ヒカリアレ(13)

ヒカリアレ(13)










 細い手が、光の髪に差し込まれた。
 やさしい愛撫は手の持ち主が光の仕事に満足していることを伝えていたが、徐々に込められる力は、その仕事を続けることを暗に要求している。光の指先は、ぬめった液体で滑りが良くなった箇所を執拗になぞり、花弁を押し開くように深部へと進んでいった。女の身体がひくんと震え、深いため息が漏れる。

「光さんは、本当に呑み込みが早いわね」
「お母さまの教え方がいいので」
「あら、いやよ。これをしてる時はお母さまって呼ばないで。美奈さん、て呼んでちょうだい」
 そうだ、この前も同じことを言われたんだった。女の言うことなんかまともに聞いてないから、つい忘れてしまう。
「ごめんなさい。お詫びの印です」
「まあ、光さんたら。そんなことまで……ああ……」
 かわいいわ、光さん。
 女の声は何度もそう繰り返しながら、次第に興奮を高めていく。女には光のしていることが、ネコがミルクを舐めとる光景にでも見えているのかもしれないが、これはそんな可愛いもんじゃない。

 むせ返るような香水の香りと発情した雌の匂いに包まれながら、光は思い出す。
 初めて射精したのは、母親の口の中だった。
 ――声を出しちゃだめよ、光ちゃん。
 言われずとも、声を出すことはできなかった。光自身、この行為の名称を知る前から、これがよくないことだと本能的に解っていた。
 お母さんのことは嫌いじゃない、でも、これは嫌だった。これをするときのお母さんは、お母さんじゃなくて何か別の生き物みたいだった。
 光にはそれが恐ろしく、いたたまれなかった。ただ目を閉じて、じっと身体を固くしていた。ひたすらに息を殺して、時が過ぎるのを待った。この時ばかりは個室を与えられない一般市民が羨ましかった。彼らのように一部屋に集まって寝れば、お母さんもこんな真似はできなかっただろうから。さすがに、その下の下層市民が羨ましいとは思わなかったが。
 朝になれば、お母さんはいつものお母さんに戻る。この気味の悪い生物は夜の間だけお母さんの体を乗っ取って、自分にこんなことをするのだ。だからお母さんは悪くない。幼い頃はそう信じて、必死に耐えた。

 光が成長し、その美しさを遺憾なく発揮し始めると、それに触発されたように気味の悪い生物は頻繁に姿を現すようになった。危険は夜だけに限られず、二人きりになれば太陽が高いうちから母親を支配するようになった。
 昼間から服を脱がすようなことはしなかったが、それに近いことはされた。指でくまなく身体を触られ、顔や首筋にベタベタと唇を押し付けられた。
 ――光ちゃんは本当にきれいね。
 興奮してくるとそれは光の手を取って、自分の下着の中を探らせた。促されるままに指を動かすと、そいつは何とも不気味な声で鳴くのだ。
 現在は慣れたが、最初のころは本当に嫌だった。そんなところを触るのは汚い、と光が拒否すると、「汚くなんかないのよ。光ちゃんはここから生まれてきたんだから」と教えられた。

 幼いうちから色々なことをやらされて、望まないテクニックを習得させられた。それが現在、役に立っている。これはもしかすると、母に感謝すべきなのだろうか。
「なあに?」
 上にまたがって無心に動いていた女が、腰を揺らしながら尋ねた。思わず鼻で笑ってしまったのを聞かれたらしい。
 光は曖昧な笑みを浮かべて、女の垂れ下がった乳房に手を伸ばした。先端を親指で捏ね回せばその刺激に女は再び、快楽の中に沈んでいった。

 この女と触れ合うと、あの気味の悪い生物を思い出す。崇に抱かれている時とはまた、違った嫌悪感だ。
 どうして大人はこんなことに没頭できるのか、光は不思議でたまらない。快感は認めるが、何もかも投げ出すほどじゃない。正直、ミドリや園のみんなと遊んでいた方がずっと楽しい。
 つばき園は悪魔の巣窟だとか、囚われた子供たちは洗脳されていたとか、周りの大人たちが言うのを聞いた。でも、光にとっては大事な場所だった。児玉のやり方には付いていけないところもあったけれど、同じ年ごろの仲間との生活は楽しかった。他人の目にはどう映っても、光にはあそこが家だったのだ。

 帰りたかった。みんなと一緒に、つばき園に帰りたかった。

「ねえ。お母さま」
 つばき園を、みんなの家を取り戻す。その望みを叶えてくれる大人は誰もいなくなってしまった。だからぼくが。
「ぼくを本当の子供にしてくださるんでしょう? それはいつ?」
 下から、リズミカルに腰を突き上げながら光は訊いた。できるだけ無邪気に子供っぽく。行動と声色のギャップがこの女を狂わせることを光は知っている。
「あっ、うん、だから……お母さまって呼ばないでって」
「早く学校に行って、友だちと遊びたい」
 光の戸籍は須田洋子の私生児になっている。西園寺家の戸籍に入らないうちは、名門私立小学校は門扉を開かない。
「早くぼくを西園寺光にして。名実ともにお母さまのものにして。それができるのはお母さまだけなんだよ」
 禁じられた言葉を何度も何度も繰り返す。その言葉に背徳心を煽られ、興奮する。それが彼女の性癖だということも、光は見抜いていた。

 彼女の興奮がピークに達したのを見計らい、光は動きを止める。女は焦れて自分から動き出すも、そこから得られる快楽は、先刻までのものとは雲泥の差だ。
 やがて女は観念し、光が引き出したかった言葉を口にした。
「わ、わかったわ。明日にでも弁護士を呼びます。あなたを西園寺家の正式な跡継ぎとして、戸籍に入れます」
「ありがとう。お母さま」
 うれしい、と甘えてじゃれつきながら、奥を強く突いてやった。女はひとしきり不気味な声で鳴いた後、急に脱力し、光の隣に突っ伏した。光の仕事はこれで終わりだ。

「約束だよ。忘れないでね、お母さま」
 ベッドにうつ伏せになり、茫洋としている女を残して、光は部屋を出た。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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