ヒカリアレ(7)

 こんにちは。

 続きです。
 短くてすみません。



ヒカリアレ(7)








「光ぼっちゃま」
 呼びかけられてやおらに振り向く。彼のゆったりとした動きに合わせて、光の粒子が彼の周りを舞い踊る。透明度の高い宝石のような瞳が自分を呼んだ人物を捉えてひらめく、その両眼に宿したクリソベルリ・キャッツアイの輝き。朝露を湛えた薔薇のつぼみのようなくちびるが開き、その間から声変わり前の透き通るような声が零れ出た。
「やめろよ。ミドリまで、そんな呼び方」
 親しげに返されて、少女は頬を赤らめ、くすくす笑う。ダサいおかっぱ頭と眼鏡は相変わらずだが、薄緑色のチュニックと白いハーフパンツは彼女の飾らない性格によく似合って、なかなかによいと光は思った。

「ホーム以外で、ホーリーネームは呼んではいけないとのご命令に従ったまでです」
「ホーリーネームじゃない、ホームネームだ。間違えないで」
「あ、そうでした」
 真面目な顔になってミドリは、ミスをした口に手を当てた。

「すみません、光ぼっちゃま」
「だからよせって。光でいいと言っただろ」
「そんな。めっそうもない」
「メッソウモナイ? なに、そのおばあさんみたいな言い方」
「……お祖母ちゃんが、時代劇が好きだったの」
 シングルマザーだった母親が死んで、姉弟は祖母に育てられた。その祖母が亡くなり、つばき園に引き取られた。川の流れに導かれた落ち葉のように、自分の意志とは関係なく彼女の運命は定まったのだ。

「じゃあぼくはお殿様で、ミドリは町人の娘ってとこ?」
 ははっ、と光は屈託なく笑い、それをミドリがうっとりと見つめる。光にとってそれは常日頃から繰り返されてきたこと。他人から鑑賞され、その美を讃えられることは特に喜びも感謝もない、日常の些事であった。

「ところで、なにか用じゃないの?」
「あ、いけない。奥さまがお呼びです」
「わかった。ありがとう」
 ミドリと別れて廊下を歩く。軽やかな歩みは子供らしい闊達さと、生まれ備わった優雅さの境界線上。一歩一歩変わる表情に、何とも言えない魅力が滲み出る。それをミドリはじっと見送っていた。

 やがて光はひとつのドアの前で足を止め、ドアを3回、軽くノックした。
 ドアが開き、ほっそりとした女の手が現れる。その手が光の頭や肩を愛し気に撫でまわす間、光は身じろぎもしなかった。
 きらびやかな装飾を施された指先が頬の上を滑り、くちびるを割って中に入ろうとした。光は少しだけ口を開け、相手の指を迎え入れた。促されるままに指先を吸うと、相手はもう片方の手で光の頭をやさしく撫でた。
 クスッと含み笑いをして、女は光を部屋の中に引き入れた。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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