ソング(4)

 ご説明の追加です。(今回多いな(^^;)
 法十設定で、雪子さんの誕生日は4月10日です。(この設定でいろいろ書いちゃったんで、今更ずらせないの、ごめん)
 公式プロフでは秋でしたね。なんとなく雪子さんは春夏生まれって気がしてたんですが。

 さてさて。
 楽しいカラオケパーティのはじまりはじまり。




ソング(4





 曽我が予約をしたカラオケルームに、薪は大きな花束を持って現れた。一足先に来て宴席を整えていた4人の目が点になる。
「雪子さんの誕生日プレゼント。用意する時間がなくて」
 雪子の正確な誕生日は10日後。それまでには何かしら用意するつもりでいたのだろうが、昨日の今日で、それが為せなかった。だからとりあえず花束を、と言うことらしい。

「薪さん、三好先生と一緒だったんじゃ」
「ああ。駅から一緒に来た」
「それ、三好先生にあげたんでしょ? なんで薪さんが持ってんですか」
「雪子さんが、荷物になるから持ってくれって」
 その言い分を薪は素直に信じたらしいが、雪子の本音は多分ちがう、と薪以外の全員が思った。
 薪が雪子のために選んだ花は、春の代表花チューリップ。それもピンクインプレッションとアプリコットビューティと言う可愛らしさに可愛らしさを掛け合わせたような組み合わせだ。雪子が持つには幼すぎる、が、年齢不詳性別不詳の薪には嫌味なくらい似合っている。その彼から花束を取り上げるのは、天使から羽根をむしり取るようなものだ。
「おかしい……おかしいよ」
「あの人、37だよな」
 もともと、仕事時間以外の薪は雰囲気が柔らかいのだ。その彼が白とピンクを基調とした花束を持つと、まるで春を連れてきた女神のようだ。

「で、主役はどこです?」
「雪子さんはレストルームだ。化粧直しだって」
 4人とも、女性心理には詳しくないが、自分よりも花束が似合う男と二人で街を歩いてきた女性がどんな気持ちなるかは想像が付く。今はそっとしておいてやろう。
「そんなことしなくても、雪子さんは充分きれいなのに。女の人は大変だな」
 自分が原因であることを全く理解していない。こういう男と友人関係を続けている雪子の苦労に思いを馳せ、4人はそっと心の中で彼女にエールを送った。その励ましが届いたのか、それからいくらも経たないうちに雪子は明るい笑顔で戸口から顔を出した。
「ありがとうね、薪くん」
 そう言って、薪から花束を譲り受ける。スプリングコートを脱いで曽我に預ける薪に聞こえないように、今井がこそっと雪子に耳打ちした。
「それ、渋谷駅で薪さんに渡されたんですか」
「そうよ。地獄だったわよ」
 視線で刺し殺されるかと思ったわ、と雪子は苦笑いし、花束に顔を伏せた。あの薪と友人でいると言うことは、彼の美貌に羨望を覚えるだけでなく、不特定多数の人間からやっかまれると言うことだ。内外ともに嫉妬の嵐、普通の女性だったら2ヶ月でノイローゼだ。

「雪子さん。コートをお預かりします」
「ありがと」
 コートを受け取ろうと手を差し伸べる。薪は雪子にだけはいつもやさしい。
「カラオケパーティなんて久しぶりだわ。みんな、今日はあたしのためにありがとう」
「雪子さんに喜んでもらえてよかったです。みんな、僕からも礼を言うぞ」
 ついでにみんなにもやさしい。

「いつもああならいいのに」
「騙されるな。仕事になったら鬼だぞ」
 小池と曽我がコソコソと囁き合うのに、今井と宇野はそっと目配せをして、
「面子も揃ったことですし。そろそろ始めましょうか」
「え。岡部と青木は?」
「青木はメンテナンス当番。岡部さんは家の用事があるそうです」
 小池が前もって用意した言い訳を口にすると、薪は一瞬だけ怪訝な顔をしたが、そうか、と頷いた。
「せっかくの機会なのに。残念だな」
 二人とも、薪がマイクを持たされて困惑すれば代役を買って出るだろう。計画の邪魔になりそうな人間は排除するに限る。

「さあさあ、まずは乾杯です。みなさん、席に着いてください」
 宴会王の曽我の采配で、画面に対して垂直に並べられた4人掛けのソファの先頭に雪子が座り、その隣に薪、奥に今井が座った。反対側には画面に近い方から曽我、小池、宇野のラインナップ。ソファの間に置かれた人工大理石のテーブルには、豊富な種類の酒と湯気を立てる料理。皆にグラスが行き渡ったところで、主催者の今井が乾杯の音頭を取った。
「三好先生、38歳のお誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。でも年、言わなくていいから」
「「「おめでとうございます、38歳」」」
「だから言わなくていいっての」
「雪子さん、さん」
「薪くんまで!」
「いえあの、ここ、山賊焼きが名物だって、メニューに」
「山賊焼き? なにそれ。美味しいの?」
「美味しいですよ。ひとつ、取りましょうか」
 追加の料理を品定めする二人の相談がまとまったのを見計らって、今井がさりげなくマイクを向ける。「先生、一曲どうぞ」と客人の雪子に幕を切らせる作戦だ。
 宴会の時、最初に歌う人間は緊張するものだ。誰かがスタートさせなければ始まらないのも事実だが、なかなかに勇気がいる。アルコールが回って宴会が盛り上がって、そのどさくさ紛れでもなければ、歌に自信のない人間はマイクを握らない。まずはその土台作りからだ。

「ちょっと待て。おまえら、先に雪子さんに渡すものがあるだろう」
「いや、残りの報酬はミッション完了後と言うことで」
「報酬? これは雪子さんのバースディパーティだろ?」
「バカ、小池。薪さん、おれは昨日のうちに渡しました!」
「なんでパーティ当日じゃないんだ?」
「え。だってそうしないと先生仕事してくれないから」
「仕事?」
「バカ、曽我、黙ってろよ。ちゃんと用意してありますよ。ほら、Pホテルのケーキバイキングチケット」
「おれはCホテルのディナー券です。パーティの後に渡すつもりです」
「全部食べもの被りなのは眼を瞑るとして、なんで後なんだ?」
「いいの、いいのよ、薪くん。あたしの誕生日、まだ先でしょ。プレゼントは当日もらえることになってるのよ」
「なるほど。そういうことですか」
 雪子の機転に救われる。4人は胸を撫で下ろした。

「さーて、歌うわよ」
 気の好い雪子は二つ返事でマイクを受け取って、最近のヒットソングの中から宴会向きの、ホップテンポのものを選んで披露した。彼女の歌声は明るく、快活で、パーティの開幕には誠に相応しかった。
「「「「三好先生、ブラボー!」」」」
「雪子さん、お見事です」
「まーね」
 拍手で締めくくられた雪子の歌が終わると、2番手を今井が引き受けた。「先生のように上手じゃありませんけど」と彼が選んだナンバーは、しっとりめのバラード。名の知れたイケメン歌手の曲だが、今井の低いテノールが曲にぴったりとマッチして、素人の宴会芸には十分なレベルだ。彼はなんでも卒なくこなす。
「さすが今井さん」
「顔がいいと得ですね。歌まで上手く聞こえる」
 なんだとこら、とグラスに入った酒を相手に掛ける真似をする。楽しい音楽と程よく回ったアルコールが、彼らの気分を上向きにしてくれた。

「次はおれ行きます。ここからは下手な順で」
 満を持して、宴会王の曽我が立ち上がる。「下手な順」などと謙遜する輩に限って、実は隠れた実力を――と、曽我に限ってそれはない。
「……ホントに下手だな」
 曽我の歌を聞いた小池が、細い眼をさらに細めて呟く。友情で言葉が選べるレベルではなかった。
 元歌(?)は最近流行の三代目Jと言う若手男子グループの曲だが、開始1分で原型を留めていない。恐ろしい破壊力だ。
「これ、三代目のファンが聴いたら怒るぞー」
「三代目ってなんだ」
 引き攣った顔で強張った拍手をする小池に、向かいの席から薪が尋ねた。隣の今井は画面に背中を向けて、耳に指で栓をしていたからだ。
「そういうグループ名なんですよ」
「世襲制なのか。変わってるな」
 変わってるのはあんただよ。今の日本で三代目知らない30代はあんたくらいだよ。
「もしかして薪さん。エグザ●ルも知らないんじゃ」
「追放者、または亡命者」
「言葉の意味は合ってるんですけどね……」

 惜しい人だな、と小池は隣の宇野と囁き合う。
 雪子の隣で、合成皮革のソファにちょこんと座ってトム・コリンズを傾けている薪は、どの角度から見ても難癖の付けようのない美形で。無意識に奪った異性のハートの数は海岸の砂粒ほどもある彼はしかし、世俗のことにはとんと興味が無い。これでは女性との会話も弾まないだろう。
 だが、これで薪の音痴説が俄然信憑性を増した。流行歌に興味が無い、それは歌うことが好きではない証拠だ。
 流行に興味が無い自体、弱点と言えば弱点だが、本人がそのことをまるで意に介していないのでは、ジョーカーにはなり得ない。何の気なしに質問が口を吐いて出るのは、知らないことを恥ずかしいと思っていないからだ。当人に苦手意識の無いものは弱点ではない。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

>薪さんと並ぶのは雪子さんでもプレッシャーだとすると、とても彼女はできませんね^^;

少なくとも、わたしは薪さんの隣に並ぶのはイヤですー。
陰からこっそり見つめたいです。できれば青木さんと一緒にいるところを。(それってただの覗き)


>原作の薪さんはクイーン(私も若い頃、大ファンでした)とか洋楽には詳しかったですね。

あれっ、そうでしたっけ?
……それってどこのエピソードでしたっけ? 
やべー。薪さんファンとして思い出せないの、やべー。


>薪さんのことだから英語の曲かも?

当たり!
Aさん、毎度のことながら良い勘してますねえ。

もうちょっとでそのシーンですので、しばしお待ちくださいませ。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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