FC2ブログ

真冬の夢(5)

真冬の夢(5)







 2LDKのマンションの大掃除など、たかが知れている。
 青木は実家にいたころから、毎年大掃除を手伝わされていた。今年はさすがに掃除のために帰ることはなかったが、大学時代までずっとそれは恒例の行事だった。従って手際もいい。
 実家は一軒家だったから、部屋数はここの3倍以上あった。しかも、姉や母の部屋の持ち物の多いことといったら。それに比べたら楽なものだ。
 薪もくるくるとよく動く。一人暮らしが長いだけあって、掃除も手慣れたものだ。普段からこまめに片付けているのだろう。もともとそれほど汚れているわけでもない。
 3時間ほどで、全ての部屋はきれいになった。窓はピカピカに磨き上げられ、ワックスを塗った床は木目の色も鮮やかで、まるで新築の部屋のようだ。

 青木が蛍光灯を取り替えていると、キッチンから香ばしい匂いがしてきた。薪が昼食を作ってくれているらしい。薪の料理は家庭的でとてもおいしい。
 匂いにつられてダイニングに行くと、エプロン姿の薪がシンクでトマトを洗っている。色とりどりの生野菜のサラダに、揚げたてのコロッケ。オーブントースターの中で、おにぎりが焼かれている。香ばしい匂いの正体は、どうやらこれだ。
 いつも思うが、エプロン姿の薪は文句なしにかわいい。
 自分の奥さんの一番好きな服装にエプロン姿を挙げる男性は多いが、分かるような気がする。
 
「良い匂いですね。オレ、焼きおにぎり大好きなんですよ。居酒屋でもよく頼むんです」
 薪のことだ。曽我あたりからの情報で、青木の好みのものを作ってくれたのかもしれない。前にもそんなことがあった。薪はいつの間にか、いろいろなことを知っているのだ。
 生野菜には青木の好きなサウザンドレッシングがかけられているし、コロッケの中身はかぼちゃとじゃがいもが半々に混ざっていて、どうやら薪のオリジナルらしい。これだからここの食事は楽しみなのだ。
 皮肉屋で意地悪だが、本当はとてもやさしい。自分勝手だが、気配りの名人だ。
 矛盾だらけの薪の性格が、青木にはたまらない魅力に思える。

 時計を見るとまだ2時前だ。これから街へ行くのもいいかもしれない。
「夕食までだいぶ時間ありますね。映画観に行きませんか?」
 ダイニングで薪が作ってくれた焼きおにぎりを食べながら、青木はダメもとで、そう提案してみた。
「……おまえ、夕食まで僕にたかる気じゃ」
 薪が思い切り眉をひそめる。
 職場ではとても怖いと感じられる表情なのに、この上なく可愛らしいと思ってしまうのは、手におむすびを持っているせいか、チェック柄のエプロンのせいか。

「夕食はオレが奢りますよ。薪さん、さっきそう言いましたよね?」
「言ってない!」
 速攻で否定される。口からごはん粒が飛んできそうな勢いだ。
「言いましたよ。カフェなんかじゃなくて、もっと高いものを奢れって」
 今度は否定しない。青木は自慢げに、手前の論理を展開した。
「それって、ディナーを一緒に食べてくれるってことですよね?」
「ちがっ……!」
 薪はプライベートには、仕事の上下関係を持ち込んだりしない。逆に、オフのときの出来事を仕事に影響させるようなこともしない。実に明確に線が引かれているのだ。だから職場で青木が室長にこんな軽口をきくことは絶対に許さない。
 でも、ここは職場ではない。

「おまえって、前からそんな性格だっけ?」
「まあ、多少テンパッてますけど。なんたって薪さんの前ですから」
 実は、開き直っている。
 2ヶ月前、告白して振られたばかりなのだ。しかも、諦めないと宣言してしまった。
 薪とはこれからも一緒に仕事をしていくのだ。開き直らないとやっていけない。

「薪さん。映画行きましょうよ」
「そんなに観たいのか? 映画」
「はい。一人じゃつまんないですから」
 腕を組んで、しばらく迷っている。すぐに却下しないでくれたのは、薪も独りで観る映画のつまらなさを知っているからだろうか。

「……映画だけだぞ」
「はい!」
 やっぱり薪はやさしい。というか、押し切られると断れない性格なのかもしれない。
 3つ目の焼きおにぎりを頬張りながら、青木は満面の笑みを浮かべた。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: