Promise of the monster(6)

 私信です。

 4月28日の午後8時ごろ、「アウトロー」という題名でコメントくださった方、いらっしゃいますか?
 メールボックスに届いているのですが、ブログの管理画面を確認したところ見当たらず、また、HNも初めての方のようなのですが。
 イニシャルはAさんです。

 何かの理由でご自分で削除されたならいいのですが、
 もしもエラーで消えてしまったのなら申し訳ないので~、
「コメントしたけど返事もらってないよ!」と言う方、いらしたら連絡ください。




 さてさて、お話の続きです。
 残り2回、よろしくお付き合いください。





Promise of the monster(6) 





 空港内の和風レストランで遅い昼食を摂り、東京に戻ると夕方になっていた。
 門限の6時までは1時間近くあった。帰り道、真っ直ぐ小菅に向かってくれと滝沢に頼まれて、青木は海ほたるでのおやつタイムを諦めたのに。時間が余るなら、せめてレインボーブリッジくらい薪に見せてやりたかった。

 荘厳にそびえ立つ東京拘置所の門前で、滝沢は車から降りた。青木がトランクから荷物を取り出すと、見て見ぬ振りをするにはあまりにも大量の土産物に、迎え出た看守長が苦い顔をした。いくら滝沢が特別な立場にあろうと、すべてを許してしまっては他の囚人に示しがつかないのだろう。ましてや彼は看守長。部下たちの見本になる立場にある。
「241番。飲食物の持ち込みには制限が」
「すみません、宮部さん。僕の監視が行き届きませんで」
 責任を感じた薪が口を挟む。そんな彼に、看守長の声は厳しかった。
「困りますよ、警視長。しっかりしていただかないと」

 常ならば、申し訳ありません、と固い声で返すはずの薪は、何を思ったか小さな右手を軽く握って口元に持って行き、声を震わせて、
「ごめんなさい、僕の責任です。処分はこちらでします」
 気弱に下げた眉の下の、大きな亜麻色の瞳を潤ませれば、途端に宮部は焦り出す。
「い、いや、別に、あなたを責めるつもりは」
 ゴメンナサイはともかく、手のひらを相手の胸に当てるとか、謝罪に必要なんですか、それ。あなたにそんな風に謝られてほだされない人間なんかこの世に存在しないって知っててやってますよね?
「でも、官房室に持って帰ったら中園さんに叱られちゃうし。困ったな、どうしよう」
 やりすぎです。「叱られちゃう」とか「どうしよう」とか、言葉選びがあざと過ぎます。相手は囚人の嘘に慣れた看守長、ミエミエのお芝居に騙されるわけが、
「私に任せてください! これは有志からの慰問品と言うことで、服役囚に配ります」
 それでいいのか、看守長。
「いいんですか?」
「大丈夫です! 私は看守長ですよ!」
 おまえでいいのか、看守長。

「大丈夫なんだろうな、この刑務所」
「おまえが言うか」
 真顔で呟く薪に、滝沢がシビアに突っ込む。薪の不信は尤もだが、今回だけは滝沢が正しい。
 何はともあれ、一日だけの仮釈放は無事に終わった。途中、とんでもない事件に巻き込まれた気もするが、滝沢のような男と一緒だったのだ。このくらいは想定内だ。そのために、青木が尾いて行ったのだし。

「滝沢」
 二人の警官の手によって正門が閉じられようとした時、建物に向かって歩き出した背中に、薪は呼びかけた。見張り役に付いた二人の看守の間で、滝沢がゆっくりとこちらを振り向く。
「次は僕がパンを焼いて、青木が淹れたコーヒーを飲ませてやる。だから」
 中途で薪は、言葉を飲んだ。きゅ、と下くちびるを噛む、彼の気持ちが青木には分かる。
 多分、その日は永遠に来ない。それが分かっているから薪は言い淀む。果たせない約束の残酷を、誰よりもよく知る彼ならではの躊躇い。そして、
「ああ。楽しみにしてる」
 尊大に笑った滝沢は、薪の葛藤を見抜いている。
 かつて敵だった男、仲間を殺した許せない男。仇とさえ感じていたはずの、彼に対するポーカーフェイスがどんどん薄くなっている。それを自覚して表情を引き締めた、薪の悲しいまでの頑なさも。

 二人で、滝沢の姿が見えなくなるまで見送った。つるべ落としの日暮れは早くて、滝沢が建物に入る前に、彼のダークスーツは夕焼け色に染め変えられた。
 ガシャン、と重い金属音が響き、彼の世界が再び閉じられたことを青木に教える。尚も佇む様子の薪に、青木がそっと声を掛けた。
「帰りましょうか」
「うん」
 促されて薪は助手席に乗り、シートベルトを締めた。車の窓から見上げた拘置所の壁は宵闇に薄黒く染まり、一層堅牢さを増すようだった。

「青木」
 車をスタートさせて間もなく、正門から眺めれば永遠に続くかと思われたレンガ塀の、瞬く間に流れ去る様子に目をやりながら、薪は言った。
「すまなかった。危険な目に遭わせて」
 なんだっけ、と思いかけて狙撃事件のことだと気付く。呑気なやつだと叱られそうだが、青木にとっては看守長と薪のニアミスの方がよっぽど心臓に悪い。
「標的は薪さんだった、てことですか?」
 だとしても、薪が謝る必要はない。青木は薪のボディガード。彼を守るのが青木の仕事、もとい存在理由だ。
「いや。狙いは僕じゃない」
 では滝沢狙いか。本人も察していたようだし、案外今頃、安全な場所に帰れてホッとしているかもしれない。外より刑務所の中の方が気が休まるなんて、笑い話みたいだ。

「ターゲットはおまえだ」
「やっぱり、――えっ、オレ?!」
 思いがけない薪の言葉に、青木は驚く。自分が誰かに命を狙われるなんて夢にも思わなかった。自分は薪のような重要人物でもないし、他人に恨みを買う憶えも、いや、もしかしたら薪に横恋慕している誰かが自分たちの関係に気付いて、て言うかそれ100パー返り討ちにするから。
「と言っても目的は僕だけどな。狙撃事件そのものが僕に対する教訓みたいなもので……」
 薪が何か言っているが、青木の耳には入ってこない。誰かが自分を害して薪を奪おうとしている、その妄想だけで青木は国際級のテロリストになれる。
「――さんも、誰も傷つけない自信はあったんだろうけど、あんな危ないやり方を選ぶなんて。関係者でもない大友さんたちまで巻き込んで、後で抗議しておかないと。て、聞いてるか、青木」

「薪さんに一目惚れした犯人がオレを事故死に見せかけるため今この瞬間にもタイヤを狙撃、いや、それじゃ薪さんも巻き添えになる。狙うならオレが一人の時か……」
「おーい、帰ってこーい、てか青木、信号赤!」
 何故か横から車が突っ込んできたから強くアクセルを踏んでハンドルを切った。不思議なことに、その先にも車がいたからサイドブレーキを引き後輪にスピンを掛けて回避した。タイヤがアスファルトを削る音が高らかに響き、そこにいくつものクラクションが重なる。みんな、なにを慌ててるんだろう。

 通常走行に戻って青木は呟く。
「そもそも薪さんに横恋慕なんて許せないし。襲われるのを待つよりこっちから潰しに、痛いっ」
「妄想のアサシンに襲われる前におまえに殺されるわ!」
 脳天をパトランプで殴られて我に返る。いつの間にか首都高を抜けていた。
 おまえの運転は危ないと、隣でため息を吐かれて青木はしょげる。車の運転は上手い方だと自分でも思う。下手に自信があるから余計なことを考える。大事な薪を乗せているのだ、集中しなければ。

 青木は神妙な顔になって、自動車学校の生徒のように十時十分の位置でハンドルを握り直した。真っ直ぐに前を見て、でも隣で薪が微笑んだのが雰囲気で分かる。リラックスしてシートにもたれかかった薪の右手が、ぽんと青木の左腿を叩いた。
「明日は仕事だけど、まだ6時前だし。ちょっとだけ寄り道しようか」
「食事ですか?」
「夕食はまだいい。昼が3時頃だったからな。それより」
 つい、と細い指が差した建物に気付いて、青木の肩が強張る。つい先日、今週は薪を休ませてあげなさいとの小野田の厳命を破ったことが岡部にバレて、こっぴどく締め上げられたばかり。普段は20回に1回くらいしかOKしてくれないくせに、どうしてこういうときに限って積極的になるかな、この人は。

「で、でも、この車、大友さんに借りた覆面パトだし」
「べつにいいだろ。パンダ(パトカーのこと)じゃないんだし」
「ですよねっ」
 気になるならコインパーキングを使え、とそこまで言われて応じなかったら男がすたる。てか、薪から誘ってくれるなんてハレー彗星並みに珍しいこと、勿体なくて断れない。
 期待に頬を紅潮させながらウィンカーレバーを上げる青木の横顔を横目で眺め、薪は小さく笑いを洩らした。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Hさまへ

Hさま。


どもども♪
いつもお気遣いありがとうございます。
再来週、お義母さんが2度目の入院を控えてるので、連休はお家で、のんびり過ごしてます。
HさんもGW、楽しく過ごせてますか?


>しづ薪さんと原作の薪さんのキャラが似てきたような気がします。

最初は近付けようとして失敗して、いつの間にかかけ離れてしまったと思っていたら原作の方から近付いてきてくれたような?
あの苛め方は確かに……うちの薪さんも小芝居好きだからなあ(笑)
なんにせよ、薪さんの新しい魅力が生まれるのは嬉しいことですね(^^)


>でも薪さんてば「ぼくの青木はイケメンだ」と思っているのね。

そうそうそうなのよ! ここ大事!!
「青木も入るのか」の後、「・・・」て入ってるでしょ?
あそこはね、
「入るのか?」「いや、入らないだろ」「だって青木、カッコいいもん」と言う薪さんの心の声が「・・・」になって表れてるんですよ! 間違いない!



>ぴよこな薪さんとエロかっこよくてキザ(でブラック)な鈴木さん

そーなんですよー。
もー、薪さんたら甘え放題。本当に鈴木さんの前では年相応、や、この時33歳だから、まるで少年のよう。
それもそのはず、「いくらでもつきあってやるからオレには少しくらい迷惑かけてもいいんだよ」て言われてましたものね。
お互い出会った頃のまま、ずっとあの時の気持ちが続いてるんでしょうね。



>薪さんが幸せきもちで鈴木さんを思い出せるようになったのは、
>前を向いて歩いているからだと思いました。

うんうん、分かります。
第九編では胸を撃たれた鈴木さんの姿しか思い出せなかったのに、スピンオフではこんなに生き生きとした鈴木さんの姿を思うことができて、もうそれだけでも感激ですよね。
薪さん、本当に乗り越えたんだなあ。



>「鈴薪」はとっても素敵だけど

そりゃそうですよ。
鈴木さんはあくまで過去の人です。いっくら素敵だって、これから薪さんを幸せにすることができるのは青木さんです。
だからわたしは青木さんを応援します、ていうかね、
鈴木さん、完璧すぎて応援しなくても大丈夫そうだからいいやって。
「ただのバカ(今井談)」て来られた瞬間、わたしは全力で青木さんを応援するって誓いました。
ダメな子ほどかわいいもんです。薪さんもきっとそう。


>岡部さんと酒を呑んでるシーンがおやじっぽかった。

相手に依りますよね。
わたしも岡部さん相手の薪さんには、あまり色気を感じないです。
これが青木さんとか鈴木さんだと、薪さんの目が違うんですよね。相手に見蕩れてたりするし(〃▽〃)



>鈴木さんも岡部さんといっしょに「薪さんを見守り隊」のメンバーさんになりつつあるのかもしれませんね。

きっとね~、天国から見守ってるんでしょうね。
第九編の薪さんを見て、もどかしい思いも沢山してきたと思う。
今はきっと、安心して見てられるんじゃないでしょうか。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
毎日たくさんの拍手をありがとうございます。励まされてます。
おかげさまで、しづは元気で仕事してます。(10/28)
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