ヒカリアレ(15)

ヒカリアレ(15)













 木曜日の昼下がり。
 自主休校を決め込んだ崇は光を自室に誘い、いつものように彼を抱いた。徐々に快楽を覚え始めた光の身体は大人顔負けの媚態を見せるようになり、崇は、回を重ねるほどに彼に溺れていく自分を感じていた。

 今も。
 崇の若さの象徴を、無心にしゃぶる光が可愛くて仕方ない。思いが募って崇は、いつも光にさせている行為を自分が光にしてやることで、その気持ちを彼に伝えようとした。
「た、崇さん――あっ」
 他人の精を口で受けたのは初めてだった。光にいつもさせているようにそれを飲み下し、息を荒げている彼の唇に深く口づけた。
「女のだってしたことないんだぜ。おまえだけだ、光」
「崇さん。うれしい」
 素直に喜び、無邪気に抱きついてくる。他人に好意を示された経験が少ない崇は、それだけでも嬉しかった。
 もはや、彼のいない生活は考えられなかった。彼を誰にも渡したくないと思った。

「光? どうしたんだ?」
 行為の後はしばらく裸のまま、ゲームをしたりビデオを見たりして過ごすはずの幼い恋人は、その日に限って早々と服を着た。
「3時に、お母さまと約束があって」
 途端、幸せな気分が消え失せた。その約束の内容は、崇にとって甚だ不快なものだったからだ。
 あの女は後妻だ。財産目当てで20も年上の爺さんと結婚した女だ。親父が病院に掛かりきりなのをいいことに、家にとっかえひっかえ若い男を引っ張り込むような、浅ましいメス豚なのだ。
 そんな汚らしい女が、光の美しい肌に触れることが許せなかった。

「行くなよ。忘れたことにしときゃいいじゃんか」
「それはできないよ」
 シャツのボタンを一番上まで留めて、そうすると光は清廉潔白な美少年になる。ついさっきまで自分に抱かれていた彼と同一人物だとは思えないくらい、気品溢れる姿だ。
「お母さまの機嫌を損ねたら、ぼく、この家を追い出されちゃうもの」
 冗談めかして笑ったものの、その響きは悲しくて。光の心は張り裂けんばかりなのだ、と崇は思う。
「光、なあ光。俺はいやだ。あの女が、いや、他の誰でもだ。俺以外の人間がおまえに触れるのは許せねえ」
「ぼくだって嫌なんだよ。でも」
 崇に背を向け、ドアノブを握る。握ったまま立ち止まり、光は低い声で言った。

「ぼくは崇さんだけのものにはなれない。あの女が生きてる限り」





*****






 青木は薪の命令で、長野に来ていた。
 ガードレールの高さを測れと言われて、やっと青木にも薪が考えている事件の真相が見えてきた。青木の身長ならともかく、5歳の子供がここから誤って落ちるのは無理がある。現場付近はカーブの多い山道で、ガードレールの切れ目もなかったし、横板が欠けている箇所もなかった。

 光がコウタを突き落とした。それを誰かが咄嗟に腕を掴み、一旦は留めたものの、力尽きて落としてしまった。周りの子たちは光に気兼ねして、その人物に手を貸すことができなかった――。

 理屈は通っているが、青木にはどうしても信じられなかった。あの愛くるしい子供が、そんな恐ろしいことをするなんて。でも。
「薪さんの推理が外れるなんて、それこそあり得ないもんなあ」
 独り言ちながら、青木は携帯電話を取り出した。
「地上80センチでした」と言う青木の報告に、薪は「そうか」と抑揚のない声で答えた。驚きも興奮もない、青木の報告は薪にとっては既知のことであり、この実地検分は確認に過ぎなかった。それが分かった瞬間、青木の中には別の計画が生まれた。
「長野まで来たついでに、光くんたちの様子を見てきます」
『待て青木。勝手なことをするな。もう少し周りを固めてから』
「そうですね。近所で聞き込みをしてから行くことにします」
『そういう意味じゃなくて』
 話の途中で電話を切った後、薪の盛大な舌打ちが聞こえた気がした。
 いつまでも、薪の手足でいたのでは駄目だ。このままでは彼との距離は開くばかりだ。岡部のように薪と対等に話せるようになるには、自分で考えて行動しなければ。今日だって、せっかく長野まで来たのだ。何かしら有益な情報を掴んで帰らなくては。

