帰郷(2)

帰郷(2)







「おまえ、竹内と付き合うの止めろ」
 青木が朝のコーヒーを室長室に持って行くと、不意にそんなことを言われた。
 薪の身勝手な言い草にはだいぶ慣れたつもりでいたが、今朝のこれはまたとびきり理不尽だ。悪い友人と付き合っているならともかく、竹内は捜一のエースだ。青木のほうが友人にしてもらっている、というのが正確な関係なのに。

「どうしてですか? 竹内さんはいいひとですよ」
「騙されるな。あいつ、おまえのこと捜一に引き抜こうとしてるんだぞ」
 それは何回か言われたことがある。が、たぶん社交辞令というやつだ。
「竹内のやつ、このごろ頻繁にここに来るだろ。何か企んでるに違いないと思ってたら、おまえ目当てだったんだ。今でさえギリギリの人数なのに」
「それは薪さんの誤解ですよ。オレなんか、捜一に行っても役に立ちませんよ」
「役に立つか立たないかは問題じゃないんだ。竹内の目的は、第九を崩壊させることなんだから。ひとりでも人員を削れれば満足なんだ」
「はあ」
 青木は曖昧に頷いて、語尾を濁した。

 捜一の旗手である竹内は、薪とは不倶戴天の敵同士だ。
 取っ組み合いの喧嘩にはならなくとも、顔を合わせれば嫌味と皮肉の応酬で、1時間でもいがみ合うことが可能だ。キャリア同士の2人のこと、その語彙は幅広く、まるで普段からこの舌戦に備えて広辞苑でも見ながら相手の 悪口をリストアップしているかのようだ。

 そんな竹内が、頻繁に第九を訪れるようになった理由。
 それを青木は知っている。
 竹内は捜一の先輩である岡部の助言を求めて、第九に来る。特に最近、あの囮捜査の一件以来だ。
 もっと正確に言うならば……岡部はカモフラージュで、実は薪に会いに来ていると青木は踏んでいる。

 岡部と話しながら、薪のほうをちらちらと見ている。
 薪の横顔に、後姿に、竹内の視線が釘付けになっているのを、青木は何度も目撃している。竹内は自分と同じ気持ちを薪に対して抱いている――本人に確かめたわけではないが、まず間違いない。恋するもののカンというやつだ。

 ―――― 竹内さんは本当はとてもいい人で、今では第九に敵愾心を燃やすこともなく、室長のことも尊敬してるし、実は好意まで抱いてるんですよ――――。

「とにかく。あいつの口車に乗せられるなよ」
 薪がこういうことに鈍感で良かった。
 竹内の複雑な心中など、薪には全く伝わっていない。相変わらず、薪は竹内のことを第九に仇なす敵だ、と認識している。

「はい。わかりました。気をつけます」
 竹内の気持ちを知りながら、一言も弁護することなく、にっこりと笑ってしまうあたり。ちょっと卑怯かな、とも思うが、ハンディキャップの大きさを考えれば、これは仕方のないことだ。
 下手なことを言って、薪が竹内に興味を持つようにでもなったら眼も当てられない。竹内は男の自分から見てもいい男で、署内モテる男№1の座を5年も守り続けている。年齢も薪と3つ違い。しかも、捜一のエースで出世頭。スマートで遊び慣れていて、本気で来られたら勝ち目がない。

「それよりも、薪さん。あさって、大丈夫ですか?」
「今のところはな」
「6時にお迎えに上がりますから」
「ああ」
 素っ気無い返事しか返ってこないが、青木はうれしくてたまらない。
 明後日は薪の誕生日。しかも、クリスマスイブだ。
 そんな大切な日を自分と一緒に過ごしてくれると言うのだから、青木にとってこれ以上の幸せはない。幸せすぎて怖いくらいだ。
 なんだか、大きな落とし穴が待ち構えているような気がする。

 後から思えば、それは虫の報せだったのかもしれない。
 いずれにせよ、そのときの青木には、明後日の夜のことしか考えられなかった。自分を襲う大きな悲しみのことなど、小指の先ほども感じていなかったのだ。
 ひとは神さまではないから。
 未来を予見することなど、できないから。

 2060年の暮れも近付いた12月24日。
 青木の父が脳溢血で倒れたのは、まさにその日だった。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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