Revenge of the monster(1)

 こんにちは。

 こちら、モンスター事件の後日談その1でございます。
 題目はモンスターの逆襲。
 



Revenge of the monster(1)





 ポーンという軽い音が来訪者を報せた。

 青木が帰って来たな、と思うが早いか、クローゼットの入口に大男の影が差す。相変わらず鼻が利く男だ。
「おかえり」
「薪さん、ただ、ふごっ」
 手が伸びてきたから反射的に蹴ってしまった。謝ろうかと思ったが、やめた。学習しないこいつが悪いのだ。
「洗濯物がシワになるからよせって、昨日も注意しただろ」
 アイロンの掛かったシャツをクローゼットハンガーに引っ掛けながら、薪は冷たく言い放つ。甘い顔をしていたら相手を付け上がらせるだけだ。

「そんなのオレがやります。薪さんはゆっくり休んで――、ああ、こんな普段着ないシャツにまでアイロン掛けちゃって。あっ、またシーツ洗ったんですか? 3日前に洗ったばかりでしょ」
 口うるさい母親のようにクローゼットの中を点検し始めた青木を置いて、薪はリビングに戻った。居室を通り抜けてキッチンに入り、お腹を空かせているに違いない彼のために、好物のビーフシチューを温める。
 こうすればシチューの香りに釣られた青木がダイニングに来ると薪は予想して、しかしその計画は失敗に終わった。青木は昨日までと同じように寝室や浴室の点検を優先し、その悉くに文句をつけた。
「ベッドに寝た形跡がない……薪さん、寝てなくちゃダメですよ」
「寝てたさ。いま起きたところだ」
「なに言ってるんですか、帝国ホテルみたいなベッドメイクしておいて。あっ、風呂が沸いてる。風呂掃除はオレが帰ってからやるって言ったのに」
「掃除はしてない。湯を張っただけだ」
「嘘ばっかり。浴槽、つるつるだし、あ、蛇口やシャワーまで磨きましたね?」
 だって暇だったんだもん。

 上着を脱いだ青木はキッチンまでやって来ると、薪からお玉を奪い取った。それから薪をダイニングの椅子に座らせて、ビーフシチューの鍋をくるくるかき混ぜながら、書斎机にあった書類が片付いてるとか食器棚が整理してあるとか冬のコートが出してあるとか、昼間、薪が為した小さな仕事を薪の嘘を証明する状況証拠として論った。
「だから薪さん独りにするの、嫌なんですよね」
 これじゃちっとも養生になってないじゃないですか、と青木はまるで薪に意地悪でもされたみたいに唇を尖らせる。
「このシチューだって、何時間も煮込んだんでしょう?」
 仕方ないだろ。牛スネ肉はダシが出て最高に美味いけど、2時間以上煮込まないと柔らかくならないんだから。
「煮込んだのは鍋の仕事だ。僕は何もしてない」
「灰汁を取るのに、長いこと此処に立ってたでしょ」
 そうしないと味が濁るだろうが。

 否定系の言い訳が通らないことを悟り、薪は作戦を切り替えることにした。テーブルに頬杖をつき、軽く小首を傾げて、
「おまえの喜ぶ顔が見たくて」
 薪がそう返すと青木はお玉を持ったまま硬直し、じーん、と瞳を潤ませた後、何かを振り払うようにぶんぶんと頭を振った。
「ダメですよ。今週いっぱいは養生させなさい、って小野田さんに厳しく言われてるんですから」
 薪は謹慎中である。
 と言っても謹慎は形だけ。実際のところは休養だ。心と身体を労わってあげなさい、と小野田が1週間の休みをくれた。

「僕は元気だ。養生の必要なんかない」
「なに言ってるんですか。本来、入院は明日までの予定だったんですからね。それを自宅療養にしたいって薪さんが我儘言うから、お医者さまにお願いして」
 ひょいと椅子から下り立ち、薪は盛んに動く青木の唇を指先で止める。青木が黙ると指を下方へ滑らせ、つん、と彼の厚い胸を突っついた。
「おまえ以外の男に肌を見せたくなかったんだ」
「薪さんっ――、はっ!」
 ぱああっと笑顔になってから青木は、ばっと身を翻してぶんぶんぶんと頭を振った。「騙されない騙されない」と小声で唱えながらも、彼の足は勝手にタップダンスを踊っている。面白いからもう少し構ってみよう。

「養生――生活に留意して健康の増進を図ること。辞書にはそう書いてあるな」
「分かってるなら実践してください」
「知ってるか、青木」
 シチューを皿に盛りつけようとしている青木の大きな背中に、薪はそっと手を添えて、
「セックスって健康にいいんだって」
 青木の手から滑り落ちた皿を、予知能力でもあるかのように難なく受け止めて、薪はそれを青木に返す。皿を手渡しながらニヤッと笑うと、青木が困ったように眉を寄せた。
「どうしてそういう嘘を」
「嘘じゃない。ストレスを解消してホルモンバランスを整える。血行を良くして老廃物の排除を促す。結果、良質な睡眠を得ることができ、疲労回復にも役立つ。いいことずくめだ」
 試験勉強にかこつけて、夜の誘いを断り続けて2ヶ月。もともと淡白な薪は平気だが、青木はそうはいかない。我慢の限界はとうに越しているはず。
「今夜、試してみようか」
 こつん、と背中に額を付けると、薄いワイシャツを通して筋肉の震えが伝わってくる。彼の葛藤が手に取るように分かって、薪は笑いを抑えるのに苦労する。青木は本当に素直な男で、この手の意地悪はいくら繰り返しても飽きない。

 青木はシチュー皿を調理台に置き、おもむろに振り返った。フリーになった両手が薪の肩に置かれる、このタイミングで突き落す。
「さあて、メシにし、お?」
 サッと身体を離そうとする、薪の動きより青木の捕縛は僅かに早かった。膝の後ろをひょいと掬われ、有無を言わさず抱え上げられる。宙に浮いた薪の視線は自然に青木の顔に当てられ、そこに薪は自分の失敗を見つけて青くなる。
 しまった。目がマジだ。

 駆け込むように寝室に向かう青木の腕の中で、薪は儚い抵抗を試みる。
「青木、待て。メシは」
「後でいいです。薪さんの健康が優先です」
 空腹状態で激しい運動とか、全然健康的じゃないよね?
「ま、まずは風呂に」
「後でいいです。薪さんの健康が最優先です」
 感染症の危険があるよね?

「いや、いい! 僕はこれ以上健康にならなくていいから、わぷっ」
 糊の効いたシーツが一瞬でくしゃくしゃになるくらい、殆ど投げ込まれるみたいにベッドに押し倒された。手足を封じられて身動きできない。青木の体重をモロに掛けられたら、細身の薪には到底返せない。
 青木で遊ぶのは楽しいけど、遊び過ぎるとヤケドする。だからこの手の遊びを火遊びって言うんだな、て今はそんな悠長に語源を遡ってる場合じゃない。
「僕が悪かった、勘弁してくれ!」
 謝れば許してもらえる。だって僕は怪我人、明日まで入院予定だった患者なんだから青木もそんな人間に無体なことはしないはず、しないと思いたい、てかしないで、お願い!
「明日からちゃんと安静にする! おまえがいない間は寝室から一歩も出ないようにするから、だから助け、ぎゃ――!!」

 口は災いの元。
 洗濯したばかりのシーツを汚しつつ、その言葉の意味を嫌と言うほど思い知った薪だった。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Hさまへ

Hさま。

お返事遅くなりまして、え、いつものこと?
ごごごごめんなさいー!


>後日談でしづ薪さんと青木くんの 日常がみられてうれしいです。

そうですか?
日常風景って、特に事件も起こらず、退屈じゃないかと思うんですけど……そんな心臓に悪いものを好むのはわたしだけですか?



>モンスターでは岡部さん懐の深さ、薪さんに対する想いに感動しました。
>岡部さんはだれよりも素敵な人だと思いました。

わたし、原作の岡部さん、大好きなんですよ~。
結婚するなら絶対に岡部さん! です。
で、毎日夕食の時に薪さんの話をするのw


>岡部さんにも可愛い恋人ができますように。

うちの岡部さんには雛子さんがいるので♪ (母親じゃん)


>新装版9、10

プロフ、ご覧になりましたか!


>鈴木さんが完璧な人すぎて、 その存在の大きさ、33歳の若さで死亡してしまったこと、喪失感半端ないです。

「享年33歳」とかね、「薪に射殺される」とかね。
もう容赦ない言い方されてましたよね。
こうやって公式に言葉にされるとキツイなー。


>薪さんのためにも生きていて欲しかったです。

うんうん、同意です。
その代わり、青木さんの出番はないでしょうね。
鈴木さん、薪さんのガード堅そうなんだもの。青木さんが寄って来ても、悉く蹴散らすに違いない(笑)



>鈴木さんはきっと薪さんに幸せになってほしい、いつも笑顔でいてほしいと天国で願ってると思います。

出会った18歳の時から、亡くなってまで。
ずっと鈴木さんの想いは変わらないんでしょうね。
やっぱり鈴薪さんは最強カップルですね!!(←あおまきすと?)


>11、12のプロフィールは誰なんでしょうね?

ねえ。
もうめぼしい人が(と言うか、プロフが欲しい人が)残ってないんですけど。
警視総監と警察長官の超オヤジコンビだったらどうしましょう。描き下ろしイラストの付く12巻は買うけど、11巻は要らな、いえその(^^;

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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おかげさまで8歳になりました(^^♪
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