ヒカリアレ(3)

 こんにちは。
 3幕目です。こちらは最初と内容が変わっています。
 詳細に書くとネタバレになりますので、記事の下に説明を入れておきます。
 本日もよろしくお願いします。




ヒカリアレ(3)







 事件解決直後の土曜日。殆どの職員が久しぶりの休暇を満喫する中、3人は第三管区の執務室で秘密の捜査会議を始めた。

 雪子が作成した死体検案書を中心に、一つの机を囲む。こうして3人で額を突き合わせていると第九時代に戻ったようで、こんな時なのに青木は気分が高揚するのを感じる。やっぱり、この人たちと仕事をするのは楽しい。
「死因は脳挫傷」
 青木の不謹慎な昂ぶりを咎めるように、薪の固い声が響いた。青木は頬を引き締める。
「目立った外傷は後頭部の陥没と頸椎骨折、左肩の脱臼に右足の複雑骨折」
 脱臼か、と岡部が机に肘をつき、口の中で呟く。後に続く文章は青木が引き取った。
「ほか、軽微骨折および擦過傷多数……、これまさかコウタ君、集団で暴行されたんじゃ」
 ガクッと岡部が肘を滑らせ、薪がポロリとボールペンを落とす。ヤバい、外した。

「薪さん。こいつ、室長やらせといて大丈夫ですかね」
「僕も少し不安になってきた」
 尊敬する先輩に呆れた目で見られて、焦ると同時に何故か嬉しくなってしまう。室長という立場で過ごす第八管区には、こんな風に青木を導いてくれる人はいない。研究室のみんなとは仲良くやっているが、彼らはあくまで青木の部下。青木が彼らに甘えたり、教えを乞うことはできない。
 死体検案書を読み違えたことよりも、甘えた気持ちを見透かされた気がして、青木は赤面した。まだまだだな、と言うように薪が軽く首を振る。

 青木の前で二人は、す、と横目で合図を交わした。岡部が青木に向かって口を開く。
「骨折と擦過傷は落下した際のものだ。森の中に落ちたんだ、体中傷だらけで当たり前だ」
「しかし、肩の脱臼は誰かに強く手を引かれるなどして起きた可能性が高いと所見にあります。暴行の線も捨てきれないかと」
「逆だ」
 薪は一言で青木の推理を否定した。しかし理由は説明してくれず、当たり前のように岡部がその仕事を引き継いだ。
「子供の肩ってのは簡単に外れるもんだ。落ちたところ腕を掴まれて、そのはずみで外れたか。あるいは咄嗟にどこかに掴まったものの、自分の体重を支えきれなかったか。しかし後者は、余程の反射神経がないと無理だろうな」
「でもそうなると、子供たちの証言とは食い違いが出てきます」
 彼らの話では、ミドリが病院から居なくなったことに気付き、みんなで探しに出かけた。暗い森の中、コウタは姉を心配して闇雲に走り回っていたらしい。挙句に、誤って道から落ちてしまったとのことだった。彼が道から落ちるのは見えたが、側には誰もいなかった。そういう話だった。

「なぜだ」
 唐突な薪の質問に、青木は答えられない。
「それならそうと言えばいい」
 薪の言う通りだ。助けようとしたけれど助けられなかった、一旦は掴んだものの引き上げきれなかったと言えばいいのだ。
「なぜ隠した」
『側には誰もいなかった』という証言も変だ。まるで事故であることを強調しているかのようだ。
「知られたくない事実があるからじゃないのか」
 それはまだ薄雲のような疑惑に過ぎなかったが、あの場にいた捜査員の殆どが感じていた違和感だった。

 あの事故は、どこか不自然だった。青木個人の感覚で言えば、落ち着き過ぎだ。
 仲間が不慮の事故で死んだのだ。普通なら激しく動揺する。子供なら尚更だ。パニックが伝染して、集団で泣き出してしまってもおかしくない。ところが、子供たちの中で泣いていたのは姉のミドリだけ。そのミドリも遠くからこちらを伺うだけで、近付こうとはしなかった。コウタはたった一人の肉親、大人たちの制止を振り切ってでも遺体から離れようとしないのが普通ではないのか。
 種を明かせば、コウタ少年が集団暴行を受けたのではないかと言う青木の的外れの推理も、その違和感から端を発したものだった。仲間の死に、彼らは無関心すぎる。
 薪の言う『知られたくない事実』が、子供たちの不自然な態度の原因かもしれない。

「証拠もないうちから考え過ぎは禁物ですよ。児玉の元にいた子供たちだからって、犯罪に手を染めるとは限らないでしょう。この脱臼だって青木の言うとおり、誰かが強引に手を引っ張ったのかもしれないし。よしんば、助けようとして腕は掴んだものの手が滑って落下させてしまったとしたら。子供のことです、自分のしたことが恐ろしくなって嘘を吐くことは、十分考えられますよ」
「岡部の言うとおりだ。それをこれから調べるんだ」
 意見を交換し終えた二人は、言葉以上に雄弁に目線を交わした。そこに行き交うのは青木には分からない、二人だけのシークレットサイン。
「病院関係者に聞き込みを掛けます」

 そう言って岡部は席を立ち、青木の肩をぽんと叩いた。一緒に来いと言っているのだ。
 しかし、薪の考えはどうなのか。もっと他に調べて欲しいこと、当たってほしい相手がいるのではないか。
 そう思って薪を見れば、薪は書類に添付された写真を熱心に見ていた。死体検案書に証拠写真は必要ないから、これは雪子が気を利かせて撮ってくれた写真だろう。
 岡部が現場から証言を集めてくれるなら、自分は書類から証拠を拾う。何も言わなくともいつの間にか、二人の間には役割分担がなされているのだった。
 長年連れ添った夫婦のような阿吽の呼吸に、青木は些少の――いや、正直に言おう――猛烈な嫉妬を感じる。岡部は新生第九の再生当初から薪の隣で働いてきて、そのまま第三管区の室長になって薪の傍らにずっと居られて、だからこんなに通じ合えるのだ。もう無茶苦茶うらやましい。

「なにやってんだ、青木。行くぞ」
「あ、はい」
 青木は慌てて席を立った。岡部に急かされて机を離れる青木の背中に、薪の低い声がかかる。
「青木」
 立ち止まって薪を見る。薪は視線を書類に据えたまま、口端をやや吊り上げ、
「岡部の足を引っ張るなよ」
「はい!」
 青木が勢い込んで返事をしたものだから、薪が訝し気に顔を上げる。それはそうだ、褒められたわけじゃない、でも。
「行ってきます。有力な証言が取れるまで、帰ってきませんから!」
「あ、いや、ちょっと待て。おまえ、第8管区の方は」

 大丈夫なのか、と口にしかけた時には、青木はもういなかった。思わず立ち上がってしまった己の脚に驚き、誰に見られているわけでもないのに慌てて座り直す。
「ったく。本当に大丈夫なのか、あいつは」
 どこかしら甘い口調で呟き、薪は机上の電話に手を伸ばした。







*****



 初出では、「被害者の腕に強く掴まれた痕があり、肩が脱臼していたことから、転落した被害者を誰かが一旦は留めたものの、力尽きて落としてしまった。周りにいた仲間たちはそれを見殺しにした」という仮説を組み立てていましたが、
 改定版では、「コウタは自ら誤って落ちた。周りには誰もいなかった」という子供たちの証言を疑うに留めています。
 なんでそうなったかと言うとですね、原作を見直してみたら、 
 ミドリちゃんがコウタの服を掴んでた Σ(゚д゚|||)
 これじゃ腕に痕は付かないわ~、と思って直しました。
 肩の脱臼に関しては、コウタはミドリちゃんの腕に掴まってたので、脱臼してもおかしくないよね、と苦しい理由を付けてみました。何もなかったら疑いを持つ根拠も無くなっちゃうので (;´・ω・)
 あちこち綻びてますが、どうか広いお心でお願いします。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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わかります!( ;∀;)

週刊誌ってすごい。てか壮絶。怖い。
生み出すってすごいですよね。喜びでもありますが…ちょいちょい頭真っ白になります( ;∀;)

しづさんもお忙しい中更新ありがとうございます!!しづさん版光のお仕置き(笑)楽しみです!
てかこちらは原作通りの設定なんですねぇ。
そんな中の薪さんの希少なデレとゆうか照れ、新鮮だあヽ(;▽;)ノ可愛い…
またゆっくりでいいので続きお待ちしてます!

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なみたろうさんへ

おお、さすがなみたろうさん。
週刊誌の怖さを知ってらっしゃる。

締め切り前の焦りとか、ネタが浮かばないときの恐怖とか、大変でしょうねえ。
好きなことは趣味に留めおいた方が、ずっと好きでいられると思う。仕事にしてしまったら、どうしても辛さが出てくるから。仕事は楽しいと思う時もありますが、頭が痛いことの方が多いですよね。
そこを超えていくのがプロなんですね。尊敬します。


>しづさん版光のお仕置き(笑)

や、どうだろ。
わたし、光くんは不憫な子だと思ってて、お仕置きというよりは救済の方向で行くつもりなんですけど……
もしかして、コミュでは光くんは悪い子解釈が主流なの?
(わたし、今回はこれ書くのに、みなさんのレビュー読んでないんですよ。でないと話がブレちゃうので(^^;)
だとしたら真逆になっちゃうかも~。読んでもスカッとしなかったらごめんなさい~。




>こちらは原作通りの設定なんですねぇ。

もう書き難いのなんのって(笑)
この程度のデレが精一杯という。法十にあるまじき展開です。

普段ならここでハグだろ的な場面、軒並みカットですからね。そりゃ短くなるよ。 事件に関すること以外、なんも書けないんだもん。
萌えがなかったら二次創作の意味ないよね?
面白いのか、これ? という疑問が沸々と湧き上がる今日この頃です。

Hさまへ

Hさん。

返信、遅くなってすみません。
少々リアルでバタついている間に、次のコメントいただいちゃいまして(^^;
不義理なことで、まことに申し訳ございません。


お父さまのこと、大変でしたね。
Hさんのプライベートのこと、ここに書くことはできませんので、あまり具体的には申し上げられないのですけど、
どんな形でも親は親だし、親が死んでショックを受けない子供はどこにもいないと思います。その人がいなかったら、自分はこの世界に生まれてないんだもの。だから、Hさんの、「自分でも訳がわからなくなってしまった」というお気持ち、とても自然で、共感しました。

どのブログさんにも行けなかったの……気が抜けてしまわれたのでしょうね。
自覚はなくとも、強い喪失感に襲われていたのではないでしょうか。

そんな中で、一番に訪ねてくださったの、とてもありがたいです。
迷惑なんてことはございません。
当ブログのコンセプトは、「来てくれた人に笑いと元気を」ですから。
いつでも、どんなときでも、気軽にお立ち寄りくださいませ(^^)



わたしも6年前に父を亡くしました。
やっぱり、後悔は残りましたよ。嫁いでしまうと、実家のことは後回しになってしまいますから。やってあげられなかったこと、いっぱいありました。
でも多分、子供に、自分のことで嘆き悲しまれるのが嬉しい親もいないと思うので、早めに日常に戻るのが一番だと思います。
だけど、無理はしないでくださいね。あくまでも自然に、です。

思い起こしてみれば、わたしも立ち直り早かった気がします。
ちょっと調べてみたら、お葬式から10日くらいで「ロジックゲーム」仕上げてました。なんて冷たい娘だww

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Hさまへ

Hさん。

8時に就寝……本当に、参ってらしたんですねえ。さぞしんどかったでしょう。
娘さんに助けてもらったとのこと、よかったですね。さすが娘さん、頼りになりますね。

先日のコメント、生来の不器用が災いして、
気の利いたことは何も言えず、もどかしい思いをしておりましたが。
少しでも、Hさんのお気持ちが楽になったなら、こんなに嬉しいことはございません。


自分の状態にあまり歯向かわないようにしよう、というHさんのお心構え、とても良いことだと思います。
自然に自然に、川の流れに木の葉が揺蕩うように、悲しいときは泣けばいいと思います。それが普通だもの。

ゆっくりゆっくり、帰ってきてくださいね。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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