ヒカリアレ(4)

 4幕目です。
 こちらは変更なしです。
 既読スルーでお願いします。(←??)






ヒカリアレ(4)













 聞き込みに赴いた病院に、子供たちは既にいなかった。
 児玉に飲まされた毒の洗浄と治療が終われば、子供たちの居場所はここではない。新しい養護施設だ。

「みんないい子たちでねえ。退院の時、私たちに揃ってお礼を言ってくれましたよ」
 事故後の子供たちの様子を報告書に記載する必要があるという名目で、2人の看護師に話を聞いた。この病院は民間経営だが設備は整っていて、つばき園に一番近いことから園の子供たちの掛かりつけ医でもあり、定期的な健康診断も行っていた。小児科もあるので子供の患者もたくさん来るが、あの子たちのように大人の言うことをよく聞く子供は珍しい、と眼鏡を掛けた看護師が言い、もう一人の小太りの看護師が、そうそう、と相槌を打った。
「大抵の子はじっとしてないから、診察を受けさせるのも一苦労なのに。あの子たちはとてもお行儀がよくて。おかげで仕事がやりやすかったわあ」
 入院で自由を奪われた子供は、ストレスのせいか我が儘になる傾向が強い。そんな子供に振り回されることが多い彼女たちには、つばき園で児玉が強いたカースト制度の中で過ごしてきた子供たちの大人に対する服従姿勢が、驚嘆すべきものに映ったのだろう。
 青木たちも彼らと話をした時、素直で明るい、よい子たちばかりだと思った。あんな歪んだ思想を植え付けられているとは、この目で児玉のMRIを見た青木でさえ未だに信じられない。

「まあ、光くんだけは。ちょっとアレだったけど」
「そうねえ。光くんはねえ」
 彼は他の子供とは一線を画していた、と彼女たちは口を揃えた。
 つばき園の子供たちは男子女子取り混ぜて30名余り。その中の誰よりも美しく、施設孤児とは思えない気品があった。彼は大人たちの言葉に縛られず、自分の思うがままに行動し、その代償として叱責を受けることがあっても自分を変えようとはしなかった。
「でも可愛いから。つい許しちゃうのよね」
「あの顔で『ごめんなさい』とか言われたら、ねえ」
 光の愛らしさを思い出しているのか、二人の看護師は頬を紅潮させ、わずかに声のトーンを上げた。その様子に、岡部と青木はそっと頷き合う。
 光少年は自分の秀でた容貌に自覚があり、それを有効な武器として活用している。他の子供たちのように必ずしも大人に服従するのではなく、場合によっては大人を操る術を身に付けている。

「勝手な行動も目立ったけど、あの時は助かったわよね」
「あの時?」
「子供たちの行き先が決まったとき」
「みんな仲良しだったのに。可哀想に、バラバラにされて」
 あれだけの人数を一度に受け入れることのできる児童施設は急には見つからず、それで4,5人ずつ別々の施設に引き取られることになったのだが、仲間と離れるのが嫌で、殆どの子供が泣き出してしまったらしい。
 そこに、光の鶴の一声があった。
『離れていても、ぼくたちはつながっている。一度結ばれた魂は、例え身体が離れても分かたれることはない』
 まるで印を結ぶように重ね合わされた細い指。それを光が頭上に掲げると、泣いていた子供たちはぴたりと泣き止み、我先にと指を重ね始めた。同じ形に組まれた小さな手が、次々と上に挙がる。『ディンダルさま』と呼びかける子供たちの声が輪唱のように響き渡り、一時騒然となった室内は、だが光の手が下げられたことで瞬く間に静けさを取り戻した。その統率力に、看護師たちはいたく感心したと言う。

「『ディンダルさま』って何なのかしらね?」
「子供の言うことだから。ゲームの主人公か何かでしょ」
 それは青木たちにも分からなかった。須田の脳にも児玉の脳にも、そんな名前は残されていなかった。だが察しはついた。光のホーリーネームだ。その名前で子供たちが光を呼ぶということはすなわち、光が彼らの新しい神として君臨したことを意味する。

 つばき園の子供たちは、光のためなら何でもする。彼らに善悪の区別はない。否、無いわけではなく、一般の善悪とはその基準が違う。だから厄介なのだ。
 例えば光が、飲み物を欲したとする。子供たちはお金を持っていない。そこで店から盗んでしまったとしよう。この場合、一般的には窃盗は罪になる。が、彼らの間では、盗人は英雄になるのだ。
 子供たちにとって、光の要望を満たすこと、それが善であり。光の命に背くこと、それが悪になる。人それぞれに信条と正義があるように、彼らと青木たちの間には善悪の観念に大きな隔たりがある。まるで違う星の住人を相手にするようなものだ。
 とはいえ、児玉ほどの脅威はない。光はまだ子供だし、周囲の大人たちの目もある。それに、子供たちが分散したことは却ってよかった。光から物理的に引き離されれば、彼の影響も徐々に薄れていくだろう。時が彼らを自然に更生してくれる。問題は、光と同じ施設に引き取られた子供だ。

 子供たちが引き取られた施設名と、誰がどの施設に行ったのかを尋ねると、眼鏡を掛けた看護師がリストを渡してくれた。青木が受け取ったそれを、岡部が横から覗き込む。上から順にリストを追って、二人は首を傾げた。
「光くんは、どこに?」
「ああ。光くんは施設には行かないんです」
「どうして」
「病院長の家に引き取られることになったんですよ」
 思いがけない光の落ち着き先に二人は息を呑み、互いに顔を見合わせた。双方の眼には形容しがたい驚きと、底知れぬ不安が同じように浮かんでいた。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Hさまへ

Hさん。


>光は病院長に引き取られたのですか!

そうなんですよ~。
光くんにはこれから色々と頑張ってもらう予定なのですが、どこまでさせていいものか、悩んでます。
オリキャラだったら容赦しないんだけどな~。原作のキャラだからな~、あんまり暴走させてもな~。



先日いただいたコメントのお返し、
とっても遅くなってしまったのですが、したためましたので、ご確認ください。失礼があったらすみません。



>帰郷の次の「プレゼント」に行きたいと思います。

Hさんには丁寧に、一つ一つ読み返していただいて。
感謝の言葉もございません。
いつも本当にありがとうございます。


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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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