Promise of the monster(2)

 こんにちは。

 メロディの発売まで、2週間を切りました。
 予告では岡部さんが主役とのことでしたが、5巻に収録されてるような感じになるんでしょうか。楽しみですねえ。岡部さん、好きー(*´v`) 
 個人的には、副題「手紙とやっちゃん」でぜひ。
 

 お話の続きです。
 これ、けっこう長くって。7章あります。(青薪さんの後日談が2章だったのに、滝薪が7章って……)
 本日もよろしくお願いします。 




Promise of the monster(2)






「まずは朝メシだ」
 小菅駅への道すがら、滝沢は空腹を訴えた。朝が早かったので、薪も朝食を摂っていない。駅の近くまで行けばモーニングを食べさせるカフェくらいあると思ったが、それらしき店は見当たらない。小菅がこんなに寂しい駅だとは、いつも車で来ていたから分からなかった。
 1キロほど歩くと北千住の駅がある。その周辺ならコーヒーショップがあったはずだ。

 連れの意向も聞かずに方向を変えた薪に、滝沢の声が掛かる。
「なんだ。電車じゃないのか」
「隣駅くらいなら歩いた方がいい。途中で店も見つかるだろう」
「店? 家に招いてくれないのか」
「なんでおまえに僕の自宅を開放せにゃならんのだ」
「大丈夫だ。寝室は見ないようにするから」
「殺すぞ」
 言って薪は、歩く速度を2倍にする。「そう急ぐな」と後ろから、さして苦労もせずに追い付いてくる滝沢を振り返り、薪は電柱の陰に見知った顔を見つけた。
「どうした」
「いや。なんでもない」

 北千住駅の近くに何軒かあった喫茶店のうち、たった一つ営業中の札が掛かっていた店に二人で入った。
 時間が早いせいか、店内には数人の客しかいなかった。窓際の席に向かい合って座り、生野菜のサラダを添えたモーニングセットを2つ注文する。卵料理は3種類あって、薪は茹で卵を、滝沢はポーチドエッグを選んだ。
 注文の品が届く間、滝沢は、店内のあちこちに目を走らせていた。壁の抽象画やら天井からぶら下がった照明やら出窓に並べられた陶器製の人形やら、大して珍しくもないものを興味深そうに観察している。ここは、朝コーヒーを頼むとトーストと卵料理がサービスで付いてくることで有名なコーヒーチェーン店で、薪にとっては見慣れた店構えだったが、長い間、灰色のコンクリート壁ばかり見てきた滝沢には、遊園地のような場所に感じられたのかもしれない。

 やがて運ばれてきた厚切りのトーストにバターを塗りながら、滝沢が言った。
「おまえの手料理が食べたかったな」
 途端、コーヒーに羽虫でも入っていたかのように、薪が厭な顔をする。こいつ、どこまで図々しいんだ。
「僕がおまえのために料理なんかするわけないだろ」
「2人分も3人分も、作る手間はそう変わらんだろう」
 遠回しに同居人の存在を指摘されて、薪は冷静な監視者の仮面を厚くする。青木との関係を、この男は知っているのだ。
 挑発になど乗るのものか。赤くなったり取り乱したりしたら、相手の思うツボだ。

「おまえが来ても玄関は開けんぞ」
「心配するな。夫婦茶碗とかお揃いのマグカップとか色違いの歯ブラシとかサイズ違いのペアパジャマとか、見てもおれは気にしないから」
 反射的にソファから尻が浮く。監査対策のため、CCDカメラや盗聴器の類は徹底的に調査しているのに、どうやって。
「一体、おまえはどこからそういう情報を」
「え。本当にあるのか」
 思わず右手を握りしめたら茹で卵が潰れた。細かく割れた卵の殻が、薪の細い指の間からパラパラと落ちる。
「ぶっ殺す……!」
「おいおい、薪。お年寄りを怖がらせるもんじゃない。すみませんね、こいつ、口が悪くて」
 隣でコーヒーを飲んでいた老夫婦が眉を寄せて顔を見合わせるのに、滝沢が愛想よく笑い掛ける。外面のいい奴め。

 作り笑いを浮かべたまま滝沢は、トーストを齧りコーヒーを飲むと、ほうと息を吐いた。
「やっぱりシャバのメシは美味いな。コーヒーも久しぶりだ」
 特段旨いとも、薪は思わなかった。パンはベーシックな食パンだし、コーヒーは青木が淹れた方が断然美味い。
 塀の中の生活には詳しくないが、常識で考えても嗜好品の多くは禁止のはず。こんな風に食事を摂りながら自由に会話することもできないに違いない。
 そういう食事が味気ないことを、薪は知っている。薪も、砂を噛むように食事をしていた時期があるから。

