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二年目の桜(6)

二年目の桜(6)





「第九の風呂場にCCDカメラがついてた!?」
 岡部のしぶしぶの供述に、青木が素っ頓狂な声をあげる。
 このど素人が、小野田の最初の質問だけで自分と同じ結論に辿りついたなどと、どうして考えてしまったのだろう。

「それじゃ、誰かに薪さんの風呂が覗かれてたってことですか?」
 正確には薪の風呂だけでなく、全員の風呂が覗かれていたわけだが、青木にとってそちらはどうでもいいことらしい。
「許せないですよ! オレだって背中しか見てないのに!!」
 青木は論点がずれている。
「誰なんですか、その覗き野郎は!」
「わからん」
 カメラを仕掛けた犯人は99%の確率で間宮だが、それは青木には言わないほうがいい。
 青木は、普段はとても穏やかで大人しい男なのに、薪のことになると理性を失う。以前にも、薪を人身御供にしようとした三田村という警務部長を、締め上げてしまった前科がある。今回もこの事実を知ったら、何をしでかすか判らない。ここは自分の胸に仕舞っておいたほうが賢明だ。

 薪はショックを受けているらしく、さっきから押し黙ったままだ。身じろぎすることも出来ず、メインスクリーンの前に立ち尽くしている。
「薪さん。お気持ちは分かりますが、もうカメラは取り外しましたし、あまり気に病まず」
「第九の風呂なんかどうでもいい。問題は加害者の家の風呂だ」
 青木がこの仮説を立てたのは、小野田の質問がきっかけだった。
 薪のホクロの事実を、自分ひとりだけが知らなかったことにショックを受けた青木は、第九の職員たちの前で裸でうろちょろするクセを直してくれるよう、薪に直談判したのだ。

「風呂上がりには、せめて腰にタオルを巻いてください!」
「どうしたんだ、急に」
「薪さんのお尻の下にホクロがあることまでみんなに知られてるんですよ。恥ずかしくないんですか?」
「ケツの下にホクロ? 僕ってそんなところにホクロがあったのか」
「知らなかったんですか? 自分のことなのに」
「だってこんなところ、鏡でも使わなきゃ見れないだろ」
「そういえばそうですね。自分じゃ見れないですよね。でも、それって余計恥ずかしくないですか?意識してないところを、いつの間にか見られてるなんて」
 そこで、この可能性に気付いた。

 加害者は、覗きの被害にあっていたのではないか。
 覗いていたのは被害者のほうで、おそらくは手に入れた映像を会社やネットに流すなどと脅されて、殺害に及んだのではないか。それならば、犯行時に初めて被害者に会ったという理由も頷ける。
「見つけたぞ! 曽我、3秒戻せ!」
 薪の指示に従って、曽我がMRIの画を操作する。薪の言うとおり右側の上方を拡大すると、換気扇の隅にレンズの光が確認された。
「よし、あとは現場検証だ。前川美佐子の自宅に行くぞ。曽我、捜一から令状借りて来い。岡部、その探知機借りるぞ。青木、車用意しとけ」

 令状がないと家には入れない。曽我が捜一から戻ってくるのを待つ間、第九の風呂から回収した鉛筆の太さほどの盗撮器具を細い指先で弄びながら、薪は何事か考え込んでいた。
 平静を装っているが、やはり薪は傷ついているのだ。覗きなどという卑劣な辱めを受けて、傷つかない人間などいるはずがない。

「薪さん。済んでしまったことは仕方がありません。この件はもう忘れて」 
「間抜けなやつもいたもんだな。カメラを仕掛ける部署の人員構成も調べないなんて」
「は?」
「だって、うちには女の子がいないんだぞ。僕や岡部の風呂を覗いて、いったいどうするんだ?」
 それは薪が岡部と同じような容姿だったら、の話だ。しかしそれを言うと、薪は確実に機嫌を悪くする。青木も岡部と同意見だったらしく、口の中で何やらもごもご言っている。
「岡部さんのはどうしようもないでしょうけど、薪さんのはいろいろと使い途が」
 どんな使い途だか、聞くのが怖いような気がする。

「使うとしたら第九への中傷か。……宇野。このカメラの信号に、ウイルス入れられるか?」
「映像の破壊ウイルスですね。いま作ってます」
 CCDカメラは特定のPCにその映像を送るため、固有の信号を発信する。その電気信号にウイルスを混ぜ込み、保存先のPCを叩こうという作戦である。それにはもう一度カメラを設置し、人物を感知させて映像をピーピングトムのPCに送る必要がある。
 問題はその設置場所だが。

「警視庁の男子トイレの個室にでもつけといてやれ」
「薪さん……エゲツナイです……」
 やられたことは3倍にして返す。
 この上なく美しく微笑んで、美貌の警視正は部下に報復を命じたのだった。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま、こんにちは(^^

そうですね、薪さんが覗かれてたのも事件解決の役に立った、と言うか、わたしの萌えにな・・・・・・すみません・・・・・。


>薪さんが自分の裸が目当てだと気づかないのが幸い!?ですが(笑)
>今後は裸でウロウロしませんように・・!

うちの薪さんはオヤジなので、ハダカを人に見られたところで別に何とも・・・・・・減るもんじゃなし、って感じですね。
なので今後もウロウロします。 
でも、青木くんと恋人同士になってからは、あんまり人に肌を見せなくなりますね。 見せたくないと言うよりは見せられないと言った方が正解ですけど。(笑)


>ああっ、間宮が保存してる物はどうなんでしょう?それもダメになるといいのですが・・(><)

はい、こういうときのための宇野さんです♪ (うちの宇野さんは超ハッカー)
しかし~、ダメになったおかげで間宮は最終作戦を決行する意志を固めてしまい、結局、薪さんに還ってきたりして。
それが次の「ファイヤーウォール」です。 
Aさまに楽しんでいただけたらうれしい、いや、怒られちゃうかな、うん、多分怒られる。 
・・・・・・・ごめんなさい。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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