ヒカリアレ(6)

 こんにちは。
 お話の続きです。←やっと定番の前振りができるようになりました。ヽ(´∀`)ノ





ヒカリアレ(6)









「病院長の家に?」
 二人の報告を聞いた薪は、間違いだらけの書類を精査する時のように険しく眉根を寄せた。

「病院長の奥さんが――後妻さんだそうですけどね――、えらく彼を気に入ったらしく。今は里子になってますが、ゆくゆくは正式に養子縁組して、病院の跡を継ぐんじゃないかって専らの噂です」
「施設孤児を病院の跡継ぎに?」
「なんでも、児童施設の振り分けのために子供たちの学力試験を行ったところ、光くんの解答が非常に優秀だったそうで」
 光は11歳にして、高校生並みの学力を身に付けていた。優秀な科学者揃いのストーンヘンジ、その中でも頭一つ飛びぬけた才女須田洋子の実子であり、彼女の英才教育を受けて育ってきたのだ。当然の帰結と言えた。
「試しに名門私立小学校の模試試験を受けさせてみたら、満点に近い成績でパスしたとか。今では奥さんより病院長の方が、光くんにご執心だそうですよ」
 病院長、西園寺恒彦は優秀な医師であったが、70を越した老人だ。年齢的にも技術的にも、後進に道を譲る時期が迫っていた。

「跡継ぎ問題で頭を悩ませていた病院長が、光少年の明晰な頭脳に飛びついた、というわけか。それにしても若すぎないか」
「いや、跡継ぎはいます。光くんより6歳年上の男の子です」
 じゃあどうして光少年を、と薪は青木たちが抱いたのと同じ疑問を口にし、それに岡部が答えた。
「しかしこれがどうにも素行の悪い少年で。後妻との折り合いも悪いうえ、医者になるための勉強をするどころか、家にも病院にも寄り付かない。親の金で遊び回っちゃあ少年課に補導されるの繰り返しで、父親もとっくに見放してるそうです。警察から連絡があれば、西園寺家のお抱え弁護士が迎えに行くって話ですよ。蛙の子は蛙って言いますけどね、中には例外もいるんですねえ」
 薪は右の拳をくちびるに当て、琥珀色の瞳を右に泳がせた。やや右に首を傾け、髪に光の輪をひらめかせる。

「要するに、光少年はつばき園の子供たちとは離れたわけだな」
「そうなんですよ。そこは俺もよかったと思います」
 子供は感受性が強い。ゆえに周りの影響を受けやすく、その柔軟性から自分を変えていくのも容易い。つばき園に引き取られた子供たちが3日もしないうちから児玉のご機嫌伺いを始めたように、正しい環境で正しい指導を受ければこれから先は真っすぐに歩いて行けるだろう。友達と離れ離れになってしまったのは辛かろうが、子供たちが光の影響を受けなくなったのはケガの功名だ。

「あの少女、ミドリちゃんも光とは離れたんだな?」
 え、と二人は言葉に詰まる。それはこれから報告しようとしていたことだったからだ。
「それが、どうしても光と離れたくないとミドリちゃんが言い張ったらしくて。彼女は園児たちの中でただ一人、明確にPDSTの症状が顕れていたこともあって、精神的に落ち着くまで、光と一緒に病院長の自宅で生活することになったそうです」
「やはりか」
 薪は突如として机を叩いた。その右手が震えている。それを隠すように自身の左手で右手を覆い、蒼白な顔で唇を噛んだ。
 またこの人は一人だけ、先に事件の真相に辿り着いている。証拠も何もない、正式な捜査もできない、だから口には出せないその真実に、憤り、苛立ち、そして激しく傷ついている。

「岡部。長野県警に要請して、西園寺家に護衛を付けられないか」
「光少年にですか? しかしそれは」
 民事不介入だ。その不良が親の寵愛を奪った光に危害を加える可能性は十分にあるが、そこまでは警察は踏み込めない。
 岡部が難色を示すと、薪は「いや」と首を振り、
「光に付けるんじゃない」
 光でなければ、対象は病院長の家族か。
 薪は、光が彼らに危害を加えると考えている。それを知って驚いた青木が、椅子を蹴って席を立った。
「まさか。いくら光くんに危険因子があると言っても、まだ子供です。そこまでは」

 青木には正直、薪の危惧が理解できない。青木の胸には、自分に向かって「ありがとう」と礼を言った光少年の幼気な姿が残っている。一輪の花と共に差し出された彼の感謝を、その顔(かんばせ)に宿る美しい魂を、疑いたくはなかった。
「それに、跡継ぎ候補として有力なのは光くんの方です。光くんは頭の良い子です、下手な真似をして自分の立場を悪くするようなことはしないと思います」
「あの子が普通の子供ならな」
 薪の、猜疑心に凝り固まった言い方に青木は口を噤むも、心の中では納得していなかった。そこまで疑ってしまっては何もできない。
 薪は一人前の犯罪者を相手取るように光を厳しい目で見ているが、青木にはそうは思えない。悪いのは児玉であって、子供たちではない。間違った観念を植え付けられていても、光は犯罪者ではない。被害者だ。その彼が、児玉の呪縛から放たれた今、自分から事を起こすとは思えなかった。

「長野県警に協力要請なんかしたら問題になりますよ。これ、秘密捜査なんでしょ?」
 基本、事件が起きてからでないと警察は動けない。それを民間からの申し出もないうちから、しかも管轄外の警察署を動かすなど重大な職務違反だ。ただでさえ上に差し止めを食らった事件を掘り起こしているのに、岡部の言う通り、総監にバレたら3人とも謹慎ものだ。
 岡部の進言に、薪は不承不承ながらも頷いた。岡部も心の中では青木と同じように、薪の心配は過剰だと思っているに違いなかった。

「大丈夫ですよ、きっと」と薪を見れば、青木とは対照的に彼は厳しい表情を少しも崩さず。まるで祈るように、自分の組み合わせた両手に鼻先を埋めていた。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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No title

しづさん、こんにちは。

連載再開楽しみにしておりました(^^)

光くんが病院長に引き取られたのにはこんな理由があったんですね。
意外な展開だったので気になってたんですよー!
後妻や素行不良の実子、そしてミドリちゃん。。
お話が大きく動いて(それも不穏な感じに…)ドキドキしています。
そしてちょっぴり怖いです(笑)

すでに先を読んでいる薪さんがどのように光くんたちを救うのか、
これからも楽しみに読ませていただきますね。

lilyさんへ

lilyさん。

コメントありがとうございます(*'▽')

それほど込んだ話にするつもりじゃなかったんですけど、いつの間にやら長編になってしまいました。
おかげですっかり時期を逸してしまい……今頃、4月に終わった話の続きをされてもねえ(苦笑)

手遅れ感というか今じゃない感というかが、てんこ盛りですが、お付き合いいただけると嬉しいです。



プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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