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You my Daddy(7)

 いよいよ明日から、映画が公開されますね!
 わたしは日曜日に見に行く予定ですが、みなさんはいかがされますか?
 もしも感想書くときはネタバレ防止に追記にしますので、未見の方はご注意くださいね。





You my Daddy(7)





「一緒に住んでるぅ?!」
 清閑な早朝の空気を破るような大声に、青木は思わず耳を塞いだ。第九の室長室である。
 室長席に座った岡部は、何気なさを装うために構えた新聞を握りしめ、なんとも情けない顔をして、その演出を自ら台無しにしていた。

「なんだそれ」
「なんだと言われましても」
 岡部のデスクにコーヒーを置き、青木は、尋ねられるまま週末の出来事を話した。
 薪とヒロミ親子3人の話し合いの末、夕方、青木が彼らを薪の家まで送って行ったこと。テイクアウトの夕食を4人で摂った後に青木は家を出て、この週末はホテルで過ごしたこと。月曜の朝に薪を迎えに行き、所長室がある科警研の管理棟まで彼を送って別れた。その車の中で、しばらくはこの生活スタイルを続けようと薪に言われたこと。

「落ち着き先が見つかるまでは、ヒロミさんたちの生活の面倒を見ると薪さんが」
「自分の家に住ませるってことはつまり……親子鑑定が陽性だったってことか」
「いえ、鑑定はしてません。薪さんが、そんなものは必要ないって」
 青木が薪の意向を伝えると、岡部はコーヒーに異物でも入っていたかのように思い切り顔をしかめた。
「それじゃ実の娘だかどうだか分からんだろう。彼女の母親と昔そういう仲だったからって、必ずしも彼女が薪さんの子供だとは限らんぞ」
「はあ。でも薪さんが決めたことですから」
「だからって、身元もハッキリしない女を家に上げるなんて」
「身元はしっかりしてます。薪さんの大学時代の恋人の娘さんですから」
 それはかなり微妙な身元保証だと岡部は思った。
 大方、例の写真を盾に援助を強要されたのだろう。相手が女だと思って油断して、薪の危機管理が甘いのは昔からだが、問題は青木だ。おめおめと家を追い出されて、これでは何のための住み込みボディガードだか分からない。

「昔のこととは言えそういう事実があった以上、薪さんが弱気になるのは仕方ないとして、おまえが逃げ出してどうする。こういうときこそ傍にいて、薪さんを守るのがおまえの仕事だろう」
「岡部さん。薪さんの生い立ち、ご存じでしょう」
 そう言って青木は、静かに微笑んだ。
「きっと、嬉しかったんだと思うんですよ。ご自分の血を分けた子供が現れて」
 今までの空白を埋めたい、できる限り一緒いたいと、そう考えるのは自然なことだと青木は思った。その場合、青木がいない方がいいであろうことも。
 青木がそう言うと、岡部は渋い顔をますます渋くして、「大丈夫なのか」と訊いた。岡部は本当に心配性だ。それだけ薪のことが大切なのだ。ありがたいことだ。

「オレも最初は心配したんですけど、ヒロミさん、意外に善い人で。オレがミハルちゃんを泣かせたりしなかったら、彼女の第一印象はもっと良かったと思います。主婦だから家事全般任せて安心だし、薪さんのお世話もよくしてくれて。そうそう、今朝お迎えにあがったらヒロミさんが薪さんのネクタイを結んでて、まるで奥さんみたいに甲斐甲斐しく」
「ちがう、おまえのことだ」
 え、と青木は間の抜けた声を出した。予想外の質問だった。

「青木。おまえは大丈夫なのか」
 岡部の質問に対する答えは誠に簡単で、それ以外の解答があろうはずもないのに。何故だか青木は、それに答えることができなかった。
 不意に訪れた沈黙に、コーヒーの香り高い湯気が微かに揺らめいていた。




*****



 科警研の所長室は、官房室の薪の私室よりも広さで勝り質で劣る。前者は所長室には応接セットがあるからで、後者は、官房室に異動したら小野田が大層喜んで、豪華な備品を揃えさせたからだ。当時はあからさまな身贔屓に、非難の声も上がったと聞く。

「あの女を家に入れたそうですね」
 上半期の予算案を差し出しながら、岡部は単刀直入に訊いた。デスクの向こうでは薪が受け取った書類を開きつつ、うんざりした顔をする。
「青木が喋ったのか」
 仕方ないな、とぼやきながら頬杖を付く、その机は去年まで田城が使っていた年季が入ってくすんだスチール机ではない。真新しいマホガニーの机だ。当然小野田が新調させたものだが、これに至ってはもはや身贔屓ですらない。単なる親バカだ。ここまでくればいっそ清々しいと人は感じるらしく、誰も何も言わなくなった。

「薪さん。前にも訊きましたよね? 青木をちゃんと見てますかって」
 ダークブラウンの木目模様を岡部の毛深い手の甲が遮り、すると薪は不機嫌に眉を寄せたまま岡部を見上げた。その亜麻色の瞳が明確に発する、『うるさいな』。いささかムッとして岡部は声を張る。
「あいつにはあなたがすべてなんですよ。それを理解してやらないと」
「おまえこそ。青木の何を見てるんだ」
 青木を見損なうなと言う薪の言葉に、岡部は軽い眩暈を覚える。青木が寛容で物分かりの良い男でいるのは薪の前だけだ。薪の見えない所で青木が、薪に接近した人間に陰湿なやり方で報復していることを岡部は知っている。いつだったか、酔っ払った薪にキスされた今井に出涸らしから煎じたコーヒーを飲ませたこともある。あの時の今井は被害者で、しかも同じ研究室の先輩なのに。非道い話だ。
 そんな青木が子連れとはいえ若い女性と薪の同居を、例え本当の娘だとしても、心穏やかに見守れるものか。

「あのですね、薪さん」
「岡部」
 突然薪は姿勢を正し、厳しい上司の顔になった。岡部が作った予算案の中に、訂正すべき項目を見つけたらしい。
「この新システム導入関係費、3割ほど増やしておけ」
 IT技術の進化は日進月歩だ。予算案を作成した時点で購入予定だった機器が、実際に予算が下りたときには型遅れだった、などということはよくある。新型の機器を導入するとしてそれが当初の予算で賄えればよいが、世の中の道理で新製品は従来品より高くつく。そのための予備費を抑えておけ、と薪はアドバイスをくれるが、予算案にはメーカーの朱印を押した見積書を添付する必要がある。
「しかし、メーカーの見積もりはその金額で」
「業者に書かせればいい」
 要するに、金額を水増しした見積書を納入業者に作らせろ、ということか。
 第九の室長だった頃、薪はMRIシステムのハード面の強化に力を注いでいて、しょっちゅう宇野と相談しては新型の部品と交換していた。あの予算をどこから捻り出しているのだろうと実は不思議だったのだが、蓋を開けてみれば何のことはない。ただの不正だ。

「薪さん。あんたそんなことやってたんですか」
「きれいごとで必要な予算が確保できるか」
「だからってそんな危ない橋」
 横領ではないにせよ、これが上にバレたら確実に左遷だ。目的のためには手段を選ばない薪の性質は知っていたが、こんなことまで――。
 そうだ。薪はこういう人間だった。

「なにか目的があるんですね?」
 薪はそれには答えず、右手の引き出しを引いた。滑らかに開かれた長方形の薄い箱の中身は、薪の几帳面な性格を映す鏡のようにきっちりと整頓されていた。
 細い指が、そこに碁盤の目のごとく並べられたシャチハタ印の中から一つを選び取り、書類の中央に軽やかに運ぶ。押印位置を定めながら薪は言った。

「一緒に暮らし始める時、青木に言ったんだ。一生付きまとってやるから覚悟しろって」
 パン、と軽快に押印の音が響く。
「男に二言は無い」
 薪は不敵に笑い、大きく赤で不可と書かれた予算案を岡部に突き返した。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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あふぁ、薪さん( ;∀;)

なんか企んでるゥ(急に楽しい)
青木が不憫でめそめそしてましたが、なにか起こりそうですね!(°▽°)
あっでも薪さん、青木の振り切れっぷり想定してます?大丈夫?そこ薪さんの唯一計算できないところじゃ…そこに惚れてるんじゃ痛っすいませんすいません( ;∀;)

いよいよ明日ですねぇ…
なみたろうはガッツリ週末仕事&休みは甥っ子と遊んでもらう&法事で。たぶん盆明けになりそうです。しかもお一人様で行くので、平日のレイトショーとか狙おうと思ってます。
ネタバレ平気なタイプなので、しづさんの感想楽しみにしてますね( ´∀`)

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なみたろうさんへ

なみたろうさん。

お返事遅くなってごめんねー(^^;
お仕事獲れたのはいいけど、重なっちゃって。書類の海に溺れてました。久しぶりにリアル第九になったー。(←1週間ぶっ続けで11時まで仕事。若い頃は平気だったんだけど、この年になるとしんどいわー)


そんな中でも、映画行ってきました&映画の感想、拝読しました!
あははははー! ←もう笑うしかない。

映画の感想はねえ、正直、長くて難しくて疲れました。

それでもアニメよりはマシだったんじゃないかな。少なくともキャラの崩壊はなかったし。(設定の変更はあっても、アニメのようにキャラがブレブレとかなかった)
絹子のセリフの唐突さ(「あなたの可愛い人」)は、アニメの時と同じで思わず吹きましたが。

そんな黒歴史でも、わたし自身、アニメがきっかけで原作を読み直して結果秘密にハマったので、今回も、
映画がきっかけで秘密ファンが増えるかもしれませんよ?
そしたら画集とかが出ちゃうかもよ? それは嬉しいよね!

あと、どこかのインタビューで読んだんだけど、
清水先生が「ジェネシス描いたのは映画化の話がきっかけだった」って仰ってましたよ。
それ聞いた時、わたし、でかした大友さんっ、て思った。(何様)
映画の功績はもうそれでいいんじゃね?←映画関係者に刺されそう。


とりあえず、暑いし、お盆だし、鈴木さんの命日忘れてたし。←ごめんなさいー!!
元気だしていきましょう。

Hさまへ

Hさま。

映画、見てきましたよ~。

感想、上げたかったんですけど、もともとレビューが苦手な上に、映画自体難解で、なにより、
見終わった後の疲労感がすごいんですよ(^^;
どうやらこの疲労感は狙いの一つらしいんですが、わたし、見て疲れる映画は見たいと思わないタイプだし、その「疲労感」もまた……20世紀少年3部作ぶっ続けで見た後の疲労感とは種類が違ってて、「見終わったー。朝日が目に染みるぜー」ではなく、虚脱感ダクダクというかぶっちゃっけカッタルイ……わたしだけかもしれませんが。

わたしにとって映画はあくまで「娯楽」なので、素直に、泣ける、笑える、感動できる、映画の方が好みです。
正直、アカデミー賞にノミネートされる映画って面白いと思ったことがないです、低俗ですみません。


生田さんは素敵でしたが、わたしの薪さん像とは違いました。
でも抑えた演技で良かったですよ。
岡田さん演じる青木さんは、原作とはまるで違いました。設定を変えてるので。
だけど、こちらの青木さんはわたしは好きです。薪さんより好ましく感じました。

絹子役の女の子は、インパクト大でよかったです。
この子が一番惹きつけられたかも。映像的にも恐かったです。演出も効果的でした。

あと、栗山さん演じる雪子さんはすごく好感を持てました。
薪さんに対する友人としての気遣いもよく出てたし、薪雪の関係は理想に近かったです。そこは原作より良かったです。

MRIシステムは迫力ありました。
特に死者からデータを取り出すところはインパクト大きいです。隣でオットが「げっ」て小さい声で言ってました(笑)


わたしの感想はそんなところです。
お盆明け、鑑賞されたら感想を聞かせてくださいね(^^

Aさまへ

Aさま。

>薪さんが若く見えるからひろみとミハルが奥さんと娘みたいに見えそうで青木は益々、切ないんじゃないかしら。

うん。
自分を選んだことで相手が失ったものを数えるのは、とても切ない行為だと思う。
だけど現実でも、けっこう考えちゃいますよね?
オットに対しても、わたしでごめんねって思うときがあります。
そんなしおらしい気持ち、すぐに忘れちゃいますけどね(笑)


Aさまも映画、鑑賞なさったんですね。

>ほんとにジェットコースターに乗った直後のような疲労感が( ;∀;)

うわはははは!!
ジェットコースタームービーってそういう意味?!
なるほどー、宣伝に偽りなしですねっ。、げらげらげら☆


>でも、演技はとても良かったしもう一度、落ち着いて観たいと思います。

そうなの、俳優さんはみんなよかったと思うの。
生田さんや岡田さんはもちろん、
栗山さんや大森さん、新人の織田さん、あと貝沼役の吉川さんも、すごくいい演技してたと思うのよ。
特に織田さんと吉川さんは狂気が滲み出てたし、栗山さんと大森さんはさすが本職。引き込まれましたね。

それだけにもったいない気が。
あの原作とこの俳優さん使ってこうなっちゃうなんて、まるでうちの雪子さんの料理みたいだわ(笑)
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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