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岡部警部の憂鬱(1)

 8月号、2回目読みました。

 ……………………。(再涙)  おかまき小説、UPします。


 べつに怒ってるわけじゃなくて。(笑)
 千堂大臣との会見中、ずっと岡部さんが薪さんを心配そうに見ていたのがツボにはまりまして。
 ああ、やっぱり岡部さん、好きです。青木さんとは違う、大きな愛を感じます。(てか、薪さんの気持ちに気付いてますよね。岡部さん、鋭いひとですから)
 決して肉欲に結びつかない愛なんですよね。騎士道精神に近い。ある意味、究極だと思います。

 そんなわけで、この話は「岡部さんと薪さんの馴れ初め」です。
 モトネタはもちろん、『A PIECE OF ILLUSION』です。設定とか、まんまです。
 あの状況で、もう少し岡部さんが薪さんに突っ込んでいく、みたいな話です。
 うちの薪さんなんで、めちゃめちゃに乱れちゃってますけど。そこはいつものように片目つむってご笑覧ください。





岡部警部の憂鬱(1)





 自覚がないというのは、時として困りものだ。
 それは自身の怠慢に対してだったり、ちょっとした悪心に対してだったりすることが多いのだが、自分の美点に対して自覚がないのも、周囲の人間を苛立たせてしまうものらしい。

「いいかげんにしてくださいよ!」
 朝日の差し込むダイニングに、青木の大きな声が響いた。
「室長は、ケーキもおでんも食べちゃダメなんですよ! でもって、赤い愛車に乗って女装して目隠しプレイして! それをなんですか。カップラーメンは食べるわ納豆は食べるわ、おまけに平気で人前で裸になるし、とにかく、オレの夢を壊さないでください!」
 取り乱した挙句にわけのわからないことを叫んで、第九の新人はリビングのほうへ歩いて行ってしまった。
 そのままガチャン、と玄関のドアが閉まる音がする。怒りながらも薪に頼まれた買い物に出たらしい。

「岡部……僕時々、あいつの言う事がよく分からないんだけど」
 不思議そうな表情で小首を傾げた薪に、なんと説明してよいものか。
 言葉に詰まった岡部は、無言で首を振った。

 薪のマンションのキッチンで、岡部は朝食の用意を手伝っている。

 昨夜はこの家で、青木と3人で飲んで、そのままリビングで雑魚寝した。以前は薪と2人でよく飲んでいたが、この頃はそこに青木が加わることが多くなった。
 主な酒の肴は、新しく導入されたシステムのことだ。
 このシステムが発売されたのは、昨年の春。
 時間短縮に役立つ新しい商品にすぐに目をつけた薪が、所長の田城を口説きにいったのは5月のことだ。あの時は、三田村のせいでうまく田城を丸め込む―――― もとい、説得することができずに諦めかけていたのだが、秋の初めに起きた水面下の事件がきっかけとなり、三田村が地方の所轄へ異動になったあと、田城のほうから声を掛けてきてくれた。
 薪の実力を高く評価してくれている田城のこと、三田村にひどい目に遭わされながらも耐え続けた薪への褒美と取ってもいいだろう。

 田城のおかげで追加予算が認められ、そのシステムが導入されてから、第九の勤務体制はいくらか人間らしくなった。
 週36時間労働が叫ばれている昨今、毎日のように残業続きの研究室は第九くらいのものだ。そのことを、所長の田城はちゃんと理解してくれている。

 仕事以外のことに使うべき余暇を、室長とのコミュニケーションに費やすのは本末転倒のような気もするが、こういうときには薪は、仕事の話はあまりしない。
 昨日も薪が欲しがっている新しいPCソフトの話や、岡部の母親が家庭菜園に凝っていること、車好きの青木が休みの日に行って来たサーキットの話など、仕事には関係のない話が多かった。

「ケーキはそんなに好きじゃないからいいけど、おでんは美味いよな。なんで食べちゃいけないんだ? そういえば、昨夜も僕がラーメン食ってたら怒ったよな」
 遅くまで喋っていたから小腹が空いて、手を掛けるのは面倒なので、お湯を注ぐだけのカップ麺を食べた。その時も、なんだか青木は似たようなことを言っていた。
「あいつ、自分だって食ったくせに。なんで僕が食うと怒るんだろう」
 見事な包丁捌きで味噌汁に入れる大根を刻みながら、第九の新人の謎の言動に薪は首をかしげている。何か自分に落ち度があったか、と己を振り返ってみる。が、
「自分ちのカップメン食って、どうしてあいつに怒られなきゃならないんだ」
 次の瞬間には、理不尽な非難への憤慨に変わる。薪の感情は変化が激しい。
「赤い愛車? 女装? ……目隠しって、なに?」
「薪さんは知らないほうが幸せです」

 それは冗談にしても、顔に似合わない行動が薪の得意技だと岡部も思っている。たしかに、薪の容姿に日本のこの伝統食はあまりにもそぐわない。
「ネギ買って来てくれって頼んだのが、そんなに嫌だったのかな。でも、納豆にはネギがないとな」
 青木が急に怒り出した原因を、あれこれと考えている。さまざまな仮説を立ててそれを検証するのは、もはや薪にとっては第2の本能のようなものだ。
「そうか、あいつ西日本の出身だっけ。きっと納豆が嫌いなんだ」
 第九の天才が自信たっぷりに言い切ったその説が的外れなことは知っていた岡部だったが、妙に納得した表情でしきりに頷く薪を見ていると、何も言えなくなってしまう。

「旨いのに。これが食べられないなんて、可哀想なやつ」
 本当の理由を知らない室長がカワイソウです。

 よく混ぜたほうが美味いんだよな、などと言いながら一生懸命箸で納豆をかき混ぜている。岡部の目には可愛らしく映るが、薪の容姿に惹かれて来たものにとってはイメージダウンもいいところだ。
「でも嫌いじゃ仕方ないな。卵焼きでも作っておいてやるか」
 ぶつくさ言いながらも冷蔵庫を開けて、卵を取り出す。文句は多いが手は良く動く。
「岡部も食べるか?」
「はい。ぜひ」
 薪が作る卵焼きは、とても美味しいのだ。

 岡部は何度か薪のマンションに泊まらせてもらって、その度に朝食をご馳走になっている。
 初めはこんなに気さくな人だとは思わなかったから驚いたが、薪は基本的に来客は歓迎するほうだ。これもまた見かけによらないことだが、料理も上手でよく気も利く。
 一人暮らしが長いせいだと本人は言っているが、こういうことは持って生まれた性格で、何年経っても気が利かない人間も中にはいる。得てして、美人ほどそういう傾向があるようだ。

 意識が自分に向いていて、周りに対して関心がない人間ほど気配りができないものだが、薪はそうではない。逆に自分には無頓着で、周りに気を使うほうだ。
 小さい頃に両親を亡くして叔母の家で育ったというから、年少の頃から周囲に気を配る生活を強いられてきたのだろう。その少年時代が、薪のこの不思議な性格を作り上げたのかもしれない。
 わがままで自分勝手なのに、気配り上手で人を喜ばせるツボを押さえている。矛盾だらけの性質は、岡部にとっては面白い。

 本当に、最初はこんな人だとは思わなかった。

 聞き及んでいた署内の噂も岡部の第一印象も、見事に裏切られた。最初に会った時には最悪だと思っていたのに、いまは一生このひとについていきたいと思っている。
 あの頃はまた、薪にとっても特別つらい時期だった。だからよけいに印象も悪かった。
 しかし、逆のことも言える。あの時期に知り合うことができたからこそ、今の岡部と薪の信頼関係があるのだ。

「もう、大丈夫みたいですね」
 心の中の思考に対する答えが、つい口に出た。
 なにが、と聞き返されると思ったが、薪は卵をかき混ぜる手を止めて苦笑した。
「誰かといるときはたいてい大丈夫なんだ。安心するのかな。ひとりだと、まだ3日に1度くらいは見ちゃうかな……」
 まだ、そんなに頻繁に見るのか。見掛けほど回復してはいないようだ。

 無理もない。
 あの頃の薪は、壊れかけていた。精神を病まなかったのが不思議なくらいだった。
 笑うどころか普通に泣くこともできずに、不安定な心であちらの世界と現実とを行ったりきたりしていた。

「でも、もう平気だぞ。だっていつも同じ内容だろ。昔の映画を何度も見てるようなもんだ。さすがに飽きてきたな」
 岡部の心配顔に気を使ってか、薪はことさら明るい調子で軽口をたたく。そんなことは微塵も思っていないくせに、こういうところは相変わらずだ。
「去年の夏は、半そでの服も着てただろ? 今年は水着も大丈夫だぞ、きっと」
 あの事件から1年半が過ぎた現在、薪はこうして冗談を言えるくらいには心の平穏を取り戻している。しかし未だ、昔の写真にあったような笑顔の薪を見ることはできない。
 もっと足繁く通ってやれればいいのだが、岡部は4年前に父親を亡くして、今は母親と2人暮らしだ。こちらに通い詰めると、今度は親が心配である。

「青木に頼んだらどうですか? あいつならヒマそうだし、朝食つけてやれば、二つ返事で引き受けてくれるんじゃないですか?」
 フライパンに卵を流し込み、器用に巻き込みながら、薪は岡部の提案を却下した。
「それはダメだ。青木は部下だし」
「俺も部下ですけど」
「おまえには初めから見られちゃってるからな。カッコイイ上司の役は諦めたんだ」
 かっこいい上司、という薪の言葉につい笑ってしまう。薪の発想は、ときどきとてもユニークだ。
「薪さんは十分、カッコイイ上司ですよ」
「そうか?」
 うれしそうだ。
 かわいい、と称されることが多い薪だが、中身は普通の男なので「カッコイイ」と言われると、単純に嬉しいらしい。そういうところが可愛らしさを助長していることに気付いていないのが、また薪らしい。

「僕のあんなところを知るのは、おまえだけで充分だ」
「なるべく、顔を出すようにしますよ」
「気を使わせて済まないな」
「いいえ。俺もここの朝メシは楽しみですから」
「おまえらの目的は結局それか。なんで僕の周りにはこう、食い意地の張ったやつらが多いのかな」
 ぶつぶつ言いながらもせっせと朝食を作ってくれる薪のきれいな横顔を見ながら、岡部は薪と出会ったばかりのことを思い出していた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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