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ヒカリアレ(19)

 お久しぶりです! (更新はしてたんですけど、管理画面入ったのは2週間ぶり)
 今年はヘンなお天気ですねえ。
 梅雨明け宣言、したと思ったら急に雨が多くなって、お盆は涼しくてクーラー要らず。早くも秋が来たかのようです。
 これでお米とか大丈夫なんかな……(実家は農家)
 
 え。お米の心配より、お話をどうにかしろって?
 あははははー。(笑ってごまかしてみた)

 実は、今のペースで公開していくと、本誌発売までに終わらないことが判明しました。(またか)
 ということで、巻きます!
 この失敗、今まで何回やったかしら。数えきれないわーww←学ばないやつですみません。


 それと、9万5千拍手、ありがとうございました! わーい! .゚+.(・∀・)゚+. パチパチパチ。
 あ、お礼SS、いくつまで書いたっけ? え、7万5千? うそ。
 ……不義理ですみません……。




ヒカリアレ(19)











「コウタ少年の転落死事件。君たちの証言には2つの嘘がある」

 光の長舌を薪の声が遮った。2本の指をピースサインのように立て、彼はピシリと言い放つ。
「君たちの証言はこうだ。ミドリが病院からいなくなったことに気付いて、みんなで彼女を探しに行った。森の中を探し回るうち、コウタが誤って道から転落してしまった。そのとき周囲には誰もおらず、転落は被害者個人の過ちに拠るものだった」
「そのとおり。嘘なんか吐いてないよ」
「嘘の1つ目」
 光は薪の疑いを撥ね退けたが、薪は光の声が聞こえなかったかのように告発を続けた。
「コウタ少年は誤って落ちたと言ったが、ガードレールの高さを考慮すると、錯誤の落下は考えにくい」
「ガードレールの板に登って下を覗いてたんだよ。高さに目が眩んで、それで」

「死体検案書によれば」
 光の弁解を薪の声が分断する。死体検案書という厳めしい書類名に光が口を噤むと、薪は光の嘘を暴きにかかった。
「コウタ少年の肩は脱臼していた。これは誰かが落下した被害者の腕を掴んだ証拠だ。君の証言とは食い違う」
「それは落ちた時の衝撃で。きっと、肩が木にぶつかって脱臼したんだよ」
 光少年はそんな風に脱臼の原因を説明し、ポンポンと自分の左肩を叩いた。
「なぜ左だと?」
「え」
「僕は『肩が脱臼していた』と言っただけで、右の肩とも左の肩とも言っていない。なぜ左肩だと分かった」
「ちょっと待ってよ、それって誘導じゃないの? ぼくは右利きだから左肩を触っただけだよ。脱臼が左肩だったことは知らなかった」
「そうか、それは失礼した。しかし疑われるようなことをした君も悪い。これが正式な取り調べなら今のは証拠になり得る。次からは気を付けることだ」
「ご忠告ありがとう。それがあんたら警察のやり方だものね。せいぜい気を付けるよ」

 天才の名も高い薪と、光は堂々と渡り合った。まったく子供とは思えなかった。その頭脳の冴えは、天才科学者の息子の名に恥じなかった。
 その強かさに青木は眉を曇らせたが、薪は正反対だった。右手で隠した彼の口元は、笑っているに違いなかった。その証拠に彼の琥珀の瞳は、遊びに熱中する子供のように輝いていた。薪は基本的に意地悪だ。相手が巧妙に匿おうとすればするほど、その秘密を暴くことが楽しくて仕方ないのだ。

「きみは警察を誤解しているようだ。我々は秘密の暴露を誘導したりしない。取り調べは証拠に基づいて行う。この事件も同じだ」
 そして薪は、とっておきの武器を持ち出した。それは青木も知らなかった、寝耳に水の重大な証拠であった。
「コウタ少年の腕の皮膚からミドリの指紋が出た」

「嘘だ!」
「なぜ嘘だと言い切れる」
「だってあの時、ミドリは服を」
 言いかけて、光はハッと息を呑む。薪の瞳がすうっと細められた。
「ミドリちゃんが、なんだ?」
 今のは明らかに光の失言であった。しかし彼はいち早く態勢を立て直し、薪が提示した証拠を疑う別の理由を見つけてきた。
「皮膚から指紋が取れるなんて、聞いたことないよ」

 光同様、青木も驚いたが、それはあり得ないことではない。
 人間の皮膚からでも指紋は取れる。強い力で長時間圧迫した場合、素手で首を絞めた場合などは、被害者の首から犯人の指紋が取れるのだ。
 コウタ少年の腕からミドリの指紋が出たのなら、それはミドリがコウタを助けようとした決定的な証拠だ。姉が、弟の危機を救おうとしていたのだ。
 しかしそれなら何故、光はそのことを隠すのだろう。

 その訳は、2つ目の嘘に隠れていた。
「嘘の2つ目。君たちはミドリを探してたんじゃない。追い回していたんだ」
「なんでそう思うの」
 断言した薪に、光は控えめに尋ねた。事故死でありながらコウタの遺体が詳しく調べられていたこと、ミドリの指紋が採取されたことで、事件が洗い直されていると考えたのだろう。それまでとは打って変わった慎重な口調だった。
「彼女だけが裸足だった。慌てて逃げた証拠だ」
「ミドリは精神的に不安定だったから。お化けでも見たんじゃない?」
「錯乱による徘徊なら、森の中を歩けば傷だらけになる。幻覚が見えるほどの状態で、枝や生い茂る雑草を避けて歩くことは困難だからな」
 光は今度は言い返さなかった。認めたものと理解して、薪は先を続ける。

「皆で追い掛け回して、あそこまで追い詰めた。そしてコウタがミドリを突き落とそうとした。
 動機は児玉の脳から見つけた。児玉のカースト制に於ける鬼の重要性が分からない幼いコウタは、姉が自らの不徳により鬼に堕とされたと考え、恥ずかしく思うと同時に、それに腹を立てていた。自分の姉が鬼であることで、自分まで下層市民に落とされるのではないかという不安もあった。だから率先して姉を苛めた。
 コウタにとって、姉の存在は邪魔だったんだ」
 そこで薪は組んでいた腕をほどき、右手で光の顔を指さした。

「ミドリを殺そうとしたコウタを、きみが突き落とした」

 光は何も言わなかった。この場合の沈黙は肯定であると彼には解って、それでも何も言わなかった。言えなかった。
「なぜそんなことをしたのか。きみは」
「光くん、ミドリちゃんのことが好きだったんだね」
 思わず口を挟んだ青木の言葉に、ガクガクッと申し合わせたように2人の身体が崩れ、緊迫した空気が一気に破れる。マズい、外した。
「あ、あれっ、あれっ? ち、違った??」
 2人に軽蔑しきった眼で見られて、青木は恥ずかしさに赤くなる。これでは第九で、薪と岡部と3人で捜査会議をしたときと同じ役回りだ。
 みそっかす気分の青木に、薪が正解を教えてくれた。
「ミドリを完全に自分の信者にするためだ」

 心臓に、氷の塊を押し付けられたような気がした。
 まさかそんな理由で? 子供がそんな理由で仲間を殺すのか?

「普通なら青木の解釈が正しい。須田のMRIから、きみがミドリにこっそりと食べ物を運ぶのを見つけた時には、僕もそう思いかけた。
 でも違う。きみには目的があったんだ。
 彼女の命を救い、彼女自身の手で弟を殺させる。彼女はきみに恩を感じつつ、きみの命令には絶対に逆らえないようになる。きみにとって都合の良い木偶人形になるんだ。昔、自分の母親が児玉にとってそうだったように」
 薪の非情な推理に青木は青ざめ、光はクスリと笑いを漏らした。そして言った。
「神には使徒が必要なんだよ。ずっと鬼だったミドリなら、ちょっとやさしくしてやればそれだけで恩を感じて、なんでもするようになる。便利な道具になると思ったけど……難しいもんだね」
 それは青木が考えたような、甘いものではなかった。殺されそうになったミドリを救おうと、光は犯人を殺してしまった。そこには善意と好意があるはずだと、普通の世界の考え方が光には当てはまらない。それが可哀想でならなかった。

 再び俯いた青木の前で、薪の背中がしゃっきりと伸びた。青木の目の端に、薪の握りしめた拳が見えた。小さな拳は微かに震えていた。薪の感情は拳に現れることを青木は知っていた。
 唐突に青木は理解する。薪は、とても大切なことを言おうとしている。
 薪とて、こうして光の罪を暴いたところで立件できないことは百も承知だ。だったらなぜここまで執拗に、光の罪を明らかにする必要があるのか。
 亡くなった少年の無念を晴らしたいから? 罪を犯した人間が許せないから?
 二つとも間違いではないけれど、薪がこれから言おうとしているのは、きっともっと大事なこと。

「君は、自分のしたことを理解しているのか」
「ぼくはコウタを殺してない。ミドリに手を放せとも命令してない。ぼくかコウタ、どちらかを選べと言っただけだ。決断したのは彼女だ」
「分からないのか。それは殺人よりも重い罪だ」
 光は訝し気に眉をひそめた。光の言うことが本当なら、彼を殺人罪で裁くのは難しいだろう。しかし薪は、光の罪は殺人より重いと光を非難した。

「彼女は」と薪は言って、辛そうに眼を閉じた。拳は白くなるほど力が込められていた。
「ミドリちゃんは、自分には全く非の無いことで君たちの言う『下層市民』よりも下の『鬼』という役割を振られ、友人はおろか実の弟にまで虐げられ続けた。理不尽な環境に置かれ、まだ人生の何をも知らないうちにその暗闇だけをすべて舐め尽くしてしまった、可哀想な子供だ。
 そんな仕打ちを受けながらも、彼女は人間の心を失わなかった。きみに突き落とされたコウタを、自分を殺そうとした弟を、咄嗟に助けようとしたんだ」
 自分を殺そうとした相手でも、相手が窮地に陥れば反射的に救おうとする。その矛盾が人間なのだと、人の美しさなのだと、薪は言った。

「その“ミドリちゃん”は、今はどこにもいない」
 話しながら、薪はゆっくりと光に近付いた。
「君が殺したんだ」
「ちがう。ぼくはミドリを助けたんだ」
 光は知っていた。コウタは児玉に、ミドリを苛めれば苛めるほど上の階級に行けると吹き込まれていた。これから先、コウタはミドリの害にしかならなかった。
 そのことを説明しても、薪の考えは変わらなかった。キッパリと首を横に振り、光の言い訳を否定した。

「いいや、違わない。君が彼女に手を放させた、そのことで君は彼女の中にあった最後の人間らしさを打ち砕いた。もう彼女には、人間らしい気持ちは残っていない」
 やさしかったはずの彼女は、光に害為すものを皆殺しにする殺人機械になってしまった。命の重さを、他者の人生を、慈しむ気持ちを失くしてしまったのだ。
「あの生き地獄の中、彼女がどんな気持ちでそれを守ってきたか。君は考えたことがあるか」
 ミドリは苛めに耐えていた。他に行くところがなかった、でも理由はそれだけじゃない。自分が逃げ出したら、次は弟が標的にされる。児玉にそう脅されていたのだ。
 だから必死に耐えた。歯を食いしばって耐えた。血の繋がった弟からの嫌がらせすら甘んじて受けた。でも彼女のフラストレーションは膨れ上がる一方で、遂には彼女自身を壊しかねなかった。光はそこに目を付けたのだ。

「そもそも、ミドリちゃんがなぜ鬼に選ばれたのか、わかるか?
 彼女は君たちの中で一番やさしく、他人を思いやる心を持っていた。それが児玉の教義には脅威だったからだ。
 児玉は彼女を恐れたんだ。君のことなんか歯牙にもかけていなかった。君の本質を見抜いていて、策を弄さずとも自分の跡を立派に継いでくれることを知っていたのさ。結局、君は児玉を出し抜いたつもりで彼の掌の中で猿回しの猿のように踊っていたにすぎない」
 薪の糾弾は鋭かった。
 それは彼の怒りであり悔しさであり、事件を防げなかった自分への叱責であると同時に被害者への哀悼であり、さらには加害者へ差しのべた救いの手であった。

 犯罪に手を染めた少年が、これからの人生を真っ当に歩いて行くために、断じて彼の為した悪行を見逃してはいけない。悪いことをしてもバレなければいい、誰にも知られなければ何をしてもいい、子供にそんな経験を許してはいけないのだ。天網恢恢疎にして漏らさず、その言葉の意味を知識としてではなく心で知らなければ、ここで徹底的に彼の罪を白日の下に晒さなければ、この先、彼の歩く道は日陰ばかりになってしまう。
 だから薪は真剣で斬り結ぶがごとく、一瞬の隙も見せずに畳み込む。子供相手の激しい弾劾、それが傍の目にどれだけ冷酷に映ろうと、薪は最後まで手を緩めない。
「君は、慈愛に満ちた聖母のような少女を、もしかしたら唯一自分を児玉の呪縛から救ってくれるかもしれなかった人間を、その手で殺したんだ」

 ――もうこれで君は、一生涯、児玉の奴隷だ。
 そう結んだ薪を、光は蒼白な顔で睨んだ。あどけない唇が、ぶるぶると震えていた。

「うるさい……うるさい、うるさい!」
 変声期前のボーイソプラノが痛々しく響く。取り乱した声は自身の敗北、それを彼が知りつつも受け入れられずにいるジレンマそのものであった。
「あんたら、ぼくの親の脳みそ見たんだろ? じゃあ知ってるよな、あいつらがぼくに何をしたか。揃いも揃ってあんなっ……!」
 ライトブラウンの瞳から、涙が流れ落ちていた。初めて見る光の涙だった。
 児童虐待と一括りにするにはあまりに悲惨な光の生い立ち。それを知れば青木は、薪のように彼を導けなくなる。道徳よりも同情心が先に立つ。それでは大人の役目を果たせないと自分を叱咤しても、やはり顔に出てしまう。光は可哀想な子なのだ。

「あんな親、どこにもいない。でもぼくはその親から生まれてき」
 声が詰まって言葉が続けられない。思わず抱きしめて、光を庇ってやりたくなる自分を、青木は懸命に抑えた。知らなかった、子供の涙をじっと見据えることがこんなにも辛いなんて。

 自分のことでいっぱいいっぱいの青木に比べ、薪はどこまでも冷静だった。
「きみの人生を決めるのは君自身だ。親は関係ない」
「あんたらには関係なくても、ぼくには」
「本当だ。安心しろ」
 薪は軽やかに1歩踏み出して、光の耳元にくちびるを寄せた。手で口元を隠して、何事かささやく。
 弾かれたように光が顔を上げた。驚いた顔で薪を見る。

「うそ。だって、あんた警察」
 青木の視線に気づき、光は口を閉ざした。薪と光の視線が意味ありげに絡む。岡部と目で会話してた時にも疎外感を感じて辛かったが、またこんな、しかも今度は子供相手だ。つんぼ桟敷でグレそうな青木を後目に、薪は力強く言った。
「生きた証拠がここにいる。迷ったら僕を見ろ」




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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