ヒカリアレ(24)

2017/08/26/06:20  ヒカリアレ

 最終章です。
 間に合ったーε-(´∀`*)ホッ



 ヒカリアレ(24) ~エピローグ~












 ノックの音がすると同時にドアが開き、岡部が姿を現した。相変わらず岡部のノックは意味がない。だから彼に部屋に入って欲しくないときは、鍵を掛けるしかなくなるのだ。

 岡部は、たくましい両腕に山のように書類を抱えていた。昼間、薪が無断でいなくなってしまったせいで、これほど多くの未決済書類が溜まってしまったに違いなかった。
 岡部はそれを遠慮なく薪の机に置き、重力に負けて崩れそうになる紙の束をもう一つの書類の山で支えるという荒業をやってのけた。この山を崩さないためには、岡部が持ってきた書類から片づけなくてはならない。天晴な割り込み方だ。

「青木から電話がありました。今、自宅に着いたそうです。薪さんによろしく伝えてくださいとのことです」
「そうか」
 飛行機事故の確率は交通事故よりずっと低いが、それでもゼロではない。無事に帰れたと聞いて、自然と頬が緩んだ。
「よかったですね」
「なにが」
 答えて顔を引き締めた。もしかすると岡部は、薪が考えている以上に薪の気持ちを知っているのかもしれなかった。それならば尚のこと、隙を見せてはいけない。

「あの子たちですよ。事件にならずに済んだんでしょう」
「なんだ、そっちか」
「そっちってどっちです?」
「……なんでもない」
 隙を作るまいと身構えたのが裏目に出た。肩に力が入りすぎて、気が抜けたら口が滑った。本末転倒だ。

「薪さんが光の犯罪を暴いたことで、光は新しい罪を犯せなくなった。バレないままだったら再犯もありですけど、今度やったら間違いなく捕まると思えば、彼も二の足を踏むでしょう」
「だといいがな」
 病院へ向かう車の中で、青木に聞いた。光がなぜ西園寺家の財産を狙ったのか、その理由と彼の決意を。
 青木のバカは完全に信じ切っているようだったが、怪しいものだ。あの子供は油断がならない。あの子には冷血漢の血が流れている。
 ――育ててくれた親を殺人犯だと疑い続け、最終的には彼を死に追いやった自分と同じ。冷たい血が。

 気のない返事をする薪に、「きっと大丈夫ですよ」と岡部は言い、脇に挟んでいたスケジュール表を山のてっぺんに置いた。
「児玉と須田のMRIは、精査が完了しました。明日からは報告書のまとめに入ります。来週いっぱいには提出できると」
「火曜」
 岡部の工程計画を薪の声が遮る。書類に判を押しながら、ちらりと部下を見上げた。
「報告書の提出期限は火曜だ。4日あれば十分だろう」
 その4日に週末の休みは含まれていませんよね。
 薪に爆弾を落とさせる愚かなセリフを、岡部は口にしなかった。「了解しました」とだけ言い置いて去っていく。さすが岡部だ。

 部下の仕事意欲に満足して、薪は積まれた未決済書類の山に手を伸ばした。ずっしりと重いファイルを2冊、クリップ留めされた書類束を3組、まとめて前に持ってくる。
 上から順に書類を捌いていく薪の、淀みなく動いていた手が不意に止まった。
「えっ?」
 書類と書類の間に、異物が入っていた。横型のレター封筒、縁取りは赤と青の斜線、宛名はローマ字で書いてある。

 この手紙、見覚えがある。というか文字の一つ一つの形まで覚えているというかむしろ描けるというか、でもっ!
 これ、返したはずだよな? 内容同じだし。
 え、え。じゃなに? これなに?
 返されたけど、納得しないってこと? ちゃんと返事しろってこと?
 ノーと言えないから察して欲しかったのに。振るならきっちり振れってか?
「……いい度胸だ」
 二度と僕に近寄れないよう、ギタギタにぶちのめしてやる。

 心に誓いながらも、その手は返された手紙を手放そうとはせず。
 この手紙が初めて届いた時を思い出したかのように、痛む胸を押さえるように。薪は再び自分の元へ舞い戻ってきた手紙を、胸にぎゅうっと押し付けた。


―了―



(2017.6)



 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。<(_ _)>


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