FC2ブログ

パートナー(3)

 こんにちは~。

 この章には、昔、ちょっとだけ晒した、地下倉庫の一つがネタに含まれてます。
 分からない方はそのままに、分かった方は、
 どうかスルーで! スルーでお願いしますねっ。

 本日もよろしくお願いします。







パートナー(3)





「ではお疲れさまでした。おやすみなさい」
「ちょっと待て。私に野宿をしろとでも」
「ご安心ください、日本の夜は安全です。オレたち警察が目を光らせていますから」
「そういう問題じゃない。今は11月だぞ」
 よかったらこれどうぞ、とにっこり笑って毛布を手渡され、叔父は目を白黒させた。ニコニコ笑いながら押しが強い。青木の恐ろしさはここだ。

「青木。そのくらいにしておけ」
 青木が振り返ると、腕を組んだ薪がニヤニヤ笑っていた。左手の拳を口元に当て、吹き出したいのを堪えている様子だ。
「薪さんが、そうおっしゃるなら」
 母親のことも自分のことも、青木は本当にどうでもいい。すべてのものを守るなんて、自分には無理だ。青木の守備範囲はそんなに広くない。
 青木は薪のボディガードだ。
 薪のことだけ。守れたらそれでいい。

「お布団、ここに敷きますね。干してないから冷たいかもしれませんけど……あ、そうだ。湯たんぽ入れましょう。用意してきます」
 切り替えの早さは見事なもので、それはおそらく上司の影響。雪山の天気のようにコロコロ変わる薪の機嫌を取り持つには、3秒前の発言を瞬時に忘れられる能力が必要なのだ。
 客用の布団と湯たんぽを取りにクローゼットに向かう青木の後ろ姿を、叔父と甥は並んで見つめた。青木を良く知る薪は慣れたものだが、叔父の方はその変わり身の早さに付いていけず、たった今、自分の身に起こったことが夢か真か、判じかねる様子でしきりに目を瞬いていた。
 その様子に薪はとうとう耐え切れず、クスクス笑いを拳に降り掛け、
「いい男でしょう」と右隣の叔父の顔を見上げた。

「人を見る目のないおまえにしては、まあまあだ」
 ありがとうございます、と薪は冷静に返したが、内心ではとても驚いていた。
 初対面で、あの皮肉屋の叔父からこれだけの賛辞を引き出すとは。鈴木ですら初めて会った時には「パッとしない友だちだな。本当に東大生なのか」と陰で言われたのだ。
 初対面の評価が鈴木に勝ったことを青木が知ったら、さぞ喜ぶだろう。青木は単純だから、それだけで叔父を好ましく思うかもしれない。先々のことを考えるとそれはとても有益な方法に思えたが、いかんせん、薪は人間関係にそういう細かなネタを仕込むタイプではない。
「彼個人の人柄とおまえたちの不適切な関係は、また別問題だ。私は絶対に認めんぞ」
 叔父さんに認めてもらわなくとも、なんら支障はありません。
 出掛かった言葉を舌の根で抑え込む。冷たい言葉を冷酷な言葉で打ち返せば、倍の冷たさで返ってくるに違いない。舌戦の泥沼に戻るのを回避するため、薪は話題を変えることにした。

「ところで、叔母さんはどちらに?」
「長旅で疲れが出たようでな。ベッドルームを借りて休ませてる」
「えっ!」
 何か問題でも? と問われれば心とは裏腹に頷くこともできず。かと言って自分の母親代わりだった女性を寝泊まりさせるには、そこはあまりにもリスキーな部屋だ。
 だって寝室には青木と大人の夜を過ごすために必要なあれやこれやが!! 例え引き出しを開けなくても、サイドボードにはふたりで撮ったスデディな写真が飾ってあるし、脇田課長オススメのビデオコレクションも、いや、それより。
 本棚の、一番下の隅っこに隠すように置いてある青木の血迷った買い物を思い出し、薪は瞬時に青ざめた。

「冗談じゃない! 今すぐ別の部屋に移ってください!」
 思わず叫ぶ。だってアレ、叔母さんに見つかったら僕死ぬから!!
「部屋を代われと言われても。文代はもう眠って」
「でもっ! 使ったことないって言っても信じてもらえないでしょ!?」
 未使用どころか触ったこともない。青木が使い方を説明しようとする度に思い切り蹴り飛ばして、完全無視を決め込んでいる。
 なんでそんな物が寝室にあるのかと言えば、青木が薪の浮気を心配したからだ。もちろん薪は浮気なんかする気もないし、するだけの体力も時間もない。全くの杞憂に過ぎないそれを青木は滑稽なくらい深刻に悩み、挙句、煮詰まり過ぎてあんなモノを購入してしまったのだ。バカとしか言いようがない。
 薪がそれを捨てずにおいたのは、どうやって捨てたらよいか分からなかっただけで、万が一ゴミ袋の中からご近所さんに見つかりでもしたら此処に住めなくなるから。でもまあ薪も、ほんのちょっとくらいは興味あったりとか、これから先青木と何ヶ月も会えなかったりしたらその時にはとか、そうだ、スカイプエッチのときに使ってやったら青木が喜ぶかも……いやいやいやいや!

「使わない、絶対に使わないからなっ!」
「なにを?」
「ナニって、えっ、あっ、いや」
 石鹸水とクエン酸に交互に浸したリトマス試験紙みたいに、薪の顔色が忙しく赤と青の間を行き来する様子を、叔父は怪訝な表情で見つめ、深刻な口調で切り出した。
「まさかとは思うが。剛おまえ、非合法なクスリを」
「そんなわけないじゃないですか。僕は警察官ですよ」
「じゃあなんだ。ハッパ以外、寝室に置くもので他人に見られたら拙いものがあるのか」
「叔父さん。ここは日本です。叔父さんの所みたいに、マリファナがドラックストアで買える国じゃないんですよ」
「失敬な。私はそんなものに頼ったことはないぞ」
「僕だってありませんよ!」
 微妙にズレていく叔父との会話にイライラして、声のトーンが自然と高くなる。この叔父とは、どちらかと言えば黙り込むケンカが多かったはずだが、この20余年の間に、薪はハイエナのようなマスコミ相手に、叔父は機関銃のように喋りまくるアメリカ人相手に、お互い言語中枢を発達させてきたらしい。

「なに騒いでるのよ。うるさくて目が覚めたわ」
 そこに叔母が現れた。頭痛は治ったらしく、スッキリした顔をしている。
「キッチンで青木さんに会ったわよ。感じのいい子ね」
 でた、青木の年上キラー。彼は、子供と老人には本当によくモテる。警察官なんてヤクザな商売より、保育士か介護士のような職業の方が彼の外見にも気性にも合っていると薪は思う。

「それはそうと、剛。寝室に隠してあったアレ。あなたにあんな趣味があったなんて。叔母さん、びっくりしたわ」
 ぅぎゃああああああ!!!
「ちちちちち違うんです、叔母さん! アレは青木が買ってきて、でも僕は一度も使ったことはないんです! 信じてください!」
「あら、そうなの? あれ、青木さんのシュミ?」
「もちろんです! そもそもあんな大きいの、僕には無理ですよ!」
「そんなこともないんじゃない? 確かに標準に比べれば大きいかもしれないけど、無理ってことはないと思うわ」
 え。そうなの? あれって挿入可能なサイズ? 青木が「オレのより少し小さいかもしれませんけどこれで間に合わせてください」って言ってたの、あれ、男の見栄じゃなくて?

「女の人にはそうかもしれませんけど、僕は男ですから。使用する場所のこともあるし」
「そうね、所構わずってわけにはいかないわね。ちょっと恥ずかしいものねえ」
「ちょっとどころの騒ぎじゃないですよ。犯罪ですよ、あんなの」
「犯罪なんて大げさな。あんなにかわいいのに」
 かわいい? あんなグロテスクなものが? 女の人は、ブサかわいいとかキモかわいいとか、理解しがたい美的基準を持っているが、それにしたって。
「かわいいですか? アレ」
「可愛いじゃない。頭が丸くて、太くって、ズドンとしてて。頬ずりしたくなっちゃうわ」
「スゴイこと言いますね……」
 雪子の猥談もすごいけど、叔母さんもすごい。とても付いていけない。ていうか、叔母さんてこんなキャラだったっけ? 女の人は年を取ると恥じらいを失くすって言うけど、自分の身内にその実例が生じるのは複雑な気分だ。

「なんの話だ」
「あ、史郎さん。そうよね、史郎さんも見たいわよね。剛、ここに持ってきていい?」
「ダメに決まってるでしょ、そんなのっっ!」
 気でも狂ったんですか、と、その言葉を飲み込むのがやっとだった。なに言いだすんだ、この女は。正気の沙汰とは思えない。
「いいじゃない。見せてあげましょうよ。史郎さんもきっと気に入るわ」
「待ってください、後生ですから!!」
 後ろから羽交い絞めにしようとした薪の手を半歩の差ですり抜けて、叔母は寝室に入ってしまった。かくなる上は、寝室のドアに板を打ち付けてこの呪われたアイテムがある部屋を叔母さんごと永遠に封印するしかないと薪が決心した時、再びドアが開いた。
 瞬間、薪は反射的に後ろを向いた。光景は予想できるが、とても正視に堪えない。母親が掃除中に息子の寝室からエロ本見つけちゃうくらいならホームドラマでもありそうだけど、グッズはないから! 人間、そんな恥辱に耐えられないから!

「ほら、これよ」
 終わった、人生終わった。僕はこれから踏切に飛び込む。さようなら、みんな。
 鈴木、待たせたね。今行くよ。鈴木だけは僕の無実を信じてくれるだろう?
「これが可愛いのか? 女の感覚は分からんな」
 そうでしょうね……。
「頭が丸くて太くてズドンとしてて」
 叔父さんまで事細かく形容しないでください。一度見たら忘れられない、ていうか必要ないです。男なら誰でも日常的に目にしてますから。
「黄色くて青くて」
 ええ、黄色くて青くて、うん? 黄色? 青?
 人それぞれかもしれませんけど、逆に自分のは見たことありませんけど、その時の僕のは薄紅色だって青木が言ってて、青木のはやや紫がかった赤色だと記憶していますが。
「手足が異様に短い」
 はいはい、手足が、――手足? 叔父さんのには手足が付いてるんですか??

 食い違う記憶に焦って振り返る。ドアの前には巨大なぬいぐるみを抱いた叔母と、複雑な顔をした叔父が立っていた。
 そういえばこないだ、ミハルが遊びに来て。彼女の大のお気に入りの人形をクローゼットから出したはいいけど片付けるには青木の手を借りなきゃいけなくて、とりあえず寝室に置いておいたのだった。ぬいぐるみとはいえ目があるものは見られているような気がして嫌だから、頭からすっぽりとシーツを掛けておいた。それを叔母は、隠してあると誤解したのだ。

「地味に重いわね、これ」
「これが青木くんの趣味か。いい大人が、まったく」
 叔父の誤解を、薪は敢えて解かない。本当の持ち主のことを説明するのも面倒だし、誤解の内容を説明することは死んでもしたくないからだ。それに、そもそもの原因は青木のトチ狂った買い物のせいなのだから、これは自業自得だ。
「そうですね。いつまでも子供で困ったもんです」
 すべての責任を青木に押しつけて、薪は大きく頷いた。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

通りすがりさんへ

通りすがりさん


笑ってくださって、ありがとうございます。
うちの話は笑ってもらってナンボなので、たくさん笑ってください(^^

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: