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プレゼント(6)

 Rです。 痛いです。
 お嫌いな方、薪さんの眠りを妨げたくないと言う優しい淑女のみなさまは、いつも通りスルーしてください。







プレゼント(6)






 その夜、薪は久しぶりに幸せな夢を見た。
 鈴木に抱かれる夢だった。最後まで邪魔するものは現れなかった。
 これは非常に珍しい。
 いつも貝沼や雪子や他の女性が現れて、薪から鈴木を奪っていってしまう。鈴木の前で貝沼に殺される夢だったり、鈴木が他の女性を抱く夢だったり、とにかく、始めから終わりまで鈴木が薪を愛してくれることは滅多にないのだ。

『大好きだよ』
 行為の後、たくましい胸に顔を埋めて、薪はしっかりと鈴木に抱きつく。
 だれにも渡したくない。鈴木は僕だけのものだ。
『オレもです』
 ……です? なんで敬語なんだ?
 疑惑はすぐに現実に変わる。
 これは鈴木の声じゃない。これは鈴木の匂いじゃない。
『愛してます、薪さん』
『あお――――!!』
 気が付くと、暗い寝室の中で薪はベッドの上に起き上がって硬直していた。背中にじっとりと冷や汗をかいている。

 なんだ、いまの。
 いつすり替わったんだろう。始めは確かに鈴木だったのに。
 
 ちゃんと覚えてる。キスも愛撫も、鈴木のものだった。
 僕の中に入ってきた長い指も、僕が口に含んだものも、間違いなく鈴木のものだった。
 相手が鈴木じゃなかったら、僕はそんなことはしない。女の子ならともかく、他の男なんか気持ち悪くて出来ない。
 それがこんな――――。
 ベッドの上にうずくまり、頭を抱える。膝に額をごつんとつけて、自己嫌悪に陥った。

 ……青木が悪い。
 あんな、青木のバカが、あんなことするから。
 だれかに首にキスされたのなんか久しぶりで……すぐに振り払えなかった。背筋がぞくっとなって腰の辺りがジンとして。
 あいつのことだから本当に腹が減ってたのかもしれないけど。そのあと普通に饅頭食ってたし。
 でも、こないだのこともある。深くて長いキス―――― あれは挨拶代わりなんて言い訳できない。絡んだ舌の感触がいまも残ってる。
 最初のときは即座に殴れたのに。蹴りまで入れてやったのに。
 この間は青木が泣いていたせいもあって、振り払うことも出来ずに最後まで許してしまった。
 今日だって、やっとの思いで足を動かしたのだ。以前と比べたら格段に弱い蹴りだった。
 足場の悪いソファの上だったから落とすことができたけど、あれが床の上だったら押さえつけられてしまっていたかもしれない。そうしたら、もっと先のことまで許してしまっていたかも……。

 はっとして薪は振り返った。
 鈴木が見てる。
 悲しい顔だ。僕に裏切られたと思って、すごく悲しい顔をしている。

「違う……違うよ、鈴木」
 今宵二度目の言い訳に、堪忍袋の緒が切れたのか、鈴木は薪の謝罪を受け入れてはくれなかった。諦めたような目で薪を見ている。どうせオレは現実には何もできないよ―――― そんな声が聞こえてくるようだ。
「僕が好きなのは鈴木だけだよ。ほんとだよ」
 ―――― うそつけ。おまえ、あの男のこと好きなんじゃないのか?あの男に抱かれたいんじゃないのか?
「ちがう! 僕を疑ってるのか? 僕はいつだっておまえのことだけ」
 ―――― まあ、口ではなんとでも言えるよな。

 真夜中のこの時間帯、夢と現実の境界線はひどく曖昧で、それは薪に親友の幻を見せる。
 冷たい眼。
 今まで鈴木に、一度だってこんな眼で見られたことはない。
 軽蔑しきったような顔。所詮は現実の肉に引き寄せられる浅ましい人間だ、と薪のことを睥睨している。
 
「じゃあどうしたら信じてくれるんだ? 何をどうすれば信じてくれるんだ?」
 大判の写真立てを手にとって、薪は夢中で言い募った。
 あんまりだ。僕はずっと鈴木のことだけを見てきたのに。鈴木が雪子さんと付き合いだしてからも、鈴木以外は目に入らなかったのに。

「じゃあ、見ろよ!」
 写真の前で薪は服を脱ぎ始めた。下着も取りさって全裸になる。
「見ればわかるだろ? 僕の身体には誰も触れてない。おまえ以外、誰も触れてないんだ」
 冬だからかなり寒いが、いまはそんなことを言ってる場合じゃない。なんとしても鈴木の誤解を解かなくては。
「よく見ろよ。ここもこっちも、鈴木が愛してくれたときのまんまだろ? そりゃ年はとってるけど、あの頃と同じだろ?」
 ―――― 見た目はな。中身はどうなってるか、わかんないよ。
「だったら抱いてくれよ! そうしたらわかるから。僕がおまえと別れてから、10年以上も誰とも寝てないってわかるから!」
 なんで信じてくれないんだろう。鈴木はどうして僕の言葉を信用してくれないんだろう。
 くやしくて、涙が出てきた。
「できないくせに……何にもしてくれないくせに!」

 ―――― おまえができなくしたんだろ。
 鈴木の目が、ナイフのように鋭くなった。薪の胸に、鈴木の冷たい怒りが突き刺さってくる。
 ―――― おまえがオレを殺したんじゃないか。
 動かしがたい事実。
 そうだ。
 自分は鈴木を責められる立場じゃない。

「鈴木……ごめんね」
 写真立てを元の位置に戻し、薪はその前に座った。
「見てて」
 足を広げて恥部を露出させる。自分の手をそこに当てて、さすり始める。
「いつもこうしてるんだ。鈴木のことを想って、ずっとこうしてたんだ」
 徐々に屹立してくるそれを自らの手で慰めながら、薪は写真に語りかける。
「こっちも使ってないから、指入れるのも痛いんだ。1本くらいなら平気だけど、2本だと痛いんだ。それ以上はとても入らない」
 入らないはずの指を、無理にそこに押し込む。奥歯を噛み締めて、苦痛の声を押し殺す。
 乱暴に抽出する。痛みに白い背中がびくびくと震える。
「ほら。血が出てきた……信じる気になったか?」
 血に濡れた指を差し出す。すっかり萎えてしまった前の部分に自分の血を塗りつけるようにして、ふたたびしごきはじめる。
「おまえだけだ。僕の……こんな姿を知ってるのは、おまえだけだ。他のだれにも見せてない」
 激しくなってくる息遣いと手の動きが、薪の精神の均衡を崩し始める。薪はまだ、あの事件を引き摺り続けている。

 事件から1年5ヶ月。
 世間はすっかり事件を過去のものとして忘れ去り、薪の生活は平穏に戻った。テレビ番組のオファーが来るくらいだ。対談相手もプロデューサーも、懸念していた事件のことにはまるで無関心で、薪にそんな過去があることも知らないようだった。
 対談相手の弁護士は、職業柄知らなかったわけはないと思うが、でも何も言わなかった。しきりと薪の経歴を褒め称えたスタッフたちは、とても薪に好意的だった。
 ほっとした。
 本当は、怖かった。
 あの事件のことを蒸し返されたら、取り乱さずにいられる自信は正直70%といったところだった。

 世間はあの事件を忘れかけている。これからますます薄れていくだろう。
 でも。
 薪は忘れない。
 雪子も、鈴木の両親も友人も、決して忘れない。
 薪が鈴木を殺した事実を。薪が殺人者だということを。
 彼らが生きている限り、薪への声なき非難は続くだろう。
 否。
 たとえその事実を知るすべての人間が、この世からいなくなっても。
 薪が鈴木を殺した事実は消えない。

「あいつとキスしちゃったことは謝るから、許してくれよな。もう二度としないから。誰とも絶対にしないから」
 鈴木の許しを請いながら、薪は血を流す秘所に指を埋める。
 ぴりりと引き攣れるような痛みが、むしろ心地よい。これは鈴木が自分を愛してくれたときに必ずあった痛みだ。
 鈴木はとてもやさしい男だった。薪を傷つけることをひどくためらった。
 それでも薪が行為をねだると、自分の優しい心を殺してまで薪を愛してくれた。薪にはそれが嬉しかった。痛みなどどうでもよかった。鈴木が自分を欲しがってくれるのが、愛されているという実感が、あの頃の薪の幸せのすべてだった。

「これか? これは……」
 ふと、首筋の刻印に気づく。
「なんてことないだろ。こんなもの」
 皮一枚のことだ。剥がしてしまえばいい。
 右手の爪を食い込ませて、痣の部分を傷つける。歯を食いしばって声を殺す。
 爪の先が血に染まって、傷と痣の見分けがつかなくなったのを確かめると、薪は写真に笑いかけた。
「ほら。隠蔽工作完了だ。もう物証はないぞ」
 血に染まった手をじっと見る。
 殺人者の手だ。この色に染められているのがふさわしい。
「おまえも警察官だろ。証拠もなしに人を疑うのはよせよな」

 左側の首筋から肩口までの間につけたいくつもの傷から血を流し、薪は行為の続きに戻る。
 本当はこんなことはしたくない。鈴木の前で、こんな姿は見せたくない。
 でも、鈴木に信用して欲しいから。
 僕が鈴木以外はだれも愛せないってことを信じて欲しいから。

「鈴木、鈴木っ……愛してる、愛してるよ」
 自分に言い聞かせるように、何度もその言葉を繰り返して、薪は写真の前で淫らな行為に耽る。
 快感に震えるたびに傷口が攣れて、痛みが走る。痛みのたびに快楽は薄れて、恥ずかしい行為は長くなる。
 それでもようやく終わりが来て。
 白い飛沫が小さな手を汚して、薪は荒い息をつく。自分の手についた残滓をぺろりと舐めて、顔をしかめる。
「おまえのって、こんな味だっけ? ……忘れちゃったな」

 興奮が醒めると、ひどく寒い。
 残りの汚れをティッシュで拭いて、薪は裸のまま布団の中に潜り込む。うつ伏せにうずくまるような姿勢になって、薪は顔だけを毛布から出した。
 さっき自分でつけた傷は、もう乾いて固まっている。シーツは血で汚れてしまっているが、洗うのは明日だ。早く朝になればいい。

「鈴木。信じてくれたか?」
 やさしい笑顔。微かに頷いてくれたような気がする。
「ありがとう」
 窮屈な体勢のまま、薪は目を閉じる。
 眠れないとは思うが、鈴木の顔を思い浮かべることはできる。暗い部屋の中では、写真を見るよりこちらのほうが、はっきりと鈴木の顔を見ることができる。

「大好きだ、すずき……」
 薪はその姿勢のまま、夜が明けるまでうずくまっていた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Re: NoTitle

鍵コメいただきました、Kさま。
ご連絡、ありがとうございます。
バカな勘違いをしてしまいました。
Kさまのブログに、お詫びのコメを書かせていただきましたので、どうかご容赦ください。

「凛々しく誇り高く気高い」ところに、惚れ込んでいる、とおっしゃるKさま。
わたしも、わたしも!なんです。

凛々しくて男らしい薪さんが好きなんです。
その華奢な背中で、ぐいぐい部下を引っ張っていく。見た目はあんなに頼りない体型なのに、強さと雄雄しさを感じさせる。
惚れますよね、例え男だって。

ああ~、好きです、薪さん・・・大好き・・・。

がんばって8月号、読み直そうと思います。好きなら目を背けちゃダメ、ですよね。

Aさまへ

Aさま、こちらにもコメントありがとうございます。


>薪さんは青木といい感じになってしまうと罪悪感で悪夢をみてしまうのですね(><)
>これではなかなか、青木を受け入れられませんね。

そうなんですよ。 ドSならではの設定でしょう?(笑い)
だからこれから長いんですよね~。 うちの青薪小説は、青木くんが薪さんを口説き倒す話でもあるんですけど、同時に薪さんが自分に打ち克つ話でもあるんです。 自分自身を克服しなかったら、未来を見ることなんかできないと思うので。


>原作でも最近、青木が鈴木さんに見えたり、鈴木さんのように死ぬのを見るのは青木を失うかもしれない不安もあると思うけど青木と雪子の結婚が具体的になりつつある(親に会わせたり)ことも関係ある気がします。
>「本当なら雪子さんと結婚するのは鈴木だったのに」という鈴木さんに対する罪悪感。雪子に対する負い目は無くなるんですけどね。

なるほど。
その考えで行くと、一期一会のエレベーターは、『なぜ青木への心変わりを僕に?鈴木じゃなくて?』という台詞は、厭味じゃなくて本気で思ってたのかもしれませんね。
鈴木さんのことを、雪子さんが忘れていくようで悲しい気持ちもあったりするのかな。
人の心はとっても複雑で、色々な要素が絡み合うから、あのときの薪さんの言葉はこんな気持ちから発せられたものだった、とピンポイントで説明することは難しいです。 レビューの書けるひとを尊敬します。(^^;
レビューは苦手です。 小説のほうがずっと簡単。


>うずくまって泣くところが原作と重なってしまいました(тт)

ああ、泣いてましたねえ・・・・・

萌えるけど、痛いんですよね。 痛ければ痛いほど、引き込まれてしまう(=萌え)。
本当に人の心ってフクザツですね。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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