「まだ卵の殻を剥いてるのか? トーストが冷めるぞ」
「……誰のせいだ」
 粉々になった卵の殻が白身に埋まってしまって、取るのが一苦労なのだ。面倒になって齧ってみたら、口の中がジャリジャリ言った。
「くっ、殻が」
「カルシウムの補給だと思えばいい」
『自分で自分を納得させるためにそう思うのはいいけど他人に言われるのは腹が立つしかもその元凶に!』
 声を出さずにノンブレスで突っ込む。隣の老夫婦に配慮してのサイレントモーションだったが、滝沢にはコーヒーに噎せるほど笑われた。こいつ、窓から蹴りだしてやろうか。
「おまえは楽しい男だ」
 人に楽しいと評されたのは初めてだ。鬼の室長、氷の警視長と噂される薪に、そんな経験があろうはずもない。どこまでも人を食った男だ。

「店が開くまでには時間がある。ゆっくり食べるといい」
「店?」
「土産を頼まれてな」
「小菅の仲間にか」
「ああ。意外と気のいい連中でな」
「土産ってなにを、て言うか、あそこは基本的に持ち込み禁止だろ」
 滝沢は、スーツの内ポケットから紙片を取り出し、テーブルの上に置いた。土産を配る人間のリストらしい。その中には看守長の宮部の名前もあって、なるほど、土産を賄賂にお目零しを願うわけか。
 ……名前の横に生写真(隠し撮り)とか書いてあるけど僕のじゃないよね?

「けっこうな数だな。その服装といい、おまえ、どこから資金を調達してるんだ」
「金なんか持ってない。ここの払いも土産もおまえ持ちだ」
「なんで僕が」
「嫌ならいいが。おれが食い逃げで捕まったとして、困るのは監視役のおまえだぞ」
「な」
 どこから突っ込んでいいものか、混乱する薪の前で、滝沢は悠々とコーヒーのお代わりをオーダーした。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Aさまへ

Aさま。

お返事、遅くなってすみません。
こちらのお返事、実は書くの4回目なんですよ。
なんか書くたび邪魔が入って~、その都度、内容が微妙に変わってしまうの、なんでかしら。


>見知った顔ってまさか青木?

当たりです!
さすがAさま♪


>薪さん達が入ったカフェ

捏造です(・∀・)
北千住は駅に下りたこともありません。

いや、小菅の地図を調べたら、周りに何もなかったんですよ。
現地で探せば色々あると思うんですけど、行ったこと無いので(^^;
それで一番近くの駅を調べたら北千住だったのね。


>8月には九州でもちゃんと映画が観られるようになっていればよいですが(´・ω・`)

本当に。
被害に遭われた方のお苦しみは、わたしの想像なんか全然追い付かないような、大きなものだと思います。
地面や建造物の損壊も、肉体的な傷も精神的な傷も、一日でも早く、癒えることを祈るばかりです。

Hさまへ

Hさま。

お返事おっそくなってすみませんー、いつも同じ謝り方ですみません。


>しづ薪さんと小菅の帝王「たっき~」のデート?(*'ω'*)…ん?

そそ、デートですよ♪

原作では天国(地獄?)に旅立たれてしまいましたが、
うちでは生きてるんで。やりたい放題っすね☆(←そのスタンスは二次創作としてどうかと)


>秘密 新装版 プロフィールのおおとりがまさか「たっき~」だとは!!!!!!

ねー!
びっくりしましたよね!
しかも、12巻はプロフじゃなくて年表だったという。読者の意表を衝くのは清水先生だけの得意技じゃなかったんですね(笑)


>じつは「たっき~」は人気者だったのか?

連載中は、けっこう人気ありましたよ。
青木さんが煮え切らない時期だったでしょ。だから、滝沢さんの火付け役としての活躍が望まれたんでしょうね。青木さん、あからさまに滝沢さんにヤキモチ妬いてましたからね(^m^)


鈴木さんは大トリではなかったですが、
巻末イラストはしっかり鈴薪でしたね~!
お揃いのイヤホンなんかしちゃって、いい感じ。
春の鈴薪祭りが始まっちゃうの、分かるわーww
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
メロディ6月号、読みました。
一言感想 「どひゃー……」
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: