Promise of the monster(5)

Promise of the monster(5)





 薪の通報で駆けつけてきたのは、捜査一課の大友班だった。
「お疲れさまです、薪室長。こないだから災難続きですね」
 捜査班に同行した5人の鑑識官が、現場の写真を撮ったりコンクリートにめり込んだ銃弾を取り出したり折れ曲がったドアの形状をスケールで計ったりしている間、3人は大友の事情聴取を受けることになった。
 犯人に心当たりがあるかとの質問に対して薪は、自分に恨みを持っている人間は大勢いるが、どこの誰かは分からない、と正直に答えた。青木はまったく身に覚えがないと言い、滝沢は、刑務所の中にいた方が安全だ、と警察への皮肉で返した。

「大友さん。現場検証に立ち会わせてもらえませんか」
「え。もう終わりましたけど」
「ここじゃなくて、あちらのビルですよ」
 薪が指差したのは、狙撃者が潜んでいたビルだ。現場に居合わせた者として、鑑識に的確な指示が出せる自信があった。しかし大友は困ったように首を振り、
「ああ、いや、あっちは別班が出向いてましてね。もう終わったんじゃないかな」
「そんなはずはないでしょう。僕はずっと見てましたけど、誰も出入りしてませんよ」
「そうですか。おかしいな……いやでも、俺たちはここの捜査権しか与えられてませんので。立ち入りの許可はちょっと」
 歯切れ悪く答える大友に、薪は厳しい口調で言い放つ。
「では結構です。勝手に入りますから」
 部外者が現場に入ることを捜査員は嫌う。それは知っているが、相手は青木を狙ってきたのだ。自分の部下に手を出されて黙って引き下がるなんて、薪のプライドが許さない。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、室長」
「僕は警視長ですよ。別にあなたの許可なんて無くても」
 強引に現場に向かおうとする薪を、携帯の着信音が止める。このメロディは中園だ。
『薪くん、狙撃されたって? 大丈夫なのかい』
「大丈夫です、中園さん。僕たちに怪我はありません」
『そうか。みんな無事でよかった』
 電話の向こうから伝わってくる、ほっと胸を撫で下ろす気配。亜麻色の瞳がすうっと細められる。

『もしもし? 薪くん、どうかした?』
「いえ。ご心配お掛けしました」
『まだ現場にいるのかい? 近くに犯人の仲間がいないとも限らないから、一刻も早くそこを離れて。滝沢くんの監視はもういい、早く家に帰りなさい。監視役の警官とSPを向かわせるから、場所を教えて』
「SPなんていりませんよ。滝沢の監視も、一旦受けた仕事です。最後まで僕がやります」
 この仕事を命じられた時と同じように上司の返事を待つことなく薪は電話を切り、ついでに電源も切った。

「滝沢。門限の6時まで、どこか行きたいところはあるか」
 唐突に、発砲事件にも現場検証にも見切りを付けてそんなことを言い出した薪に、周りの者たちが目を丸くする。話を振られた滝沢だけが無表情に、しばしの思案の後、薪に応えを返した。
「どこでもいいのか」
「……僕の家以外ならな」
「少し遠くなってもいいか」
「門限を守れる範囲なら。――大友さん、車のキィを」

 あまりにも当然のように差し出されたものだから、大友は自然に、その手のひらに鍵を置いてしまった。鍵が薪の右手にしまわれてから、自分のうっかりに気付く。
「あのお。おれはどうやって帰ったら」
「中園さんの部下が来ます。その人に送ってもらってください」
「え。それはさっき断ってたじゃないですか。場所だって伝えてないし」
「相手は中園さんですよ。僕と電話が繋がった時点で場所を特定してるはずです。断言してもいい、10分もしないうちに来ますよ。だから僕たちは急がなきゃ」
 キツネとタヌキの化かし合いのような薪の説明に、大友はぽかんと口を開けた。官房室や公安みたいに裏工作ばかりしていると、仲間同士の会話もこうなるのか。竹内が警察庁に行きたがらなかった訳が分かった。大友だって、日常会話で裏を読まきゃならないようなしんどい職場より、一課長の雷を選ぶ。

「当たり前ですけどこの事は内密に。行くぞ、青木」
 薪が無造作に放り投げたキィを待ち構えていたように受け取り、青木は二人の後に続いた。途中でチョコレート売り場に立ち寄り、預けていた商品を受け取る。
 大友に借りた車のトランクに土産を詰め込み、青木は車をスタートさせた。駐車場を出て間もなく、デパートの前の道路で黒塗りの公用車とすれ違う。薪の予言通り、大友と別れてから8分後のことであった。薪と滝沢は用心深く後部座席で頭を低くして、だから対向車には青木が一人で運転しているように見えただろう。

 滝沢の案内に従って、車は首都高から東関東自動車道に、やがては東京都を離れた。2時間弱の湾岸線ドライブの末、到着したのはN空港であった。
「どこでもいいとは言ったけど、国外は」
「安心しろ。パスポートを持っていない」
「じゃあ見学に? 飛行機、好きなんですか」
「別に。好きじゃない」
 その言葉通り滝沢は、見物客で混雑している展望デッキには近付こうともしなかった。待合室の椅子に座り、腕を組んで案内板を眺めていた。
 アナウンスに従って搭乗手続きを始める乗客たち。目まぐるしく変わる電光掲示板の文字。ベルトコンベアーに流れていく手荷物を追い掛けて、滝沢の視線が南ウィングの搭乗口へと移って行く、その先に。
 他人の眼には映らない、おそらくは滝沢の心の中にだけ存在する光景を想像して、薪はそっと目を伏せる。

 ――彼のいなくなった第九で。
 ずっとずっと、彼の姿を見ていた。
 モニタールームに、彼のデスクに、メインスクリーンの傍らに。現れては消え、消えては現れる彼の姿を追い続けた。室長室でひとり書類と格闘しながら、モニターに写り込む影にハッとして振り返れば、そこにはだれもいない。そんなことを何度も繰り返した。
 こいつもきっと。

 薪は黙って滝沢の隣に座り、彼に倣って案内板を見上げた。自宅のソファで寛ぐときのように、靴を脱いで膝を抱える。
 二人は会話もなく、たまたま隣に座った旅行客のように互いを見ることもしなかった。そんな二人を前に青木だけが熱心に、フロアガイドを片手に数えきれないほどある飲食店の中から薪が好みそうな店を探していた。




*****


 この下、メロディ6月号の一言感想です。
 ネタバレご無用の方は開かないでくださいね☆








 なにこの鈴薪。切っつなー(;;)
 もう完全にお互いの気持ちに気付いてて、流されようとするのを理性で押し留めてます感メガ盛りなんですけどどうしたら。

 僕は彼が好き、彼も僕が好き、でも進んじゃいけないって一生懸命に踏みとどまって、こんなん繰り返してたらそりゃあ、
 リモコン投げるよ!!
 僕がどんな思いで耐えてたのかおまえ知ってんのかってなるじゃん。
 想像力の問題じゃないよねえ。雪子さんは、薪さんの過去知らないものねえ。
 あそこから鈴木さんが薪さんを立ち直らせて、新しい薪さんを生み出してくれたことも知らないんだもん。仕方ないよ。


 とは言え、女だからね。そこは鋭いんだ。知らなくても、何となく分かるんだ。おそらくは青木さんの時も。
 だから婚約解消の話があった時、「じゃあ薪くんは?」ってなったんだろうし。そんな経験でもなければ、あの話の流れで男の上司を引き合いに出すの、ヘンだよねえ?

 はー。雪子さん、かわいそー(;;)
 こんな調子で2回も男奪られたら、そりゃあ、
 苛めたくもなるよ!!(大爆笑)

 もー、完全に自分が読者(主に腐女子)に嫌われる要素になってる③鈴木の元カノとか、ネタにもしたくなるって! やっぱ雪子さん、すっげー好きww つーか、
「普段あの人を見下しまくってる男が」のくだり、めっちゃ共感しました、先生!
 わたしも! わたしもです!
 薪さんが精神的ダメージを受ける様子を見るとゾクゾクするんです! 仰せの通り、たまんないっす!
 薪さんがすごく好きなのに、てとこもおんなじ! きっと先生とはいいお友達になれると思う!


 青木さんが今回アホの子になってましたが、少女マンガのヒロインはドジでちょっぴりおバカだけど可愛くて一途な子、てのが王道だから、心配いらない。
 て言うかあれ、イチャイチャしてるようにしか見えませんけどわたしの目がおかしいの?
 は? 割れたボールペン投げつけるくらい可愛いもんじゃないですか。(←法十の青薪さんにとって殴る蹴るは愛情表現) 青木さんのほっぺの傷、あの後、どうせ薪さんが手当てしてくれたんだろうし。
 ただ、薪さんが普段からものすごく怖い人だと思い出してしまった青木さんが、「はー、手紙の件、シカトしてくれてよかったー」とか思ってたらわたしが殺す。
 そんなことより薪さんの方が重傷。P83で女にモテない男に「青木も入るのか」って! 薪さんの中で青木さん、どんだけ鈴木フィルター掛かってんの! ←結局鈴薪。

 なんのかんの言っても、
 こんなに怖い薪さんを、あの1回だけで「やさしい人」と思い込める青木さんと、
 モブ顔の青木さんを「(モテない男に)入るのか?」と首を傾げる薪さんに、
 恋に落ちた人間特有の愛すべき愚かさを見ることができて大満足でした♪♪♪

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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非公開コメント

Melody良かったですねぇ( ´∀`)デレ

まったく同意です!!
鈴薪がこんなに両想いだったとは……
ふたりともお互いに気持ちに気付いてますよね?きっとどちらかが近寄りすぎるとどちらかが止める、危うい均衡を保っていたのでは?
鈴木さんの脳に残る薪さんがあんなに美しいのも、薪さんがリモコン投げるのも、全てのことが繋がります。
越えてはいけないラインがあったから薪さんはあんなに取り乱すし、あんなに美しかったんですよねえええ( ;∀;)
でも懐かしいラブラブな思い出、として今は。そしてそこから今を大切に、まで、ここまで薪さんは立ち直っている、ってえええ!!感動です。
薪さん、それはさっき苛め倒して泣かしたわんこのおかげでしょ?そうでしょ?ほんとはイケメンだと思ってるクセにィ~。
だったら今度はちゃんと想いを伝えて、大切にして下さい!

はー、今回ラブコメかと思いました。
しづさんのおっしゃる通り、イチャイチャしてたし(笑)
しづさんの願った通り、このお話の通り、薪さんは生きようとしてるんですよね……号泣。

いやほんとに

鈴薪切なかったですねえ……(T0T)

>もう完全にお互いの気持ちに気付いてて、流されようとするのを理性で押し留めてます感メガ盛り
ホントに!超ド級のメガ盛りでした!
薪さんに触れたくて思わず手を伸ばす鈴木さん……それをちょっとおどけて制してみせるものの、ドアを閉める前に、「もういっそ……」と一瞬躊躇する薪さん………(妄想入りすぎ……?】
切なかった………。

………流されてしまえばよかったのに………。

あれは苦しいですね。悔やまれますよね。(何が)

青木くんの件もまるっと同意です。
あれ薪さん思い出しては「青木かわいかったなー」ってほくそ笑んでると思います!

ところで、滝沢さんのとなりに靴脱いで膝抱えてすわる薪さんがちょうかわいいんですけど……。猫みたいで……。

なみたろうさんへ

なみたろうさん。


>鈴薪がこんなに両想いだったとは……

わたしもまさかここまでとは(・・;
第九編では薪さんの片思いだと思ってたんですよ。雪子さんがいたし。
それが、ジェネシス読んだら俄かに怪しくなってきて、
スピンオフになったら両想い確定。
わたしの中で雪子さんが、一気に不憫な女性に変化した瞬間でした……。



>ふたりともお互いに気持ちに気付いてますよね?
>きっとどちらかが近寄りすぎるとどちらかが止める、危うい均衡を保っていたのでは?

今回のように、主に鈴木さんが振り切りそうになって、薪さんがはぐらかす感じだったんでしょうか?
そういうことなら、青木さんの手紙を読んでない振りをする、と言うのはいかにもやりそうなことに思えてきます。

自分の感情を殺すのは鈴木さんの時で学習済みなんだろうなあ、と予想してましたが、上手な躱し方まで経験済みとは、
薪さん、そんな無駄なスキル要らないからっ。
はー、哀しい人だなあ(T▽T)


>でも懐かしいラブラブな思い出、として今は。

や、傍から見たらラブラブでも、本人はけっこう切なかったんじゃないですか、あれ。
しかも、あの会話の1ヶ月後にアレだもの。取り縋って号泣したくもなるよ……。



>そしてそこから今を大切に、まで、ここまで薪さんは立ち直っている、ってえええ!!感動です。

そうそう、そうなんですよ!
自分が経験してきたこと、ちゃんと教訓として活かしてるの。感動しました。


>だったら今度はちゃんと想いを伝えて、大切にして下さい!

そうなんだけどねえ。
それができないところが薪さんなんだよねえ(^^;

なんかねえ、あの人は何度でも同じ石に躓く気がしますよ。こと、恋愛に関しては。


>はー、今回ラブコメかと思いました。

もー、それ以外、読みようがなかったですよね(笑)


>しづさんの願った通り、このお話の通り、薪さんは生きようとしてるんですよね……号泣。

うん、そう。
それが一番大事なんだと思います。
楽しくて、感動もあって、とてもいいお話でした。
願わくば、なみたろうさんの仰るように、
鈴木さんに伝えられなかったことも教訓にして欲しいですね。

にゃんたろーさんへ

にゃんたろーさん。

>鈴薪切なかったですねえ……(T0T)

同意、ありがとうございます!


>あれは苦しいですね。悔やまれますよね。(何が)

本当にねえ。
流されてしまえば流されたで、違う種類の後悔になったんでしょうけど、
1ヶ月後にあの事件ですよ。悔やんでも悔やみきれない、やれること全部やっときゃよかった、て普通なら思うところですよ。

でも、薪さんはそうは思ってないんですね、きっと。
思ってれば青木さんに対する態度はもっと違ってくるでしょう。鈴木さんと違って、はっきり「家族になりたい」言ってるし。
あからさまに尻尾振って懐いてきてるのに手紙返すとか、しないよねえ。


>あれ薪さん思い出しては「青木かわいかったなー」ってほくそ笑んでると思います!

絶対にやってますよね!
めちゃくちゃ恋してるのに、それを自分の胸の中だけに抑えてる。
……悶え死にしそうです。


>ところで、滝沢さんのとなりに靴脱いで膝抱えてすわる薪さんがちょうかわいいんですけど……。猫みたいで……。

ありがとうございます♪
猫っぽい、ですか?
猫、飼ったこと無いんで良く分からないんですけど、落ち込んでる時は黙って寄り添ってくれる感じなのかな?
いいなあ。癒されますねえ。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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おかげさまで、しづは元気で仕事してます。(10/28)
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