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ヒカリアレ(9)


 こんにちは。
 今日のも短いです。
 光くんサイトはどうしても散文的になるねえ。
 



ヒカリアレ(9)




 光が夫人の部屋から出てきたのは、3時過ぎ。2時間近くを夫人の部屋で過ごした光は、後ろ手に閉めたドアにもたれ、少年らしからぬため息を吐いた。
「ひか……」
 その様子があまりに美しくて。ミドリは掛ける言葉を見失う。
 光を見ていると胸が苦しい、それはいつものこと。だけど今日の苦しさはいつものとは違う。
 寒気すら感じるその美貌。見てはいけないものを見てしまった気分。思わずミドリは、廊下の角に飾られた大振りな花瓶の陰に隠れてしまった。

 ミドリはまるで魅入られたようにその場に立ち竦んでいたが、廊下の反対側から一人の男性が歩いてくるのに気づき、我に返った。
 ミドリはこの人物が苦手だった。言葉が乱雑で、常にイライラしている。ちょっとしたことですぐに怒る。癇癪を起すと物に当たる。ミドリよりずっと大人のくせに、まるで赤ちゃんみたいにワガママ。
 病院長の一人息子、西園寺崇である。
 崇は今年で17歳になる。サボリ癖のせいで出席日数が足りなくて一年留年しているから、高校1年生だ。顔はまだあどけなさを残している、が、ミドリたち小学生から見れば立派な大人だ。身体も大きく力も強い。恐怖以外の感情は生まれなかった。

「光」
 ミドリの見ている前で、崇は光に声を掛けた。ミドリたちがこの家に来てまだ1月も経たないのに、たまにしか家に帰って来ない崇とは数回しか顔を合わせたことはないはずなのに、その呼び方は砕けていて、妙に馴れ馴れしかった。
「崇さん」
 対する光は、身に纏った凄絶なまでの美しさを微塵も崩さず。にこりと微笑んで見せた。
 それから二人は顔を近づけ、声を潜めて言葉を交わした。その会話はミドリがいる場所までは届かなかったが、崇の不満を光が宥めているような印象を受けた。
 端々に、「あの女」とか「許せねえ」などと、誰かを罵る崇の声が聞こえた。光は困ったように笑い、それが自分のせいでもあるかのように、何回か頭を下げていた。

「光さま!」
 光が虐められている、とミドリは思い、咄嗟に光の元へ走り寄った。後のことなど、考えられなかった。
 ミドリにとっての神が、迫害を受けている。それはどんな犠牲を払ってでも防がなければいけない凶事だ。

 二人の間に割って入ると、二人は揃って不思議そうにミドリを見た。「なに?」と光に尋ねられて、ミドリは自分の思い違いに気づいた。ケンカではなかったのだ。
「あ、えっと」
「悪いな、ミドリ。夜にはまた出掛けるからよ、今のうち、ちょっと光借りるわ」
 そう言って崇は軽く手を上げ、反対側の手で光の肩を抱き寄せた。光はそれを嫌がりもせず、「ミドリ、後でね」とミドリをその場に残し、崇と肩を並べて廊下を歩いて行った。

 ミドリは少なからずショックだった。
 いつの間にあんなに仲良くなったのだろう。やっぱり男の子同士、女の自分よりも話が合うのだろうか。
 光の体に気安く触られるのも面白くない。奥さまは大人だから自分たちよりも上の階級にいるが、崇はまだそこまでは位が高くないはずだ。
 ミドリは自分から、光に触れることはできない。階級が違いすぎる。光が手を差し伸べてくれるのを待つしかない――。
 外の世界で育った崇を、ミドリは初めて羨ましいと思った。何の制約もなく光に近付ける彼が妬ましい。

「あ……」
 まただ。
 胸の中に、真っ黒い雲が広がっていく。

 咄嗟に掴んだコウタの袖を自らの意志で手放したとき、自分の腕を握ったコウタの幼い指が力尽き、彼の身体が落ちていったとき、ミドリの中に黒くて冷たい雲が生まれた。それが胸いっぱいに広がり、一切の感情が消え失せた。
 辛いも悲しいもなくなった。怖いものもなくなった。
 その代わり、闇に満たされた心は強烈に光を求めるようになった。夜の長い国の人々が太陽に恋焦がれるように、それは自然の摂理。
 羽虫が電燈に群がるように。蝶が花の蜜に吸い寄せられるように。
 全身が光を求めて蠢動するのを、ミドリは冷めた心を抱えつつも感じていた。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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