずなんですけどね。特にエンドゲームは薪さんの命が危ぶまれたので、もう青薪成就どころじゃなくなってしまって。一時は、薪さんが最終回まで生きててくれればそれでいい、というところまで追いつめられたんですけど。
事件が解決して、第九が全国展開して、薪さんが所長になって、雪子さんがお嫁に行って(←事件解決と同レベルの出来事)、
すっかり平和になって、もう後は青薪さんがくっつくだけになってしまうと、ちと物足りないような気が……(^^;


>その分、2次創作で色々妄想できる楽しみが増えたと思っておきます!

なるほど~。
原作でできないことをするのが2次創作ですものね。では遠慮なくドS路線、突っ走りますww(自粛なにそれおいしいの)


>甘いお話もですが痛いお話も好きなので、こうして読む事ができて嬉しいです(^ ^)

甘いお話はもちろんですが、痛いお話も結局は甘い結末にたどり着くので(〃▽〃)
ハッピーエンドだけは崩さずに、これからも楽しんで創作を続けたいと思います。今後ともよろしくお願いします。

Hさまへ

Hさま。

前のも可愛かったですけど、今度のお名前も可愛いですねえ。
Hさんご自身も、きっとかわいらしい方なのだろうなと想像しております。

HNのこと、気を使っていただいてありがとうございます。
はい、大丈夫です。HMさんは他にはいません。


>元気に春を迎えたいですね。

そうですね。
昨夜は雪が降ったんですよ。でも、今日の昼間はとても暖かったんです。温度差があると体調を崩しやすいと聞きます。できれば日光浴は室内で、外の風にはなるべく当たらないようにお過ごしください。
わたしは大丈夫! 現場で鍛えてるんで! 身体は小さくても、病気知らずです!


> しづ薪さんの続きを全裸待機・・・(゚ω゚〓)ミャァ♥。

いや、服は着て。
風邪ひいちゃうから(笑)

冗談はともかく、楽しみにしてくださって嬉しいです♪
メロディの発売も近いことですし、ちゃっちゃと更新できるよう、頑張りますね(^^)

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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