真冬の夢(4)

真冬の夢(4)








 マンションまでの帰り道を、行きの2割増しの速さで歩く。せっかく美味いコーヒーを飲んだのに、失礼な店員のせいで台無しになってしまった。

「ったく、なに着てても一緒じゃないか」
 薪は、若く見られるのがあまり好きではない。
 女性ならば喜ぶのかもしれないが、自分は男性だし、年相応に見られないのは自分が未熟だと暗に言われているようで気分が悪い。
「だいたい、おまえが老け顔なんだよ。だから対比で僕があんな」
「すみません」
 とりあえず青木に責任を転嫁する。少し気分が良くなった。

「薪さん、これから何か予定ありますか?」
 しおらしく謝ったわりに、悪びれずに話しかけてくる。どうやら、本当に自分が悪いとは思っていないらしい。
「家の掃除と洗濯。僕のプライベートにおまえが面白がることなんて、何もないぞ。って、おまえ、どこまでついてくる気だ?」
「手伝います」
「いらん」
 薪は素っ気なく応えを返す。これ以上、こいつに付き合う気はない。
「遠慮しないでください」
「遠慮じゃなくて迷惑だ。着いてくるな」
 2ヶ月くらい前までは、青木は自分の前ではいつもおどおどしていたのに、この頃はそうでもなくなった。
 第九に入ってもうすぐ1年。慣れてきた、ということか。
 
「帰れ! 邪魔だ!」
「オレが掃除得意なの、知ってますよね? 2人でやれば早いですよ」
 確かに、青木がいると高いところの掃除には便利だ。窓拭きや電灯まで、脚立も使わずにらくらく届く。だが、部下を私用に使うつもりはない。そんなことを強制する上司を、薪は軽蔑する。
「いいから帰れ。おまえにだって休日の予定くらいあるだろう」
「ないから薪さんを誘ったんじゃないですか」
「僕だってヒマじゃない」
「さっき、予定はないって言ってましたよね」
「あれは仕事だと思ったから!」
 押し問答をしている間に、マンションに着いてしまった。

 …………この際だ。使ってやれ。
 
 ちょうど大掃除の時期だし、ベッドから机から全部運ばせてやる。筋肉痛になるほどこき使ってやる。一度ひどい目に遭えば、二度と近寄ってこなくなるだろう。
 こいつは近ごろ、図に乗りすぎだ。
 少し自分の立場をわきまえさせなければ。でないと、こっちがペースを乱されてしまう。

「じゃあ、ベッドとソファと机と本棚と冷蔵庫、ぜんぶ動かしてもらおうか」
 薪は腕を組み、わざと横柄に命令する。
 青木の困った顔を予想していたが、それはあっさりと裏切られ、逆に嬉しそうに「はい」と頷かれてしまった。
 ……こいつ、頭おかしいんじゃないか。

 ジャケットを脱いでワイシャツの袖をまくり、青木は本棚を動かし始めた。
 長い腕は力を込めると筋肉が浮き出て、意外なくらい男っぽい。ジョギングは2キロでへばってしまうくせに、力はあるのだ。
 生まれついてのものとはいえ、羨ましい限りだ。自分ではあの本棚はとても動かせない。

 ――――― 鈴木も力持ちだった。薪の体くらいなら、片手で抱えあげた。
 あの、たくましい腕が大好きだった……。

「薪さん、掃除機お願いします」
 本棚の裏側に溜まった埃を指差して、青木が振り返る。その姿が今は亡き親友と重なって、薪の心臓をときめかせる。
 平静を装って、掃除機を取りにクローゼットに向かう。姿見に映った自分の顔がいくらか赤くなっているのに気付いて、薪は激しくかぶりを振った。

 なんだか、最近ますます似てきたような気がする。

 第九に配属になって1年近くが過ぎて、薪に対する態度にも余裕が出てきて。
 その余裕が、いつも薪の庇護者だった鈴木を髣髴とさせる。自分が何を言っても微笑んでくれて、どんな我儘も許してくれて……鈴木は限りなくやさしかった。青木は部下だから、上司の自分に逆らわないのは当たり前なのだが、薪に甘いところは一緒だ。
 例の件も、まだ保留中だ。
 もちろん答えは決まっている。青木のためにも早くはっきりさせなければと思うが、何故か踏み切れないでいる。
 その理由はきっと――――。

 「なんであんなに似てるんだよ……」

 手に掃除機を持ったまま、薪はしばらくの間クローゼットの中に立ち尽くしていた。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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