 現場に立ち尽くしたまま、青木は目を閉じた。コウタ少年の無残な遺体を思い出す。
 顔の損傷こそ少なかったが、身体は酷いものだった。これだけの高さから落ちたのだ。華奢な子供の身体が、その衝撃に耐えられるはずもなかった。

 重い気持ちを抱えて、青木はハンドルを握った。次の目的地は病院長の自宅だ。
 西園寺家の本宅は、瀟洒な塀に囲まれた豪勢な屋敷であった。地価の高い都心でこそないが、青木の家の10倍はあろうかという広い敷地に、3階建ての大きな家。医者はお金持ちって本当なんだ、などと下世話なことを考えた。

 本丸に乗り込む前に、近隣調査を行うことにした。
 聞き取り調査に於いて、家人からは聞けないことが、ご近所さんから聞けることは多々ある。家人は家の恥になるようなことは言わないし、本職の家政婦は口が堅いからだ。
 何軒かの家を回り、青木は西園寺家の噂話を集めた。思った通り、奥さま方は地元有力者の家庭事情に詳しく、特に美しき病院長夫人の裏事情について、困ったような表情を浮かべながらも精力的に話してくれた。
 中でも手厳しかったのは、地区の婦人会の代表を務めていると言うご婦人の意見だった。
 彼女の話によると、病院長の後妻、西園寺美奈は現在37歳。70歳を越した夫を相手に女盛りの身体を持て余し、あちこちの男をつまみ食いしている。近所でも何人かの男性が被害に遭っている、風紀が乱れてこちらも迷惑している、と彼女は顔をしかめたが、それを迷惑と言うかやっかみと言うかは微妙なところだ。

 新しい母親がそんな有様では、息子の崇も真っ当に育つわけがない。学校もろくに行かず、家にも寄り付かず、悪い仲間と遊び回っている。それもこれもみんなあの後妻が悪いのよ、とかなり一方的に美奈夫人を責める婦人会会長に、若干、引きつつも青木は尋ねた。
「あの家に、新しく引き取られた子がいたでしょう。ご存知ですか?」
「ああ、あのきれいな子。光くんだっけ」
 彼女は光の名を知っていた。聞けば何日か前、夫人のお中元回りに付いてきたらしい。その際、夫人から光を紹介されたのだが――。

「なんて言うかその、変な感じがしたのよね」
「変な感じ? 光くんがですか」
「ううん、美奈さんの方。光くんにね、お菓子をあげたのよ。そしたら美奈さんが怒ったの。あからさまに怒られたわけじゃないけど、『虫歯になるから甘いものは結構です』て不愛想に返されて。子供の方が気を使って、ごめんなさいって」
「美奈さんは普段からそういう感じで?」
「そんなことないわよ。あの人、外面はいいのよ。だから男が騙されるんだから」
 しかしその時ばかりは悪感情剥き出しで、謝罪した光にまで怒りのこもった眼を向けたと言う。

「あんな美奈さん、初めて見たわ。まるで」
 それまでマシンガントークを繰り広げていた婦人は、そこで初めて言い淀んだ。さすがにそれを口にしてよいものかどうか、迷ったらしい。青木が見たところ、この女性は自分より若く美しい病院長夫人に対する嫉妬心で凝り固まっていた。その彼女ですら躊躇った話の内容は、こうだ。
「まるで、自分の旦那が他の女と話すのを見てやきもち妬いたみたい」



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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