Daugthers(1)

2017/04/08/07:42  2069.4 You my Daddy

 こんにちは。
 はや、4月になりまして。桜も咲き始めましたね。
 暑くなったり寒くなったり、気温の変化が激しい今日この頃ですが、みなさん、お元気ですか?

 さて、本日は「You my Daddy」のあとがきです。(←いまごろ!!)
 今回は座談会ではなく、SSにしました。
 え、どっちもあとがきじゃない?
 すみません、法十のあとがきはこれなんです。わたし、作文苦手で、リアルの文章書けないんです。


 SS書いたの、何か月ぶりだろー。

 毎回そうなんですけど、ブランクが長くなると、どうやって書いていたのか忘れてしまって、それを思い出すのにすごく時間が掛かります。言葉選びとか比喩表現とか、文章の締め方とか。そういった諸々のことに迷って、いちいち躓くものだから、話の運びは遅いわテンポは悪いわ、時間ばっかり喰って熱は冷めるわ……毎度のことながら、立ち上がりは調子悪いです、すみません。
 20年ぶりに職場に戻ってきたシニア社員の報告書を読んでいるつもりでお楽しみくださいませ。(楽しいのか、それ)


 題目は、薪さんの娘たち。(←しかも青薪さんじゃないという。楽しいのか、それ)
 どなたさまも広いお心でお願いします。





Daugthers(1)





 細い指先が、液晶画面に映る数字の上を軽やかにタップした。2から始まる3桁の数字、それが訪問先の部屋番号だ。

 応答を待つ間、九条礼子は、なんとはなしに自分の爪を見た。短く切ってはあるものの、その色合いはなかなかにカラフルだ。先端の赤と中間のピンクが細い銀色のラインで斜めに仕切られ、根元に近い部分は透明度の高い白色。行きつけのネイルサロンで「春らしく」とだけ言ってネイリストに任せたのだが、出来栄えは満点に近い。礼子の好みにも合っている。しかし、これから訪ねる部屋の主には「派手だ」と眉を顰められるに違いない。何かと口うるさい男なのだ。
 気持ちを切り替えるように、礼子は右肩に引っ掛けた大きなバックを掛け直す。実用性重視の黒いトートバックは、高く結い上げた巻き髪と紫色のドレスという彼女のファッションに全く似合っていないが、これは学校のお仕着せで、実はこれを見せるのも目的の一つなのだ。どちらかと言えば服装の方が間違いなのだが、今日はバイトが長引いてしまって、着替える時間が無かった。このバイト内容に適応した胸の空いたドレスにも、彼は文句を言うに違いない。メンドクサイ男だ。
 そう思うなら一旦家に帰って出直してくればよかったのだが、礼子は一刻も早くここに来たかった。それは電話、いっそメールでも事足りる用事だったが、礼子は足を運ぶことを選んだ。それが礼儀だと思ったし、相手の反応を見たくもあったからだ。
 ところが。

『はい。どちら様ですか』と答えた女の声に、礼子は戸惑った。目的の部屋に女性はいないはずだ。部屋番号を押し間違えたかと画面を見るが、そうではない。では、引っ越したのだろうか。自分に連絡もなしに?
 さては、借金がかさんだ挙句の夜逃げか。それとも痴話喧嘩のし過ぎで近所から苦情が出て追い出されたのかしら、と失礼な当て推量をしながら、「そちらは薪さんのお宅では」と尋ねてみる。相手の女性は『そうです』と答え、『失礼ですが、どちら様ですか』と最初の質問を繰り返した。
「九条ですけど。薪さん、います?」
『少々お待ちください』と相手の女性はインターフォンを置き、礼子はしばらくの間、ほったらかしにされた。
 待ち時間の慰みに、とりとめのない妄想が浮かんでは消える。

 今の女性は誰だろう。声の感じでは若い女のようだったけど、まさか恋人?

 薪には男の恋人がいる、でも彼はゲイじゃない。それは知っていたけれど、大人しそうに見えて実は独占欲の塊のような薪の恋人が、薪に女遊びを許すとは思えない。だからと言ってあの二人が切れたとはもっと思えない。彼らは互いに、無くてはならない存在だったはず。彼らと知り合った当初からそう感じていた礼子は、昨年の春からようやく一緒に暮らし始めた二人を表面上は冷やかしつつ、心の中では全力で応援していたのだ。それなのに。

『申し訳ありませんが、薪はいま、手が離せないと』
 相手の言い訳にカチンとくる。
 自分の家にいるくせに、何が手が離せないことがあるのよ。どうせ恭子ちゃんの水着写真の切り抜きでもしてるんでしょ。
『それに、基本的に薪はお約束のない方とはお会いしません。まずは電話か手紙で会見内容をご提示なさって、アポイントメントをお取りください』
「はあ!?」
 アポですって? いつからそんなにエラクなったのよ、あの説教オヤジ。
 ていうかこの女の喋り方、めっちゃムカつく。昔、義父だった男の秘書兼愛人やってた女の喋り方そっくり。あの女、義母には逆らえないもんだから、あたしにさんざん意地悪したのよ。

「じゃあいいわ。青木さんに代わってよ」
 この女が何者でも、青木の名前を出せば怯むはず。だって彼は薪の。
『……部屋をお間違いでは? こちらには、そう言った名前の者は住んでおりません』
「え」
 どうやら青木はこの女に追い出されたらしい。恋人と言っても青木は薪の奴隷みたいなものだから、薪の心変わりに泣く泣く身を引いたのかもしれない。
 そこには本人たちしか知り得ない事情があったのだろうし、だから薪が青木と別れたことに関して四の五言う気はない。でも、後釜にこんな女を選んだことは絶対に許せない。女を見る目が無さすぎる。今度薪がお店に来たら、みんなに協力してもらって身ぐるみ剥がしてテーブルの上に転がして動画をウェブで流してやる。

 恐ろしい決意を胸に、礼子は踵を返した。ドレスの裾を翻し、怒りに任せた歩幅のままエントランスを出ようとしたところで、聞き覚えのある声に呼び止められる。
「あれ。礼子ちゃん」
「青木さん」
 見知った顔に出会えてホッとしたのも束の間、礼子は瞬時に現在の状況を思い出し、美しく化粧した顔をこわばらせた。
 別れた恋人のマンションにやってきた、元恋人。なぜ? もちろん、恋人に未練があるからだ。
 礼子の見立てが間違っていなければ、青木にはストーカー犯罪者の素質がある。何時のことだったかこの男は、薪の裸を見た人間は一人残らずこの世から抹殺するとか言って、何人殺せばいいんだろうとか呟いてて、
 それもう素質の段階じゃないから。連続殺人犯のツイッターログだから。

「久しぶりだね。薪さんに用事?」
「え、あ、いや、いいわ、今日はいい」
 礼子がシドロモドロに応えを返すと、青木は「うん?」と首を傾げた。いつもハッキリと物を言う、ちょっとハッキリし過ぎるキライのある礼子が曖昧な返事をしたから、意外に思ったのだろう。
「こ、今夜は雨だってテレビで言ってたし。青木さんも、今日は早く自分の家に帰った方がいいと思うわっ」
「雨かあ。それなら車で送って行くから。上がってお茶でも飲んで行きなよ」
 そう言って青木はタッチパネルに手を当て、内扉のロックを外した。言動から察するに青木は、薪と別れたわけではなさそうだ。
 てことは、さっきのあの女の言葉はフカシ? 青木の留守に薪のところへ強引に押しかけてきて、「恋人になってくれるまで帰らない」てやつ?
 部屋に上げたくらいだから、薪にも身に覚えがあるのだろう。つまりこれから青木が部屋に戻ったら、「ひどいわ、あの夜は何だったの。わたしとこのウドの大木、どっちを選ぶの」という修羅場が展開されることに――。
 どうしたらよいのだろう、と礼子が迷ったのは5秒ほど。1分後にはピンヒールの音を響かせ、青木と一緒に階段を昇っていた。
 自分が誰の味方をするかなんて決まってる。今、自分がこうしていられるのは彼のおかげなのだから。これから窮地に立たされるに違いない彼の、味方になってやらなければ。部外者の自分の援護射撃がどこまで通用するか、自信はないが、これは人としての在り方の問題だ。受けた恩は返す、当然のことだ。

「ちょ、ちょっと待って、青木さん!」
 瞳孔センサーが黒い瞳をスキャニングし、玄関のロックが解除された。そのまま青木がなんの構えもなくドアを開けようとするから、礼子は思わず彼の手を掴む。驚いた青木と目が合って、不覚にもときめいた。その動悸の原因はおそらく、190センチの長身に子犬のような黒目のアンバランス。薪が時々青木の前で固まっているのは、多分これにやられているのだろう。
「深呼吸しましょう、深呼吸」
「なんで」
「ドアを開ける前は深呼吸するの。JKの間では常識よ」
「そうなの?」
「女子高生って不思議な生き物だね」と青木は笑い、「ただいまー」という間延びした声と共に、軽くドアを開けてしまった。

「おかえりなさい。あら?」
 インターフォンに出た女の声が出迎える。年の頃は20代後半、セミロングの黒髪をバレッタで後ろに留めている。服装は地味だけど顔立ちは整っている。髪型と化粧で化けるタイプ。痩せ気味だけどスタイルは良い。
「まあ、ごめんなさい。あなた、お客さまだったのね。わたしてっきり」
 恋人の留守を狙って男を寝取りに来るくらいだからケバい女を想像していたけれど、服装といい言葉使いといい、良家の若奥さんみたいだ。雰囲気がなんとなくお母さんぽい、ていうかなにそれ、その脚にくっついてるやつ!

「ミハル。お客さまにご挨拶しなさい」
 母親のスカートにへばりついてモジモジしてる小動物。子供、どこから見ても子供だわ。まさか、薪さんの子供じゃないわよね?
「礼子ちゃんは初対面だったよね。こちらヒロミさんとミハルちゃん。薪さんの、えっと、うん。娘さんだよ」
 マジでかっ!!

「ムスメ……」
 乾ききった声で、礼子はその言葉を繰り返した。
 これはあれだ。ちょっとした遊びのつもりで関係を持ってしまった女が何年か後に突然やってきて『あなたの子よ』ってやつだ。アルコールが入ると高確率で記憶障害になる薪らしい不始末だが、子供を持ち出されたら青木には分が悪いだろう。
 しかし、青木の嫉妬深さと薪に対する執着の強さは既に犯罪者レベル。マスオさんみたいな顔して、羊の皮を被った狼どころかティラノサウルスだ。薪に手を出す人間には容赦しない。相手が男でも女でも、子供でもだ。

 礼子は思わず天を仰ぐ。これは血を見るかと思いきや、聞こえてきたのは青木の存外穏やかな声だった。
「ヒロミさん、久しぶり。ミハルちゃんも、よく来たね。2人とも元気そうでよかった」
「おかげさまで。青木さんも相変わらず……しばらく見なかったせいか余計大きく見えるわ。ちょっと太った?」
「えっ、分かる? 実は3キロほど。4月は歓送迎会が多いから、毎年太っちゃうんだよね。家での食事を調整できればいいんだけど、薪さんの料理が美味しすぎてさあ」
「あー、分かる分かる。わたしもここに来るたび、おなか周りがヤバくなって」
 なによそれ。どっちが本妻の立場か知らないけど、あんたたち慣れ合いすぎでしょ。それともお互い腹の中では、相手に頭から灯油ぶっかけて燃やしてるの? それとも金属バットでタコ殴り?

 礼子が自分の想像にハラハラしながら状況を見守っていると、奥の部屋から部屋の主が現れた。有名なゆるキャラの人形を両手に抱えて、ああ、インターフォンの返事は嘘じゃなかった、なるほどこれでは手が離せない、じゃなくて! この非常時に何やってんの、この男は!
「礼子。どうしたんだ?」
 おまえがどうしたんだ!? と叫びたい。なによ、そのけったいなぬいぐるみは、て言うかデカっ! 胴体は薪の両手がやっと回るくらいだし、顔なんか薪の5倍くらいある。
「あ、なんだ。クジョウっておまえか」
 同姓の知人がいたのか、と尋ねると、薪はぬいぐるみに動きを阻まれながらも首を横に振り、
「クレームだと思った」
 それで追い帰すように言ったの。バカじゃないの、このオヤジ。

「パパ」
 ミハルと呼ばれた少女が薪を見つけ、一直線に走っていく。走り寄る子供に、薪は礼子が見たこともないような甘ったるい顔で、
「ミハル~!」
 あかん。こら青木さん、あかんわ。オヤジ、子供に骨抜きになっとる。
「ほーら。ミハルの大好きななっしーだよ~」
 与えて遊ばせるのはいいけど、子供、巨大ぬいぐるみの下敷きになってるわよ。窒息するんじゃないの、それ。
 いっそ死んでくれた方が青木にとっては都合がいいのかもしれないと黒い考えが浮かぶ礼子の前で、当の青木は、
「ミハルちゃんが来るって言うから、ミハルちゃんの大好きなチョコレート買ってきたよ。ゴディバだよ~」
 このお人好し世界選手権ぶっちぎり優勝男。
「もー、パパも青木さんも、あんまりミハルを甘やかさないでよ。ちやほやされるのに慣れちゃうと、後が大変なんだから」
 目の前で繰り広げられる家族ドラマに、礼子は眩暈を憶える。子供まで産ませた女性がいるのに男と同棲している男。恋人が、他の女性に産ませた子供と仲良く遊ぶ男。彼らがまるで親子のように自分の娘と戯れるのを笑って眺めている女。礼子には、誰一人として理解できない。

「大人の世界ってこういうものなの?」
 しきりに首を振る礼子をどう思ったのか、ヒロミと呼ばれた女性が「さっきはごめんなさい」と謝ってきた。いけ好かない女だと思っていたが、意外と素直だ。嫌いな女と喋り方が似ていたくらいで嫌悪感を抱くなんて、子供じみた真似をして申し訳なかったと、
「てっきりキャバクラの下衆女が、パパのプライベートをネタに強請に来たとばかり」
 思わなくて良かった! 思ってたら負けてた!!
 人を見た目で判断する差別主義だけでも頭に来るのに、犯罪者扱いまで。この女、あれだ。ごめんなさい言いながらちっとも悪いと思ってないタイプだ。もうこっちを見る目が害虫を見る目だもん。

「仰るとおり、あたしはキャバクラに勤めてますけど。なにか?」
「あら、それはそれは。お若いのに大変なお仕事で」
 今、フッて! 鼻で笑ったわよ、このアマ。
「あんたねえ。初対面の人間を犯罪者呼ばわりしていいと思ってんの」
「あら、ごめんなさい。でもわたし、どんな時でもパパの味方だから」
「上手いこと言って、あんたこそ子供を使って薪さんからお金を引き出しるんじゃないの」
 礼子の反撃に、ヒロミは鼻白む素振りも見せなかった。それどころか嘲笑う形に歪めた唇の両端をいっそう釣り上げ、
「だから嫌いなのよ。水商売の女は礼儀を知らなくて」
「悪かったわね。あんたになんか迷惑かけたぁ?」
「初対面の人間をあんた呼ばわりしないで。子供の教育に悪いわ」
「なにが子供の教育よ。あんたのやってきたことの方が、ずっと人の道に外れてんじゃないの」
「あ、あなたがわたしの何を知ってるのよ?!」
 突然、ヒロミは顔色を変えた。この女、上品ぶってるけど、裏ではけっこうなことをやって来たのかもしれない。あの秘書もそうだった。パパの他に2人も男がいて、洋服やら宝石やら3人から貢がせてた。それと似たようなことをして来たに違いない。
「顔見りゃ想像つくわよ」
「アタマ空っぽ身体で勝負します女の代表みたいなカッコした人に言われたくないわよ!」
「なによその言い方! あたしのこと、キャバ嬢だと思ってバカにしてんでしょ!」
 二人の女性の間で、激しい火花が散らされる。子供と遊ぶのに夢中になっていた男二人は、そこに到ってようやく不穏な空気に気付いた。
「薪さん。なんか部屋の中に台風発生してますけど」
「あの二人、馬が合わないだろうとは思ってたけど。想像以上だな」
 避難避難、とミハルの眼を手で隠しながら、薪はリビングからダイニングに移動した。ぬいぐるみを抱えて、後ろから青木もついてくる。

 ミハルをダイニングテーブルに付かせ、ホットミルクとチョコレートを与えておいて、薪と青木はそっと嵐の行方を見守る。周りに気兼ねして声は抑えているものの、二人の間に渦巻く戦意は隠しようもなく。緊迫した空気がビシビシと伝わってきた。
「女の人のケンカって、どうしてあんなに怖いんだろうな。殴り合いとかじゃないのに」
「その気になれば、言葉だけで人が殺せる生き物ですからね。女性は」
「えっ。そうなのか?」
 そうですよ、と頷く青木に、薪は少しだけ猜疑心の混じった視線を送る。青木は嘘は言わないだろうけど、ちょっと大袈裟じゃないのか。
「オレには姉がいますからね。女性の特殊能力はよく知ってるんです」
「なるほど。特殊能力か」
「だから薪さんも、女の人には気を付けてくださいね。声を掛けられたからって、付いて行っちゃダメですよ」
「分かった」
 姉どころか母親も早くに亡くした薪にとって、身近な女性は叔母と雪子くらい。到底、女性を理解しているとは言い難い。ここは女系家族の中で生きてきた青木のアドバイスに従うべきだろう。
「プライベートになると、どうしてこんなに簡単に騙せちゃうんですかね。これだから一人で外出させられないんですよね」
「ん? 何か言ったか」

 いいえ何も、とにっこり微笑まれて、薪は思わずその笑顔に見惚れる。
 青木が笑うと、そこだけ陽だまりみたいだ。キラキラしてあったかい。彼ほどあたたかく笑う人を、薪は他に知らない。
 息苦しさを覚えるほどのときめきを隠して薪は青木を見上げる、けれど隠しきれるはずもなく。瞳が合えば伝わってくる、その断片ですら言葉の枠に収まりきらない、奔流のような彼の気持ち。
 きみが好き。

「薪さん。今夜は、その」
「……うん。僕も」
「「くおら!!」」
 見つめ合う二人を、娘たちの声が唐竹割りにする。自然に触れ合わさった手が弾かれるように離れ、それで初めて彼らは気付く。二人とも、無意識のうちに互いに手を伸ばしていたこと。仲良きことは美しきかな、されど見せられる方はたまったもんじゃない。
「よくイチャつけるわね、この状況で」
「まったくよ。第三次世界大戦勃発しようかって時に」
「どうやって戦争起こすのよ。キャバ嬢ごときが」
「キャバ嬢舐めんじゃないわよ。K国主席に色仕掛けして、あんたの家にミサイルぶち込むことだってできるんだからね」
「やってもいいけど、あんたんちも一緒に燃えるわよ、それ」
 エスカレートする舌鋒をよそに、薪は、何を思ったかぽんと手を打ち、
「あ、そういうことか。さすがだな、青木」と感心したように言った。
 いえそんな、と両手を振って薪のリスペクトを辞退する青木に、薪は面映ゆそうに頬を赤くして、
「自分の知識をひけらかしたり、自慢したりしない。おまえのそういう奥ゆかしいところが、僕は」
「薪さん……」
「「だからイチャつくなっての!!」」

 さっき怒鳴られたばかりなのに、この男どもも大概懲りない。娘たちが美しい眦を吊り上げるのに、薪は反省の色を見せるどころか、逆に言い返してきた。
「うるっさいな。おまえらのケンカ、僕たちには関係ないだろ」
「関係なくないわよ。少しは空気読みなさいよ、このKY・O(オヤジ)が」
「KYO……『気が利いてやさしい大男』か。青木にぴったりだな」
「薪さんの場合は、きれいで妖艶な王女さま……あ、妖精みたいなお姫さまってのもありですね」
「「バカなの、あんたたち」」
「バカはおまえらだろ。初対面なのに、よくそんなディープなケンカができるな」
「女はね、見た瞬間に相性がいいか悪いか分かるのよ」
「そうそう。そういう相手には歩み寄るだけ無駄」
「その割にはツッコミハモってますよね」
「「おおきなお世話!」」
 ほらそれ、と青木が余計なことを言うからますます彼女たちの怒りは激しくなる。だん! と揃って足で床を踏み鳴らし、青木と薪の方へ凶悪な顔つきで詰め寄った。その怖いこと怖いこと。
 震え上がって崩折れた2人の男をゴルゴーンもかくやの冷たい眼で見下ろして、来客用のスリッパが2足、ずいっと進む。押されるように、二人の男は尻でいざる。やがてダイニングテーブルの脚が背中に当たり、進退窮まった二人が身を寄せ合って目をつむった時、天の助けが現れた。

 4人の間にひらりと舞い降りた少女は、口の端にミルクの白を無邪気に残して、
「ケンカ。ダメ」
 鶴の一声ならぬ天使の一声。ミハルの正論には誰も逆らえず、2人の女たちはそれぞれに矛を自分の胸に収めたのだった。




*****


 まとまらなくてすみませんー。
 次で終わりますー。
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